データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 倫敦海軍會議に於ける我國全權の態度に關する聲明書(ロンドン海軍会議に於ける我国全権の態度に関する声明書)

[場所] 
[年月日] 1930年2月14日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,142-143頁.
[備考] 
[全文]

 倫敦海軍會議帝國全權委員ハ二月十四日ニ左記譯文ノ聲明書ヲ發表セリ

日本全權ハ倫敦海軍會議ハ恒久平和ノ確立ニ對スル人類一般ノ切望ニ基キ招請セラレタルモノト信ス帝國ハ人類ノ幸福ヲ增進シ且ツ諸國民ノ財政的負擔ヲ輕減スル爲海軍軍備ノ全般的縮少ノ實現ニ對シ全幅ノ協力ヲ爲サムトスルノ決意ヲ有ス

然レトモ海軍力ノ相對性ニ鑑ミ日本ハ國ノ安全ヲ確保スルニ足ル海軍力卽チ極東方面海洋ノ安寧ハ日本ノ最モ重キヲ置ク所ナルニ依リ同方面ニ於ケル其國防ニ必要ナル勢力ヲ保持セムコトヲ欲ス日本全權ノ態度ハ右方針ニ基クモノニシテ概言スレハ左ノ如シ

制限方式

 總噸數主義又ハ艦種別主義ノ適用ハ嚴ニ過クルトキハ關係各國間ノ協定ニ逹スルニ適セサルヲ以テ日本全權ハ或ル艦種間ニ融通ヲ認メ以テ兩者ヲ調和スル方式ニ賛成ス

主力艦

 日本全權ハ千九百三十六年迄主力艦ヲ起工サセルコトニ同意スルノ用意アリ

 又華盛頓條約ニ規定セラレタル主力艦ノ艦型ヲ三萬五千噸ヨリ二萬五千噸ニ縮少スル爲協定ノ成立セムコトヲ希望ス

備砲ノ最大口徑ヲ十四吋ニ減シ艦齡ヲ二十年ヨリ二十六年ニ延長セムコトヲ慫慂ス

航空母艦

 航空母艦ノ制限ニ關スル華盛頓條約ノ規定ハ一萬噸以下ノ航空母艦ニモ擴張適用スルコトトシ艦齡ハ一萬噸ヲ超ユルモノニ付テハ二十年ヲ二十六年ニ又一萬噸以下ノモノハ二十年ニ延長スルコトトスヘシ

補助艦

 日本全權ハ從來繰返シ述ヘタル通他關係國ノ保有ノ力ニ對シ適當ナル比例ノ海軍力ヲ保有スルコト必要ナリト考フルモノナリ從テ若シ關係國ニ於テ其海軍力ヲ縮少スルニ於テハ日本モ亦右ニ比例シ減縮ヲ行フノ用意アリ

(一) 巡洋艦、驅逐艦

 日本ハ八吋砲巡洋艦ニ特ニ重キヲ置クヲ以テ他國ノ保有スル勢力ヲ考慮スルト共ニ其國防ニ十分ナル最小限度ノ海軍力ヲ保有セムコトヲ欲ス

 六吋砲巡洋艦ノ單艦最大噸數ハ七千噸又ハ七千五百噸トシ又嚮導驅逐艦及驅逐艦ノ單艦最大噸數ハ適當ニ之ヲ制限スヘシ尙嚮導驅逐艦ノ隻數モ亦之ヲ制限スルコトヲ要ス艦齡ハ巡洋艦ニ付テハ二十年トシ驅逐艦ニ付テハ十六年トスヘシ

(二) 潜水艦

 潜水艦ノ防禦的ノ特性ト廣ク散在スル多數ノ島嶼ヨリ成ル日本ノ特殊ノ地理的事情ニ鑑ミ日本全權ハ此種艦艇ヲ保有スルノ必要ナルコトヲ確信ス尤モ日本ハ潜水艦ノ商船ニ對スル使用ヲ嚴重ニ律セムカ爲他ノ諸國ト協力セムトスルモノナリ

其噸數ニ付テハ日本ハ現有勢力ノ維持ヲ提議ス潜水艦ノ最大型ヲ制限シ又其艦齡ヲ十三年ト定ムヘシ