[文書名] 上海事變に關する國際聯盟十二國理事通牒及芳澤外相返翰(上海事変に関する国際連盟十二国理事通牒及芳沢外相返簡)
二月二十三日發表
國際聯盟十二國理事通牒
二月十六日國際聯盟十二國理事ヨリ帝國政府ニ寄セタル通牒
(假譯)左ノ如シ
國際聯盟理事會議長ハ一月二十九日兩當事國ニ對シ其ノ同僚ノ名ニ於テ爲シタル要請中「國際關係ノ維持ハ獨リ相互ノ協力及尊重ニ依リテノミ保障セラレ得ヘク苟クモ恒久的性質ヲ有スル解決ハ決シテ軍事的ニセヨ又假令經濟的ニモセヨ力ノ使用ニ依リテハ獲得シ得ヘカラサルモノニシテ現在ノ情勢カ繼續スル限リ益兩國國民間ノ不諒解ハ擴大シ其ノ結果ハ紛爭ノ解決ヲ一層困難ナラシメ又重大ナル損害ヲ與フルトコロ單ニ直接關係アル兩當事國ニ對シテノミニ止ラサルヘキ」旨述ヘタリ
今日日支兩國理事ヲ除ク各國理事ハ日本國政府ニ對シ現下ノ紛爭ニ於テ其ノ聯盟國タリ且常任理事國タルノ名カ日本ニ課スル特殊ノ責任ト節制ノ義務トヲ同政府ニ於テ認メラルル樣緊急ナル要請ヲ爲スノ義務アリ
極東ニ於テ過去數ケ月間ニ發展セル事態ハ兩當事國承諾ノ下ニ任命セラレタル調査委員會ニ依リ殘ル所ナク硏究セラルヘシ然ルニ同委員會ノ組織後上海及同地方ニ於テ輿論ノ動搖ヲ增シタル諸事件發生シ今猶發生シツツアリ右等事件ハ多數國居留民ノ生命及利益ヲ危殆ナラシメ且世界カ其ノ通過シツツアル危機ニ際シ遭遇スル特別ノ困難ヲ更ニ大ナラシメタルモノナルカ右等事件ハ軍縮會議ニ對シ新ナル重大障害ヲ生スルノ虞アリ
十二國理事ハ日本カ主張セル苦情ヲ決シテ忘却セス十二國理事ハ國際社會ノ一員トシテ其ノ義務及責務ヲ常ニ細心ニ遵守シ來レル原聯盟國ノ當然有スヘキ一切ノ信賴ヲ過去數ケ月間日本ニ對シ與ヘタリ然レトモ十二國理事ハ日本カ聯盟規約ニ約定セラレタル平和的解決方法ニ無留保ニ服スルコトヲ可能ナリト思考セラレサリシコトヲ遺憾トセサルヲ得ス十二國理事ハ國際紛爭ノ解決ハ決シテ平和的手段以外ニ依リ求メラルヘカラサル旨ノ巴里條約ノ嚴肅ナル約束ニ關シ日本ニ對シ今一應注意ヲ喚起ス十二國理事ハ支那カ其ノ領土內ニ展開シアル鬪爭ノ當初ヨリ對日紛議ヲ聯盟ニ提出シ且平和的解決ヲ目的トスル聯盟側諸提案ヲ受諾スヘキ旨約セルコトヲ認メサルヘカラス十二國理事ハ聯盟規約第十條ノ條文ニ依レハ聯盟國ハ聯盟各國ノ領土保全及現在ノ政治的獨立ヲ尊重シ且之ヲ維持スヘキ旨約シ居ルコトヲ想起セント欲ス十二國理事ハ友誼上ヨリ右規定ニ關シ注意ヲ喚起スルノ權利アリ十二國理事ノ意見ニ依レハ右規定ノ結果規約第十條ヲ無視シテ行ハレタル聯盟國領土ノ保全侵害及其ノ政治的獨立ノ毀損ハ決シテ聯盟國ニ依リ有效且實效的ト認メラレ得ス
日本ハ世界輿論ニ對シ其ノ對支關係ニ於テ其ノ態度ノ正當且穩便ナルコトヲ示スヘキ絕大ナル責任ヲ有シ居レリ日本ハ旣ニ一九二二年締約國カ明白ニ支那ノ主權、獨立竝其ノ領土的及行政的保全ヲ尊重スヘキ旨約セル九國條約ニ署名セルコトニ依リ上記責任ヲ最嚴肅ナル條文ニ依リ承認セリ各國理事ハ日本ニ對シ其ノ崇高ナル名譽ノ觀念ニ訴ヘ其ノ特殊ノ地位竝ニ世界各國カ平和ノ組織及維持ニ參與セル一員トシテ同國ニ與ヘタル信任ニ伴ヒ其ノ負フヘキ義務ヲ認メンコトヲ求ム
上海事件ニ關スル國際聯盟十二國理事ノ通牒ニ關シ芳澤外相ハ二月二十三日附ヲ以テ理事會「ボンクール」議長ニ對シ左記要旨ノ返翰ヲ送付セリ
我方ニ於テハ今次十二國理事ノ申入レニ對シ卽時愼重ナル考慮ヲ加ヘタルカ十二國理事カ現下上海方面ノ事態ノ重大性ヲ痛感シ之カ救治策ヲ探求スル爲如何ナル勞ヲモ吝マサラントシツツアル心事ハ多トスル所ナリ
去リ乍ラ本申入レハ必要ナキ方面ニ向テ爲サレタル嫌アリ蓋シ現下ノ武力的抗爭ヲ中止スル途ハ一ニ支那側指導者ノ手中ニ在ル次第ニシテ日本ハ抗爭ノ開始ヲ欲セサリシハ固ヨリ現在ニ於テモ最之ヲ嫌忌シツツアリ
尙我方ニ於テハ最近理事會全體ノ討議ニ代ヘ部分的構成ヲ有スル委員會ノ討議ヲ以テセントスル慣行ノ生レ來レルコトヲ遺憾トスルモノニシテ右慣行ハ聯盟規約ノ精神及文字ニ反スルモノナリ
我方ニ於テハ今次關係理事ノ行動カ其ノ動機ニ於テ極メテ善良ナルモノアリ又其ノ事業ニハ多大ノ困難ヲ伴ヘルコトヲ認ムルニ吝カナラサルモ右ノ如キ異例カ頻繁ニ行ハルルコトハ聯盟ノ手續ニ合致セサルモノトシテ之ヲ承認シ難ク一般世上ニ於テハ斯カル討議ヲ理事會ノ行動ト混同センコトヲ虞ル
何レニスルモ我方ニ於テハ十二國理事ノ希望ニ酬ユルヲ禮ト認メ別添聲明ヲ閣下ヨリ轉達セラレンコトヲ希望スルモノナルカ此等理事ノ人道ト平和トノ爲ニスル努力ハ之ヲ感謝ヲ以テ了承スルト共ニ日本トシテハ現下ノ抗爭終熄ヲ偏ヘニ希望スルモノナルコトヲ斷言ス