[文書名] 日本國和蘭國間司法的解決、仲裁裁判及調停條約(抄)(日本国和蘭国間司法的解決、仲裁裁判及調停条約(抄))
昭和八年(千九百三十三年)四月十九日「ヘーグ」ニ於テ作成
昭和十年(千九百三十五年)六月八日批准
同年(同年)八月十二日「へーグ」ニ於テ批准書交換
同年(同年)八月十三日(同月十四日附官報)公布
批准書交換ノ日ヨリ實施
日本國皇帝陛下 及 和蘭國皇帝陛下ハ日本國和蘭國間ノ永年ノ友好關係ヲ鞏固ナラシムルノ希望ニ均シク促サレ 兩國間ニ生スルコトアルヘキ紛爭ハ其ノ性質ノ如何ヲ問ハス之カ解決ヲ如何ナル場合ニ於テモ平和的手段ノ外ニ求メサルコトヲ固ク決意シ 之カ爲條約ヲ締結スルコトニ決シ左ノ如ク其ノ全權委員ヲ任命セリ日本國皇帝陛下 和蘭國駐箚特命全權公使齋藤博 和蘭國皇帝陛下 外務大臣「ヨンクヘール、フランス、ベーラールツ、ファン、ブロックラント」 右全權委員ハ互ニ其ノ全權委任狀ヲ示シ之カ良好妥當ナルヲ認メタル後左ノ諸規定ヲ協定セリ
第一條 締約國間ニ生シ且通常ノ外交手續ニ依リ相當ノ期間內ニ解決セラレ得サルコトアルヘキ一切ノ紛爭ハ其ノ性質ノ如何ヲ問ハス本條約ノ規定ニ從ヒテ設置セラレ且活動スル常設調停委員會ニ締約國ノ合意ニ依リ又ハ其ノ一方ノ請求ニ依リ付託セラルヘシ兩締約國ニ於テ法律的ノモノナルヘシト認メタル紛爭ハ締約國間ノ合意ニ依ルノ外常設調停委員會ニ付託セラレサルヘシ
第二條 紛爭ニシテ其ノ解決ニ關シ特別ノ手續カ締約國間ニ實施中ノ他ノ條約ニ依リ定メラルルモノハ右條約ノ規定ニ從ヒ解決セラルヘシ
第三條 法律的紛爭特ニ締約國間ニ實施中ノ條約ノ解釋ニ關スル紛爭ニシテ常設調停委員會ニ付託セラレサルカ又ハ之ニ付託セラレタルモ其ノ報吿ノ作成後三月內ニ解決セラレサルモノハ締約國ノ一方ニ依リ他方ニ對シ爲サルル請求ニ基キ特別取極ノ方法ニ依ル合意ヲ以テ常設國際司法裁判所又ハ仲裁裁判所ニ付託セラルヘシ常設國際司法裁判所ハ其ノ規程ニ依リ定メラルル條件及手續ニ從ヒ裁判スヘク又仲裁裁判所ハ國際紛爭ノ平和的處理ニ關スル千九百七年十月十八日ノ「ヘーグ」條約ニ依リ定メラルル條件及手續ニ從ヒ裁判スヘシ特別取極ハ締約國政府間ニ於ケル文書ノ交換ニ依リ設定セラルルモノトス
締約國ノ一方ニ依リ他方ニ對シ爲サルル常設國際司法裁判所又ハ仲裁裁判所ニ紛爭ヲ付託スルノ提議ノトキヨリ三月ノ期間內ニ管轄裁判所ノ選擇ニ關シ締約國間ニ意見一致セサルトキハ紛爭ハ前項ニ定メラルル手續ニ從ヒ右司法裁判所ニ付託セラルヘク該裁判所ハ其ノ規程ニ依リ定メラルル條件及手續ニ從ヒ裁判スヘシ紛爭ハ締約國カ之ヲ仲裁裁判所ニ付託スルコトニ意見一致シタルモ次條ノ規定ニ依ル右裁判所ノ設置カ同條第二項ニ揭ケラルル請求ノトキヨリ五月內ニ爲サレサリシトキハ同一ノ手續ニ從ヒ均シク常設國際司法裁判所ニ付託セラルヘシ
第四條 締約國カ紛爭ヲ仲裁裁判所ニ付託スルコトニ意見一致シタルトキハ右裁判所ハ別段ノ了解ナキ限り五名ノ裁判官ヲ以テ構成セラレ且次ノ方法ニ依リ設置セラルヘシ卽チ締約國ハ其ノ國民中ヨリ選定セラレ得ヘキ一名ノ仲裁裁判官ヲ各任命スヘク又裁判長及他ノ二名ノ仲裁裁判官ハ第三國ノ國民中ヨリ合意ニ依リ選定セラルヘシ右三名ノ仲裁裁判官ハ各異リタル國籍ヲ有スヘシ
締約國ノ一方ニ依リ他方ニ對シ爲サルル仲裁裁判所ヲ共同シテ設置スルコトノ請求ノトキヨリ三月ノ期間內ニ仲裁裁判所ノ裁判官ノ任命カ行ハレサルトキハ必要ナル任命ヲ爲スノ手配ハ締約國カ合意ヲ以テ選定スル第三國ニ委囑セラルヘシ
右ニ關シ合意成立セサルトキハ各締約國ハ異リタル一國ヲ指定スヘク又任命ハ斯ク選定セラレタル國ニ依リ協同シテ爲サルヘシ
(中略)
第八條 仲裁裁判官ニ依リ適用セラルヘキ實體法規ニ關シ別段ノ了解ナキトキハ仲裁裁判所ハ左記ニ基キ其ノ決定ヲ爲スヘシ
一 兩締約國間ニ實施中ノ一般又ハ特別ノ條約及之ニ由來スル法的規則
二 法トシテ承認セラレタル一般的慣行ノ表現ト認メラルル國際的慣習
三 文明國ニ依リ認メラレタル法的一般原則
四 法的規則決定ノ補助手段トシテノ最權威アル學説及判例ノ歸結
(中略)
第二十五條 本條約ハ批准書交換ノトキヨリ實施セラルヘク且其ノ實施ノトキヨリ五年ノ存續期間ヲ有スヘシ
本條約ハ右期間ノ滿了ノ六月前ニ廢棄セラレサルトキハ更ニ五年ノ期間ニ付暗默ニ更新セラレタルモノト認メラルヘク且爾後モ同樣タルヘシ
(「官報」昭和十年八月十四日附)