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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 廣田外務大臣、「ハル」米國國務長官間交換の非公式個人的挨拶(広田外務大臣、「ハル」米国国務長官間交換の非公式個人的挨拶)

[場所] 
[年月日] 1934年2月21日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,278-280頁.
[備考] 
[全文]

   三月二十二日公表

 二月二十一日齋藤在米大使カ「ハル」國務長官ニ廣田外務大臣ノ非公式個人的挨拶ヲ述ヘタルニ對シ、三月三日「ハル」國務長官ヨリ齋藤大使ヲ通シ廣田外務大臣ニ宛テテ書面ノ形式ニ依リテ非公式個人的挨拶ヲ爲サレタ。其ノ內容ハ各左ノ通テアル。

  廣田外務大臣ノ「ハル」國務長官宛非公式個人的挨拶趣旨(二月二十一日)

本年ハ日米兩國國交開始以來滿八十週年ニ該當スル處、此ノ長年月ニ涉リ、兩國カ常ニ親善友好ノ關係ヲ持續シ來リタルハ顯著ナル事實テアツテ、經濟關係ニ於テハ雙方商品間ニ競爭ノ地位ニアルモノ極メテ尠ク、兩國ハ互ニ他方商品ノ一大顧客トシテ有無相通スルノ基礎ニ立脚シ、相互依存關係ヲ促進シツツアルコトハ御同慶ニ堪ヘナイ。更ニ又日米兩國全般ノ關係ヲ大所高處ヨリ觀察シ、又詳細ニ考究スルニ於テハ、予ハ兩國間ニハ根本的ニ解決ヲ困難トスル問題ノ存在セヌコトヲ確信スルモノテアツテ、兩國間ニ現存シ又ハ將來發生スヘキ案件ニ關シテハ、兩國互ニ他方ノ立場ニ對シ正當ナル諒解ヲ持チ、隔意ナキ協議ヲ行ヒ、協調ノ精神ヲ以テ之カ處理ニ當ルニ於テハ、遂ニ圓滿ナル解決ヲ見ルニ至ルヘキハ當然ナリト信スル。

帝國外交ノ根本政策ハ萬邦協和ヲ念トシ、何レノ國ニ對シテモ進ンテ事ヲ構ヘムトスル樣ナ意圖ナキハ勿論テアツテ、殊ニ太平洋ヲ距ツル大隣邦タル北米合衆國ニ對シ、善隣平和ノ關係ヲ確立セムコトヲ冀望スルモノテアル。予ハ就任以來此ノ目的達成ノ爲微力ヲ致シツツアル次第テアルカ、今回齋藤大使カ新ニ重任ヲ負ヒ貴國ニ赴任スルノ機會ニ於テ、日米兩國ノ傳統的親善關係ノ增進ニ對スル所懷ヲ披瀝スルヲ欣幸トスルモノテアツテ、貴國政府モ右日本政府ノ冀望ニ對シ、全幅ノ支持賛同ヲ與ヘラルヘキヲ信スルモノテアル。

  「ハル」米國國務長官ノ廣田外務大臣宛非公式個人的挨拶(三月三日)

新任駐米日本大使齋藤氏ハ、貴大臣カ予ニ寄セラレタ個人的非公式挨拶ヲ予ニ交付セラレタ。

貴大臣カ右挨拶中ニ表明セラレタ懇篤ナル感情ハ予ノ深ク感銘スル所テアツテ、予モ亦均シク同樣ノ感情ヲ茲ニ表明スルモノテアル。

予ハ他諸國トノ友好關係ヲ促進セントセラルル閣下ノ御努力ハ、欣快ノ念ヲ以テ確ニ之ヲ了承シタ。此等一切ノ御努力ニ當リ、予ハ貴大臣カ凡ユル可能ナ範圍ノ協力ヲ予ニ期待セラレ得ヘキコトヲ認メラルルコトヲ確信スル。

貴大臣ハ大所高處ヨリ觀察シ、又詳細ニ考究スルニ於テハ、貴我兩國間ニハ和協的解決ヲ根本的ニ困難トスル問題存在セサル旨ノ見解ヲ表明セラレタカ、予ハ貴大臣ト全然右見解ヲ同シウスルモノテアル。更ニ予ハ貴我兩國間ニハ、兩國ニ於テ適切ナル見方ヲ以テ觀ルニ於テハ、平和的手段ニ依リ容易ニ調整シ得ナイモノト正當ニ看做サルヘキ問題カ、事實上存在シナイコトヲ信スルモノテアル。米國ノ國策遂行ニ當リ、斯カル手段ニ據ルハ米國政府ノ旣定方針テアル。若シ不幸ニシテ貴我兩國間ニ將來何等紛議ヲ生スルコトアラハ、米國政府ハ過去ニ於ケルト同樣ニ親善ノ精神及平和的且正當ナル解決ヲ希望スルノ精神ヲ以テ、日本ノ地位ヲ檢討スルノ用意アルヘク、日本政府ニ於テモ、同樣ノ情神ヲ以テ合衆國ノ地位ヲ檢討セラルルノ用意アルヘキヲ確信ヲ以テ期待スルモノテアル。

貴大臣ハ通商ノ方面ニ於テハ、貴我兩國ノ利害關係ハ牴觸セスシテ通商上ノ紐帶ハ絕ヘス强化セラレツツアルノ喜ハシキ事實ニ言及セラレタ。予ハ合衆國及日本カ、其ノ相互的貿易ヲ兩國ニ利益ヲ齎ラス樣、而シテ又競爭ノ行ハルル場合ニハ、常ニ相互的好意ヲ以テ進展セシムルコトヲ持續スヘキヲ期待スル十分ノ理由アルヲ認ムルモノテアル。

貴大臣ハ日本ハ他ノ何レノ國ニ對シテモ進ンテ事ヲ構ヘムトスルノ意ナキコトヲ强調セラレタカ、予ハ右陳述ヲ特別ノ欣快ノ念ヲ以テ之ヲ受ケ、米國側ニ於テモ他國トノ關係ニ於テ何等問題ヲ惹起セムトスルノ希望及何等紛爭ヲ創始セムトスルノ意圖ハ、毫モ之ヲ有セサルコトヲ此ノ機會ニ於テ明確ニ言明スルヲ欣幸トスル。

此等ノ事實ニ顧ミ、予モ亦此ノ機會ヲ利用シテ東亞ニ利害關係ヲ有スル一切ノ諸國カ、其ノ間ニ現ニ存シ若クハ將来發生スルコトアルヘキ一切ノ問題ヲ何レタ國ヲモ害スルコトナク、且一切ノ諸國ニ確實且永久的ノ利益ヲ齋ス樣、調整若クハ解決スルノ精神及方法ニヨリ討究スルコト可能トナラムコトヲ、予ノ熱誠ナル冀望トシテ表明スヘキモノナルコトヲ感スルモノテアル。

予ハ日米間最初ノ條約締結以來、貴我兩國間ノ關係ヲ常ニ特色附ケ來リタル友好親睦ヲ維持增進セムカ為、如何ナル提議ニテモ駐米日本大使若クハ駐日米國大使ヲ通シテ之ヲ受クルヲ欣幸トスルコト勿論テアル。貴大臣ハ右目的ノ為又同時ニ平和、友誼及國際團體ノ全員間ノ一般的利益助成ノ為ニ實行シ得ヘキ如何ナル措置又ハ手段ニ對シテモ之ニ賛成セムトスル予ノ熱心ナル冀望ニ信賴セラルヘキテアル。

   コーデル、ハル(署名)

廣田外務大臣閣下