[文書名]　輸出入の禁止制限撤廢條約よりの義務免除及關稅休戰決議脫退に關する件（輸出入の禁止制限撤廃条約よりの義務免除及関稅休戦決議脱退に関する件）

三月十七日公表

帝國政府ハ、在「ジュネーヴ」横山國際會議帝國事務局長代理ニ對シテ、帝國政府カ輸出入ノ禁止制限撤廢條約ノ義務ヲ免除セラルヘキ旨ノ宣言、及關稅休戰決議ヨリ脫退スヘキ旨ノ退吿ヲ國際聯盟事務總長ニ送付スヘキ旨ノ訓令ヲ發シタ。

帝國政府ハ現下世界各國民ノ直面シツツアル經纃難局ヲ打開シ、世界的繁榮ヲ招來スル爲ニハ國際退商ヲ阻害スル各種障害ヲ除去シ、世界貿易ノ恢復增進ヲ計ルヲ緊要トストノ不變ノ確信ニ基イテ、各國トノ經濟的協力ヲ緊密ニシ、共存共榮ノ實ヲ擧ケンコトヲ冀望スルモノニシテ、此ノ冀望ニ則リ、國際退商ノ自由ヲ恢復スル目的ヲ以テ前記ノ條約及決議ニ參加シタノテアルカ、世界各國ニ於テハ經濟上又ハ財政上ノ困難ニ當面シテ大局ヲ顧慮スルノ遑ナク、狹隘ナル自國本位ノ政策ニ走ラントスルノ傾向カ增大シ、前記ノ條約及決議ヨリモ續々脫退ヲ爲スニ至ツタ。

輸出入ノ禁止制限撤廢條約ハ、昭和二年十一月八日「ジュネーヴ」ニ於テ署名セラレ、昭和五年一月一日ヨリ關係國間ニ於テ實施セラレタノテアルカ（本邦ハ昭和四年九月二十八日批准書ヲ寄託シタ）、其ノ內容トスル所ハ、締約國間ニ於テハ原則トシテ輸出入ノ禁止制限ヲ爲ササルコト、及締約國カ其ノ法令ニ從ヒ輸出入ヲ或手續ハ條件等ニ從ハシムル場合ニハ、之ヲ以テ變裝セル禁止又ハ專斷ナル制限ノ手段タラシメサルコトヲ規定スルト共ニ、例外トシテ締約國ハ非常且變則ノ場合ニ於テ、國ノ緊切ナル利益ヲ保護スル爲ニハ輸出入ノ禁止制限ヲ爲シ得ルコト、特定ノ締約國ハ特定ノ品目ニ關シテハ輸出入ノ禁止制限ヲ爲シ得ルコト、及締約國カ外國ノ產品ニ對シ禁止又ハ制限ノ措置ヲ執ルノ已ムナキニ至ツタ場合ニ於テハ、右締約國ハ他ノ締約國ノ貿易ニ對スル損害ヲ成ルヘク少カラシムル樣右措置ヲ定ムヘキコト等ニ關シテ規定シタモノテアル。本條約ノ締約國ハ、客年六月三十日英國、米國、諾威國及丁抹國ノ條約ノ義務離脫ニ依リ、現在ニ於テハ本邦及和蘭ノニ國ノミトナツタカ、和蘭國ハ旣ニ國際聯盟事務總長ニ對シテ本年六月三十日ヲ以テ條約ノ義務ヨリ免カルヘキ旨ノ退吿ヲ爲シタノテ、帝國政府モ亦遺憾乍ラ本年六月三十日（條約ノ義務免除ハ每年六月三十日ニ限リ之ヲ爲シ得ルコトトナツテ居ル）ヲ以テ本條約ノ義務ヨリ免カルヘキ旨ノ宣言ヲ爲シタル次第テアル。

關稅休戰決議ハ、客年貨幣及經濟會議ノ開催ニ先チ右會議ノ組織委員會ニ於テ採擇セラレタモノテ、其ノ內容トスル所ハ、決議ノ參加國カ貨幣及經濟會議ノ終了ニ至ル迄、國際退商ヲ阻害スルカ如キ新ナル發意的措置ヲ執ラサルヘキコトヲ約シタルモノテアルカ、各國カ其ノ參加ニ當リ種々ナル留保ヲ爲シタ爲、其ノ實效カ著シク弱メラレタノミナラス、客年七月二十七日貨幣及經濟會議カ殆ント何等ノ成果ヲ收メスシテ休會スルヤ、其ノ後「アイルランド」、和蘭、瑞西、瑞典、英國、「ニユージーランド」、印度、南阿聯邦、支那等ノ二十餘個國ハ相次テ脫退シ、佛國、伊太利國、丁抹、「アイスランド」ノ諸國ハ留保ヲ追加シタ爲、本決議ハ實際上殆ント無價値ノモノト爲リ、我國トシテハ斯カル狀況ニ於テ本決議ニ對スル參加ヲ繼續スルモ、世界ノ退商自由確保ニ何等資スル所ナキノミナラス、各國ハ恣ニ關稅引上、輸入額割當其ノ他各種ノ退商障害ヲ增大シツツアル。之カ爲本邦ノ輸出貿易ノ蒙ル影響ハ少クナイ。曩ニ帝國政府ハ本決議ヲ受諾スルニ當ツテ

（イ）他國政府カ其ノ留保ニ基キ執リタル措置ヲ受諾スルノ義務ヲ負フモノニ非ルコト

（ロ）千九百三十三年五月十二日後ニ他國政府ノ執リタル本邦ノ貿易ヲ阻害スヘキ一切ノ措置ニ對シ、帝國政府ニ於テ防衞ノ爲必要ト認ムル一切ノ措置ヲ執ルノ自由ヲ有スルコト

（ハ）非常且變則ノ場合ニ於テ、帝國ノ緊密ナル利益ヲ保護スル爲必要ト認ムル一切ノ措置ヲ執ルノ自由ヲ有スルコト

ノ三ケ條ノ留保ヲ附シタカ、尙最近於ケル關係諸國ノ本邦商品防遏諸措置ニ對抗スル上ニ遺憾ノ點アルヲ免レス、且貨幣及經濟會議モ目下無期限ニ休會ノ狀態ニアルヲ以テ、帝國政府ハ此ノ際其ノ利益ヲ保護スル爲必要ナリト思惟スル一切ノ措置ヲ執ルノ自由ヲ恢復スルコトニ決シ、本決議ヨリ脫退シタ次第テアル。因ニ右脫退ハ退吿後一ケ月ヲ經テ效力ヲ發生スルノテアル。