データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 天羽声明(新聞報道による)

[場所] 
[年月日] 1934年4月17日
[出典] 東京朝日新聞,昭和九年四月十八日 市内版(二),第一萬七千二百三十七號
[備考] 東京朝日新聞に外務省当局談の形式で公表された非公式声明。外務省情報部長、天羽英二が定期記者会見で述べたもの。文中のふりがなは削除。
[全文]

日本は支那問題については日本の立塲及び主張が列國と一致せざるものがあるかも知れぬが、日本は東亞における使命を果し責任を遂行するためには全力を盡さなければならぬ立塲にある、さきに日本が聯盟の脱退を余儀なくされたのはその東亞における日本の地位に對する見解が聯盟と相違を來たした結果によるのであつて日本の支那に對する態度も又外國とは必ずしも一致せざるところがあるかも知れぬが、これは日本の東亞における地位使命より來るやむを得ざる事である、日本は諸外國に對しては常に友好關係の維持增進につとめてゐるはいふまでもないが、東亞における平和及び秩序を維持するためには日本の責任において單獨になすことは當然の歸結と考へる、又これを遂行することが日本の使命で日本はこれを決行する決意を有する

   ◇

しかして右の使命を遂行するためには日本は支那と共に東亞における平和維持の責任を分たざるを得ざる次第で又支那以外に責任を分つものはない、從つて支那の保全統一乃至國內秩序の回復は東亞平和の見地から見るも日本の最も切望するところである、しかして支那の保全統一及び秩序の回復は支那自身の自覺又は努力にまつ外なき過去の歷史の示すところで、現在においても將來においても又然りである、この見地より支那側がもし日本を他國を利用して排斥し東亞平和に反する如き手段に出るとか或は以夷制夷の對外策に出づるが如きことあらば日本としてもやむなくこれを排撃しなくてはならぬ、又列國側においても滿洲事變上海事件により形成せられた狀勢を顧慮して支那に對して共同動作を執らんとするが如きありとせば、たとへその名目は財政的援助といひ技術的援助であるにせよつまりこれは支那においては政治的意味を帶ぶることは必然にして、その形勢が助長せらるるときは遂に支那における勢力範圍の設定、國際管理又は分割の端諸を開くのでただただ{原文では前2文字くの字点(踊り字)}支那に對して大不幸を來たすのみならず、東亞の保全惹いては日本のためにも重大なる結果を及ぼすべきおそれあり、從つて日本としては主義としてこれに反對せざるを得ぬ

   ◇

しかし各國が各々別々に支那との經濟貿易上から交涉するが如きは事實上においては支那に對する援助となるも東亞の平和維持に支障を來さざる限りこれに干涉するの必要がない、然しもし右の如き處置が東亞の平和維持を紛亂するが如きことあらばこれに反對せざるを得ない、例へば最近外國が支那に軍用飛行機、飛行術、軍事敎育顧問、軍事顧問等を派遣し、又は政治借欵を起すが如きは結局支那と日本その他の國との間の關係を離間し東亞の平和維持に反する結果を生ずることが明白であるから日本としてはこれに反對せざるを得ない

   ◇

右の方針は日本の從來の方針より當然演繹せらるべきものであるが最近外國が支那において共同動作援助の如き種々の名目で積極的に動いてゐるから、この際我が立塲を明かにするも徒じならざるべしと信ずる