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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 對華借款問題に関する廣田外相訓令(対華借款問題に関する広田外相訓令)

[場所] 
[年月日] 1935年3月14日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,290-293頁.
[備考] 
[全文]

   電送第二九四三 二九四六號

   三月十四日午後九時發

    廣田大臣

  在支有吉公使

  第六五號

對支借款問題ニ付汪兆銘問合ニ對スル回答ノ件

貴電第二二六號及第二三〇號ニ關シ

『帝國政府ハ支那ト共ニ東亞ニ立國スル國家トシテ殊ニ支那國ノ善隣トシテ同國ノ平和繁榮ヲ衷心顧念スルモノニシテ從テ近時支那財界ノ難局ニ對シ多大ノ同情ト關心トヲ有シ(現ニ現地ノ事情ヲ親シク聽取スル爲橫竹商務官ヲ召喚セリ)支那カ右難局ノ打開ニ成功スルニ至ラムコトヲ切望スルモノナルカ一方汪院長カ日支關係ニ重キヲ置キ本件ニ關シ日本ノ立場ヲ尊重セラルル御趣意ハ本大臣ノ多トスル所ニシテ右汪院長ノ御趣意ニ報ヒ帝國政府ノ見解ヲ腹藏ナク開陳スヘシ尙本大臣ハ本件其ノ他類似ノ問題ニ付日支兩國ノ責任者カ此ノ上トモ密接ナル連絡ヲ保持スルノ肝要ナルヲ痛感スル處右ハ汪院長ニ於テモ勿論御賛成ノコトト信ス』トノ趣旨ヲ附言ノ上別電第六六號ノ趣旨ヲ可然傳逹セラレ度尙貴公使ノ思付トシテ『元來本件ノ如キハ極メテ眞面目ナル考慮ノ下ニ健實冷靜ナル方法ヲ以テ取扱フコトヲ要スル次第ナル處世上動モスレハ本件ヲ所謂鳴物入的ニ取扱ハムトスル傾向ナキニ非ス例ヘハ聯盟事務局ノ連中等ニ於テ本件ニ付國際會議ヲ開クヘシナト騷キ立テ來ルコトモナキヲ保セサル處斯ノ如キ方法カ支那ニ取リ有害無益ナルコトハ汪院長ニ於テモ充分御承知ノ通リナルモ萬一ニモ支那側カ斯種策動ニ乘セラレサラムコト希望ニ堪エス』トノ趣旨ヲ申聞ケ置カレ度


電送第二九〇五 二九〇八 二九一一號

   三月十四日後七、三〇發

    廣田大臣

  在支有吉公使

  對支借款問題ニ付汪兆銘問合ニ對スル回答ノ件

第六六號

一、先ツ第一ニ根本ノ問題トシテ外國借款又ハ所謂國際共同借款ニ關シテハ右カ支那ノ恒久的利益ニ合致スルモノナル以上支那トシテ外國資本ノ故ノミヲ以テ之ヲ排斥スルコトハ當ラサルヘシ然レ共斯種借款ハ動モスレハ支那國ノ將來ニ對重大ナル拘束(例ヘハ支那財政ノ國際共管等)ヲ來ス、ノ虞アリ其ノ他種々ナル弊害ヲ伴フコト支那自身ノ過去ノ經驗ニ依リテモ御承知ノ通ニシテ支那トシテハ充分愼重ノ態度ヲ執ラルルコト肝要ナルヘシ一方日本トシテハ斯種借款ニシテ右樣ノ懸念ナク支那ノ恒久的利益ニ合致スルモノナルト共ニ東亞ニ於ケル日本ノ地位ヲ尊重シ日支親善ノ增進ヲ阻害スルモノニ非ル限リ何等反對スヘキ理由ナキノミナラス必要ノ場合ニハ英米等主要列國トノ協力ヲモ辭スルモノニ非ス要ハ支那ノ恒久的利益ト東亞ノ大局維持ニ存スル次第ナリ

二、次ニ當面ノ問題ナルカ近時支那財界ノ難局ニ付帝國政府カ其ノ關心及同情ニ基キ愼重ナル硏究ヲナシ居レルハ申ス迄モナキ次第ナルカ今日迄硏究ノ結果ニテハ現在ノ難局ハ相當重大ナル性質ヲ有スルモ其ノ前途ハ必スシモ極端ニ悲觀スヘキモノニ非ルカ如シ一方現下世界各方面ニ於ケル財界ノ實情ニ照シ支那財界ノ根本的改善ノ目的ヲ達シ得ヘキ外國借款乃至所謂國際共同借款ノ成立ハ期待シ難キカ如ク又一時的彌縫的ニ支那財界ノ難局ヲ緩和セムトスル斯種借款ハ結局何等ノ實效ナク徒ニ支那國民ノ對外負擔ヲ增大スルノミニ終リ其ノ他支那ノ將來ニ對シ種々面白カラサル結果ヲ招來スルノ虞アリ現ニ支那國內ニ於テモ前記ノ如キ借款ニ對シ眞面目ナル反對論存スル由ニモアリ旁々此ノ際支那トシテハ外國借款等ニ依ル一時凌キノ安キヲ求ムル考ニ沒頭スルコトナク矢張リ汪院長就任以來ノ御方針ノ如ク國內ノ和平ヲ維持スル一方對外關係ノ安定ヲ計リ以テ專心一意自力更生ニ努メラルルコト唯一ノ健全ナル措置タルヘク斯クシテ支那ノ事態改善スルニ於テハ世界一般ノ財界ノ好轉ト相俟チ借款問題等モ健實ニ考慮セラルル時期到來スヘク日本ハ充分ニ盡力スヘシ而シテ右自力更生ニ當リテノ支那政府及國民當面ノ苦難ハ察スルニ餘リアルモ政府及國民ニ於テ之ニ堪エ忍ヒツツ眞面目ニ且繼續的ニ極力努力セラルレハ必スヤ漸進的ナカラ更生ノ目的ニ達シ得ヘキコト本大臣ノ確信スル所ナルト共ニ我方ニ於テハ右努力ニ對シ必要ノ援助ヲ與フルニ吝ナラサルモノニシテ自然支那側ニ於テ自力更生ノ具體案ニテモ立テラルルニ於テハ支那側ノ希望ニ從ヒ好意的ニ御相談ニ應スヘシ

三、尙本件ニ關シ最近英國政府ヨリ帝國政府ニ對シ意見ノ開陳アリタルカ本大臣ハ右英國側ノ意見ハ敍上ノ趣旨ノ範圍ヲ出テサルモノト諒解ス


 電送第三一五〇‐三一五二號 三月十九日後八、發

  在支公使宛

    廣田大臣

   對支借款(別電第一)

第八〇號

(一)本件處理上我方トシテ特ニ考慮ニ入ルヘキ要點ハ一、單獨ニテモ又ハ共同ニテモ借款成立ノ破目トナラサルコト(蓋シ日本トシテ英米等ト借款競爭ヲナスコトハ苦戰ナリ)二、列國會議等ヲ誘致セサルコト及三、右一、及二、ノ方針ヲ執リツツ而モ借款不成立ノ責任ヲ日本カ負擔セサルコトノ三點ニ存スル處右ノ中一、及二、ハ此ノ際我方ニ於テ最モ重キヲ置クヘク三、ノ點ハ勿論重要ナルモ一、及二、ノ目的達成ノ爲止ムヲ得サル場合ニハ或程度迄犧牲ニ供スルモ致方ナカルヘシ、加フルニ我方カ前記ノ一、ノ方針ヲ執ル以上何等カノ程度ニテ借款不成立ノ責任ヲ負擔スルノ危險アルヲ免レサル次第ナリ(尙我方ノミカ借款不成立ノ責任ヲ負擔スルノ危險ヲ避クル爲往電第六九號二ノ後段ノ如ク英國等ノ態度ヲ支那側ニ對シ適當ニ曝露シ行ク方策ヲ執ラムトスル次第ナリ)

(二)尤モ各般ノ關係ニ顧ミ此ノ際單獨ニテモ共同ニテモ對支借款成立ノ見込ハ萬々無之キ次第ナルモ(殊ニ單獨借款ノ成立ハ英米共ニ關係國Cooperationノ要アルコトヲ强調シ居ルニモ顧ミ殆ト問題トナラサルヘシ貴電第二四九號三ノ末尾ニモ顧ミ念ノ爲)我方カ借款ノ成立ニ付好意的斡旋ヲナスヘキコトヲ餘リヒケラカスニ於テハ支那及英國等ノ策動如何ニ依リテハ知ラス知ラスノ間ニ共同借款ヲ成立セシムルノ餘儀ナキカ如キ破目ニ陷ルノ虞ナキヲ保セス、又貴電第二四九號四ノ前段括弧內ハ一應尤モトモ思考スルモ我方ノ聯盟脫退通吿後今日迄英米等カ機會アル每ニ我方ヲ巧ニ誘ヒテ支那ニ關シ國際會議開催ノ運トナル樣種々策動シ來レルニモ顧ミ我方ニ於テハ十二分ノ警戒ヲ要ス、旁々前記(一)ノ三、ノ顧慮ニ急ナルノ餘リ一、及二、ノ目的ニ背致スルカ如キ形勢ヲ馴致セサル樣嚴重注意ノ要アリ

(三)將又本件ニ付英米等ヨリ改メテ相談アル場合ニハ我方ニテモ可然應酬シ行ク筈ナルモ我方ヨリ進ンテ英米等ニ「アツプローチ」スルコトハ東亞ニ對スル彼等ノ發言權ヲ是認スルカ如キ印象ヲ與へ面白カラス」本件ハ出來得レハ此ノ儘有耶無耶ノ間ニ立消トナルコト最モ望マシキ次第ニテ此ノ意味ニ於テモ貴電第二四九號ノ如ク我方ヨリ進ンテ日英米間ノ意見交換ヲ提唱スルコトハ策ノ得タルモノニ非ス、我方トシテハ寧ロ今回汪兆銘ノ爲シタルカ如ク此ノ上トモ支那側ヲシテ我方ニ相談セシムル樣仕向ケ適當ニ支那側ヲ指導シテ以テ本件英國等ノ策動ヲ「チエツク」スル氣持ニテ措置スルコト肝要ト存ス

(四)而シテ右支那指導方ニ付テハ本件ニ關スル我方自身ノ態度ヲ支那側ニ傳ヘ其ノ結果支那側カ我方ノ希望ニ添フ態度ニ出ツル樣誘導スルコト適當ナルヘク之ニ反シ此ノ際我方ニ於テ支那側ノ英國等ニ對スル回答振ヲ「デイクテート」スルカ如キ程度迄深入スルコトハ支那側ヲシテ外國借款不成立ノ場合支那財界匡救ノ負擔ヲ我方ニノミ背負ハセムトスル策略ニ出テシムルノ虞アルニ付注意ヲ要スヘシ以上ニ付テハ委細更ニ郵報ノ筈


 電送第三一五九號

 三月十九日後八時發

  在支有吉公使

    廣田大臣

   對支借款談(別電第二)

第八一號

(イ)往電第六六號ノ一ノ冒頭『先ツ第一ニ根本ノ問題トシテ』ヲ削除スルコト

(ロ)同電ノ二ノ冒頭『次ニ當面ノ問題ナルカ』ヲ削除スルコト

(ハ)右二ノ前段『一方現下世界各方面ニ於ケル財界』ヨリ中段『沒頭スルコトナク矢張リ』迄ヲ削除シ之ニ代フルニ(『悲觀スヘキモノニ非ルカ如シ』ヨリ續ク)『何レノ途此ノ際支那トシテハ』(『汪院長就任以來ノ御方針』ニ續ク)ヲ挿入スルコト

(二)同後段『自力更生ニ努メラルルコト唯一』ヨリ『盡力スヘシ而シテ』迄ヲ『自力更生ニ努メラルルコト最モ肝要ニシテ』(『右自力更生ニ當リ』ニ續ク)ト改ムルコト