[文書名]　「リース・ロス」關係根本方針（「リース・ロス」関係根本方針）

（一）（イ）日本ハ滿支等東亞ノ諸國ト共ニ東亞平和確保ノ責任ヲ有シ日本カ東亞ニ於ケル隨一ノ安定力タリ又タルヘキ事實ヲ基礎トシテ、卽チ日本カ中心トナリテ該責任ヲ遂行セムトスルモノナルコト（ロ）而シテ日本ハ英國ノ東亞ニ於ケル正當ナル權益ヲ尊重スルモ右ニ付テハ常ニ前記（イ）ノ根本義ヲ第一前提トスヘキモノナルコトヲ徹底セシム

（二）從テ先方カ從來英國側ニ於テ動モスレハ執リ來レル態度、卽チ滿洲ニ付テハ致方ナキモ支那殊ニ同國ノ經濟問題ニ付テハ英國側ニ於テ「リーダーシツプ」ヲ執ル可ク、少クトモ日本ニ對シ英國以上ノ優位ヲ許容スヘキニ非スト云ヘル如キ態度ヲ示スニ於テハ我方ノ前記（一）ノ趣旨ニ依リ右英國側ノ態度ハ我方ノ容認シ得サルモノナルコトヲ徹底セシムヘシ。之ニ反シ先方カ前記（一）ノ趣旨ヲ認メツツ日本側ノ助力ニ依リ在支英國權益ノ保全ヲ計リ度トノ態度ニ出テ來ルニ於テハ我方トシテモ右意味合ノ日英協調ニハ好意的考慮ヲ加フルニ吝ナラストノ態度ヲ以テ之ヲ迎へ結局英國側ヲシテ東亞ニ於ケル日本ノ立場ヲ支持セシムル樣誘導スルニ資ス（尙滿洲事變後幾度トナク英國側ハ支那ニ關シ日本ノ參加スル國際會議ヲ開催シ日本ニ對スル新規ノ拘束ヲ誘致セムトノ策謀ヲ廻ラシタル形跡アル處「レースロス」ハ又々右樣ノコトヲ試ムルヤモ測リ難キニ付我方ハ之ニ乘セラレサル樣注意ヲ要ス、斯ノ如キ場合我方ハ斯種國際會議ハ（A）其ノ運用如何ニ依リテハ前記（一）ノ（イ）ノ根本義ニ反スルコトトナルノ虞アルコト（B）支那側以夷制夷策ヲ誘致スル虞アルコト（C）其ノ他種々紛糾ノ原因トナル虞アルコト等ヲ擧ケテ之ヲ「テイスカレヂ」シ英國等カ東亞ノ問題ニ付日本ト協議セラレムトセハ會議等ニ依ラス「インデイビヂユアル」ニ相談セラルルコト最モ適當ナルヘシトノ趣旨ニテ應酬ス）

（三）支那ノ事ヲ歐米等先進國ノ尺度ヲ以テ計ルノ極メテ危險ナルコト又支那ニ於ケル殆ト總テノ經濟問題ハ政治問題ト密接ナル關聯性ヲ有シ從テ一定ノ經濟問題ニ對スル一定ノ具體的施策ノ可否ニ付テハ單ニ純然タル經濟的見地ノミナラス政治見地ニ卽シテ考察スルノ要アルコトヲ徹底セシム

「リースロス」ニ對スル一般應酬振

（一）支那ニ於ケル旣得權益擁護ニ關スル日英協力問題

英國側カ別記根本方針ニ卽シ、日本側ノ助力ニ依リ支那ニ於ケル英國ノ旣得權益ノ保全ヲ圖ラムトスル態度ニ出テ來ルニ於テハ、日本トシテハ現下ノ國際情勢就中對蘇關係上ヨリ見ルモ、此ノ種日英提携ニ何等異存ナキノミナラス、支那ニ對スル關係上ヨリ見ルモ其ノ以夷制夷策ヲ封スルニ資シ得ヘシ。

仍テ在支旣得權益ノ保持ニ關シ常ニ日英協同シテ支那ニ當ルコト必要ナル所以ヲ說示ス。關稅引下方要求、一般債務整理問題等ハ此ノ種提携ノ內容トシテ適當ナルヘシ。

（二）支那ニ對スル經濟、財政援助問題

英國側トシテハ、前記（一）ノ如ク其ノ對支經濟活動ニ付テモ日本ノ協カノ下ニ旣得權益又ハ地位ノ擁護ニ努ムルヲ以テ滿足スヘキモノナル處、現下ノ情勢ニ於テハ英國ハ日本ニ比シ相當大ナル海外投資餘力ヲ有スル關係上、動モスレハ日英提携ニ名ヲ籍リ對支經濟、財政援助ヲ爲シ之ニ依リ自國ノ經濟的勢力ノ挽回ヲ圖ラントスル傾向アリ。

仍テ右ノ如キ日英提携ニ對シテハ從前同樣「支那ニ對スル經濟的援助就中經濟借款乃至ハ信用ノ供與ハ政治借款ト同樣ニ政費ニ流用セラレ內爭ヲ助長スル虞アリ」等ノ趣旨ニ依リ反對ヲ持スルモノトス。但シ英國側ニ於テ眞ニ前記根本方針記載ノ通我方ノ保障ノ下ニ其ノ權益ヲ維持セムト決意シ、且右決意ニ卽スル考案ヲ齎シ來ルニ於テハ我モ亦協力ヲ拒否スルモノニ非サルコトヲ理解セシム

（三）北支問題

我カ對支政策就中對北支工作ニ關シ兎角ノ議論ヲ爲シ來ル場合ニ於テハ前記根本方針ニ依リ指導スルハ勿論ナルカ、更ニ（イ）世界ニ於ケル我カ通商ノ伸展ニ對スル障碍ノ現狀殊ニ英帝國ノ門戶閉鎖ニ付深甚ナル考慮ヲ促スト共ニ（ロ）日支間ノ問題ニ關シ第三國カ介入スルコトハ徒ラニ事態ヲ紛糾スル虞アルコトヲ例示スルモノトス