[文書名] 倫敦軍縮會議脫退通吿竝廣田外相談(倫敦軍縮会議脱退通告並廣田外相談)
昭和十一年一月十五日
本全權委員ハ海軍軍備ノ廣汎ナル制限及縮小ニ關スル帝國ノ提案ニ具現セラレタル根本原則カ一般ノ支持ヲ得ル能ハサルコト、本日ノ第一委員會ノ會議ニ於テ十分明瞭トナレルヲ以テ、帝國全權ニ於テハ帝國全權カ本會議ニ於ケル討議ニ引續キ參加スルモ最早效果ナシトノ結論ニ到達シタルコトヲ茲ニ閣下ニ通吿スルノ光榮ヲ有ス
然リト雖モ帝國全權ハソノ提案カ效果アル軍縮ノ達成ニ最適シタル提案タルコトヲ今猶確信スルモノニシテ、他國全權ニヨリ提出セラレタル量的制限ノ案ハ、帝國全權ノ繰返シ述ヘタル諸理由ニヨリ、コレヲ承認スル能ハサルコトヲ陳述スルヲ遣憾トス
本全權委員ハ閣下カ會議ノ主宰ニ付示サレタル懇切ナル態度ヲ多トスルモノナルコトヲ此ノ機會ニ於テ閣下ニ對シ確言セント欲スルト同時ニ、本會議ニ參加セラレタル一切ノ全權ノ全幅的協力ニ對シ帝國全權部ニ代リ其ノ深甚ナル謝意ヲ表センレ欲スルモノナリ
一九三六年一月十五日
日本帝國全權 永野修身
第一委員會議長 モンセル卿閣下
廣田外相談話
國際平和ノ維持增進ニ貢献スルハ帝國政府ノ終始一貫渝ラサル國策テアツテ、コレカ爲「ロンドン」ニ於ケル海軍軍縮會議ノ開催ニ際シテモ、帝國政府ハ欣然コレニ參加シタノテアル。今次會議ニ於ケル帝國政府ノ方針ハ、關係各國トノ間ニ公正妥當ナル海軍軍縮協定ヲ遂ケ、國防ノ安固ヲ確保スルト共ニ、ナルヘク國民負擔ノ輕減ヲ圖リ、各國間ノ平和親交ヲ增進セントスルニ在ツタノテアリ、帝國全權ヲシテ各國國防ノ安全感ヲ害スルコトナク軍縮ノ實ヲ擧ケ、各國ヲシテ攻ムルニ難ク守ルニ不安ナカラシメルタメ、各國間ニ海軍兵力ノ超ユヘカラサル共通最大限度ヲ定メ、且コレヲ出來得ル限リ低下セシメルト共ニ、攻擊的性能ヲ有スル主力艦、航空母艦ノ廢止及ヒ甲級巡洋艦ノ大縮減ヲ行フヘキコトヲ提議セシメ、以テ徹底的軍縮ヲ計リ、各國間ニ不脅威不侵略ノ原則ヲ確立センコトヲ庶幾シタノテアル。然ルニ帝國全權ノ努力ニ拘ラス、我方ノ公正妥當ナル根本主張ハ各國ノ容ルル所トナラス、尙又會議ニ於テ協定トシテ纒メ得ヘキモノヲ纒メタ上、將來關係國間ニ軍縮競爭ノ行ハルルヲ避クルタメ、軍備競爭ヲナサストイフカ如キ共同宣言ヲナシ、圓滿ニ會議ヲ終止セシメントスル我方ノ誠意モ各國ノ認ムル所トナラナカツタタメ、遂ニ帝國全權ハ會議ヨリ脫退スルノヤムナキニ至ツタノテアル。然シ乍ラ帝國政府ハ軍縮條約ノ有無如何ニ拘ラス、不脅威不侵略ノ精神ヲ尊重スルモノテ、何等軍備競爭ヲ誘發セントスルカ如キ意思ノナイノハ勿論テアル。尙又世界平和ノ爲軍縮事業ニ協力セントスルノ素志ニ何等ノ變更ナク、帝國政府ノ提唱セル徹底的軍備縮小ノ誠意カ成ルヘク速ニ關係各國政府ノ諒解スル所トナルヘキヲ衷心希望スルモノテアル。