[文書名] 石澤・ハルト協定
一九三七年(昭和十二年)四月九日調印
(假譯)
覺書
日本國及蘭領印度間貿易關係增進ノ目的ヲ以テ在「バタビイア」總領事石澤豐氏及蘭領印度政府經濟長官「ジー・エイチ・シー・ハルト」博士ハ近ク日本國政府及和蘭國政府間ニ締結セラルヘキ正式取極中ニ列記スヘシトノ明確ナル了解ノ下ニ左記諸條ニ同意セリ
I、A、日本政府ハ蘭印物產ノ日本ヘノ輸入增進ノ爲其ノ最善ノ努力ヲ盡スヘシ
一、砂糖ニ關シ
a、日本政府ハ日本(臺灣、本土、沖繩縣、南洋群島等ヲ含ム)ニ於ケル將來ノ砂糖生產ニ關シ政府最近ノ調査ニ依リ生產カ國內消費ノ增加ニ追隨シ得サルへシトノ見込ナルコトヲ茲ニ言明シ且爪哇糖トノ關係ニ於テ最モ重要ナル地位ニ在ル臺灣ニ關シ(現在)豫見シ得ル限リニ於テ日本ノ糖業者カ爪哇糖ノ日本ヘノ輸入ニ影響ヲ及ホスカ如キ砂糖生產ノ增加ヲナスノ意嚮ナキコトヲ茲ニ併セテ言明ス
b、日本政府ハ
(1)日本糖業者ニ對シ爪哇糖ノ價格合理的ニシテ且其ノ供給量充分ナル限リ國內消費用タルト輸出用タルトヲ問ハス出來得ル限リ爪哇糖ヲ輸入スル樣極力勸奬シ、且他國糖ノ輸入ハ出來ル限リ差控フル樣勸奬スヘキコト
(2)日本政府ハ第三國ヨリ日本へ輸入セラレタル砂糖ノ數量價格ヲ隨時蘭印糖業者ニ通報スル爲必要ナル措置ヲ講スヘキコト
ヲ約ス
c、日本政府ハ海峡殖民地、馬來連邦、暹羅、印度、錫倫及新西蘭ノ砂糖市場ニ於テ現狀ヲ維持スル樣日本糖業者ヲ誘導スルタメ最善ノ努力ヲナスヘシ
二、其ノ他ノ蘭印物產輸入增進ニ努力スルニ當リテハ日本政府ハ「コプラ」、「カポツク」、珈琲、「パーム」油、煙草、玉蜀黍、木材、「ダマル」、「コパル」其ノ他ノ樹脂及籐ニ關シ特ニ注意ヲ拂フ樣關係者ヲ誘導スヘシ
三、同一目的ヲ以テ日本政府ハ日本ノ一般關稅政策ト相反セサル限リ蘭印物產特ニ植物性油脂ニ對スル輸入稅引下及砂糖竝其ノ他物產ニ對スル關稅据置方ニ付好意的考慮ヲ加フヘシ
B、日本政府ハ左記事項ヲ促進スヘシ
一、在日本蘭人輸出商ニシテ旣ニ輸出組合ニ加入シ居ルカ又ハ本協定締結後六ケ月以內ニ右ニ加入ノ意思ヲ表示セルモノハ日本人ト平等ノ立場ニ於テ輸出許可書ヲ受クヘキコト
二、輸出組合ハ蘭人輸出商ノ基礎割當增加竝特別割當獲得ノ可能性ニ關シ滿足ナル解決ヲ見出ス爲蘭人輸出商ト協議スルコト
三、蘭印政府ノ協力ヲ得テ兩國政府ノ官吏ヨリ成ル委員會ハ兩當事者カ了解ニ到達シ得ル樣日本ニ於テ斡旋スルコト
II、一、蘭印政府ハ蘭印竝和蘭ノ利益擁護ノ必要ト相反セサル限リ外國輸入品及在蘭印外國輸入商ニ關シ、特ニ日本當業者ニ關シ「モデレイト・ポリシイ」ヲ維持スヘキコトヲ約ス
二、總テノ在蘭印輸入商カ其ノ割當ノ範圍ニ於テ蘭品竝外國品輸入ニ付協力スヘキ現行義務―割當遞減制適用ノ罰則ノ下ニ―ハ現行の原則ニ遵ヒ引續キ存續セラルヘシ
但シ蘭印政府ハ和蘭ヲ原產地トセサル輸入品ニ限リ且當該割當量ノ輸入カ他ノ方法ニ依リ充分ニ實現シ得ル限リ割當ノ輸入ニ協力スヘキ義務ノ免除方ニ關スル日本人輸入商ノ要求ニ對シ好意的考慮ヲ加フル用意アリ
三、蘭印政府ハ左ノ事項ニ付好意的考慮ヲ加フヘシ
a、蘭印竝和蘭ノ利益ト相反セサル限リ現在任意ノ外國ヨリ蘭印ヘ輸入ヲ許可セラレ居ル商品ニ付出來得ル限リ日本ノ利益ニ關スル現狀維持方ノ日本ノ要求
b、新ニ輸入制限令カ實施セラルル場合日本ニ對シ「エキイタブル・シエヤー」ノ許與
四、蘭印政府ハ一九三四年來自發的ニ日本人輸入商ニ對シ輸入制限品許可總量ノ所謂「最高二割五分割當」ヲ許與シ來リタル處
a、蘭印竝和蘭ノ利益ト相反セサル限リ右慣行ヲ繼續シ
b、左記品目ニ付テハ日本人輸入商ノ割當總量ヲ最高三割迄增加スル樣好意的考慮ヲ加ヘ
陶磁器、硝子製品、琺瑯鐵器、銅製品及硝子笠付「ランプ」
c、日本人輸入商ニ對シ、綿布及其他ノ商品ニ付テハ(a)ニ記載ノ方法ニヨリ、又(b)ニ揭クル商品ニ付テハ(b)ニ記載ノ方法ニ依リ、可能ナル場合ハ特別割當許與方ニ付引續キ好意的考慮ヲ加フルノ用意アリ
五、蘭印政府ハ在日本蘭人輸出商ニシテ未タ輸出組合ニ加入シ居ラサルモノ又ハ單ニ或ル一部ノ組合ニ加入シ居ルニ過キサルモノニ對シテハ組合加入方ヲ勸奬スヘシ
六、蘭印政府ハ營業制限條令ニ關シテハ千九百三十四年九月二十九日附長岡博士宛書翰ニ於テ爲シタル本條令ニ關スル「ハルト」博士ノ聲明カ引續キ效力ヲ有スルモノナルコトヲ確認ス
III、兩國政府ノ孰レカ一方ハ本取極ノ內容及精神ト相反スト認メラレタル事情又ハ行爲ニ付他方ノ注意ヲ喚起スルノ權利ヲ保留スルモノト了解ス
IV、本取極締結當時ノ事情又ハ本取極ノ締結ヲ促シタル事情ニ變更アリ又ハ近キ將來ニ於テ變更ノ虞アル場合ハ兩國政府ノ孰レカ一方ハ相互貿易關係ノ補足的調整ニ關スル了解ニ到達スル爲他方ト協議スルノ權利ヲ保留ス
V、本取極ハ調印後十日ヲ經テ實施セラルヘク千九百三十八年十二月三十一日迄效力ヲ有ス
右期日ノ三月前ニ兩國政府ノ孰レカ一方ヨリ本取極ヲ終了セシムルノ意思ヲ他方ニ通吿セサルトキハ本取極ハ兩國政府ノ孰レカ一方力終了ノ通吿ヲ他方ニ爲シタル日ヨリ三箇月ノ期間滿了ニ至ル迄引續キ效力ヲ有ス
千九百三十七年四月九日「バタヴイア」ニ於テ本書二通ヲ作成シ之ニ「イニシアル」ス
在「バタヴイア」日本總領事
石澤豐
蘭領印度經濟長官
ジー・エイチ・シー・ハルト