データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 北支臨時政府に依る關稅率改訂に對する米國大使抗議(北支臨時政府に依る関税率改訂に対する米国大使抗議)

[場所] 
[年月日] 1938年1月31日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,387-388頁.
[備考] 
[全文]

一月三十一日附在京米國大使公信第八七四號要領

以書翰啓上致候陳者米國政府ハ支那ニ於ケル現下ノ紛爭ノ當初ヨリ累次日本政府ニ對シ支那稅關保全ノ維持竝關稅收入ノ確保ニ付極メテ現實的ナル關心ヲ有スル旨ヲ及通報タルモノニ有之候米國政府ハ日本官憲ニ於テ稅關行政ノ權威ヲ毀損シ稅關業務ヲ妨害シ又ハ外債竝賠償金ノ償還及行政費ノ支辨ヲ繼續スル稅關ノ能力ヲ阻害スルカ如キ行動ヲ執ラス又之ヲ容認セサルヤウ縷々勸說致候本國政府ハ現行關稅率及手續ノ持續方ニ關スル保障ヲ含ム一定ノ保障ヲ日本政府ヨリ受クルノ希望ヲ表明致シタルモノニ有之候

米國政府ハ最近支那ニ於ケル代表者ヨリ北平ニ於ケル臨時政權ハ北支ニ於ケル對外輸出入貿易ニ屬スル一定ノ貨物ニ對スル支那關稅率ヲ變更セシメタル旨ノ情報ヲ入手致候本國政府ハ中華民國政府ノミ合法的ニ支那關稅率ヲ變更シ得ル權威ナリト思考シ北平ニ於ケル臨時政權ニ依ル此ノ不法ナル專斷的僣奪行爲ニ付日本政府ノ注意ヲ喚起シ臨時政權ノ所爲ハ行政竝稅收入ノ兩方面ニ於テ支那稅關ノ保全ニ由々シキ惡影響ヲ及ホスヤモ知レス稅率ノ改訂ハ支那各港稅率統一ノ原則ヲ破壞スルモノナルコトヲ指摘セサルヲ得サルモノニ有之候

日本政府ハ米國及其ノ他諸國政府ト共ニ支那稅關行政ノ保全ニ付古クヨリ確立セラレ能ク認メラレタル利害關係ヲ有シ米國政府ハ支那稅關保全ノ尊重ニ對スル其ノ眞摯ナル希望ハ日本政府モ同シク抱懷シ居レル所ナリトノ確信ヲ表示致候關稅率ヲ改訂セントスル北平ニ於ケル臨時政權ノ處置ハ稅關ノ保全ニ對スル重大ナル脅威ニ有之候臨時政權ノ創設及其ノ所爲ニ付日本政府ハ回避シ能ハサル責任ヲ有シ之等所爲カ稅率改定ノ場合ニ於ケルカ如ク外國政府ノ利益ニ影響スルモノナルニ於テハ夫等政府ハ何等申入ヲ爲スニ當リ日本政府ニ對シ之ヲナスノ外ナキモノニ有之候

從テ米國政府ハ臨時政權ニ依ル政權ノ攝收ニ何等合法性若クハ妥當性ヲ認メサル旨竝ニ日本政府カ臨時政權ノ當局者ニ對シ及ホシ得ヘキ抑制ヲ行使セサリシヲ深ク遺憾トシ居レル旨日本政府ニ對シ申述フルノ餘儀無之候現存ノ事態ニ鑑ミ米國政府ハ稅率ノ改訂カ對支貿易及關稅收入ニ依ル外債及賠償金ノ償還ヲ含ム米國ノ權利及利益ニ對シ及ホスコトアルヘキ惡影響ニ關シテハ日本政府ヲ責任者ト考フルノ餘儀ナキ次第ニ有之候

右通報申進旁本使ハ茲ニ閣下ニ向テ敬意ヲ表シ候 敬具