データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 汪側提出中國主權尊重原則實行に關し日本に對する希望(汪側提出中国主権尊重原則実行に関し日本に対する希望)

[場所] 
[年月日] 1939年6月15日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,413-415頁.
[備考] 
[全文]

昭和十四年六月十五日

日本カ眞ニ中國ノ主權ヲ尊重セラレントスル誠意ヲ有セラルルコトハ赴日日本要路ト接觸シテ之ヲ感得シ深ク銘肝シアル所ナリ。目下中央政府樹立工作ニ專念シツツアリ殊ニ人的要素及基礎的實力ノ具備ニ全力ヲ指向シアル所彼等ニ日本側ノ誠意ヲ抽象的ニ說明スルモ尙懷疑的心境ヨリ脫却シ得サルハ遺憾トスル所ナリ。茲ニ於テ彼等ニ對シテハ更ニ一步ヲ進メ更ニ具體的內容ヲ以テスルコト此ノ際特ニ必要ナルヲ痛感スル次第ナリ。

以下政治軍事經濟ニ分チ記述スル所ノモノハ右目的遂行ノ爲豫メ日本ノ諒解及保證ヲ得置キ度條件ナリ。固ヨリ詳細辨法ハ中央政府樹立後兩國政府間ニ於テ日支調整原則及精神ヲ基調トシ愼重研究ノ上決定セラルヘキモノタルヤ勿論ナリ。

  一、內政ニ付テ

中國ノ內政ノ獨立自主タルヘキコトニ關シテハ日本ノ屢次闡明セラルル原則ナルモ尙事實ニ則シテ日本ノ好意ヲ國民ニ證明シ其ノ注意ヲ喚起センカ爲以下緊要ナル數點ヲ列擧シ日本側ノ實行ヲ切望ス。

 (一)中國ハ絕對ニ抗日排日ノ思想言論ヲ嚴禁シ、親日的國民敎育ヲ徹底勵行スヘク、日本側ニ於テモ亦侮華、侵華思想乃至態度ヲ是正シ親華敎育ヲ實施セラレ度。

 (二)我カ國民ヲシテ日本カ我カ內政ニ干涉スルノ意圖アルカ如キ疑惑ヲ抱カシメサル爲中央政府ニ在リテハ政治顧問及之ニ類似スルカ如キ名義職位ヲ設ケルヲ避ケラレ度、政治的ニ日本ト商議ヲ要スル事項ハ總テ正當ナル經路ヲ經テ中華民國駐在日本大使ト行フコトト致度シ。

 (三)中央政府各院、各部中行政關係ノ院、部ニ於テハ內政干涉ノ疑惑ヲ避クル爲日本人ヲ職員トシテ任用セサルコトト致度、自然科學ノ技術ニ關スル各部ニ於テハ日本ノ專門家ヲ技術顧問トシテ招聘スルモ其ノ職域ハ技術方面ニ限定シ一般行政ニハ參劃セサルコトヲ方針トス、從ツテ當該部ノ技術ト關係アル會議ニハ主管長官ノ通知ニ依リ之ニ列席スルヲ得ルモ一般行政會議ニハ列席セサルモノトス。

 但シ技術顧問ノ招聘ニ當リテハ上級官廳ノ認可ヲ受クルヲ要ス。

 技術顧問ニ關スル任用規定及服務規定ハ中央政府之ヲ公布ス。

 (四)各省政府及特別市政府ニ於テモ上述ノ趣旨ニ依リ政治顧問又ハ類似ノ名義ヲ有スル職位ヲ設ケス、日本軍ノ撤退以前ニ在リテハ當該地方ニ於ケル日本軍トノ商議及一般涉外事項ニ關シ各當該省政府及特別市政府ニ臨時的ニ交涉專員ヲ設ケ此ノ事ニ當ラシム。

 日本軍ニシテ省政府又ハ市政府ノ協力ヲ必要トスル場合ハ外交的手續ヲ以テシ命令式文書又ハ口頭ノ通知ヲ以テセサル樣致サレ度。

 省政府所屬ノ各廳及特別市政府所屬ノ各局ニ於テモ純行政事項ニ關シテハ政治顧問又ハ類似ノ名義ヲ有スル職位ヲ設ケス、但シ自然科學技術ノ必要上技術顧問ヲ任用スル場合ハ中央政府ニ於ケル辨法ニ準ス。

 (五)縣政府及普通市政府ハ人民ト直接觸スル行政機關ナルヲ以テ我カ人民ヲシテ日本ニ對スル疑畏心理ヲ起ササラシムル爲如何ナル名義タルヲ問ハス日本人ヲ職員ニ任用セサルヲ可トス

 縣政府ノ涉外事項ニ關シ交涉秘書ヲ設クルヲ得、日本軍ノ撤兵以前ニ於テ當該地方縣市政府ノ協力ヲ必要トスル場合ニハ外交方式ニ依ルコトトシ、命令式文書又ハ口頭ノ通知ヲ以テ行ハサルコトト致サレ度シ。

 現ニ作戰中ノ地域以外ノ各縣宣撫班ハ速カニ撤退スルコトニ決定セラレ度シ。

 (六)各地方政府ノ威信ヲ保持シ且我人民ノ日本ニ對スル惡感ヲ避クル爲、撤兵以前ニ於テハ日本駐屯軍ハ省市縣政府ト商議ヲ行フ爲ニハ專任人員ヲ指定シ其ノ責ニ任セシメラレ度シ。

 (七)財政獨立ヲ表現スル爲中國ニ在ル日本ノ如何ナル機關及個人ト雖モ直接間接ヲ問ハス各種各個ノ稅收機關ヲ占有シ又操縱スルコトナキ樣セラレ度シ。

 軍事上特異ノ狀態ヲ發生セルモノ(例ヘハ鹽稅ノ如シ)ハ速カニ其ノ稅收行政ヲ常態ニ復スル如クシ又中國ニ於ケル如何ナル機關、個人ト雖モ之ヲ阻止シ又ハ妨害ヲ加フルカ如キコトナキ樣セラレ度シ。

 (八)中國ニ於ケル日本(下級)軍民ノ中國人ヲ侮辱スルカ如キ行動及態度ナキ樣是正セラレ度シ、斯カル些細ナル事故カ兩國民間ノ親善ノ障害ヲナスコト大ナリ殊ニ撤兵以前ニ於テ此ノ點ニ關シ特別ノ注意ヲ拂ハレ度シ。

  二、軍事

中日兩國國防方針旣ニ一致セル以上我國ノ軍事施設ハ必ス日本ト同一共同目標ヲ對象トスルヤ勿論ナリ

唯中國ノ最高軍權ノ獨立性ニ關シ必ス之ヲ確立スル如クスルコト緊要ナリ

之カ爲左記諸項ヲ實行セラレ度シ

一、中央ノ最高軍事機關(軍事委員會又ハ國防委員會ノ如シ)ニ在リテハ顧問團ヲ設ケ日獨伊三ケ國ノ軍事專門家ヲ招聘シテ之ヲ組織ス顧問人數ハ日本人二分ノ一獨伊人二分ノ一トシ主席ハ日本人之ニ當リ國防計畫及軍事施設ノ企畫ヲ輔佐ス其ノ職權ノ範圍及服務規定ハ中央政府之ヲ制定ス

二、各種軍事敎育機關ニハ日獨伊軍事專門家ヲ敎官トシテ招聘スルヲ得

三、中國軍隊ヲ監視シ或ハ束縛スルカ如キ疑惑ヲ避クル爲各部隊內ニ如何ナル名義タルヲ問ハス日獨伊軍事專門家ヲ任用シ或ハ招聘シテ職務ヲ擔任セシムルヲ得ス

 但シ中央ノ最高軍事機關ヨリ派遣シタル顧問ニシテ臨時各部隊ヲ視察スルモノハ此ノ限リニ非ス

 但シ其ノ視察ハ人事ニ涉ラサルヲ要ス

四、各種ノ兵器製造工場ハ必要アル場合日獨伊ノ專門家ヲ技師トシテ任用スルコトヲ得

 其職權ハ技術ノ方面ニ限リ各工場ノ人事行政及經理ニ參加セス

五、中央政府南京歸還ノ後中國軍隊ニシテ新中央政府ニ復歸スルモノアル時ハ協議ノ上日本軍ハ局部ノ撤退ヲ行ヒ其ノ區域ヲ該復歸軍隊ニ與ヘラレンコトヲ希望スルモ然ラサレハ他ノ區域ヲ其ノ駐屯地トナス如ク考慮アリ度シ

  三、經濟

經濟合作ハ互惠平等ノ原則ニ據ルヘキハ旣ニ兩國人士ノ公認セル所ニシテ此ノ原則ノ具體化ヲ計ル爲速ニ左記事項ヲ實行セラレ度シ

一、軍事期間中國ニ於ケル日本ノ機關或ハ個人ノ爲ニ占領又ハ沒收セラレタル中國ノ公營及私營ノ工場、鑛山及商店ハ速ニ之ヲ中國側ニ返還セラレ度ク別ニ適當ナル合辦辦法ヲ規定シ度シ

二、現在合辦中ノ公私事業ニシテ固有資產ノ評價適正ヲ缺クモノハ客觀的標準ニ基キ再評價スルコトト致シ度シ

三、合資經營ノ公私事業ニ對シ日本側カ株劵等ヲ提供シテ實際上ノ出資ヲ行ヒアラサルモノアルハ不當ナルヲ以テ是正セラレ度シ

四、合資經營ノ公私事業ニシテ日本側ノ資本額ハ百分ノ四十九ヲ超過スルコトヲ得サルコトト致シ度シ

五、合資經營ノ公私事業ノ最高主權ハ固ヨリ中國ニ屬スルモノタルヲ要ス

六、中央政府南京歸還前軍事期間中ニ南北兩組織ノ許可セル契約ハ之ヲ再審査ノ餘地ヲ與ヘラレ度シ

(備考) 四、五等ハ當然ノ事ニ屬スルモ中國人ノ復歸及投資ヲ速カナラシムル爲新中央政府ニ於テ更メテ宣傳ノ要アリト思料シ豫メ日本側ノ諒解ヲ得度キ希望ニ出テタルニ過キス