データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 有田外相演說「國際情勢と帝國の立場」(有田外相演説「国際情勢と帝国の立場」)

[場所] 
[年月日] 1940年6月29日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,433-434頁.
[備考] 
[全文]

昭和十五年六月二十九日放送

我カ國建國以來ノ理想ハ萬邦ヲシテ各々其ノ所ヲ得シムルニ在リマス。我外交方針モ亦此ノ理想ニ基クモノテアリマシテ之カ爲ニハ時ニ國運ヲ賭シテ戰フコトスラモ敢テ辭セナカツタノテアリマス。

凡ソ世界平和ノ確立ハ人類ノ渇仰スル所テアリマスカ其ノ世界平和ナルモノハ萬邦各々其ノ所ヲ得ルニ非サレハ、永續性ナキコトハ言ヲ俟タナイノテアリマス。シカシ此ノ意味ニ於ケル世界平和ノ確立ハ人類進步ノ現段階ニ於テ遺憾乍ラ一擧ニシテ達成シ難イモノカアルノテアリマス。故ニ、コノ大理想ヲ實現スル爲ニハ地理的、人種的文化的、經濟的ニ密接ナル關係ニアル諸民族カ共存共榮ノ分野ヲ作リ先ツソノ範圍內ニ於ケル平和ト秩序トヲ確立スルト共ニ他ノ分野トノ間ニモ共存共榮ノ關係ヲ樹立スルコトカ最モ自然ナ順序テアラウト考ヘルノテアリマス。

而シテ人類葛藤ノ原因カ槪ネ斯ル自然的建設的體制ヲ顧ミヨウトモセス又去來ノ不合理不公正ニ修正ヲ加ヘヨウトモシナイコトニ存スルコトハ、世界カ過去ニ於テ又現在ニ於テ經驗シテ居ル實情テアリマス。從テ國際平和ヲ恒久的基礎ノ上ニ確立致シマスル爲ニハ凡ユル努力ヲ以テ斯クノ如キ過誤ヲ是正セネハナラナイノテアリマス。帝國カ東亞新秩序ノ建設ニ向ツテ邁進致シテ居リマスノモ以上ノ精神ニ基クモノテアリマス。 (中略)

東亞ノ諸國ト南洋諸地方トハ地理的ニモ、歷史的ニモ、民族的ニモハタマタ經濟的ニモ極メテ密接ナル關係ニアリマシテ互ニ相倚リ相扶ケ有無相通シテ共存共榮ノ實ヲ擧ケ、以テ平和ト繁榮トヲ增進スヘキ自然ノ運命ヲ有スルノテアリマス。故ニ之等ノ地域ヲ一括シテ共存ノ關係ニ立ツ一分野ト爲シ、ソノ安定ヲ圖ルコトカ當然ノ歸結ト思ハレルノテアリマス。

斯クノ如ク部分的ニ公正ナル平和ヲ建設シ、之ヲ集大成シテ世界全般ノ公正ナル平和ヲ建設セントスル考ハ歐米諸國ニ於テモ存スルノテアリマス。

而シテ此ノ思想ハ夫々ノ分野ニ於ケル安定勢力ヲ豫想スルモノテアリマシテ斯ル勢力ヲ中心ト致シマシテ其ノ分野內ニ於ケル諸民族カ共存共榮ト安定トヲ確保スルト同時ニ、各分野ハ他ノ分野ノ政治的文化的及經濟的特色ヲ尊重シ有無相通シ而モ互ニ相侵サス協力スルコトヲ以テ其ノ內容トスルモノテアリマス。

今次歐洲戰爭カ勃發致シマスルヤ、帝國政府ハ不介入ノ方針ヲ闡明シ、歐洲戰爭ニ介入セサルト共ニ戰禍ノ東亞方面ニ波及スルヲ欲セサルコトヲ明ニ致シマシタカ、自然帝國トシテハ歐米諸國カ東亞方面ノ安定ヲ紊スニ至ルカ如キ事ナキヲ期待スルモノテアリマス。

今ヤ帝國ハ東亞新秩序ノ建設ニ邁進シテ居リマスルト共ニ、今次歐洲戰爭ノ成行特ニ南洋ヲ含ム東亞ノ諸地域ニ及ホス影響ニ付テハ常ニ深甚ナル注意ヲ拂ヒツツアルモノテアリマシテ、此等諸地方ニ付キ齎サルルコトアルヘキ運命ニ對シマシテハ東亞ノ安定勢力タル帝國ノ使命ト責任トニ顧ミマシテ重大ナル關心ヲ有スルモノテアル事ヲ言明シテ置マス。