データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 世界情勢の推移に伴ふ時局處理要綱(世界情勢の推移に伴う時局処理要綱)

[場所] 
[年月日] 1940年7月27日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,437-438頁.
[備考] 
[全文]

    昭和十五年七月二十七日大本營政府連絡會議決定

  方針

帝國ハ世界情勢ノ變局ニ對處シ內外ノ情勢ヲ改善シ速カニ支那事變ノ解決ヲ促進スルト共ニ好機ヲ捕捉シ對南方問題ヲ解決ス

支那事變ノ處理未タ終ラサル場合ニ於テ對南方施策ヲ重點トスル態勢轉換ニ關シテハ內外諸般ノ情勢ヲ考慮シテ之ヲ定ム

右二項ニ對處スル各般ノ準備ハ極力之ヲ促進ス

  要領

第一條 支那事變處理ニ關シテハ政戰兩略ノ綜合力ヲ之ニ集中シ特ニ第三國ノ援蔣行爲ヲ絕滅スル等凡ユル手段ヲ盡シテ速カニ重慶政權ノ屈伏ヲ策ス

 對南方施策ニ關シテハ情勢ノ變轉ヲ利用シ好機ヲ捕捉シ之カ推進ニ努ム

第二條 對外施策ニ關シテハ支那事變處理ヲ推進スルト共ニ對南方問題ノ解決ヲ目途トシ槪ネ左記ニ依ル

一、先ツ對獨伊ソ施策ヲ重點トシ時ニ速カニ獨伊トノ政治的結束ヲ强化シ對ソ國交ノ飛躍的調整ヲ圖ル

二、米國ニ對シテハ公正ナル主張ト儼然タル態度ヲ持シ帝國ノ必要トスル施策遂行ニ伴フ已ムヲ得サル自然的惡化ハ敢テ之ヲ辭セサルモ常ニ其ノ動向ニ留意シ我ヨリ求メテ摩擦ヲ多カラシムルハ之ヲ避クル如ク施策ス

三、佛印及香港等ニ對シテハ左記ニ依ル

 イ 佛印(廣州灣含ム)ニ對シテハ援蔣行爲遮斷ノ徹底ヲ期スルト共ニ速カニ我軍ノ補給擔任軍隊通過及飛行場使用等ヲ容認セシメ且帝國ノ必要ナル資源ノ獲得ニ努ム

狀況ニヨリ武力ヲ行使スルコトアリ

 ロ 香港ニ對シテハ「ビルマ」ニ於ケル援蔣ルートノ徹底的遮斷ト相俟チ先ツ速カニ敵性ヲ芟除スル如ク强力ニ諸工作ヲ推進ス

 ハ 租界ニ對シテハ先ツ敵性ノ芟除及交戰國軍隊ノ撤退ヲ圖ルト共ニ逐次支那側ヲシテ之ヲ回收セシムル如ク誘導ス

 ニ 前二項ノ施策ニ當リ武力ヲ行使スルハ第三條ニ據ル

四、蘭印ニ對シテハ暫ク外交的措置ニ依リ其ノ重要資源確保ニ努ム

五、南太平洋上ニ於ケル舊獨領及佛領島嶼ハ國防上ノ重大性ニ鑑ミ爲シ得レハ外交的措置ニ依リ我領有ニ歸スル如ク處理ス

六、南方ニ於ケル其ノ他ノ諸邦ニ對シテハ努メテ友好的措置ニヨリ我カ工作ニ同調セシムル如ク施策ス

第三條 對南方武力行使ニ關シテハ左記ニ準據ス

一、支那事變處理槪ネ終了セル場合ニ於テハ對南方問題解決ノ爲內外諸般ノ情勢之ヲ許ス限リ好機ヲ捕捉シ武力ヲ行使ス

二、支那事變ノ處理未タ終ラサル場合ニ於テハ第三國ト開戰ニ至ラサル限度ニ於テ施策スルモ內外諸般ノ情勢特ニ有利ニ進展スルニ至ラハ對南方問題解決ノ爲武力ヲ行使スルコトアリ

三、前二項武力行使ノ時期範圍方法等ニ關シテハ情勢ニ應シ之ヲ決定ス

四、武力行使ニ當リテハ戰爭對手ヲ極力英國ノミニ局限スルニ努ム但シ此ノ場合ニ於テモ對米開戰ハ之ヲ避ケ得サルコトアルへキヲ以テ之カ準備ニ遺憾ナキヲ期ス

第四條 國內指導ニ關シテハ以上ノ諸施策ヲ實行スルニ必要ナル如ク諸般ノ態勢ヲ誘導整備シツツ新世界情勢ニ基ク國防國家ノ完成ヲ促進ス

之カ爲特ニ左ノ諸件ノ實現ヲ期ス

一、强力政治ノ實行

二、總動員法ノ廣汎ナル發動

三、戰時經濟態勢ノ確立

四、戰爭資材ノ集積及船腹ノ擴充