[文書名] 小林特派使節携行對蘭印交涉方針案(小林特派使節携行対蘭印交渉方針案)
昭和十五年八月二十七日閣議決定
一、帝國ノ根本目標ハ支那事變ノ急速處理及日滿支ヲ中心トシ之ニ南洋ヲ加ヘタル東亞共榮圈ノ確立ニ存スル處、最近米國ハ我國ニ對シ重要物資ノ禁輸ヲ斷行シ以テ帝國カ前記目的ヲ達成セムトスルヲ妨害セムトスルニ到レリ
依テ帝國トシテハ之ニ對處スル爲南洋就中蘭印ニ必要資源ヲ求ムルノ他ナキ緊急ノ事態ニ直面スルニ至レリ而シテ之カ爲ニハ帝國ト蘭印トノ經濟關係ヲ緊密ナラシムルノミナラス蘭印ニ對スル我カ政治的優越地位ヲ確立スルコト肝要ナルヲ以テ帝國政府ハ蘭印ニ對シ
(1) 蘭印ハ歐洲トノ連繋ヲ絕チ速ニ東亞共榮圈ノ一員トシテノ立場ヲ執ルコト
(2) 「インドネシア」人ニ完全ナル自治ヲ認ムルコト
(3) 蘭印ヲ含ム東亞共榮圈ノ平和ヲ確保スル爲蘭印ハ其ノ防衞ニ必要ナル具體的協定ヲ帝國ト締結スルコト
(4) 帝國臣民ニ對シ蘭印ヘノ入國、蘭印ニ於ケル居住旅行身體財產ノ保護動產不動產ノ取得、商業及企業(航空ヲ含ム)ノ經營其ノ他通商航海ニ關スル一切ノ事項ニ付和蘭臣民ト同一ノ待遇ヲ與フルコト
(5) 蘭印政府ハ蘭印產品中特ニ帝國ノ必要トスル物資ノ輸出ノ禁止又ハ制限ヲナササルノミナラス其ノ對本邦輸出ニ關シ斡旋シ便宜ヲ供與スルコト
ヲ要求スルコトト致シ度キモ國際情勢ノ現段階ニ於テハ此ノ種要求ハ蘭印ノ主權及生存權ニモ影響スル處ナルヲ以テ其儘英米ニ內報サルルコト明ニシテ結局蘭印ヲ馳テ英米樞軸ニ追込ミ其ノ連合ノ下ニ我カ要求ヲ拒否スルノ事態ヲ招來スル惧アリ右ニ對シ帝國カ壓力ヲ背景トシテ之ヲ押切リ得ヘキ第二段ノ措置ニ出テ得サルカ如キコトアラハ却テ我威信ヲ失墜スルコトトナルヘシ
依テ來ルヘキ日蘭印交涉ニ際シテハ前記ノ事情ヲ篤ト考慮シ別紙對蘭印要求案ノ趣旨ニヨリ交涉ヲ進ムルコトト致度
二、然ル處別紙案ノ如キ要求ト雖モ蘭側ニ於テハ國內的事情及第三國トノ關係上容易ニ之ヲ受諾セサルヘキハ從來ノ經驗ニヨリ明ニシテ交涉ハ相當迂餘曲折アルモノト豫想セラル從テ其ノ前途ハ樂觀ヲ許ササルヘク我カ使節ニ於テモ現地ニ於テ情勢ノ推移ト睨ミ合セ相當程度ニ自由ノ裁量ニ依リ臨機應變ノ交涉ヲ必要トスル次第ナルニ付小林特派使節ニ對シテハ相當廣汎ナル交涉權限ヲ與ヘ別紙要求ノ趣旨ニ基キ出來得ル限リ我方要求貫徹ノ爲努力方訓令スル方針ナリ
對蘭印要求案
甲、申入要綱
一、曩ニ帝國政府ヨリ和蘭政府ニ對シ、日蘭印間ノ重要懸案ノ解決方ニ關シ我方要求ヲ申入タルニ對シ、本年六月六日附在京和蘭公使ヨリ有田外務大臣宛公文ヲ以テ爲サレタル回答中、我方ノ必要トスル重要物資ノ供給確保方ニ關スル分ハ大體我カ要求ヲ容認セルモノナル處將來右保障ノ遵守ヲ要求ス。
然ルニ我方ノ最モ重要視スル日本人ノ蘭印入國蘭印ニ於ケル豐富ナル資源ノ開發及利用ノ爲ノ日本人ノ企業竝ニ投資ニ關スル問題ニ付テハ和蘭政府ハ依然我方ノ眞意ヲ充分諒解セス殊ニ此等問題ノ解決カ我方多年ノ擧國的要望ナルコトハ從來ノ交涉ニヨリ旣ニ充分承知シ居ルニモ拘ラス蘭側ハ之ヲ大局的且實際的見地ヨリ好意的ニ考慮スルコトナク今尙局所的立場ヨリ法理的論議ヲ繰返シ居ルハ帝國政府ノ大イニ失望ト不滿ヲ禁シ得サル所ナル
仍テ帝國政府トシテハ右入國企業竝ニ投資ニ關スル問題ニ關シ卒直ニ我方ノ見解ヲ披瀝シ和蘭政府ノ深甚ナル考慮ヲ求メムトスル次第ナリ
二、抑モ現代ニ於ケル世界ノ不安竝ニ諸國間ノ軋轢ハ主トシテ不合理ナル領土的關係ニ基ク資源ノ不公正ナル配分ニ基因スルコト論議ノ餘地ナキ所ナリ
卽チ世界ノ現狀ハ一部ニハ豐富ナル資源ヲ擁スル廣大ナル未開ノ地方アルト共ニ他方ニ於テハ潑溂タル生活力ヲ有シツツ資源ノ缺乏ト過剩人口ニ惱ム國尠カラス斯ル現狀ハ寔ニ不合理ニシテ之ヲ合理化シ正當化スルニ非レハ國際間ノ平和ハ到底之ヲ庶幾スルニ由ナキモノナリ
從テ斯ル事態ノ發生ヲ防止セムカ爲ニハ資源豐富ニシテ廣大ナル未開發ノ領土ヲ有スル國々カ卒先シテ其ノ資源ヲ世界ニ開放シ入國ヲ自由トシ企業其他一般經濟的活動ニ課シタル制限ヲ撤廢スルコト緊要ナリ
三、和蘭政府カ蘭領印度ニ關シ過去ニ於テ執リ來レル政策ハ比較的自由且平等ニ各國民ノ經濟活動ヲ許容シ或ル程度ニ於テ東亞ノ平和及繁榮ニ寄與シタルコトハ帝國モ之ヲ認ムルニ吝ナラサル次第ナリ
然ルニ近年和蘭カ蘭印ニ對シ執リ來レル政策ハ遣憾ナカラ門戶閉鎖的ナリ抑モ蘭印ハ和蘭ノ統治下ニ在リトハ雖モ地理的ニハ東亞民族ノ共榮圈內ニ存ス、從テ和蘭ハ蘭印ノ豐富ナル資源ヲ先ツ東亞民族進ンテハ世界人類ノ繁榮ト福祉トノ爲ニ開放スヘキナリ
然ルニモ拘ハラス和蘭ハ從來餘リニモ和蘭人及歐洲ノ利益ノミヲ偏重シ蘭印ニ於ケル重要企業就中鑛業ニ於テハ蘭印ト地理的ニ遠隔ナル一二ノ國家ニ對シ夙ニ廣汎ナル權益ヲ與ヘナカラ東亞共榮圈ノ繁榮福祉ハ之ヲ顧念スルコトナク殊ニ開發能力ト發展力大ナル日本ニ對シ門戶閉鎖主義ヲ執リ來レルハ洵ニ不合理ナルノミナラス東亞共榮圈ノ一員トシテノ義務ヲ怠ルモノナリ
帝國政府ハ右不合理ヲ指摘シ屢々其ノ反省ヲ促シ來レルモ遂ニ其ノ結果ヲ得ルニ至ラスシテ今日ニ及ヒ爲ニ日本朝野ノ間ニ大ナル不滿ノ念涌起スルニ至レルハ帝國ノ甚タ遣憾トスル所ナリ
四、帝國政府ハ前記諸觀點ニ立脚シ且蘭領印度ノ國內事情及蘭領印度第三國間ノ關係ヲモ考慮シ差當リ茲ニ帝國政府ノ眞摯且卒直ナル要求ヲ提示スルニ付貴方ニ於テモ日蘭間ノ傳統的親善關係ニ基キ大局的見地ヨリ帝國政府ノ要求ニ對シ速ニ同意セラレムコトヲ要請スル次第ナリ。
乙、原則的要求
一、入國問題
帝國政府ノ要望スル蘭領印度ニ對スル經濟的發展ヲ期スル上ニ重大ナル障碍ヲナシ日本朝野ノ最モ大ナル不滿トスル所ノモノハ蘭領印度ニ於ケル外國人ノ入國制限ナルニ鑑ミ帝國政府ハ入國ノ自由ヲ要求セムトス尤モ本問題ハ蘭印政府ニ於テ最モ難色アルモノナルヲ以テ已ムヲ得サル場合ハ之カ緩和方ニ關シ最小限度左ノ通リ要求ス
現行蘭領印度入國令ニ定メラルル日本人ノ蘭印入國割當數ハ普通割當八百名及追加割當(一年間ニ外國人入國者ノ合計カ一萬人ニ達セサル場合ハ一九二四年乃至一九三三年ニ於ケル日本人入國總數ノ一割迄入國ヲ許可セラルルモノ)八百三十三名合計一千六百三十三名ナルヲ以テ右限度迄ノ日本人ノ入國ハ、帝國政府ニ於テ其ノ必要ヲ認メ發給セル旅劵ヲ所有スル者ニ限リ外國人勤勞條令ニ定メラルルカ如キ煩瑣ナル手續ヲ踏ムコトナク自由ニ之ヲ許可スルコト
但シ
(イ) 左記二ノ(1)ノ新規企業ノ爲ノ準備調査竝ニ事業經營ノ爲ニ必要ナル人員ハ右入國割當中ニ包含セシメサルコト
(ロ) 蘭領印度滯在カ一年以內ナル一時旅行者ハ右入國割當數ニ包含セシメサルコト
(ハ) 入國稅ノ徵收ヲ撤廢スルコト
二、企業及投資問題
(1)新規企業
近來蘭領印度政府ハ各種法規ノ發布又ハ改正或ハ法規以外ノ政府ノ方針ニヨリ我方ノ最モ重要視スル石油其他主要鑛物ノ有望ナル鑛區ハ殆ント全部之ヲ政府ノ爲ニ保留シ以テ日本人カ此ノ種鑛業權ヲ獲得スルノ餘地ナカラシムルニ至レルノミナラス旣存鑛業權ノ讓渡モ之ヲ認メサルニ至レリ
然ルニ英國、米國等ハ此等新法規ノ發布又ハ政府ノ方針決定前旣ニ石油其他主要鑛物ノ有望ナル鑛區ヲ獲得シ之カ採鑛ヲ大規模ニ行ヒ居レリ仍テ帝國政府ハ此ノ際蘭領印度政府ニ對シ今後ハ現行法規又ハ政府ノ方針ノ如何ニ拘ラス機會均等ノ見地ヨリ石油及各種鑛物ノ探鑛竝ニ採鑛ニ關スル日本人ノ申請ニ對シテハ之ヲ許可スルト共ニ鑛業以外ノ各種企業ノ新設ニ關スル申請モ同樣之ヲ許可シ且旣存利權ノ日本人ニ對スル讓渡モ必ス之ヲ許可スルコト
尙日本人ノ新規企業ニ關シテハ鑛業法規又ハ其他關係法規ニ定ムル申請手續ヲ執ル以前ニ於テモ、日本人カ有望ナリト認ムル地方ニ於テ自由ニ實地調査ヲナスコトヲ認ムルコト
而シテ我方ニ於テ差當リ着手ヲ希望スル新規企業左ノ如シ
A、鑛業
蘭領印度ニ於ケル全石油鑛區(政府ノ保留地ヲ含ム)中我方ノ希望スル地域ニ對スル探鑛及採鑛
其他ノ鑛物ノ有望ナル全鑛區(政府ノ保留地ヲ含ム)中我方ノ希望スル地域ニ對スル各種鑛物ノ探鑛及採鑛
探鑛權者ノ申請スル採鑛申請ハ必ス許可スルコト
B、其他企業
日蘭印間航空路ノ開設
日蘭印間新海運航路ノ開設
日蘭印間海底電線敷設
其他我方ノ希望スル水產業、林業、農業、工業等
以上A及Bノ企業ノ新設ニ關シテハ其ノ調査及各種準備ニ對シ蘭印當局ハ凡ユル斡旋協力及一切ノ便宜ヲ供與スルコト
(2)旣存企業ノ擴張
(イ)鑛業
現在日本人ノ出願中ノ探鑛又ハ採鑛申請ヲ速ニ許可スルコト(例‐「セレベス」ニ於ケル坪野出願ノ「ニッケル」及鐵、原口出願ノ雲母)
現在日本人ノ經營スル鑛業ニ對シ其ノ發展及合理的經營ヲ可能ナラシムル爲其ノ擴張ヲ認ムルコト(例―B・O・Mノ石油)
現在日本人カ其ノ所有スル鑛業權ニ基キ實際開發ヲ行ハムトスルヲ阻止シツツアル障碍ヲ除去スルコト(例―爪哇「パチタン」ニ於ケル石原銅山ノ開發ヲ可能ナラシムル爲「パチタン」港ヲ同企業ノ爲ニ開港スルコト)
(ロ)海運
現在蘭印ニ於テ沿岸貿易ヲ許可セラレ居ル日本船舶(在「スラバヤ」鹽原副經營第一虎丸南洋興發所有船大東丸)ニ對スル航行區域制限ヲ撤廢シ且增船ヲ認ムルコト
一九三五年以來閉鎖セラレタル海港ノ再開及出入船舶噸數制限ヲ撤廢スルコト
(ハ)農業
旣存農園ニ對シ其ノ發展及合理的經營ヲ可能ナラシムル爲其ノ擴張ヲ認ムルト共ニ各種制限及障害ヲ除去スルコト(例―「ニューギニア」ニ於ケル南洋興發會社ノ棉花裁培園ノ擴張爪哇ニ於ケル武田農園ノ規那栽培ノ擴張及同園生產品ノ對本邦輸出ノ許可)
(ニ)漁業
旣存漁業ニ對シ發展ノ餘地ヲ與フルコト。卽チ邦人漁業ハ殆ント全部カ公海漁業ニシテ土民漁業トノ競爭ナキヲ以テ之ニ對シテハ營業上必要トスル漁船數及漁夫ノ增加ヲ認メ且漁獲物ノ輸入港ニ關スル制限ヲ撤廢スルト共ニ輸入稅ヲ免除スルコト。右漁業カ營業上必要トスル製氷其他附帶事業ハ現行營業制限ヨリ除外シ自由ニ之ヲ許可スルコト
(ホ)其他企業
日本人ニ關係アル倉庫業、印刷業、織布業、製氷業及護謨「スモーク」業等工場ノ營業制限ヲ撤廢スルコト
三、新聞關係
(1) 從來蘭印當局ニ於テハ日本人ノ馬來語及支那語新聞ノ經營ヲ阻止スルノ方針ヲ執リ居レル處、和蘭人及支那人ニ對スルト同樣日本人ニ對シテモ其ノ經營ヲ許可スヘキコト
(2) 從來蘭印ニ於ケル一般官民ノ日本及日本人ニ關スル認識ハ全ク缺如シ其ノ對日態度ニ遣憾ノ點多ク之カ爲ニ兩國間ノ友好關係ヲ阻害スルコト甚シキモノアリ殊ニ戰禍ノ和蘭ニ波及以來蘭印官民ノ在留邦人ニ對スル暴行及侮辱事件ノ頻發ハ一方ニ於テハ蘭印當局カ我方ノ眞意ヲ理解セス日本ニ對スル極端ナル警戒措置ヲ執リ來レル結果一般ノ感情ヲ刺戟セルニ基因スルモノナルト共ニ他方從來蘭印新聞ノ反日的態度カ輿論ノ對日惡感情ヲ誘發スルニ至リタルコトカ其ノ主要原因ナリト認メラル仍テ帝國政府ハ此等新聞ノ徹底的取締方ニ關シ左ノ通リ要求ス
(イ) 和蘭人經營新聞
反日態度ノ最モ甚シキハ和蘭語新聞ニシテ且和蘭語新聞ハ支那語及馬來語新聞ノ指導的地位ニ在ルニモ拘ハラス從來之カ取締カ殆ント行ハレタルコトナキ處今後ハ之カ徹底的取締ヲナスコト
(ロ) 支那人經營新聞
支那人經營新聞ノ取締振ハ今尙微溫的ニシテ而モ支那人經營新聞ハ一般在留支那人ノ輿論ヲ必スシモ代表セサルノミカ却テ支那人ニ對シ强制的ニ對日反感ヲ植付ケ反日運動及日貨排斥ヲ指導シ居レル處蘭印當局從來ノ態度ハ之ヲ看過シ居レリト稱スルモ過言ニ非ス、之ニ反シ蘭印當局ハ日本人經營ノ新聞カ汪精衞支援ニ關スル記事ヲ揭ケタルニ對シ右カ在留支那人ノ感情ヲ刺戟スルモノナリトシテ發行停止ヲ命シ又支那ニ於ケル我方占領地域內ニ於テ發行セラルル新聞等ハ反蔣的ナルノ故ヲ以テ一切輸入禁止ヲ爲セルカ右ノ如キ蘭印當局ノ不公平ナル態度ハ親支反日的ナリト稱セサルヲ得ス仍テ今後ハ支那人經營新聞ノ取締ヲ一層嚴重化スルト共ニ我方新聞ニ對スル不公平ナル態度ヲ是正スルコトヲ要求ス
丙、一般通商ノ增進及通商障害除去ニ關シ對蘭印要求案及理由
一、日本品ノ輸入ヲ最大限ニ確保スル爲最有利ナル割當ヲ要求ス理由及要求具體案
蘭印ニ於テ一九三三年以來執リツツアル主要商品ニ對スル輸入制限措置ノ爲日本品ノ輸入ヲ阻害セラレ特ニ高級ナル日本品ノ輸入ハ重大ナル打擊ヲ被リ或種高級綿布、人絹布ノ如キハ殆ント輸入ノ途ヲ閉塞サルルニ至リタリ
然シ蘭印購買力ノ源泉淺ク消費大衆タル土人ノ收入大ナラサルニ拘ラス本制限令ヲ撤廢セシムル時ハ思惑輸入ヲ馴致シ却テ市場混亂ヲ惹起スルニ至ルコト極メテ明ナリ故ニ我方トシテハ甯ロ現行制限令ヲ利用シテ日本品ニ對シ最有利ナル割當ヲ取得シ置クコト現在及將來ノ爲極メテ肝要ナリ
故ニ我具體的要求トシテハ右制限令ニ依リテ決定セル輸入許可數量ノ平均七乃至八割ヲ日本品ニ割當ツルコトヲ目標トシテ要求ス
二、蘭印在留日本人輸入商ノ輸入割當比率ノ合理的增加ヲ要求ス。
理由及要求具體案
蘭印ニ於テ輸入業ヲ經營シ居ル日本商カ蘭印輸入制限令實施前ニ於テハ蘭印ノ輸入セル或種商品ノ總量ニ對シ其五割程度ノ輸入實績ヲ有シタルニ拘ラス蘭印ニ於テハ無差別ニ日本商ニ對スル輸入割當量ヲ當該商品ノ輸入許可總量ノ二割五分ヲ最高限度ト決定セルコトハ甚不當ナリ
仍テ我方トシテハ右二割五分制度ヲ改メ總テ當該輸入制限令施行前年ノ實績ニ依ルコトトシ其最高割當比率ヲ五割トスルコトヲ要求ス
三、蘭印在留日本人輸入商ニ對シ第三國品ノ輸入義務免除方要求ス
理由
蘭印ニ於ケル日本人輸入商ニ對シ蘭印カ第三國ニ割當タル商品ノ一定數量ノ輸入義務ヲ負擔セシメ居ルモ日本商ハ當該第三國トノ取引關係ナク又其割當ラレタル數量モ亦少ク到底商取引ノ對象トスルニ足ラサルモノアルニ付此等第三國品ノ輸入ヲ義務トセサルコトヲ要求ス
四、蘭印ニ於ケル日本人輸入商ヲ經濟省ノ諮問委員會ニ參加セシムルコトヲ要求ス
理由
蘭印經濟省ニ於テハ蘭印市場需給ノ實狀ヲ聽取シテ輸入許可數量ヲ決定スル目的ヲ以テ蘭人輸入商若干名ヲ委員トスル諮問委員會ヲ設ケ居ルトノコトナルニ付之ニ蘭印在留ノ適當ナル日本人輸入商ヲ參加セシムルコトヲ要求ス
五、日本ニ不利ナル關稅政策ヲ採ラサルコトヲ要求ス
理由
近年和蘭本國品ノミナラス歐米製品ヲモ保護スル爲其稅關價格表中ニ揭載セル或種商品ノ評價格カ市價ヨリモ高キモノアル爲特ニ日本品カ結果ニ於テ高率關稅ヲ支拂フコトトナルモノアリ
又最近ニ至リテハ一般的ニ賦課スル國防輸出稅ノ外ニ戰時輸出稅トシテ特ニ各國ノ必需スル重要物資ノ輸出ニ當リ課稅セントスル政策ニ出テツツアルヲ以テ之カ爲日本ノ蘭印產重要物資買付ニ障害トナルニ至ル
故ニ我方トシテハ蘭印ノ輸出入關稅政策ニ於テ日本ニ不利トナルカ如キ措置ヲ執ラサルト共ニ蘭印ト外國トノ特惠關稅ヲ設定セサルコトヲ要求ス
六、獨逸ノ和蘭侵入直後英、佛、蘭政府ハ蘭印物資ノ共同利用ヲ企圖スル氣配アリタルヲ以テ差當リ我方ノ必需重要物資ヲ確保スヘキ見地ヨリ五月二十日十三品目(生ゴム、錫及錫鑛石、鑛油、ボーキサイト、ニツケル鑛、滿俺鑛、ウオルフラム鑛、クローム鐵鑛、モリブデン、屑鐵、工業鹽、ヒマシ、規那皮)ノ一定量以上對日輸出保障方申入レタル處蘭側ハ之ヲ容認セルカ現下ノ情勢ニ鑑ミ更ニ同品目ニ關スル數量增加方ニ付要求スルコトアルヘシ
七、貿易ノ增進ヲ圖ル爲必要ニ應シ我方ニ於テモ不要不急品ノ買付ヲモ考慮ス
理由
我對蘭印輸出增進ハ蘭印住民ノ購買力如何ニ係ルコト勿論ナルヲ以テ我方ニ於テ不要不急品ト認ムルモノト雖之ヲ買付ケ以テ蘭印ヲシテ我國ニ依存スル點ヲモ判然知ラシメ置ク必要アリ