[文書名]　印度支那軍司令官と在印度支那日本陸海軍代表との間に於て締結されたる協定（印度支那軍司令官と在印度支那日本陸海軍代表との間に於て締結されたる協定）

九月二十二日

本協定ハ左ノ件ニ關ス

　（一）　東京州ニ於ケル數箇ノ飛行場ノ使用

　（二）　日本軍若干兵力ノ駐屯

　（三）　場合ニ依ル日本軍ノ東京州通過

　（四）　日本先頭部隊ノ入國

（一）　數箇ノ飛行場ノ使用

日本空軍ハ左ノ飛行場ヲ使用スルコトヲ得

「ジヤラム」

「ラヲカイ」或ハ「フーランチヨン」

「フートウ」

日本空軍ハ九月四日ノ協定ニヨリ定メラレタル諸條件ニ從ヒ右飛行場ノ設備ヲ行フコトヲ得

右諸飛行場ノ警備ニ任スル兵力ハ日佛當局者間ノ合意ニヨリ決定セラルヘク右兵力ハ其任務達成上必要ナル最少限度ニ限定セラルルモノトス

（二）　日本軍若干兵力ノ駐屯

左ノ任務ヲ有スル日本諸部隊ノ兵力ハ日佛軍事當局間ニ於ケル共同合意ノ後決定セラルヘキモノトス

　（イ）　第一項記載ノ諸飛行場ノ警備

　（ロ）　右諸飛行場ノ使用（日本飛行隊ニ屬スル飛行人員及整備人員）

　（ハ）　左ノモノニ對スル補給品ノ輸送及護衛

第一項記載ノ諸飛行基地及支那印支國境附近ノ支那領土內ニ於テ目下作戰中ノ日本部隊

　（ニ）　海防港ノ通過輸送及ヒ同地方ニ施設セラルル病院ノ運營

右ノ兵力ハ前記諸任務達成上必要限度ニ制限セラルルモノニシテ如何ナル場合ニ於テモ六千人ヲ超ヘサルモノトス

右ノ兵力ノ駐屯地區ハ日佛軍當局者間ノ共同合意ニヨリ決定セラルルモノトス

日佛兩參謀部間ノ合意ニ依リ定メラレタル最少限度ニ限定セラレタル前記兵力中ノ一部ハ諸飛行場ニ直接隣接スル部落ヲ利用スルコトヲ得

但シ「ハノイ」市ハ此ノ限リニ非ス

日本軍ノ司令部又ハ部隊ハ「ハノイ」ニ定著シ又ハ同市ヲ通過セサルモノトス但シ兩參謀部間ノ連絡ヲ計ル爲ニ必要ナル將校ハ此ノ限リニ非ス

諸飛行場內ニ於ケル日本飛行部隊及其ノ警備部隊ノ施設ハ日本軍當局ニ於テ負擔スルモノトス

海防市ハ日佛兩參謀部間ノ合意ニ依リ定メラルル條件ニ依リ上陸地點トシテ利用セラルルモノトス

如何ナル場合ニ於テモ軍艦ハ「ドーソン」―「アボワン」ヲ連ヌル線ヨリ六海里以內ニ接近セサルモノトス

水雷艇級ヲ超ヘサル軍艦一隻ハ海防港內ニ碇泊スルコトヲ得

（三）　日本軍ノ東京州通過

日本軍司令官カ東京州北方國境ヨリ發足シテ地上兵力ニヨリ攻擊作戰ヲ行ハントスル場合（該司令官ハ目下之ヲ考慮シアラス）若クハ海防港ヨリノ乘船ヲ必要トスヘキ部隊ノ交代行動ヲ爲サントスル場合ニハ佛軍司令官ノ決定セル數條ノ交通路ハ作戰ノ必要ニ從ヒ日本軍ニ依リ利用セラレ得ルモノトス

右ノ輸送ノ實施方法ハ千九百四十年九月四日署名ノ協定基礎事項中ニ定メアル條件ニヨリ規定セラルルモノトス日本通過部隊ノ兵力ハ必要度ニ應シ追ツテ決定セラルヘキモノトス

然レトモ通過部隊及ヒ第二項記述ノ部隊ノ全兵力ハ千九百四十年九月四日佛印ノ協定基礎事項ニ依リ定メラレタル數ヲ超ユルヲ得サルモノトス

（四）　日本先頭部隊ノ入國

九月二十二日二十二時ハ日本當局ニ依リ嚴守セラルヘキモノナルニ鑑ミ部隊搭載ノ第一船ハ右期日ニ海防ニ入港スルコトヲ得然レトモ上陸部隊ノ上陸條件及ヒ駐屯地點ヘノ移動條件ニ關スル特別協定カ成立セサル限リ部隊ハ其ノ船舶ヨリ下船セス又其他ノ輸送船ハ港內ニ入ラサルモノトス

（五）　日本軍ノ東京州通過輸送

目下支那印支國境附近ニ在ル日本部隊ハ日本當局ノ要求ニ基キ海防港乘船ノ爲印度支那領土ヲ通過シテ輸送セラレ得ルモノトス此ノ部隊ノ輸送ニハ詳細ナル研究ヲ必要トスルヲ以テ兩參謀部間ニ於ケル特別協定ヲ要ス

此ノ協定カ成立セサル限リ何レノ日本軍隊モ印度支那國境ヲ超ヘサルモノトス

（六）　一般事項

本協定ニ揭ケアル諸規定事項ヲ除キ千九百四十年九月四日署名ノ協定基礎事項ハ全部效力ヲ有スルコト勿論ナリ兩參謀部ハ本協定ノ實施方法ヲ定ムル爲ニ爾今常時相連絡スルモノトス

　　千九百四十年九月二十二日

　　　　　在「ハノイ」

　　　　　　　西原少將

　　　　　　「マルタン」將官