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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 佛領印度支那に關する日佛居住航海條約(仏領印度支那に関する日仏居住航海条約)

[場所] 
[年月日] 1941年5月6日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,496-503頁.
[備考] 
[全文]

   昭和一六年(一九四一年)五月六日東京ニ於テ署名

   昭和一六年(一九四一年)七月五日東京ニ於テ批准書交換

   昭和一六年(一九四一年)七月五日ヨリ實施

   昭和一六年(一九四一年)七月九日(七月一〇日附官報)公布

大日本帝國天皇陛下及「フランス」國主席ハ

日本國印度支那間ニ於ケル善隣關係ヲ强化シ且經濟關係ヲ增進センコトヲ均シク希望シ

日本國印度支那間ノ居住航海ノ關係ニ適用セラルヘキ條規ヲ明確ニ定ムルハ此ノ最モ望マシキ結果ノ實現ニ資スヘキヲ信シ

之カ爲居住航海條約ヲ締結スルコトニ決シ左ノ如ク各其ノ全權委員ヲ任命セリ

大日本帝國天皇陛下

  外務大臣 松岡洋右

  特命全權大使 松宮順

「フランス」國主席

  日本國駐箚「フランス」國特命全權大使「アルセーヌ・アンリー」

  殖民地名譽總督「ルネ・ロバン」

右各全權委員ハ互ニ其ノ全權委任狀ヲ示シ之カ良好妥當ナルヲ認メタル後左ノ諸條ヲ協定セリ

第一條 兩國ノ各ノ國民ハ他方ノ領域ノ各地ニ到リ又ハ滯在スルコトニ付家族ト共ニ完全ナル自由ヲ有スヘク當該國ノ法令ニ從フニ於テハ左ノ權利ヲ享有スヘシ

 一、旅行及住居ニ關スル事項ニ付總テ內國民ト同樣ニ待遇セラルヘク

 二、自ラ行フト代理人ニ依リテ行フトヲ問ハス又單獨ニテ行フト外國人又ハ內國民ト共同シテ行フトヲ問ハス商業及製造業ヲ營ミ竝ニ適法ナル商業ノ目的物タル一切ノ商品ヲ取引スルノ權利ヲ內國民ト同樣ニ享有スヘク

 三、產業、生業又ハ職業ニ從フコト及修學又ハ學術上ノ研究ヲ行フコトニ關スル事項ニ付總テ最惠國ノ國民ト同樣ニ待遇セラルヘク

 四、必要ナル家屋、製造所、倉庫、店舗及場所ヲ所有シ又ハ賃借シテ之ヲ使用シ又住居スル爲又ハ商業、產業、農業其ノ他適法ナル目的ヲ以テ使用スル爲土地ヲ賃借スルコトヲ得ヘク

 五、當該國ノ法令カ最惠國ノ國民ニ對シ取得シ又ハ占有スルコトヲ許與シ又ハ許與スルコトアルヘキ一切ノ種類ノ動產又ハ不動產ヲ相互條件ニ依リ自由ニ取得シ及占有スルコトヲ得ヘク

  內國民ニ對シテ制定セラレ又ハ制定セラルルコトアルヘキ所ト同一ノ條件ニ依リ賣買、交換、贈與、婚姻、遺言其ノ他一切ノ方法ニ依リ右動產又ハ不動產ヲ處分スルコトヲ得ヘク又其ノ財產ノ賣得金及總テ其ノ所屬品ヲ自由ニ輸出スルコトヲ得ヘク外國人タルノ故ヲ以テ之カ爲同一ノ場合ニ內國民ノ負擔スル所ト異ナルカ又ハ之ヨリ高キ稅金ヲ課セラルルコトナカルヘク

 六、身體及財產ニ對シテ常ニ完全ナル保護及保障ヲ享有スヘク其ノ權利ノ主張及擁護ノ爲自由且容易ニ裁判所ニ申出ツルコトヲ得ヘク內國民ト同樣ニ右裁判所ニ於テ自己ヲ代理セシメンカ爲辯護士、代言人其ノ他ノ法律事務取扱人ヲ選擇使用スルノ自由ヲ享有シ且一般ニ司法ニ關スル一切ノ事項ニ付內國民ト同一ノ權利及特權ヲ享有スヘク

 七、陸軍、海軍、空軍、護國軍又ハ民兵ノ何レタルヲ問ハス一切ノ强制兵役ヲ免レ且服役ノ代リトシテ課セラルル一切ノ貢納ヲ免ルヘシ又平時タルト戰時タルトヲ問ハス强募公債及軍事上ノ徵發又ハ取立金ニ付テハ不動產ノ所有者、賃借者又ハ使用者トシテ內國民ト均シク課セラルルモノヲ除クノ外一切之ヲ免除セラルヘク前記ノ事項ニ關シ兩國ノ各ノ國民ハ他方ノ領域內ニ於テ最惠國ノ國民ニ對シ與ヘラレ又ハ與ヘラルルコトアルヘキ所ニ比シ不利益ナル待遇ヲ與ヘラルルコトナカルヘク

 八、內國民ニ課セラレ又ハ課セラルルコトアルヘキ所ト異ナルカ又ハ之ヨリ高キ課金、租稅、手數料又ハ貢納ヲ其ノ性質ノ如何ニ拘ラス徵收セラルルコトナカルヘシ右規定ハ必要アル場合警察手續ノ履行ニ關スル手數料又ハ所謂滯在稅ノ徵收ヲ妨クルモノニ非ス但シ兩國ノ國民ハ其ノ率ニ關シ最惠國待遇ヲ享有スヘキモノトス

 九、信敎ニ關シ完全ナル自由ヲ有スヘク禮拜堂ヲ建設シ所有シ其ノ宗敎ノ公私ノ禮拜ヲ行ヒ其ノ宗敎上ノ慣習ニ從ヒ墓地ヲ構築シ所有シ維持シ竝ニ敎育施設及宗敎的、博愛的及慈善的事業ヲ設立スルコトヲ得へク

 十、兩國ノ各ノ國民カ他方ノ領域內ニ於テ有スル家宅、倉庫、製造所及店舗竝ニ之ニ附屬スル一切ノ場所ニシテ適法ノ目的ニ使用セラルルモノハ之ヲ侵スヘカラス內國民ニ對シ法令ヲ以テ定ムル條件及方式ニ依ルノ外之カ臨檢搜索ヲ爲シ又ハ帳簿、書類若ハ計算書ノ檢査點閱ヲ爲スコトヲ得ス

第二條 商業、產業又ハ金融業ニ關スル日本國ノ株式會社又ハ其ノ他ノ會社及組合ハ其ノ構成又ハ目的カ印度支那ノ領域內ノ公ノ秩序ニ反セサル限リ印度支那ニ依リ正規ニ存在スルモノト認メラル「フランス」國ノ法令ニ從ヒ適法ニ設立セラレタル商業產業又ハ金融業ニ關スル株式會社又ハ其ノ他ノ會社及組合ニシテ印度支那ニ住所ヲ有シ且同國ニ於テ業務ヲ營ムモノハ其ノ構成又ハ目的カ日本國ノ領域內ノ公ノ秩序ニ反セサル限リ日本國ニ依リ正規ニ存在スルモノト認メラル

 右會社及組合ハ他方ノ國ノ領域內ニ於テ其ノ法令ニ遵由シ其ノ業務ヲ行フニ付最惠國待遇ヲ享有スヘシ

 右會社及組合竝ニ其ノ支店及代理店ハ他方ノ國ノ領域內ニ於テ名稱ノ如何ヲ問ハス最惠國ノ會社及組合ニ依リ負擔セラルル所ト異ナルカ又ハ之ヨリ高キ稅金、手數料、租稅及貢納ヲ課セラルルコトナカルヘシ資本、收益又ハ利益ニ基キ計算セラルル租稅ニ關シテハ右會社及組合、其ノ支店又ハ代理店ハ租稅ノ性質ニ從ヒ該國ニ投資セル資本ノ部分、該國ニ所有スル財產、該國ニ流通スル證劵、該國ニ於テ獲得スル利益又ハ該國ニ於テ爲ス業務ニ應シテノミ該國ニ於テ課稅セラルヘシ

第三條 兩國ノ一方ノ國民カ他方ノ領域內ニ於テ死亡シタル場合ニ於テ死亡者カ判明セル相續人又ハ遺言執行者ヲ死亡シタル國ニ殘ササルトキハ權限アル地方官憲ハ右死亡ノ發生シタル地ヲ管轄スル死亡者所屬國ノ領事官ニ直ニ右死亡ヲ通知スルコトヲ要ス

 權限アル地方官憲ハ領事官ノ要求アルトキハ死亡證明書ノ正規ノ形式ノ謄本ヲ無料ニテ交付シ以テ右通知ヲ補完スヘシ

 相續權者若ハ其ノ或者ノ不在若ハ無能力又ハ遺言執行者ノ不在ノ場合ニ於テハ領事官ハ權限アル官憲ヨリ相續權者ノ權利ノ承認及保存ニ必要ナル措置ヲ求ムルコトヲ得ヘシ

 兩國ノ一方ノ國民ニシテ他方ノ領域內ニ財產ヲ所有スル者カ右領域外ニ於テ死亡シタル場合ニモ亦前記ノ規定ヲ準用ス

第四條 兩國ノ一方ノ國民タル商工業者ハ他方ノ領域內ニ於テ自ラ行フト又ハ旅商ニ依リテ行フトヲ問ハス見本及雛形ヲ携帶シ又ハ携帶セスシテ買入ヲ爲シ又ハ注文ヲ取集ムルコトヲ得ヘシ右商工業者及其ノ旅商ハ斯ク買入ヲ爲シ又ハ注文ヲ取集ムルニ當リ總テ最惠國待遇ヲ享有スヘシ

 前記ノ目的ヲ以テ見本及雛形トシテ輸入セラルル物品ハ其ノ再輸出セラルヘキコト又ハ法定期間內ニ再輸出セラレサル場合ニ正規ノ關稅ノ納付セラルヘキコトヲ確實ナラシムル爲制定セラレタル稅關ノ規則及手續ニ從フニ於テハ兩國ノ各ニ於テ一時無稅輸入ヲ許可セラルヘシ

 尤モ右特權ハ物品ニシテ其ノ數量若ハ價格ニ徵シ見本若ハ雛形ト認ムルコト能ハサルモノ又ハ其ノ性質上再輸出ノ際同一物ナルコトヲ認識スルコト能ハサルモノニ及フコトナカルヘシ見本又ハ雛形カ無稅輸入ヲ許可セラルヘキモノナリヤ否ヤヲ決定スル權利ハ何レノ場合ニ於テモ輸入ノ行ハレタル地ノ權限アル稅關官憲ニ專屬ス

 兩國政府ハ商工業者及旅商ニ付要求セラルルコトアルヘキ身分證明書ノ發給權限ヲ有スル機關竝ニ右證明書ノ雛形ヲ相互ニ通報スヘシ

第五條 兩國ノ各ノ國民ハ他方ノ領域內ニ於テ特許、製造標又ハ商標、一切ノ種類ノ工業的意匠及雛形、商號及原產地ノ表示ノ保護竝ニ不正競爭ノ防遏ニ關スル一切ノ事項ニ付法定ノ手續及條件ヲ履行スルニ於テハ內國民ト同一ノ權利ヲ享有スヘシ

第六條 日本國商船及「フランス」國商船ニシテ印度支那若ハ日本國ノ領水及港ニ入ルモノ又ハ右領水及港ヨリ出ツルモノハ其ノ出發地又ハ目的地ノ如何ニ拘ラス其ノ出入及碇泊ニ當リ名稱ノ如何ニ拘ラス內國商船ニ課セラレ又ハ課セラルルコトアルヘキ所ト異ルカ又ハ之ヨリ高キ稅金又ハ手數料ヲ國家、州、市町村又ハ公ノ若ハ權限ヲ與ヘラレタル私ノ機關ノ名義及計算ニ於テ徵收セラルルコトナカルヘシ

 港、碇泊所及泊渠ニ於ケル船舶ノ繋留、荷積及荷卸、補給竝ニ一般ニ商船、其ノ船員及貨物ニ適用セラルルコトアルヘキ一切ノ手續及規定又ハ商船ノ爲スコトアルヘキ一切ノ操作ニ關シテハ兩締約國ノ意嚮ハ此ノ關係ニ於テモ亦兩締約國ノ船舶カ完全ナル均等ノ地步ニ於テ待遇セラルルニ在ルヲ以テ內國船舶ニ對シ許與セラレ又ハ許與セラルルコトアルヘキ一切ノ特權及恩典ハ均シク他方ノ國ノ船舶ニ對シ許與セラルヘキコトヲ約ス

第七條 前條ニ規定セラルル船舶ノ旅客及其ノ手荷物ハ右旅客カ內國船舶ニ依リ旅行スル場合ト同樣ニ取扱ハルヘシ

 右船舶ノ貨物ハ原產地又ハ發送地ノ如何ヲ問ハス內國船舶ニ依リ運送セラレタルトキト異リ又ハ之ヨリ高キ稅金ヲ支拂ヒ又之ト異ル課金ヲ課セラルルコトナカルヘシ殊ニ兩國ノ一方ノ港ニ內國船舶ヲ以テ適法ニ輸入セラレ又ハ輸入セラルルコトアルヘキ一切ノ產品ハ他方ノ國ノ船舶ヲ以テモ亦均シク右港ニ輸入スルコトヲ得ヘク此ノ場合ニ於テハ名稱ノ如何ニ拘ラス右產品ノ內國船舶ニ依リ輸入セラルルトキ課セラルル所ト異ルカ又ハ之ヨリ高キ稅金又ハ課金ヲ課セラルルコトナカルヘシ右相互均等ノ待遇ハ右產品カ直接ニ原產地ヨリ來ルト又ハ別國ヨリ來ルトヲ問ハス適用セラルヘシ輸出ニ關シテモ右ト同樣ニ全ク均等ノ待遇ヲ爲スヘク從テ兩國ノ各ノ領域ヨリ適法ニ輸出セラレ又ハ輸出セラルルコトアルヘキ產品ニ付テハ其ノ輸出カ日本國船舶ニ依ルト又ハ「フランス」國船舶ニ依ルトヲ問ハス且其ノ仕向地ノ如何ニ拘ラス之カ輸出ニ當リ右領域內ニ於テ同一ノ輸出稅ヲ納付シ且同一ノ獎勵金又ハ戾稅ヲ受クヘシ

第八條 日本國船舶及「フランス」國船舶ニシテ兩國ノ一方ノ定期郵便運送ノ任務ニ當ルモノハ國家ニ屬スルト又ハ右目的ノ爲國家ヨリ補助金ヲ受クル會社ニ屬スルトヲ問ハス他方ノ國ノ領水內ニ於テ最惠國ノ同樣ノ船舶ニ許與セラルル所ト同一ノ便益、特權及免除ヲ享有スヘシ

第九條 難破、坐礁、海上損害又ハ不可抗力ニ因ル寄航ノ場合ニ於テ兩國ノ各ハ他方ノ船舶ニ對シ右船舶カ國家ニ屬スルト又ハ個人ニ屬スルトヲ問ハス同樣ノ場合ニ內國船舶ニ許與セラルルト同一ノ援助、保護及免除ヲ許與スヘシ右船舶又ハ其ノ貨物ヨリ救上ケラレタル一切ノモノハ內國ノ消費ニ供セラレサル限リ關稅ヲ免除セラルヘシ內國ノ消費ニ供セラルル場合ニハ正規ノ關稅ヲ納付スヘキモノトス

第十條 兩國ノ各ノ領事官ハ自國商船內ノ秩序ノ維持ヲ專管スヘク又船長、職員及船員間ニ生スルコトアルヘキ一切ノ種類ノ紛議殊ニ雇入契約ノ履行ニ關スル紛議ヲ自ラ處理スヘシ地方官憲ハ商船內ニ於テ發生セル騒擾カ陸上若ハ港內ノ安甯及秩序ヲ害スルカ如キ場合又ハ當該國國民若ハ船員以外ノ者カ右騒擾ニ關係シ居ル場合ニノミ干與スルコトヲ得ヘシ

第十一條 兩國ノ各ノ領事官ハ自國商船ノ脫走船員ノ逮捕及引渡ニ付他方ノ國ノ地方官憲ヨリ該國ノ法令ニ從ヒ援助ヲ受クヘシ但シ脫走船員カ該國ノ國民タル場合ハ此ノ限ニ在ラス

第十二條 締約國ハ一切ノ關係ニ於テ最惠國待遇ヲ他方ノ國ニ確保スルノ意嚮ナルヲ以テ居住及航海ニ關スル一切ノ事項ニ付兩國ノ一方カ別國ニ對シテ許與シ又ハ許與スルコトアルヘキ一切ノ特權、恩典又ハ免除ヲ卽時且無條件ニ他方ノ國ニ及ホスヘキコトヲ約ス

第十三條 最惠國待遇ニ關スル本條約ノ規定ハ左ノ事項ニ對シテハ適用ナカルヘシ

 一、國境貿易ヲ便ナラシムル爲接壤國ニ對シ許與セラレ又ハ許與セラルルコトアルヘキ特殊利益

 二 關稅同盟ニ基ク特殊利益

 三、二重課稅ヲ避クル爲第三國ニ對シ許與セラレ又ハ許與セラルルコトアルヘキ約定ニ依ル利益

第十四條 本條約ノ適用ニ於テハ左ノ如ク解スヘキモノトス

 一 「兩國」、「兩國ノ各」トハ日本國及印度支那、「兩國ノ一方」、「他方ノ國」トハ日本國又ハ印度支那

 二 「國家」トハ「フランス」國ニ關スルトキハ「フランス」國政府又ハ佛領印度支那政廳

 三 「國民」トハ印度支那ニ關スルトキハ「フランス」國ノ市民ニシテ印度支那ニ其ノ住所又ハ主タル營業所ヲ有スル者、「フランス」國ノ人民又ハ保護民ニシテ印度支那ニ出生シタル者又ハ印度支那ニ其ノ住所若ハ主タル營業所ヲ有スル者

 四 「內國民」トハ印度支那ニ關スルトキハ「フランス」國ノ市民ニシテ印度支那ニ其ノ住所又ハ其ノ主タル營業所ヲ有スル者

 五 「日本國商船」トハ日本國ノ國旗ヲ揭ケ航行スル商船ニシテ日本國ノ法令ニ依リ其ノ國籍ヲ證明スル爲要求セラルル書類ヲ船內ニ有スルモノ

 六 「フランス國商船」トハ「フランス」國ノ國旗ヲ揭ケ航行スル商船ニシテ印度支那ニ登錄セラレ且「フランス」國ノ法令ニ依リ其ノ國籍ヲ證明スル爲要求セラルル書類ヲ船內ニ有スルモノ

第十五條 本條約ノ規定ハ日本國ニ屬シ又ハ其ノ管治スル一切ノ地域及屬地竝ニ佛領印度支那政廳ノ管轄スル一切ノ地域ニ適用セラルヘシ

第十六條 本條約ハ批准セラルヘク且其ノ批准書ハ成ルヘク速ニ東京ニ於テ交換セラルヘシ但シ「フランス」國政府ハ已ムヲ得サル場合ニハ批准ノ通報書ヲ以テ批准書ニ代フルコトヲ得ヘク此ノ場合ニハ「フランス」國政府ハ成ルヘク速ニ批准書ヲ日本國政府ニ送付スヘシ

 本條約ハ批准書交換ノ日ヨリ實施セラルヘシ

 本條約ハ五年間有效トス

 兩締約國ノ何レノ一方モ本條約ヲ終了セシムルノ意思ヲ右五年ノ期間滿了ノ一年前ニ通吿セサル場合ニハ本條約ハ兩締約國ノ何レカノ一方カ之カ廢棄ノ通吿ヲ爲シタル日ヨリ一年ノ期間ノ滿了ニ至ル迄引續キ效力ヲ有スヘシ

 本條約ハ千九百七年六月十日ノ佛領印度支那ニ關スル宣言書、千九百十一年八月十九日ノ佛領印度支那ニ關スル宣言書及千九百二十七年八月三十日ノ日本國及印度支那間ノ居住及航海ノ制度ヲ定ムル議定書ニ代ルモノトス

右證據トシテ各全權委員ハ本條約ニ署名調印セリ

  昭和十六年五月六日卽チ千九百四十一年五月六日東京ニ於テ

  日本文及「フランス」文ヲ以テ本書二通ヲ作成ス

     松岡洋右(印)

     松宮順(印)

     シヤルル、アルセーヌ、アンリー(印)

     ルネ、ロバン(印)

  (不公表)「テキスト」

  議定書

佛領印度支那ニ關スル日佛居住航海條約ニ署名スルニ當リ下記ノ全權委員ハ左ノ諸規定ヲ協定セリ

一、印度支那ニ於テ現ニ實施セラルル外國人身分證明書ニ對スル手數料ノ率ハ日本國國民ノ爲減額セラルヘシ

二、日本國國民ハ現ニ外國人ニ禁止セラルル左ノ職業ヲ印度支那ニ於テ行フコトヲ認許セラルヘシ

船舶代理人但シ代理業ハ日本國船舶ニ關シテノミ行ヒ得ルモノトス

 旅館業

 遊戲飮食店業

 「ラヂオ」器具及其ノ部分品ノ製造業又ハ販賣業

 印度支那ニ居住スル日本國國民ノ需要ノ爲印刷工場一個所ノ設置及經營カ認許セラルヘシ

 日本人醫師二名及日本人產婆二名ニ對シ印度支那ニ於テ職業ヲ行フコトカ認許セラルヘシ但シ專ラ日本人ノミ取扱フヘキモノトス

 前二項ニ規定セラルル制限ハ右カ印度支那ニ於ケル日本人在留民ノ需要ヲ充ス能ハサルコト判明シタル場合ニ於テハ兩國政府ノ權限アル官憲間ノ合意ニ依リ變更セラルルコトヲ得ヘシ

三、印度支那ニ設置セラルヘキ日本人企業ニ依リ使用セラレ得ヘキ日本人從業員ノ最高割合ハ商事企業ニ付テハ全從業員ノ五割、又銀行及其ノ他ノ企業ニ付テハ「ヨーロツパ」人又ハ準「ヨーロツパ」人ノ從業員ノ五割ニ引上ケラルヘシ

 一ノ企業カ右規則ニ從フコト能ハサル場合ニハ「フランス」國官憲ハ必要ト認メラルル特例ヲ個別的措置ニ依リ容認スヘシ

 殊ニ銀行ハ「フランス」國市民ナキトキハ、其ノ日本人從業員數ノ三割迄「フランス」國ノ人民又ハ保護民ヲ使用スルコトヲ認許セラルルコトヲ得ルモノトス

四、「フランス」國政府ハ保護領主ノ同意ヲ留保シテ「アンナン」及「トンキン」ニ於ケル不動產所有權取得ノ個別的認許ヲ日本人ニ對シ許與スルコトヲ考慮スヘシ

五、經濟的分野ニ於ケル日佛協力ヲ容易ナラシムル爲、農業利權鑛業利權及水力事業利權ハ印度支那ニ於テ其ノ地ノ法令及規則ニ從ヒ設立セラレ且左ノ條件ニ合致スル會社ニ對シ印度支那ニ於テ正規ノ形式ニ從ヒ許與セラルヘシ

 イ 右會社ノ資本ハ成ルヘク現金ヲ以テ拂込マルヘク且日本國國民ト「フランス」國國民トノ間ニ等分セラルヘシ「フランス」國國民ニ保留セラレタル資本ニシテ之ニ依リ應募セラレサル部分ハ日本國國民ニ許與セラルルコトヲ得ヘシ

 ロ 取締役ノ地位ハ原則トシテ實際ニ拂込マレタル資本ノ部分ノ割合ニ應シ日本國國民ト「フランス」國國民トノ間ニ振當テラルヘシ

 ハ 高級技術員及其ノ他ノ高級職員ハ原則トシテ日本國國民ト「フランス」國國民トノ間ニ等分セラルヘシ

 斯ク構成セラレタル會社ニ與ヘラルル利權ノ各ニ付テハ印度支那政廳ニ依リ利權ノ開發條件及許可官憲ニ依ル監督權行使ノ樣式ヲ決定スル特別命令書カ作成セラルヘシ

六、專ラ日本國國民ヲ收容シ且日本語ニ依ル敎育ヲ施ス日本人學校ノ開設及經營ハ敎育ニ關スル規則ニ規定セラルル條件ニ從ヒ印度支那ニ於テ認許セラルヘシ右學校ニ於テハ「フランス」語ノ補足敎育カ義務的タルヘシ

七、日本國印度支那間ノ經濟關係ニ關スル一切ノ問題ヲ檢討スル爲兩國政府ニ依リ指名セラルル日本國經濟界及印度支那經濟界ノ民間代表者竝ニ兩國政府ノ代表者カ定期的ニ會合スル經濟會議ヲ兩國政府ノ後援ノ下ニ創設スヘシ

 右會議ハ兩國政府ニ對シ提議又ハ勸吿ヲ提出スルコトヲ得ヘシ會議ノ事業ノ準備ハ一ハ日本國ニ、一ハ印度支那ニ設置セラルル兩事務局ニ委託セラルヘシ

八、印度支那ノ沿岸貿易ニ關スル問題竝ニ內水又ハ領海ニ於ケル航行及漁業ニ關スル問題ヲ友好的ニ解決スル爲居住航海條約ノ署名後直ニ兩國政府間ニ商議ヲ開始スヘシ

 航空竝ニ無線電信局及海底電線ニ關スル問題ニ付テハ右ニ關シ生スルコトアルヘキ具體的ノ個々ノ問題ヲ友好的ニ解決スル爲兩國政府ハ商議ヲ開始スヘキモノトス

 兩國政府ハ日本國及「フランス」國ノ船舶ヲシテ兩國間ノ海運ニ共ニ且協調シテ參加セシメンコトヲ希望スルニ依リ各自國ノ關係海運業者ニ對シ恒常的協力ニ依リ右海運ニ關スル各種ノ問題ノ解決ヲ確保センコトヲ勸獎スヘシ殊ニ右海運業者ハ事情カ許スニ至ラハ直ニ兩國間海運ノ衡平ナル分配ヲ決定スヘシ

本議定書ハ前記條約ト不可分ノ一體ヲ成シ右條約ト同一ノ有效期間ヲ有スヘシ

右證據トシテ下記ノ全權委員ハ本議定書ニ署名調印セリ

  昭和十六年五月六日卽チ千九百四十一年五月六日東京ニ於テ

  日本文及「フランス」文ヲ以テ本書二通ヲ作成ス

     松岡洋右(印)

     松宮順(印)

     シヤルル、アルセーヌ、アンリー(印)

     ルネ、ロバン(印)