データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米交涉近衞メツセージ及び米大統領回答(日米交渉近衛メッセージ及び米大統領回答)

[場所] 
[年月日] 1941年8月26日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,542-544頁.
[備考] 
[全文]

   八月二十六日豊田大臣發野村大使宛

貴大統領ト本大臣トノ會見ニ關スル當方提案ニ對シ八月十七日野村大使ニ手交セラレタル文書ニ依リ貴大統領カ右著想ニ同感ノ意ヲ表セラレタルハ本大臣ノ深ク多トスル所ナリ

現下世界動亂ニ當リ國際平和ノ鍵ヲ握ル最後ノ二國卽チ日米兩國カ此ノ儘最惡ノ關係ニ進ムコトハ夫レ自體極メテ不幸ナルコトタルノミナラス世界文明ノ沒落ヲ意味スルモノナ1リ我方カ太平洋ノ平和維持ヲ顧念スルハ單ニ日米國交改善ノ爲ノミナラス之ヲ契機トシテ世界平和ノ招來ニ資セントスルニ外ナラス

惟フニ日米兩國間ノ關係カ今日ノ如ク惡化シタル原因ハ主トシテ兩國政府間ニ意思ノ疏通ヲ缼キ相互ニ疑惑誤解ヲ重ネタルト第三國ノ謀略策動ニ由ルモノト考ヘラル先ツ斯ル原因ヲ除去スルニ非サレハ兩國國交ノ調整ハ到底期シ難シ是レ本大臣カ直接貴大統領ト會見シテ率直ニ双方ノ見解ヲ披瀝セントスル所以ナリ

而シテ七月中斷シタル豫備的非公式商議ハ其ノ精神及內容槪ネ妥當ナルモ今後引續キ商議ヲ進メ然ル後兩首腦者間ニ於テ之ヲ確認セントスル從來考ヘラレタルカ如キ遣リロハ急激ナル進展ヲナシツツアリ或ハ不測ノ事態ヲ惹起スルノ虞ナシトセサル現在ノ時局ニ適合セス先ツ兩首腦者直接會見シテ必スシモ從来ノ事務的商議ニ拘泥スルコトナク大所高所ヨリ日米兩國間ニ存在スル太平洋全般ニ亙ル重要問題ヲ討議シ時局救濟ノ可能性アリヤ否ヤヲ檢討スルコトカ喫緊ノ必要事ニシテ細目ノ如キハ首腦者會談後必要ニ應シ事務當局ニ交涉セシメテ可ナリ

本大臣カ今次提議ヲナセル趣旨爰ニ存ス貴大統領ニ於テモ充分此ノ點ヲ諒解セラレ「レシプロケート」セラレンコトヲ切望ス

敍上ノ次第ナルヲ以テ當方ハ會見ノ期一日モ速カナルコトヲ希望シ會見ノ場所トシテハ諸般ノ考慮上布哇附近ヲ適當ト思考スル次第ナリ

  近衛總理「メッセーヂ」ニ對スル「ルーズヴエルト」大統領「メッセーヂ」(譯文)

    (九月三日在米大使ニ手交)

余ハ野村提督ニ依リ余ニ傳達セラレタル八月二十七日附閣下ノ「メッセーヂ」ヲ有難ク閱讀セリ

余ハ太平洋ノ平和維持ニ關スル日本ノ熱意及日本ノ日米關係改善方ニ關スル希望ニ付閣下ノ表明セラレタル所思ヲ欣然了承セリ

余ハ右諸點ニ付閣下ノ表明セラレタル希望ニ全ク同感ニシテ合衆國政府トシテ國際事態推移ノ急速ナルヲ認ムルモノナルヲ以テ出來得ル限リ速カニ閣下ト余トノ會合方ヲ取計ヒ以テ意見ノ交換ヲ行ヒ貴我兩國間ノ關係調整ニ努力スル用意アル旨ヲ閣下ニ確言ス予宛閣下書簡ニ添付セラレタル「ステートメント」中合衆國政府カ從來長キニ亙リ遵奉シ來レル諸原則ニ言及シ日本國政府ハ「右諸原則及出來得ル限リ友好的ナル方法ニヨル之等諸原則ノ適用ハ眞ノ平和ノ主要條件ニシテ單ニ太平洋ニ於テノミナラス全世界ヲ通シテ適用セラルヘキモノト思考ス」ル旨及「右ノ如キ「プログラム」ハ久シキニ亙リ日本國自身カ希求セシモノナル」旨ヲ闡明セラレタリ

余ハ之等諸原則ヲ實際上效果的ナラシメムトスルコトニ閣下ト協力セムコトヲ切望ス

本問題ニ關シ余ハ深キ關心ヲ有スルモノナルカ故ニ余ハ兩國間ノ關係ノ諸問題ニ關聯アル合衆國內及日本國內ニ於ケル事態ノ推移ヲ絕エス觀察シ且之ヲ看過セサルコト必要ナリト認ムルモノナリ是レ此ノ秋ニ當リ余ハ若シ廣キニ亙リ抱懷セラルルニ至ラハ閣下ト余カ均ク誠心誠意從ハムトスルモノナルヲ確信スル「ライン」ニ依ル我等兩人ノ協力ノ成功ヲ阻碍スルニ足ルト認メラルル觀念カ日本ノ或ル方面ニ存在スルコトノ表示ヲ認メサルヲ得ス斯カル事態ノ下ニアルカ故ニ(余ハ閣下カ余ト見解ヲ共ニセラルヘキヲ信シ)我等ノ企圖スル會合ノ成功保障ノ爲我々ノ合意ノ目的タル基本的且樞要ナル諸問題ニ付速カナル豫備的討議ノ開始ニ努メ以テ愼重ヲ期スルコト緊要ナルヲ示唆スルハ蓋シ已ムヲ得スト感スル次第ナリ

右ノ如キ豫備的討議ニ付余ノ想起シ居ル諸問題ハ閣下ノ書簡ニ添付セラレタル「ステートメント」中ニ一層詳細ニ述ヘラレ居ル所ノ平和ノ達成及維持ニ根本的ナル諸原則ノ實際的適用ヲ包含ス余ハ閣下カ右示唆ニ對シ好意的考慮ヲ加ヘラレンコトヲ希望ス