[文書名]　帝國國策遂行要領（帝国国策遂行要領）

十一月二日連絡會議決定

　　　帝國國策遂行要領

一、帝國ハ現下ノ危局ヲ打開シテ自存自衞ヲ完フシ大東亞ノ新秩序ヲ建設スル爲此ノ際英米蘭戰爭ヲ決意シ左記措置ヲ採ル

　（一）武力發動ノ時期ヲ十二月初頭ト定メ陸海軍ハ作戰準備ヲ完整ス

　（二）對米交涉ハ別紙要領ニ依リ之ヲ行フ

　（三）獨伊トノ提携强化ヲ圖ル

　（四）武力發動ノ直前泰トノ間ニ軍事的緊密關係ヲ樹立ス

二、對米交涉カ十二月一日午前零時迄ニ成功セハ武力發動ヲ中止ス

別紙

　　　對米交涉要領

對米交涉ハ從來懸案トナレル重要事項ノ表現方式ヲ緩和修正スル別記甲案或ハ別記乙案ノ如キ局地的緩和案ヲ以テ交涉ニ臨ミ之カ妥結ヲ計ルモノトス

　　　甲案

日米交涉懸案中最重要ナル事項ハ（一）支那及佛印ニ於ケル駐兵及撤兵問題（二）支那ニ於ケル通商無差別問題（三）三國條約ノ解釋及履行問題（四）四原則問題ナル處之等諸項ニ付テハ左記ノ程度ニ之ヲ緩和ス

　　　記

（一）　支那ニ於ケル駐兵及撤兵問題

本件ニ付テハ米國側ハ駐兵ノ理由ハ暫ク之ヲ別トシ（イ）不確定期間ノ駐兵ヲ重視シ（ロ）平和解決條件中ニ之ヲ包含セシムルコトニ異議ヲ有シ（ハ）撤兵ニ關シ更ニ明確ナル意思表示ヲ要望シ居ルニ鑑ミ次ノ諸案程度ニ緩和ス

　　日支事變ノ爲支那ニ派遣セラレタル日本國軍隊ハ北支及蒙彊ノ一定地域及海南島ニ關シテハ日支間平和成立後所要期間駐屯スヘク爾餘ノ軍隊ハ平和成立ト同時ニ日支間ニ別ニ定メラルル所ニ從ヒ撤去ヲ開始シ二年以內ニ之ヲ完了スヘシ

　　註　所要期間ニ付米側ヨリ質問アリタル場合ハ槪ネ二十五年ヲ目途トスルモノナル旨ヲ以テ應酬スルモノトス

（二）　佛印ニ於ケル駐兵及撤兵

本件ニ付テハ米側ハ日本ハ佛印ニ對シ領土的野心ヲ有シ且近接地方ニ對スル武力進出ノ基地タラシメントスルモノナリトノ危惧ノ念ヲ有スト認メラルルヲ以テ次ノ案程度ニ緩和ス

　　日本國政府ハ佛領印度支那ノ領土主權ヲ尊重ス、現ニ佛領印度支那ニ派遣セラレ居ル日本國軍隊ハ支那事變ニシテ解決スルカ又ハ公正ナル極東平和ノ確立スルニ於テハ直ニ之ヲ撤去スヘシ

（三）　支那ニ於ケル通商無差別待遇問題

本件ニ付テハ旣提出ノ九月二十五日案ニテ到底妥結ノ見込無キ場合ニハ次ノ案ヲ以テ對處スルモノトス

　　日本國政府ハ無差別原則カ全世界ニ適用セラルルモノナルニ於テハ太平洋全地域卽支那ニ於テモ本原則ノ行ハルルコトヲ承認ス

（四）　三國條約ノ解決及履行問題

本件ニ付テハ我方トシテハ自衞權ノ解釋ヲ濫ニ擴大スル意圖ナキコトヲ更ニ明瞭ニスルト共ニ三國條約ノ解釋及履行ニ關シテハ我方ハ從來々說明セル如ク日本國政府ノ自ラ決定スル所ニ依リテ行動スル次第ニシテ此點ハ旣ニ米國側ノ諒承ヲ得タルモノナリト思考スル旨ヲ以テ應酬ス

（五）　米側ノ所謂四原則ニ付テハ之ヲ日米間ノ正式妥結事項（諒解案タルト又ハ其ノ他ノ聲明タルトヲ問ハス）中ニ包含セシムルコトハ極力回避ス

　　　乙案

一、日米兩國ハ孰レモ佛印以外ノ南東亞細亞及南太平洋地域ニ武力的進出ヲ行ハサルコトヲ約スヘシ

二、日米兩國政府ハ蘭領印度ニ於テ其ノ必要トスル物資ノ獲得カ保障セラルル樣相互ニ協力スヘシ

三、日米兩國政府ハ相互ニ通商關係ヲ資金凍結前ノ狀態ニ復歸セシムヘシ、米國ハ所要ノ石油ノ對日供給ヲ約スヘシ

四、米國政府ハ日支兩國ノ和平ニ關スル努力ニ支障ヲ與ウルカ如キ行動ニ出テサルヘシ

備考

　一、必要ニ應シ本取極成立セハ南部佛印駐屯中ノ日本軍ハ佛國政府ノ諒解ヲ得テ北部佛印ニ移駐スルノ用意アルコト並ニ支那事變解決スルカ又ハ太平洋地域ニ於ケル公正ナル和平確立ノ上ハ前記日本軍隊ヲ佛印ヨリ撤退スヘキコトヲ約束シ差支無シ

　二、尙必要ニ應シテハ從來ノ提案（最後案）中ニアリタル通商無差別待遇ニ關スル規定及三國條約ノ解釋及履行ニ關スル規定ヲ追加挿入スルモノトス