データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 帝國國策遂行要領に關聯する對外措置(帝国国策遂行要領に関連する対外措置)

[場所] 
[年月日] 1941年11月13日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,558-560頁.
[備考] 
[全文]

   昭和十六年十一月十三日(連絡會議決定)

對獨伊

 日米交涉決裂シ戰爭不可避ト認メラレタル際(大體十一月二十五日以降ト想定ス)ニハ遲滞ナク獨(伊)ニ對シ帝國ハ近ク準備成リ次第英米ニ對シ開戰スルノ意嚮ナル旨ヲ通報シ右準備ノ一部ナリトシテ左記事項ニ付必要ナル交涉ヲ行フモノトス

一、 獨(伊)ノ對米戰爭參加

二、 單獨不媾和

備考

 獨逸側ヨリ對「ソ」參戰ノ要求アリタル場合ニハ差當リ參戰セサル旨ヲ以テ應酬ス但シ之カ爲獨側ノ對米參戰ノ時期カ遲ルルカ如キ事態生スルモ已ムヲ得ス

對英

 對米交涉ノ結果タル了解事項中英國ニ關係アル事項ヲ英國ヲシテ受諾セシメ且之ニ積極的ニ協力セシムル樣速ニ直接又ハ米ヲ通シ措置シ置クモノトス

 右以外企圖隱匿ノ見地ニ於テ特別ノ外交措置ヲ行フコト無シ

對蘭印

 我カ企圖秘匿欺騙ニ資スルタメ成ルヘク速ニ從來交涉繼續ノ形式ニ於テ帝國ニ對スル所要物資ノ供給ヲ主眼トスル外交交涉ヲ逐次開始ス

對「ソ」

 槪ネ昭和十六年八月四日大本營政府連絡會議決定ニ係ル對「ソ」外交交涉要綱第一項ニ準據シテ交涉ヲ續行ス

對泰

 1、進駐開始直前左記ヲ要求シ迅速ニ之ヲ承認セシム泰ニシテ帝國ノ要求ニ應セサル場合ニ於テモ軍隊ハ豫定ノ如ク進駐ス但シ日・泰間武力的衝突ハ之ヲ局限スルニ努ム

  イ、 帝國軍隊ノ通過竝ニ之ニ伴フ諸般ノ便宜供與

  ロ、 帝國軍隊ノ通過ニ伴フ日泰軍隊ノ衝突回避措置ノ卽時實行

  ハ、 泰ノ希望ニヨリテハ共同防衞協定ノ締結

 (註)本交涉開始前ニ於ケル對泰態度ハ從來ト特別ノ變化ナカラシメ特ニ開戰企圖ノ秘匿ニ萬全ノ考慮ヲ拂フモノトス

 2、進駐後速カニ槪ネ左ノ諸件ニ關シ具體的ニ現地ニ於テ取極ヲ行フ

  イ、帝國軍隊ノ通過及駐屯ニ關スル事項

  ロ、軍用施設供用及新設增强

  ハ、所要ノ交通通信機關及工場施設等ノ供用

  ニ、通過竝ニ駐屯軍隊ニ對スル宿營給養等

  ホ、所要軍費ノ借款

   備考 第一、第二項ノ交涉ニ當リテハ昭和十六年二月一日大本營政府連絡會議決定ノ對佛印泰施策要綱ニ準據シ泰ノ主權及領土ノ尊重ヲ確約シ

    尙泰ノ態度ニヨリテハ將來「ビルマ」若シクハ馬來ノ一部ヲ割讓スヘキ事ヲ考慮スヘキ旨ヲ仄カシ以テ交涉ヲ有利ナラシム。

對支

 出來ル限リ消耗ヲサケ以テ長期世界戰爭ニ對處スヘキ帝國綜合戰力ノ確保及將來兵力減少ノ場合等ヲ念頭ニ置キ左ノ通リ措置スルモノトス

 1、 在支米英武力ヲ一掃ス

 2、在支敵性租界(北京公使館區域ヲ含ム)及敵性重要權益(海關鑛山等)ヲ我實權下ニ把握ス但シ我國ノ人的竝ニ物的負擔ヲナルヘク輕カラシムル樣留意スルモノトス

(註)共同租界及北京公使館區域ハ敵性武力ヲ一掃シテ我カ實權下ニ收ムルモ友好國權益ヲモ混入スルヲ以テ接收等ノ形式ヲ取ラサルモノトス

 3、前諸項ノ發動ハ我企圖ヲ暴露セサル爲我對米英宣戰後トス

 4、重慶ニ對スル交戰權ノ發動ハ特ニ宣言等ノ形式ヲ以テスルコトナク對米英開戰ヲ以テ事實上其實效ヲ收ムルモノトス

 5、在支敵國系權益中國民政府ニ關係アルモノモ必要ニ應シ差當リ我方實權下ニ把握スルモノトシ之カ調整ハ別ニ措置ス

 6、占領地內ニ於ケル支那側要人ノ活動ヲ出來ル限リ誘導促進シ日支協力ノ下ニ民心ノ把握ニ力メ以テ可能ナル地域ヨリ漸次局部和平ヲ實現セシム

 7、對支經濟關係ニ於テハ物資獲得ニ重點ヲ置キ之カタメ現行諸制限ニ合理的調整ヲ加フルモノトス