データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 對ソ交涉方針(我讓渡範圍)(「対ソ交涉方針」(我譲渡範囲))

[場所] 
[年月日] 1945年5月14日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,611-612頁.
[備考] 
[全文]

昭和二十年五月十四日 最高戰爭指導會議構成員會議昭和二十年五月十一日、十二日及十四日ニ亘リ最高戰爭指導會議構成員ノミヲ以テセル會議ニオイテ意見一致セル所左ノ如シ

左記

日蘇兩國間ノ話合ハ戰局ノ進展ニヨリ多大ノ影響ヲ受クルノミナラス、其ノ成否如何モコレニ由ル所大ナルヘキモ、現下日本カ英米トノ間ニ國力ヲ賭シテ戰ヒツツアル間ニオイテ蘇聯ノ參戰ヲ見ルカ如キコトアルニオイテハ帝國ハ其ノ死命ヲ制セラルヘキヲモツテ、對英米戰爭カ如何ナル樣相ヲ呈スルニセヨ帝國トシテハ極力其ノ參戰防止ニ努ムル必要アリ。ナホ我方トシテハ右參戰防止ノミナラス、進ンテハソノ好意的中立ヲ獲得シ、延イテハ戰爭ノ終結ニ關シ我方ニ有利ナル仲介ヲ爲サシムルヲ有利トスルヲモツテ、コレ等ノ目的ヲモツテ速ニ日蘇兩國間ニ話合ヲ開始スルモノトス。

我方トシテハ蘇聯カ今次對獨戰爭ニ戰捷ヲ得タルハ帝國カ中立ヲ維持セルニヨルモノナルコルトヲ諒得セシムルト共ニ、將來蘇聯カ米國ト對抗スルニ至ルヘキ關係上日本ニ相當ノ國際的地位ヲ保タシムルノ有利ナルヲ說キ、且又日蘇支三國團結シテ英米ニ當ルノ必要アルヲ說示シ、モツテ蘇聯ヲ前記諸目的ニ誘導スルニ努ムヘキナルモ、蘇聯カ對獨戰爭終了後ソノ國際的地位向上セリトノ自覺並ヒニ近來帝國ノ國力著シク低下セリトノ判斷ヲ有シ居ルコト想像ニ難カラサルヲモツテ、其ノ要求大ナルヲ覺悟スルノ必要アリ

而シテ右蘇聯ノ欲求ハポーツマス條約ノ廢棄ヲ主眼トスヘキ處帝國トシテハ極力其ノ輕減ニ努ムヘキハ勿論ナルモ、該交涉ヲ成立セシムル爲ニハポーツマス條約及日ソ基本條約ヲ廢棄スルコトトシ結局ノ所(イ)南樺太ノ返還、(ロ)漁業權ノ解消、(ハ)津輕海峡ノ開放(ニ)北滿ニ於ケル諸鐵道ノ讓渡、(ホ)內蒙ニ於ケルソ聯ノ勢力範圍、且(ヘ)旅順、大連ノ租借ヲ覺悟スル必要アルヘク、場合ニ依リテハ千島北半ヲ讓渡スルモ止ムヲ得サルヘシ、但シ朝鮮ハ之ヲ我方ニ留保スルコトトシ、南滿洲ニ於テハ之ヲ中立地帶トナス等出來得ル限リ滿洲帝國ノ獨立ヲ維持スルコトトシ、尙支那ニ就テハ日蘇支三國ノ共同體制ヲ樹立スルコト最モ望マシキ所ナリ