データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第1回主要国首脳会議における三木内閣総理大臣による三日目の冒頭演説

[場所] ランブイエ
[年月日] 1975年11月17日
[出典] 三木内閣総理大臣演説集,126−128頁.
[備考] 
[全文]

 第一の問題はデモクラシーの問題である。

 最初に一言,私個人の問題にふれさしてもらうが,私は大学を卒業して,直ちに衆議院議員に当選し,以来三十八年間引続き議席をもち,民主政治の健全な発展にいささか貢献してきた。

 それだけに議会制民主主義に人一倍,愛着を感じている。人間の自由,福祉を守る一番優れた制度だと信じている。

 しかし近時,民主主義の危機が叫ばれ,民主主義によるガバナビリティが問われていることを憂慮している。それだけにデモクラシーの手法によって如何なる困難な問題をも解決できるのだ,という能力を皆さんと共に協力して証明し,デモクラシーへの信頼感を回復せねばならぬ。この点はわれわれは同じ運命のボートの乗員なんだ。

 皆さんに申上げておきたいことは,日本は如何なる困難に出会おうとも自由と民主主義を守りぬく国であるということは,よく認識しておいてもらいたい。

 次に経済については,日本は第二次大戦後,その日の生活にも困る状態にあった。先づ経済の発達を計らねばならぬと,国民は力を合わせてみんな一生懸命に働いた。資源小国の日本でも当時はどこからでも安く手にいれることができた。国際環境も日本に幸いした。いろいろな条件が重って全く異常な経済的発展を遂げた。しかし,今はその条件はなくなり国民もそれを望んでいない。

 そこで日本経済は高度経済成長からゆるやかな安定成長にきりかえる転換期を迎えた。その大きなギアのきりかえをどうして摩擦を少なくしてゆくかについて,政府も民間も苦労しているのである。従って今後の日本経済は世界なみな,ゆるやかな成長期を迎えるということだ。

 歴史と伝統は,西洋と東洋と大きく違っているが,皆さんと同じような問題を抱え,同じ様に悩み,同じ様な方法で問題を解決しようとしている日本であることも,よく理解しておいてもらいたい。

 第二はいわゆる南北問題である。先達工業国と発展途上国との格差は段々大きく拡大してゆく。それをそのままにしておいて世界の平和と繁栄は望めない。

 今世紀最大の課題はいわゆる南北問題だと思う。この問題をどう調整するかは人類の運命にかかわる問題である。

 さて,この会議を通じて数多くの対策が提案された。私自身も提案した。しかし,この問題はもっと掘りさげて議論する時間がほしかった位である。アジアの一員として,この問題の切実さを身をもって感じている。アジアは世界人口の半分以上をかかえ,あらゆる世界の困難な問題を総てかかえこんでいる上に,おしなべて貧困な状態におかれているのが今日のアジアである。

 もちろん,発展途上国自身の自助的努力の必要性はいうまでもないが,国際協力によらねばそれだけではどうにもならぬのが現実である。われわれお互いに国内に困難な問題をかかえているが,その困難な環境の中にあっても,できるたけの協力は行わねばならぬと私は思う。私もできるだけのことはしたい。

 とにかく,南北問題にふくまれる諸問題は,来月開かれる産油国会議其の他国際機関の会議を通じて,今後積極的に取上げられんことを切望しておきたい。

 第三の問題は,この首脳会談の今後の運び方についてである。

 この種の首脳会議は,初めての試みであったが,成功であったと思う。将来,若し必要であるという場合が起ればまた開けばよいと思う。そういう場合が起れば日本は喜んでホスト力ントリーをひき受けましょう。私だけがいつもいつも十五時間かけて飛んでくるのは不公平ですからね。

 又,この首脳会議で折角提起された問題のフォローを議長はどうされるつもりであるか。私は,各国の外務大臣に或いは他に適当な人を各国が指名して連絡し合ってもらって提案された諸問題のフオローアップをしてもらってはどうかと思うので提案する。とにかく私が強調したいのは今回の成果をふまえ,今後お互の継続的協力が行われなければならぬということだ。