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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回先進国首脳会議における三木内閣総理大臣の第二日目発言

[場所] サンファン
[年月日] 1976年6月28日
[出典] 三木内閣総理大臣演説集,142−144頁.
[備考] 
[全文]

一 最初に貿易の問題について触れたい。

 昨年十一月私はランブイエ会議において次の三点を強調した。

(1)まず,各国は景気回復のための諸政策を早急に実施すること。    

(2)このような景気回復を達成するプロセスにおいて各国が輸入制限措置や人為的輸出促進措置を厳につつしむこと。そして開発途上国も含め世界的規模の拡大が必要であること。

(3)具体的なわれわれの協調的行動のあかしとして新国際ラウンド(MTN)の交渉を一九七七年中に必ず完成させるべきであること。

二 そして以上の三点についてはわれわれが確認しあったわけである。本日の会議に参加する各国の努力の結果昨年は各国のいずれの経済もマイナスであったが,今年に入ってプラス成長に転じ世界貿易も昨年のマイナスから拡大に転ずる傾向がけんちょになったことを歓迎したい。

 これと同時に貿易の拡大をさらに確実なものとするため保護主義の圧力にくっすることなく,自由貿易の原則の下に相手国の事情も十分考慮しつつ各国が調和のある貿易の拡大をめざして一層努力をする必要がある。

三 さて,問題は新国際ラウンドである。率直に言ってランブイエ以降の進展は決して望ましいものではなかった。いくつかの根本的な問題点についても合意は依然達せられないままである。個別分野に立入るつもりはないが,新国際ラウンドの運命がまさにここに出席している米,EC加盟国,カナダそしてわが国のイニシアティブによって決定されることを考える時,われわれの務はまさに重大である。

 新国際ラウンドが失敗すれば自由貿易体制は根幹からゆるがされることになる。各国の経済回復も軌道にのり一層の貿易拡大への気運がじょう成されつつある今,われわれは交渉にあたって自由化の促進へむけて建設的かつ柔軟な態度をとり,約束通り一九七七年中に交渉を終結させようではないか。

四 次に投資に関して述べたい。私企業による海外における投資活動は世界経済に合理的な資源配分をもたらし安定的な経済発展に寄与するものである。なかんずく開発途上国経済に対しては開発資金の補充,雇用の増大,技術,ノーハウの移転等を通じて経済の発展に重要な貢献を行うものである。

五 多国籍企業が世界経済の発展に寄与していることは事実である。しかし私は特に強調したいことは多国籍企業の違法の行動は排除されねばならないということである。多国籍企業の利潤追求の意欲はその力にうらずけられている。ときに世界に困難をひきおこしている。そういう意味においてもOECD閣僚理事会が国際投資及び多国籍企業に関する宣言を採択したことを歓迎したい。この宣言による行動基準にそってわれわれが積極的行動を起すことが本問題に立向う着実な第一歩となると信ずる。またわたくしは多国籍企業に関する国連経済社会理事会の活動,アメリカ政府の閣僚レベルタスクフォースの討議の成果にも注目している。最後に投資国としては投資の有する経済的利点の伸張投資活動が受入れ国において惹起する摩擦の軽減に努力する一方投資受入国にとっては投資環境の保護,投資保護のための努力が必要であることを強調したい。