データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第5回主要国首脳会議合同記者会見における大平総理大臣の発言

[場所] 東京,ホテルニューオータニ
[年月日] 1979年6月29日
[出典] 大平内閣総理大臣演説集,213−215頁.
[備考] 要旨
[全文]

 ただいまより合同記者会見を開催する。今回のサミットにも,内外から多数の報道陣の方々がお集まりになり,強い関心を示されたことに対し感謝申し上げる。

 警備上の都合により取材上の不都合を生ぜしめたこともあったかもしれないが,悪しからずご了承願いたい。

 過去二日間の会議は,きわめて有益であったが,その成果を各地に報道し,理解していただくために報道陣の皆様の力に依存するところ大であり,皆さまの協力を切に願う次第である。

 これから各首脳に順次発言いただきたいが,まず主人役を勤めた自分から,全般的な評価につき申し上げる。

 今回のサミットには,三人の新人が参加した。うち二人は最初の婦人宰相と,もっとも若い青年宰相である。二人ともその英知と魅力により会議の成功に貢献していただいた。三人目の新人は,若干年をとっている自分であるが,紹介は省略させていただく。

 半分近いメンバーの交替にも拘わらず,サミットが相互協力の精神を基礎に,きわめて親密な人間関係を作り出すことができたことは,われわれの重要な収穫のひとつであった。

 今回のサミットは,石油問題に世界中の関心が集まっている時期に開催され,これに対処するために,大胆かつ具体的な施策が話し合われるのでなければ失敗となろうと言われた。間もなくコミュニケが配布されると思うが,緊急な対策および中長期的観点からの対策双方の面で,世界の期待に応える合意が得られたものと思う。

 日本の首相として一九八五年までにわたる長期の努力目標を具体的に掲げることは,相当勇気のいることだったが,石油不安という地球社会の問題に有効に対応しながら,わが国経済の安定的な基盤を作らなければならないと考えた上での決断であった。 石油以外の分野においても,各国から,インフレ,雇用問題等を中心にインダストリアル・デモクラシー擁護のための長期的,基本的対策に強い関心が示されたことは力強い限りであった。

 同時に,先進工業国自身が経済的に苦しい時期にあるにも拘わらず,発展途上国との関係に大きな関心の表明が行われたことにも力づけられた。世界経済はまさに一体である。南北の間で新たな責任感と新たなパートナーシッブを分つことによって,建設的な協力関係を推進したいと思う。

 次に,今回のサミットにおいて,前回のボン・サミットで取り上げられた航空機のハイジャックに関する宣言の取扱いについて協議した結果,自分から東京サミットの議長として,合同記者会見でステートメントを発表することとなった。

 また,今次サミットでインドシナ難民問題につき特別声明が採択されたことは,大きな収穫であった。日本自身もこの間題の解決にできるだけ協力しなければならないと思うが,自分は,右声明を他の諸国および関係国際機関に伝達し,これら諸国および諸機関が本問題についての国際的努力への参加を強化するよう呼びかけることとしたい。

 わが国にとって前例のない重要な国際行事であった東京サミットも,こうして無事終了することができた。来年は,満場一致でイタリアにおいてサミットを開催することとし,イタリアでの再会を約して,先ほど今次サミットを閉会した。

 この席を借りて,この会議を支持して下さった参加国の内外の皆さまに心より感謝申し上げる。

 なお,このサミットの開催に関連して,いまだかつてない周到な警備体制を取らせていただいた。このため,国民の皆さまに公私にわたり大変なご迷惑をおかけしたが,お蔭で成功裡に会議を終了できた。この機会に厚くお礼申し上げる。