データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第15回主要国首脳会議における政治宣言:東西関係に関する宣言

[場所] アルシュ
[年月日] 1989年7月15日
[出典] 外交青書33号,330−331頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.我々7ヵ国の首脳及び欧州共同体の代表は,我々が自由,民主主義及び人権の推進に普遍かつ至高の重要性を於ていることを再確認する。

2.自由と民主主義の拡大を我々と同様に希求する徴候が東側においてみられる。東側の人々は,若い人々も含め,これらの価値を重ねて主張しており,多元的民主社会を要求している。東側の指導者の中には,自由と民主主義の拡大が彼らの国の近代化のために積極的な貢献をなしうることを理解し,法律,慣習及び制度の変革に着手している者もいる。他方,我々が強く非難する被圧的な施策を講ずることによって,今なおこうした動きに対し抵抗を試みている指導者もいる。

3.我々は,自由が拡大され,民主主義が強化されること,そしてこれによって数十年の軍事的対立,イデオロギー上の反目と不信に代わり,対話と協力の増進のための基礎が形成されることを希望する。我々は,現在進められている改革と,欧州の分断が縮小していく見通しとを歓迎する。

4.我々は,ソ連政府に対し,その新たな政策や宣言を,国内及び国外において,更に具体的な行動に移すよう求める。欧州及びアジアにおけるソ連に有利な軍事力の不均衡は,我々各自にとり依然として現実の脅威である。従って,我々の政府は,警戒を続けなければならないし,我々の国の力を維持しなければならない。見通し得る将来においては,我々各自が,適切かつ効果的な核戦力と通常戦力とを適正に組み合せることによって,既存の同盟関係の中で抑止戦略を維持していく他に道はない。武器や軍事力の重要性が減ずるような世界の到来を促進するために,我々は,化学兵器についてはその世界規模での禁止を,欧州における通常兵力については我々の安全保障上の要求を満たす形で可能な限り低いレベルでの均衡を,また,米ソ両国の戦略核についてはその実質的な削減を早急に遂行することを改めて約束する。

5.我々は,東側の国々に対し,我々各自の安全保障上の利益に合致し,かつ,国際貿易の一般原則とも合致した形で,均衡のとれた経済面での協力を健全な商業的基盤の上に発展させる機会を提供する。我々は,欧州経済共同体(EEC)と東側諸国との関係の発展,特に,ハンガリーとの協定締結,ポーランドとの現下の協議の過程で達成された進展及びソ連との交渉の開始に留意した。

6.我々は,ポーランドとハンガリーで進められている改革の過程を歓迎する。我々は,これら両国において起きている政治的変革が経済的発展なくしては持続し難いものと考える。我々各自は,この過程を支援し,両国の経済を後戻りしない形で変化され開放させることを目指した経済的支援を適宜かつ調整した形で考慮する用意がある。我々は,各自が,これら両国に対し対内投資,合弁事業,経営技術の移転,職業的訓練及びより競争的な経済を発展させることを助長するような他の事業を通じて改革のはずみを維持するように,支援の手を差しのべるべきものと考える。

 我々各自は,経済改革を勧奨し,より競争的な経済の実現を促進し,貿易の新たな機会を提供するため,具体的なイニシアチブをとりつつある。

 我々は,ハンガリーとポーランドで進められている改革の過程に対する我々の支援策が一層効果を上げ,かつ,相互に補強し合うようにするため,関心を有する他の諸国及び多国間機構と協調しつつ,支援を調整していくことに合意した。我々は,関心を有する政府,公共部門及び民間部門が,改革の過程を支援するため,創造的な一層の努力を傾けるよう勧奨する。

 我々は,ポーランドとハンガリーにおける改革を協調して支援することに関し,今後数週間のうちに,関心を有するすべての諸国との会議を開催することを求める。我々は,現下の情勢でポーランドが緊急に食糧を必要としていることを強調する。

 我々は,これらの目的のため,欧州共同体委員会に対し,欧州共同体の他の構成国と合意した上で所要のイニシアチブをとるよう,また,サミット参加国に加え関心を有するすべての諸国と連携を図るよう要請する。

7.我々は,IMFとポーランドの間の交渉が早急に妥結することを支持する。ポーランドが条件を満たせば,新債務戦略をポーランドに適用することが可能 である。我々は,パリ・クラブにおいて,ポーランドの債務の繰り延べを迅速,柔軟かつ前向きな方法で支援する用意がある。

8.我々は,世界各地の紛争に公正な解決を見いだし,低開発と闘い,資源と環境を保護し,そしてより自由でより開かれた世界を築くため,西側諸国と東側諸国が共に働く好機を目前にしている。