データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第15回主要国首脳会議における宇野内閣総理大臣の記者会見

[場所] アルシュ
[年月日] 1989年7月16日
[出典] 宇野演説集,60−64頁.
[備考] 
[全文]

<冒頭発言>

 記者諸兄のご協力に感謝する。先程無事サミットが終了致した次第である。今次サミットは仏政府も大変な意気込みようで,革命二百年祭・人権宣言記念式典等とあわせて行われただけに,意義の深いものであった。自分としては初めてサミットに参加したが,経済・政治・環境等幅広い分野での日本の立場を強く説明した。同時に米・仏・英・加首脳等,更には墨・比・パ・印・バングラ首脳等との二国間会談の機会が得られたことは意義の深いことと思う。

 経済問題については,自分より過去七年間の世界経済の好況を引き続き持続しなければならない一方,インフレ,貿易不均衡による保護主義の台頭は抑制すべきであり,自由貿易体制を堅持すべき旨発言した。日本としては常に世界への貢献を唱えているので,既存の三百五十億ドルに三百億ドルを増加した合計六百五十億ドルアンタイド資金還流措置の詳細を説明し良い評価を得た。アフリカ等の後発開発途上国に対する六億ドルのノンプロジェクト無償援助の方針も説明した。さらに環境問題について,九〇年代に環境状態把握及びデータ集積のための衛星打ち上げ,九月の東京における環境専門家会合の開催等日本の今後の対応について述べると同時に,環境問題に対処するためODA三千億円を開発途上国に供与する用意がある旨述べた次第である。

最後に,仏トウールーズ市オゼンヌ高校の生徒から以下の文面のような手紙が自分に寄せられて大変感銘を受けたので招介させていただく。

「日本人が自然と共に生きてきたことを高く評価します。日仏は人権保護を重視しており,今後とも重視すべきです。日本の総理大臣が人権保護に強い関心を持ちつつサミット参加のため訪仏したことに感謝します」。

<質疑応答>

記者 日本は国内で相当がまんをして多額のODAを供与しているが,その努力が真に他のサミット参加国に理解されているのか。

総理 日本の外交の基本方針は,西側諸国の一員としての立場及びアジア・太平洋の一員としての立場を堅持することである。多額の黒字国のなし得る貢献として,アンタイドの資金還流措置を実施。このアンタイドであるという点が,他のサミット参加国始め世界各国の首脳に注目されたとの感触を持った。

記者 中国に関する政治宣言において,日本の主張はどのように受け入れられたか。また中国の改革・開放を促すために今後日本はどのような対応をとるのですか。

総理 中国問題については,三塚外務大臣が今次サミット前に訪米し,米側と自由な意見交換をした。その際,外相は二つのメッセージを中国に伝える必要がある旨明らかにした。

第一は,中国の一般市民への武力による制圧は容認し得るものでなく,我が国と中国の関係は制約されざるを得ないということである。

第二は,しかしながら日本は中国を孤立化に追いやることは欲していないということである。中国より,言葉の上でなく実際の行動の上で国際世論に耳を傾けつつ従来の改革・開放路線へのコミットメントが変わらないことを示されれば,我々は中国との協力関係を再開する用意がある。

 中国のアジアの隣人は日本だけでなく,ASEAN拡大外相会議でも示されたようなアジア諸国の,今述べたような意思が宣言にも反映され,良かった。

記者 東西関係について,東欧諸国への協力が唱えられたが,日本としては具体的にどのように対応するのですか。

総理 今次サミットにおいては,ブッシュ米大統領と会談し,「東欧の改革振りは驚くべきものがある」と承った。また,ミッテラン仏大統領・アルシュサミット議長より,東欧では過去七年間に経済が著しく発展した旨発言があった。ポーランド,ハンガリーの動きは,共産圏にも自由を欲する者が出てきたということであり,そういう事実に対し,我々からも何らかのメッセージを発信することが必要である。ゴルバチョフ・ソ連書記長もこうした東欧諸国の自由化の動きについては関心をいだいているのではないかという議論が,今次サミットでは多く挙がった。日本としても,マネジメントへの協力・環境分野での協力の用意がある旨サミットにおいて自分より発言しました。

記者 メキシコの債務交渉が結局サミット終了前に最終的解決を見ずに終わったが,今後の見通しはいかがですか。

総理 昨年訪墨した時,サリーナス大統領と会談したが,「サ」大統領は,墨は自国の債務問題をIMF,世銀との交渉で(自力で)解決するという姿勢を見せていて自分もこれを高く評価しました。自分としては,累積債務問題については,“三方一両損”であって,債務国,民間銀行,公的機関が応分の努力をしなければならないと考えており,この点サミットでも発言したとおりであります。

記者 帰国されると二十三日には参院選を控えているが,総理としての選挙の見通し,また国内では負ければ宇野総理は退陣との声が高いが,一方,このまま政局を運営いただいて臨時国会を乗り切るべきであるとの声もある。こうした政治状況についての見解はいかがですか。

総理 今次サミット中も官房長官と緊密に連絡を取っており,十分に党内で意見を伺うことが必要だろうとの返事であった。しかし,政局は動いているので負けたからといってすぐにどうこうということはない。また,党三役と官房長官の相談の結果,昨日,総務会長より,竹下前総理の残任期間まではやってもらわないと困るとの発言が選挙の遊説において行われた。自分としては常に国家・国民のために努力しなければならないという精神には変わりはありません。

十六日,十三時十五分過ぎより十四時まで行われた宇野総理邦人記者会見の概要は以上のとおり。(会見には三塚外務大臣,村山大蔵大臣,梶山通商産業大臣,牧野内閣官房副長官同席)