データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第16回主要国首脳会議における議長声明

[場所] ヒューストン
[年月日] 1990年7月10日
[出典] サミット関連資料集,623−627頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 本日発表された政治宣言は,サミット7カ国が昨夏パリで会合して以来の民主主義の歴史的な前進を祝すものである。宣言において,我々は,中欧及び東欧に自由をもたらし,ドイツに統一をもたらしている平和的な民主主義運動への支持を改めて表明している。しかしながら,欧州における偉大な出来事が,我々をして,他の地域における機会や必要を見過ごさせることがあってはならない。

 我々の討議の中で,我々は,ナミビアを,アフリカ大陸の他の地域における民主主義の進化の肯定的モデルとして引用した。この地に参集した指導者の大半は最近ネルソン・マンデラと,また,一部の者はデ・クラーク南アフリカ大統領と会見している。我々は,南アフリカに人種差別のない民主主義社会をもたらすための交渉を促すことに,我々の努力の焦点が当てられるべきと信じる。

 中南米においては,我々はチリとパナマの民主主義への復帰,及びニカラグァにおける公正かつ自由な選挙を歓迎する。自由の風は,また,アジアを通り過ぎることなく,我々は,ネパールとモンゴルにおいて重要な変革が起きているのを目のあたりにしている。

 我々は,中国政府による最近のおくつかの行動を是認するものであるが,現段階では,昨年のサミットでとられるに至った措置は残っている。しかしながら我々は,中国経済の改革に資する,特に環境分野での関心に応えるような世界銀行の融資があるかを模索するものとする。

 我々は,また,ソ連における事態の展開と,国際社会の直面する在来の,そして新しい挑戦に取組むに当たり,如何にして改革途上にあるソ連が重要な役割を演じ得るかに,討議の相当部分を充てた。ブッシュ大統領は明日,より詳細にこの討議を説明することとなっている。

 宣言は,世界のあらゆる地域において民主主義の前進を確保し,促す手助けとするために西側諸国がとり得る行動を示唆して結ばれている。宣言は,政治的自由と経済的自由は相互に補強しあい,不寛容な状況の中にあっては謳歌され得ないことに留意している

 テロリズム,並びに核,化学,生物兵器及び弾道ミサイルの拡散という,いずれも国境を越えた問題に関し,別の声明が発表された。これらの危険は,明日のコミュニケで扱われる麻薬の不法貿易の問題同様,国境を知らない。核拡散については,今年が核不拡散条約20周年にあたることから,当地における議論はより一層の意義をもつ。

 本日公表された文書が扱う問題に加え,地域紛争について討議が行われた。我々は,各紛争が夫々固有の性格を有しており,また,紛争の直接当事者が,交渉を通じた解決を導き出す責任を負っている旨を認識する。とはいえ,我々は,これらの地域に平和をもたらす上で,自由かつ公正な選挙が主要な役割を果たすものと信じる。我々は,アフガニスタン,カンボディア及びアンゴラにおいて,自由選挙につながる停戦,武器供与の停止並びに国連及び地域的組織に支援された移行期間を定める解決を交渉によって実現するよう希望する。

 我々は中東情勢の現状について討議を行い,いくつかの異なるアプローチを提起しながらも,和平プロセス進展の必要性については,我々全員の意見が一致した。我々は,暴力と抑圧の繰返しが,自由かつ民主的な選挙及び交渉へとつながる,イスラエルとパレスティナ人との間の早期対話によって,置き換えられるよう希望する旨を表明した。

 「アフリカの角」における人々の悲劇に関し,我々は,諸々の行動の中でも特に,エティオピアの飢餓と紛争に対処するための,共同努力を開始する旨の米ソの合意について討議を行った。

 我々は,また,カシミールに係る情勢の展開を,特別の懸念をもって留意した。そこでの出来事は,地域的安定を脅かしており,インド,パキスタン両民主主義国における政治的及び経済的自由の伸長を危くしかねないものである。我々は,両国間の対話に向けた最近の動きに意を強くし,このプロセスを促進し支援するため,我々として利用可能なすべての手段を用いることにつき意見の一致をみた。

 我々は,アジア・太平洋地域においては,欧州において,東西関係を特徴付けてきた,和解,兵力引話及び緊張緩和というプロセスと同一のプロセスが未だ見られていないことにつき,懸念を表明した。この点に関し,我々は,日ソ関係正常化の上で不可欠な措置としての,北方領土問題の早期解決を支持する。朝鮮半島は,特に北朝鮮が未だ原子力保障措置協定を署名し実施するに至っていないため,依然として重大な懸念が残る地域である。我々は,最近の南北対話を歓迎し,それが南北朝鮮関係における転換期を画すものとなることを希望する。

 以上を総括するに,サミット参加諸国は,我々の時代として回避し得ぬ課題を共に負っている。即ち,世界各地において民主主義を促進し,確保するために助力を与えるということである。我々は,卿の希望を明日の確たる成果へと転じる決意である。