[文書名] 第17回主要国首脳会議における政治宣言
国際秩序の強化
1.我々7カ国の首脳及び欧州共同体の代表は,平和で,公正で,民主的で,かつ,繁栄する世界という理想に対する我々の確固たるコミットメントを新たにする。国際社会は,大いなる挑戦に直面している。しかし,同時に,希望を抱くべき理由も存在する。我々は,共通の問題を解決するため多数国間の取組みを強化しなければならず,国際連合がその憲章に基づき正に中核となる国際体制を強化するため尽力しなければならない。我々は,他の諸国の指導者に対し,我々のこのような試みに加わるよう呼び掛ける。
2.湾岸危機を通じて,国際連合安全保障理事会が,国際社会の支持を得て,国際の平和及び安全の回復並びに紛争解決のために行動するという自己の役割を果たすことができることを証明したことは,我々に希望を与え,我々を鼓舞するものである。過去40年間にわたる東西対立の時代を乗り越え,今や国際社会は,中東のみならず,危険と衝突の脅威があり又は他の挑戦に対応しなければならないところではどこでも,この新しい協力の精神を基盤としていかなければならない。
3.我々は,今や,国際連合にとって,その創立者の公約と理想を完全に実現するための条件が調っているものと信じる。再活性化された国際連合は,国際秩序を強化するに当たって執心的な役割を果たすこととなろう。我々は,人権を擁護し,すべての者にとっての平和と安全を維持し,及び侵略を抑止するために,国際連合を一層強力,効率的,かつ,実効的なものにすることを誓約する。我々は,潜在的な侵略者に対して侵略行動の帰結がいかなるものであるかを明らかにすることによって将来の紛争の回避に資するよう,予防外交を最優先の課題とする。平和維持における国際連合の役割は強化されるべきであり。我々は,これを協力に支援する用意がある。
4.我々は,イラク政府による暴力的抑圧がもたらした同国における人道上の問題の緊急かつ圧倒的な性格にかんがみ,国際社会が国際連合安全保障理事会決議688を受けて特例的な行動を起こす必要があったことに留意する。我々は,国際連合及びその関連機関に対し,今後状況が必要とする場合には,同様の行動をとることを考慮する用意を整えておくよう求める。飢饉,戦争,抑圧,難民流出,疫病,又は洪水による広範な人的被害が,緊急を要し,かつ,圧倒的な規模にまで達する場合には,国際社会としては,供手傍観していることはできない。
5.バングラデシュ,イラク及びアフリカの角における最近の悲劇は,緊急事態に対処するために国際連合の救済活動を強化する必要があることを示している。我々は,すべての国際連合加盟国に対し,自発的拠出を求める事務総長の呼び掛けに応えるよう要請する。我々は,大規模災害に対する国際連合のすべての救済活動につき,調整を強化するための措置及び効果的な実施を促進するための措置がとられることを希望する。このようなイニシアティヴとしては,国際連合の実効性を強化するための全般的な努力の一環として,次の措置を挙げることができる。
(a)国際連合事務総長に対してのみ責任を負う高級職員であって,緊急事態に対する迅速かつ十分に統合された国際的対応を指揮する任務及び国際連合の関連する呼び掛けを調整する任務を有するものを指名すること。
(b)国際連合システム内の資源並びに援助国及びNGOからの支援を,危機に際して緊急の人道上の必要に応えるために動員することができるよう,制度の改善を図ること。
国際連合は,こうして,これまで時として欠けていた早期の行動を起こすことが可能となろう。国際連合は,また,差し迫った危機について国際社会に警報を発する早期警戒能力を十分に活用すべきであり,緊急事態に対処するために利用可能な資源及び物資を事前に指定しておく問題を含め,緊急計画を準備する作業に当たるべきである。
6.我々が前回会合して以来,世界は,クウェイトに対する侵攻,その占領及びこれに続く同国の解放を目の当たりにしてきた。一小国に対する武力併合を覆すため国際社会が示した圧倒的な反応は,次の原則が広く受け入れられていることの証左であった。
‐平和に対する脅威に対抗し及び侵略を鎮圧するために,集団的措置をとること。
‐紛争を平和的に解決すること。
‐法の支配を支持すること。
‐人権を擁護すること。
これらの原則は,文明社会における国家間の関係を処理するに当たって基本的なものである。
7.我々は,湾岸諸国及びその近隣諸国がその今後の安全保障を図るために行っていることを支持する旨を表明する。我々は,安全保障理事会のすべての関連決議が完全に履行され,イラク及びその近隣諸国の国民が脅迫,抑圧又は攻撃の恐怖なしに生きることができるようになるまでの間,イラクに対する制裁を継続することとしている。イラク国民は,開かれた民主的な方法で自己の指導者を選択する機会を与えられて然るべきである。我々は,クウェイトにおける来たるべき選挙に期待するとともに,クウェイト及び域内における人権をめぐる状況の改善を期待する。
8.我々は,イスラエルとパレスチナ人を含むそのアラブの隣人との間に包括的,公正かつ永続的な和平をもたらすためのプロセスが開始されることこそ何よりも重要であると考える。そのような和平は,国際連合安全保障理事会決議242及び338並びに領土と平和との交換の原則に基づくものでなければならない。我々は,一方においてイスラエルとパレスチナ人の代表との間で,他方においてイスラエルとアラブ諸国との間で並行して行われる直接交渉を開始させる和平会議の考え方を支持する。我々は,和平プロセスを前進させるための現下の米国イニシアティヴを引き続き支持することを確認するとともに,これが,快活に向けて前進を図る上で最も希望を持たせるものであると信じる。我々は,紛争のすべての当事者に対し,相互的で均衡のとれた信頼醸成措置をとるよう,及びこのイニシアティヴに示された基盤に立って和平会議が招集されるために二強うとされる柔軟な姿勢を示すよう求める。この関連で,我々は,アラブ・ボイコットは停止されるべきであり,また,同様に,占領地におけるイスラエルの入植施策も停止されるべきであると信じる。
9.我々は,レバノンにおいて治安の回復によってもたらせらた事態好転の見通しに満足の意をもって留意する。我々は,すべての外国軍隊の撤退と自由選挙の実施につながる,ターイフ合意の完全な実施を達成しようとしてレバノン当局が行っている努力を引き続き支持する。
10.我々は,資本の環流,投資の増大及び貿易障害の削減を奨励するための自由化政策に基づく中東諸国間の経済的協力の進展を積極的に支持する用意があることを表明する。このような政策とともに,中東及び地中海地域に一層の安定をもたらすための包括的かつ長期的な努力が行われなければならない。
11.我々は,この一年間を通じ,中欧及び東欧諸国において,政治と経済の両面にわたる改革になお一層おお粉進展が見られたことを歓迎し,これらの成果が,域内諸国自身による努力にも依拠しながら,経済制度の困難な移行期間を通じて維持される必要があることを認める。我々は,中欧及び東欧において市場改革及び民主主義が成功することに対し強い関心を有しており,これらの改革に対する全面的な支援を約束する。我々は,また,民主主義諸国の一員に加わることを目指してアルバニアが前進していることに留意する。
12.ソ連における抜本的な改革のプロセスに対する我々の支持は,引き続き強固なものである。我々は,東西間の緊張緩和と多数国間の平和・安全保障体制の強化とに対して多大の貢献を行ってきたソ連の外交政策の新思考は,全世界にわたって適用されなければならないと信じる。我々は,国際享禄にこの新しい精神が,アジアにおいても欧州におけると同様に十分に表れることを希望する。我々は,強制ではなく同意に基づいた,ソ連の諸民族の願望に応えるような新たな連邦を創設するための努力を歓迎する。この事業は壮大な規模のものである。それは,世界の安定と信頼を築く上で自己の役割を完全に果たすことのできる,開放的かつ民主的なソ連の建設である。我々は,開かれた社会,多元的民主主義及び市場経済を創設しようとするソ連の努力を支援するために,ソ連と力を合わせることを確約する旨を改めて表明する。我々は,ソ連と選挙によって選ばれたバルト書庫区政府との間の交渉が,民主的,かつ,国民の正当な願望に従い,同諸国の将来を決定することを希望する。
13.ユーゴスラヴィアの諸民族の将来を決するのは,同諸民族自身である。しかしながら,ユーゴスラヴィア情勢は,引き続き大きな懸念を惹起している。軍事力と流血は,永続的な解決をもたらす訳もなく,より広範な安定を危険にさらすばかりである。我々は,暴力行為の停止,軍隊の戦闘任務の海上と兵舎への帰還,及び恒久的な停戦を要請する。我々は,すべての当事者に対し,ブリオーニ合意を現行規定どおり遵守するよう求める。我々は,ユーゴスラヴィアの危機の解決を支援する欧州共同体及びその加盟国の努力を歓迎する。我々は,したがって,CSCE緊急メカニズムの枠組みの中でEC監視団をユーゴスラヴィアへ派遣することを支持する。我々は,国際社会の他の諸国とともに,ヘルシンキ最終文書及び新しい欧州のためのパリ憲章に謳われた諸原則,特に,少数民族の権利を含む人権の尊重の原則並びに国際連合憲章及び国際法の関連規範(国家の領土保全に関する規範を含む。)に合致する民族自決の尊重の原則に従って行われる対話と交渉の過程を奨励し,支持するため,可能なあらゆることを行う。現在の事態が正常化される場合には,我々が,同国にとって不可欠な経済回復に貢献することができるようになろう。
14.我々は,遂にアパルトヘイトに法制上の根幹が撤廃されることとなった南アフリカにおける明確な進展を歓迎する。我々は,これらの重要な措置に引き続いて,アパルトヘイトが実体上も撤廃され,南アフリカ国民の最貧困層の置かれた状況に改善が図られることを希望する。我々は,人種差別のない民主主義社会を実現する新憲法に関する交渉が間もなく開始され,それが悲劇的な暴力事件の多発によって中断することがないことを希望する。すべての当事者は,暴力の問題を解決するため,なし得るすべてのことを行わなければならない。我々は,これまでの暴力行為の一因ともなってきた,社会問題の増大と国民の多数にとっての経済見通しの悪化とによって,人種差別のない新しい南アフリカの基盤が損なわれることを懸念する。富と機会の不平等の緩和を促進するため,経済成長の回復を図る緊急の必要がある。南アフリカは,外国からの借入れをあらゆる筋から通常の条件で利用する途を開くような,新しい経済,投資その他の政策を追求する必要がある。南アフリカは,自ら行う国内的努力に加え,特に,教育,厚生,住宅及び社会福祉といった国民の多数が長年にわたって利益を享受することを拒まれてきた分野において,国際社会からの支援をも必要としている。我々は,我々の援助をこのような目的に向けて行くこととする。
15.最後に,我々は,テロリズムと人質行為を抑止するための精力的な努力を継続することにより,国際秩序を一層強化することを追求する。我々は,拘束されている地がどこであるかを問わず,すべての人質の即時かつ無条件の解放を求めるともに,人質として拘束されたまま既に死亡している人がある場合には,そのようなすべての人々を明らかにすることを求める。我々は,人質犯に影響力を有する諸政府が人質の解放のために努力する旨約束したことを歓迎し,それらの諸政府に対し,そのための努力を強化するよう求める。我々は,人質として拘束されている人々の友人と親族に対し,同情の念を表明する。我々は,あらゆる形態のテロリズムに対する避難を再確認する。我々は,国際法上及び国内法の枠内で可能なあらゆる手段によって,特に,国際民間航空の保安及びプラスチック爆薬を探知するための識別策の分野において,テロリズムを抑止し,これと闘うために,共に努力する。
16.このサミットの場は,欧州,日本及び北米の代表にとって,今後直面する重大な挑戦について討議する貴重な機会を引き続き与える場となっている。しかし,我々だけで成功を収めることはできない。我々は,世界の他の諸国の指導者に対し,世界にあまねく大いなる正義と繁栄をもたらすよう努力していく上での前提条件である平和,安全,自由及び法の支配のために,現実的かつ持続的な貢献を行っていこうとする我々の努力に参加するよう呼び掛ける。