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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第18回主要国首脳会議における議長声明

[場所] ミュンヘン
[年月日] 1992年7月7日
[出典] 外交青書36号,448−452頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.ナゴルノ・カラバフ,モルドヴァ,オセチア

 我々は,ナゴルノ・カラバフにおける戦闘の継続につき遺憾の意を表する。我々は,紛争当事者に対し,直ちに敵対行為を停止するよう求めるとともに,部隊の引き離し,難民の故郷への帰還等の追加的な措置を実施を容認するよう訴える。我々は,努力によりもたらされた既成事実を決して承認しないことを強調する。我々は,すべての紛争当事者に対し,CSCEの原則に沿った公正かつ永続的な政治的解決を見いだすため,ローマ及びその後ミンスクで行われる交渉に参加するよう訴える。

 我々は,モルドヴァ共和国内のドニエストル川左岸における紛争の拡大を強い懸念をもって注視している。我々は,すべての関係当事者に対し,直ちに敵対行為を停止するとともに,いかなる攻撃も控えるよう緊急に訴える。

 我々は,1992年6月25日にイスタンブールで開催された黒海沿岸諸国首脳会議において,モルドヴァ,ルーマニア,ロシア連邦及びウクライナの大統領が行った平和的解決を実現するための努力を支持するとともに,CSCEに対して解決策を見いだすための助力を求めた訴えを支持する。

 我々は,すべての国に対し,政治的又は物質的に戦闘の維持に資することとなり得る一切の措置も容認することのないよう訴える。

 我々は,南オセチアにおける停戦がおおむね守られていることに満足の意をもって留意するとともに,すべての関係当事者に対し,グルシアにおける紛争の平和的解決を促進するために自らの力でできることはすべて行うよう訴える。南部及び北部オセチアの政治指導者に対し,ロシア連邦及びグルジアの大統領の間で交渉された停戦合意に署名し,かつ,これを遵守するよう再度求める。我々は,関係当事者に対し,CSCEの原則に基づき紛争の平和的解決を早急にもたらすとともに,被害を受けた国々の領土の保全及びそこに居住する少数民族の権利を尊重するよう要請する。

2. バルト諸国

 バルト諸国におけるすべての少数民族に対する平等の待遇は,この地域の平和と安定の基礎的な構成要素である。

 我々は,旧ソヴィエト軍の撤退をめぐるロシアとの交渉が暗礁に乗り上げていることに関するバルト諸国の懸念を理解する。我々は,また,軍の撤去につきロシアが直面する実際上の問題を承知してもいる。しかし,こうした問題により,軍隊を同意なしに他国の領土に駐留させてはならないという国際法の原則の適用が妨げられることを容認してはならない。したがって,現在行われている交渉において部隊の撤退日程に関する合意が早急に成立することが重要である。

3. 中東

 我々は,マドリッド和平会議により開始とれた中東和平プロセスに対する無条件の支持を再確認する。我々は,紛争当事者間の二国間直接交渉及び地域問題に関する多数国間交渉が安全保障理事会決議2422及び338に基づく公正,永続的かつ包括的な平和解決に結び付くよう期待する。

 我々は,5つの多数国間作業部会のすべてが最近の第1回会合において進展を遂げたことを歓迎する。こうした話合いは,被害を受けた国々の間の信頼醸成を中東和平への過程で促進する努力の主要な部分を成す。

 我々は,すべての当事者に対して信頼と信任の雰囲気を生み出すよう訴える。

4. イラク

 我々は,イラクがすべての安全保障理事会決議を留保なく遵守することを依然として拒否していることに留意する。我々は,イラクのすべての大量破壊兵器の廃棄及びすべての捕虜の釈放を引き続き要求する。我々は,国連安全保障理事会決議688に違反してとられたイラク内のすべての人々に対する抑圧的な行為につきイラク政権に対して警告を発する。

 イラクは,自国民の福祉と少数民族に対する平等の待遇につき責任を負わなければならない。食料及び医薬品が衝平に分配され得るよう,イラク当局が安全保障理事会決議706及び712を遵守することが不可欠である。我々は,住民の救援に従事している者に対するいかなる武力行使も非難する。

5. 朝鮮半島

 我々は,南北間の対話において達成された進展を歓迎する。この進展は,一層の緊張緩和に向けての希望を抱く根拠となる。

 我々は,北朝鮮の核兵器開発計画の疑いについて懸念を有する。IAEA保障措置協定が完全に実施されるとともに,効果的に二国間の査察制度が実行されなければならない。

6. 中国

 中華人民共和国における経済改革に向けての最近の動向には,意を強くさせらける。我々は,中国が政治改革に向けて一層大きな努力を行うことも期待する。人権をめぐる状況は,一層の相当な改善を必要とする。我々は,中国による核兵器不拡散条約への加入並びにミサイル関連技術輸出規制のガイドライン及びパラメーターの採用を歓迎する。我々は,中国が国際場裡において一層建設的な役割を果たすことを希望する。

7. 地中海

 我々は,地中海における動向に対して一層の注意を払うことが必要であると考える。我々の目的は,平和と安全を維持すると同時に,民主主義の原則に対する理解を増進し,かつ,人権の一層の尊重を確保する形で関係国が発展することができるよう,共同の努力を開始することでなければならない。

 我々は,サイプラス紛争に解決を見いだすための最近の国連事務総長の努力を支持する。我々は,すべての当事者に対し,安全保障理事会決議750の線に沿ってこの長年にわたる悲劇的な問題を解決すべく,現下の交渉の機会をとらえるために事務総長と協力するよう要請する。

8. アフリカ

 アフリカにおいては,基本的人権の尊重,政治的多元主義及び市場経済体制が定着しつつある。我々は,この政治的及び経済的改革の進展を引き続き支援する。

 南アフリカにおけるアパルトヘイトの完全撤廃に向けての大幅な進展は,新たな残酷な暴力事件により中断されている。我々は,すべての当事者に対し,交渉をできる限り早期に再開するとともに,暴力を防止するため一層の努力を行うよう要請する。我々は,すべての関係当事者に対し,引き続き交渉を通じて人種的障壁のない民主主義に向けての道を進よう訴える。持続可能な経済成長は,南アフリカの問題の永続的な解決にとり不可欠である。

 アフリカの角における情勢は,依然として警戒を要する。エティオピアの部族紛争は,物議を醸した選挙の後でも継続している。

 ソマリアにおける無政府状態,混沌,暴力及び飢餓の終結は,国連,赤十字国際委員会その他の機関による住民に供給するための食料及び医薬品の持込みを多数の地方勢力が容認する意思を有するかどうかに引き続き依拠している。我々は,ソマリアに対する国連平和ミッション(UNOSOM)を歓迎し支持する。

9. ラテン・アメリカ

 我々は,ラテン・アメリカ及び中央アメリカにおいて民主主義及び市場経済体制を確立する上で達成された進展を評価する。

 この関係で,我々は,ハイチの憲法秩序への復帰を確保するための米州機(OAS)の努力(制裁を含む。)を歓迎する。

 我々は,また,ペルーの憲法秩序への復帰を期待する。

 我々は,エル・サルバドルの和平協定の署名及びこの協定を早急に実施するための両当事者の努力を歓迎する。

 我々は,継続中の紛争を解決するための努力をこの地域の他の国が行うよう奨励する。

 この地域においては,環境保護,麻薬取引等の地球的規模の課題を克服するために緊密な国際協力が必要であるとの認識が高まっている。

 我々は,この地域における協力に参加し,かつ,この協力を支持する用意がある。我々は,テロリスト組織と麻薬取引業者との間に結び付きの強化に対し,重大な懸念を有している。

 アルゼンティン及びブラジルが自国の原子力活動に対する全面的な査察を受け入れるためにとった措置,並びにトラテロルコ条約を発効させかつIAEAとの包括的な保障措置協定の署名を検討するとの決定も,この地域における協力に資する。

10.麻薬

 我々は,近年のイニシアティヴを通じて麻薬取引を撲滅するための国際協力を相当強化してきた。他方,20ヵ国を優に超える国,欧州共同体及び国連薬物規制計画を含む様々な国際機関は,麻薬資金の洗浄を調査するための金融活動作業部会の作業及び化学物質が麻薬の不法な製造に流用されることを防止するための化学物質規制作業部会の作業に参画している。麻薬との闘いは,引き続き主要な課題である。この課題に実効的に対処するため,我々は,引き続き広範な国際協力を実現するよう努力する。この文脈において,我々は,国連,特に薬物規制計画の役割に特別の重点を置く。

11.テロリズム

 我々は,あらゆる形態のテロリズムを非難するとともに,テロリズムと闘うに当たって協力する決意を再確認する。我々は,すべての関係国に対し,財政支援を含むテロリズムに対する支援を絶つとともに,テロリスト組織による自国の領土の使用を否定するための実効的な措置をとるよう求める。

 我々は,人質をとることも同じように強く非難する。我々は,レバノンにおいて人質2名が最近開放されたことを歓迎する。我々は,依然として拘束されているおそれのあるすべての人質を即時かつ無条件に解放すること,及び人質として拘束されたまま既に死亡したおそれのあるすべての人々を明らかにすることを再度求める。

 我々は,リビアが安全保障理事会決議731及び748を即時かつ完全に遵守する必要性を強調する。我々は,すべての国に対し,パンナム103便及びUTA772便の爆破の責任者が裁判にかけられ,並びにリビアのテロリズムに対する支援が終焉するよう,リビアに対する制裁を厳格に執行することを求める。

 我々は,民間航空の安全性の向上を目的とする国際民間航空機関の措置を支持する。我々は,プラスチック爆薬探知条約がこの目的に向けての重要な一歩であると考える。