データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第21回主要国首脳会議における議長声明

[場所] ハリファックス
[年月日] 1995年6月17日
[出典] 外交青書39号,224−229頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.戦後50周年及び国連創設50周年にあたり、我々は、世界的に重要な政治問題につき協力の精神のもとで討議を行った。和解と協力を通じてこれまでに達成されてきたことに満足感をもって留意し、我々は、解決策を見出す上でより一層緊密に協力していくとの意志を確認した。

多角的取組みに対するコミットメント{前17文字下線}

2.我々は、国連に対するコミットメントを再確認する。国連は、平和と安全、持続可能な開発、及び人権の尊重に基づく国際秩序のための基本原則を憲章で規定している。冷戦後の時代において、国連は一層重要な役割を果たすことが求められており、我々は、その国連を強化する措置を支持し、また、次の半世紀の挑戦に応えるため、他の国連加盟国とともに、具体的な機構改革を通じ、より効果的かつ効率的な組織を造る努力を行っていく。我々は、加盟国が財政的義務を履行するよう求めるとともに、分担金制度の改革につき早期に合意するよう要請する。

3.国連は、国際の平和及び安全に対する脅威に対応すべく、より迅速かつ効果的に行動できなければならない。我々自らも、紛争の予防、管理及び解決を支援するための、各々の努力をより緊密に調整する決意である。危機の早期警戒、政治的仲介、及び、平和維持活動要員を含む国連の文民・軍事要員の紛争地域への現実的な任務に基づいた緊急展開に高い優先度が置かれるべきである。我々は、平和維持活動の運用計画作成手続を改善するため、また、指揮・統制用装備や後方支援体制及び施設を新しくするため、更なる努力を一層奨励する。我々は、また、最近採択された「国連要員及び関連要員の安全に関する条約」の早期発効をはじめ、国連要員の安全確保のための措置が必要であることを強調する。我々は、安定と安全の構築及び紛争の予防と管理において、地域的組織及び地域的取極が果たす役割が増大していることを歓迎し、また、このような組織と国連との協力強化を特に重視する。

軍備管理・軍縮{前7文字下線}

4.我々は、核兵器不拡散条約(NPT)の無期限延長、及び同条約の普遍化に向けた締約国のコミットメント、並びに、再検討プロセスを強化し、核不拡散と核軍縮に関する原則と目標を採用するとの締約国の決定を歓迎する。ウクライナのNPT加入決定が大きく寄与した第一次戦略兵器削減条約(STARTI)の発効は、核軍備管理の過程において、重要な一歩を印するものである。我々は現在、第二次戦略兵器削減条約(STARTII)の早期批准を待望している。我々は、STARTIのもとで削減対象となった核兵器の安全かつ確実な廃棄を支持し、これらの兵器から生じる核分裂性物質の兵器目的への不使用を確保するための措置に関する米国及びロシアの作業を歓迎する。兵器級プルトニウムの処理は特別の注意に値し、我々は、その一層の研究を奨励する。

5.我々は、核実験を禁止するための、また、核兵器その他の核爆発装置用の核分裂性物質の生産を停止するための、普遍的、包括的及び検証可能な条約を遅滞なく成立させる必要性について、国際的な認識が高まりつつあることに勇気づけられる。核物質の犯罪的流用及び不法取引が引き続き全世界を危険にさらしていることを認識し、また、ナポリでの決定及びその後の専門家による実際的な作業を踏まえ、我々は、核物質の管理の体制を強化するために協力し、関税、法執行、及び情報分野での協力を拡大し、また、国際原子力機関(IAEA)、国際刑事警察機構(INTERPOL)等の場を通じて核物質の盗難及び密輸と戦うための国際社会の能力を強化する決意である。我々は、化学兵器禁止条約を可能な限り早期に発効させることの重要性を強調し、生物兵器及び毒素兵器禁止条約の検証制度の確立につき迅速な進展を求める。

6.通常兵器の過剰な移転、特に紛争地域に対する移転は、我々の主要な関心事の一つである。我々は、対人地雷による一般市民への危害が継続していることに慄然とする。我々は、各国に対し、1980年の特定通常兵器条約への加入を要請し、また、対人地雷の多国間規制を強化するため、今秋開催される同条約の再検討会議に参加することを要請する。我々は、全ての国が国連軍備登録制度の完全実施を支持することを求めるとともに、国連憲章第26条が、「世界の人的及び経済的資源を軍備のために転用することを最も少く」することを求めていることに留意する。地域的組織は、通常兵器の過剰な蓄積を抑制するための透明性及び信頼醸成措置を促進する一助となり得る。我々は、武器並びに機微な汎用品及び技術の効果的かつ責任ある輸出管理のために、他国と協力する。

新たなアプローチの促進{前11文字下線}

7.国連やその他の場において、環境悪化、持続不可能な人口増加、紛争被害者の大量移動、国境を越えた非自発的移住等の新たな地球的規模の挑戦に対応するための新たなアプローチが求められている。経済、社会及び政治問題間の関連性に焦点を当てた、国連事務総長による「開発のための課題」をはじめとするイニシアティブは、国際的安定に重要な貢献を行い得る。我々は、これを基に他の加盟国とともに努力していくことにコミットする。我々は、また、人種や人道援助をはじめとする経済・社会開発面での国連の活動におけるNGOの重要性を認識し、その活動が国連及びその他の機関の活動とより密接に調整されることは国際社会にとり有益であると信じる。我々は、国際社会が人道上の緊急事態に迅速に対応するための効率的な手段を強化する必要があるとの強い信念上の緊急事態に迅速に対応するための効率的な手段を強化する必要があるとの強い信念を改めて表明するとともに、この分野における西欧同盟(WEU)の活動を支持する。

8.個人の権利の尊重は、持続性があり安全で繁栄した国際秩序の中核をなすものである。我々は、普遍的な人権と基本的自由の尊重を最も確実に保証する良い統治と民主的責任とを促進するために努力する。我々は、攻撃的なナショナリズムや少数民族に属する人々の不当な取り扱いを含む、あらゆる形態の差別と不寛容を非難する。我々は、全ての国家に対し、世界人権宣言に謳われている権利を擁護し、また、国際人権規約その他の多国間人権関係文書を批准し完全に遵守することを求める。我々は、国連人権高等弁務官に対する支持、及び、人権に関する国連システム内部の調整役としての同弁務官の役割に対する支持を再確認する。我々は、人権侵害に係る責任を明らかにする国際的なメカニズムの強化を求め、また、各国政府に対し、国際法及び国内法の範囲内で、個々の事件の効果的な究明等において、各種裁判所及び調査委員会に十分協力することを求める。

9.我々は、あらゆる形態のテロリズムを打破する決意を改めて表明する。最近の非道な事件を踏まえ、我々は、主要なテロ事件からの経験と教訓をより緊密に分かち合い、研究・技術を含め、あらゆるテロ対策の分野における協力を強化することに合意する。我々は、テロリストを支援している全ての国家に対し、テロリズムを放棄し、テロ組織に対する財政的支援、領土の使用及び他のいかなる方法による支援も拒絶するよう求める。我々は、テロ組織の資金調達能力を阻むための措置を特に重視し、他の各国政府が、テロ活動に対する関連法規を厳格に施行し、また、既存のテロ対策関連の条約及び協定に加入することを求める。我々は、これらの共有された目的を追求するため、テロ専門家グループに対し、テロ行為を抑止し、防止し、また捜査するための具体的かつ協力的な措置に関し、閣僚級会合に報告するよう支持する。これらの会合は、我々の次回会合の前に開催されるべきである。

10.国際犯罪組織は、我々各国の安全にとって、益々大きな脅威となっている。これらの組織は、金融システムの信頼性を損ない、腐敗を生み、世界中の新生民主国家や開発途上国を蝕む。これらの組織の犯罪活動に効果的に対処するため、我々は、既存の制度を強化し、相互協力、情報交換、及び他国への支援を強化する努力を行う。一部の国が国際犯罪組織及びその関係者に逃亡先を与えていることは、法の執行にとり重大な支障となる。我々は、これらの者が国境を越えることによって法の裁きから逃れられないよう、一層緊密に、協力し合い、また他の国と協力することに同意する。我々は、全ての政府に対し、関連の国際協定や金融活動作業部会の勧告を遵守し、履行するよう奨励する。我々は、最終的な成功のためには、全ての政府が、麻薬取引やその他の重大犯罪からの収益の洗浄を防止するための効果的な措置を講じる必要があることを認識する。国際的な組織犯罪との戦いにおける我々のコミットメントを実施すべく、我々は、二国間及び多国間の既存の協力体制を批判的に検討し、重大な欠陥やよりよい調整のための方途を明らかにし、また、そのような欠陥を補うべく現実的な措置を提案するとの任務を一時的に与えられた上級専門家グループを設置した。同グループは、1996年サミットに報告する。

欧州{前2文字下線}

11.50年間にわたる分断を経て、我々は今、民主主義、市場経済、安定、平和及び繁栄を欧州全土に確立する歴史的な好機を迎えている。我々は、欧州連合と中欧諸国及びバルト諸国との間の欧州協定や、ロシア、ウクライナ及びその他の新独立国家との間の提携・協力協定を通じた、欧州連合の安定と協力に対する貢献を強く支持する。我々は、欧州全体の安全と安定を高め、欧州安定条約やNATOの「平和のためのパートナーシップ」構想により生まれた好機を各国が十分に活用するよう奨励する。我々は、他の多国間の会議及び取組みに対し、欧州の統合を支援するよう奨励する。我々は、昨年のブタペスト首脳会議において、欧州安全保障・協力機構(OSCE)の機能強化のためにとられた措置に満足し、21世紀の欧州の安全保障モデルを模索するためのOSCEの研究に貢献する。

12.我々は、ボスニア、特にサラエボ地域において引き続き戦闘が激化していることを深く憂慮する。我々は、全ての当事者に対し、永続的解決に不可欠な政治的交渉が、コンタクト・グループ提案に基づき、可能な限り速やかに再開されるよう、軍事行動の即時停止を訴える。我々は、ボスニア内セルビア人勢力に対し、このコンタクト・グループ提案を受け入れるよう求める。

13.我々は、ボスニア内セルビア人勢力が国連要員を人質に取り、遺憾にも一般市民に対し砲撃を行い、国連保護隊(UNPROFOR)の移動の自由を阻害していることを非難する。我々は、残された人質の即時かつ無条件の開放を要求するとともに、ボスニア内セルビア人勢力の指導者に対し、人質の安全に関する責任を問う。我々は、ボスニア政府及びその他全ての当事者に対し、敵対行為停止協定を更新し、人道援助の自由な通行を確保するよう求める。

14.我々は、国連保護隊を強化し、また、同保護隊に即応能力を付与することにより、同保護隊の安全性と一般市民を保護する能力を高め、人道援助物資の輸送を容易にし、永続的平和のための条件を整えんとする国連安全保障理事会の決定を歓迎する。緊急対応部隊は、安保理決議に明記されているとおり国連の指揮下に入り、安全保障理事会決議に規定されているとおり国連保護隊の既存の任務に基づき活動する。

15.我々は、和平プロセスに新たに弾みが緊急に与えられるよう要請する。この関連で、我々は、カール・ビルト氏の欧州連合側交渉担当者への指名を歓迎し、また、同氏及び国連側交渉担当者であるトルバルド・ストルテンベルグ氏に対し、永続的な解決に達するための努力に関し、強い支持を表明する。

16.我々は、旧ユーゴーの各共和国が、国際的に承認された現行の境界線に基づいて、早期に相互承認を行うことを求める。ボスニアと新ユーゴー(ユーゴスラビア連邦共和国)との間の承認は、重要な第一歩となるものであり、我々は、ミロシェビッチ大統領に対し、それを行うよう求める。ボスニア連邦は、和解を進展させる一つの方途であり、また、我々は、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国における状況の安定化に資する措置を引き続き支持する。

17.我々は、クロアチアにおける戦闘激化の危険性を引き続き憂慮する。クロアチア政府及びクロアチア内セルビア人勢力の両者は、自制を示さなければならない。我々は、当事者に対し、1994年3月29日の停戦の尊重、及び、国連クロアチア信頼回復活動(UNCRO)が新しい任務を遂行する上での国連との協力を求める。我々は、両者間の経済協定の一層の進展を求め、また、クロアチアに関する「ザグレブ4」提案に示された諸原則を基礎としてセルビア系住民の自治を確立しつつ、国際的に承認されたクロアチアの国境を尊重した解決に達するべく、政治的対話の開始を求める。

中東及びアフリカ{前8文字下線}

18.イスラエル・ジョルダン平和条約は、この地域全体の和平のための重要な礎石である。和平に向けた勢いが維持されることが緊要である。我々は、イスラエルとレバノン及びシリアとの間の平和条約が締結されることを奨励する。我々は、イスラエル・パレスチナ間の原則宣言を強く支持することを誓約する。我々は、イスラエル及びパレスチナ機関が、両者間で合意したとおり、パレスチナ自治区における選挙とイスラエル国防軍の再配備とのための取決めを妥結するよう求める。我々は、また、和平にとっての経済的基盤の重要性、特に地域的統合の必要性を認識する。我々は、アラブ連盟諸国に対し、イスラエルに対するボイコットを止めるよう改めて呼びかける。

19.我々は、イラン政府に対し、地域及び世界全体の問題に建設的に参加するとともに、中東和平プロセスを破壊し、この地域の不安定化を図ろうとする過激派グループに対する支援を差し控えるよう求める。また、我々は、イラン政府に対し、テロリズムを拒否し、特に、サルマン・ラシュディ氏及び同氏の著作に関係した者の生命を継続的に脅かす行為への支援を止めるよう求める。我々は、全ての国家に対し、イランによる核兵器能力の取得に寄与し得る同国とのいかなる協力も避けるよう求める。

20.我々は、イラク及びリビアに関連するあらゆる国連安保理決議が遵守されるまで、これらの決議の完全な実施を推進するとの決意を改めて表明するとともに、そのような実施は、制裁の評価のし直しを伴うことを想起する。我々は、イラクに対し、石油の売却と人道的物資の購入を認める国連安保理決議986の受入れ拒否を再考するよう求める。

21.我々は、アルジェリア政府による、経済改革に向けた積極的措置を支持するとともに、平和と安定のみが成功のための持続的な基礎をもたらすと信じる。我々は、アルジェリアにおける暴力行為の終止を求めるとともに、非暴力及び民主主義の原則を受け入れている全ての当事者に対し、平和的な対話及び真の選挙プロセスを通じた政治的和解を追求するよう求める。

22.我々は、南アフリカにおける平和的かつ民主的な政権移行、その他の南部アフリカ諸国における選挙の成功裡の実施、及び、アンゴラの和平プロセスを賞賛する。これらの進展は、アフリカの長期的展望につき楽観させる有効な根拠を提供する。我々は、アフリカの指導者達による、紛争の予防のための努力、並びに、民主化、構造改革及び経済自由化を通じた民生の向上のための努力を引き続き支持する。

23.我々は、ブレンディ及びルワンダにおける過激主義者を非難するとともに、ルワンダ国際裁判所を通じた措置を含め、彼らの行為の責任を問うための措置を支持する。我々は、ルワンダ・ブルンディ地域への人道支援に対する国際的支持の拡大を求める。我々は、国連及びアフリカ統一機構(OAU)の主催による、「安定化と安全保障についての大湖地域会議」の召集を支持する。

アジア太平洋{前6文字下線}

24.我々は、アジア太平洋地域において、アセアン地域フォーラム(ARF)をはじめ、様々な形の対話及び協力が、域内で、又、域外との間で生まれつつあることを歓迎する。我々は、政治、経済及び安全保障問題を取り扱う国際的及び地域的なフォーラムにおいて、中国の参加が拡大していることを歓迎する。我々は、世界の一層の安定と繁栄のために、各々、中国との対話を推進する。我々は、1997年の香港の返還が、その経済的繁栄と社会的安定を維持することを目的として、円滑に行われることを期待する。

25.我々は、北朝鮮に対し、NPT再検討・延長会議において達成された合意を遵守するよう求める。我々は、米国と北朝鮮との間の合意された枠組みが、北朝鮮の核問題を解決するための真の展望を開くものであると信じ、この関連で、最近の進展に勇気づけられる。我々は、北朝鮮がIAEAの保障措置制度へのコミットメントを履行し、合意された枠組みの内容を守るよう求める。国際社会の支持は、とりわけ朝鮮エネルギー開発機構(KEDO)への参加を通じて示され得る。更に、我々は、南北対話の進展が朝鮮半島における平和と安全に寄与すると信じる。

26.我々は、カシミールにおける紛争の潜在的可能性を懸念しており、全ての当事者に対し平和的解決を追求するよう求める。この亜大陸における緊張緩和及び信頼醸成に貢献するため、また、世界的な安全保障の枠組みを強化するため、我々は、インドとパキスタンが国際的な軍備管理の規範を支持し、NPTに加入するよう、また、弾道弾の配備に向けた追加的な措置な地域の軍拡競争に拍車をかけ得る他のいかなる措置も慎むよう求める。

27.我々は、ミャンマー政府が、アウン・サン・スー・チー女史及びその他の政治犯を無条件で釈放し、完全かつ早期の民主主義の実現及び国の統一を目指した和解のための対話を行うよう求める。

28.南シナ海は、益々領土紛争の場となりつつある。我々は、全ての当事者に対し、国際的な規範を尊重しつつ平和裡に相違点を解決するよう求める。

米州{前2文字下線}

29.我々は、民主主義的機構を強化し、テロリズムの脅威を除去し、貧困及び差別を撲滅し、自然環境を保全し、並びに米州自由貿易地域の交渉を実施するマイアミ・サミット「行動計画」を米州諸国が履行するように奨励する。我々は、メキシコ政府による政治改革及び対話に向けた野心的な措置を支持する。我々は、リオ議定書保証国によるペルーとエクアドルとの間の恒久的和平の達成を助けるための努力を賞賛する。我々は、ハイチにおける経済的及び民主的発展のための国際的な協力を支持するとともに、6月25日に予定されている自由かつ開かれた議会選挙を待望する。