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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] リヨン・サミットヘの出席における橋本内閣総理大臣内外記者会見

[場所] 
[年月日] 1996年6月29日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),200−213頁.
[備考] 
[全文]

 − ただいまより橋本総理大臣の記者会見を始めます。

 まず初めに、橋本総理大臣にご発言をお願いいたします。

○総理 大変皆さんありがとうとざいます。この会見の冒頭に、私から一つ、特に申し上げたいこと。それはシラク大統領を始め、フランス側が今回のサミットを迎えるに当たって非常に周到な準備をしていただいた。

 そして、今回のサミットを振り返ってみると、私はポイントは大きく言って四つあったように思います。

 その第一は、グローバル化への取組み、これが話し合われて、従来からの政策協調に加え、私からはグローバル化というのは挑戦であるけれども、同時に新たなチャンスを与えられることでもあり、我々はこれを前向きにとらえて、経済、社会の柔軟性を高める努力を続けるべきこと。

 そして、同時にそうした流れから取り残されてしまう人々がどうしても出ますから、そうした方々への適切な配慮を忘れてはならないことを強調しました。

 第二に、先進国と途上国とのパートナーシップについて、開発問題を私から積極的に取り上げた訳ですが、新たなグローバル・パートナーシップの下に、例えば貧困人口の率を下げる。あるいは乳幼児死亡率とか、妊産婦死亡率の削減といった開発の成果に関する目標の設定を含めて、新たな開発戦略の重要性を主張し、各国の首脳からの支持をいただきました。

 また、アフリカに対する支援の重要性を主張して歓迎を受けました。

 三番目に、地球規模の問題、及び政治問題であります。こうした問題については、私からは環境保護、あるいは原子力安全の重要性を指摘すると同時に、アジア太平洋の視点から、朝鮮半島問題、あるいは中国のWTO加盟への考え方、こうした点を説明してきました。

 更に、例えば、ヨーロッパの皆さんから見たボスニアの問題、これがヨーロッパだけではなくて、全世界的な問題であるのと同じように、朝鮮半島の問題というものは世界的な意味合いを持つ問題であるから、朝鮮半島に関して私からはP8として、クリントン大統領と金泳三大統領が提唱された四者会合への支持、あるいはKEDOに対する一層の支援の重要性を強調しました。

 同時に我が国としても、引き続きボスニアにおける和平の履行に関する支援に、積極的に参加していく意向を表明し、評価をいただいたと思います。

 四番目に挙げるべき問題は、国際機関との協調関係ですが、それ以外にも政治面でボスニア、中東和平、ロシア、あるいはテロ対策。こうした問題について突っ込んだ意見交換を行ってきました。

 皆さんもご記憶のように、このサミットの直前において、サウジアラビアで爆弾テロが起こった。大変不幸な事件でした。そして、クリントン大統領とお目にかかった最初に、私はこの犠牲者へのお悔やみを申し上げることから話し合いに入ったんですけれども、こうした事態を踏まえて、テロリズムに関する宣言が発出され、七月にパリで閣僚会議の開催が決定されました。日本としても、先進国と途上国の双方が参加するテロ対策に関する会議を日本でセミナーとして開催することを提案しています。

 対人地雷の問題、これは国連の地雷除去などの国際的な支援を強化するための国際会議を、来年の早い時期に日本で開催することを提案し、各首脳の支持をいただくことが出来ました。

 また、我が国として対人地雷の国際的な全面禁止に向けた努力を積極的に支持すること。地雷の使用などに関する一連の自主的措置を講ずることを決定したことを発表しました。

 国際機関との協力関係については、私から国際機関の改革というのが改革のための改革であってはならない。そして、例えば改革によって得られる節約された経費、これを途上国の開発分野に再投資する。こうした考え方を提案し、これは経済宣言にも反映されています。

 同時にかねてから私は、世界のリーダーとしてのG7、そのG7が人類の将来の福祉、すなわち私たちの世代を超えてよりよい地球、よりよい社会というものを次の世代に引き継いでいくことに正面から取り組んでいくべきだと、そんな考え方を持っていました。

 この中におられる日本の記者の方々はご承知の方もありますけれども、私は日本における福祉の問題を政治家としてのスタートから自分のライフ・ワークにしてきました。そうした目で見るとき、各国もそれぞれ国内的に、社会保障を含む福祉問題に取り組んで苦労しています。

 中には非常に重い社会保障負担にあえいでいる国もある。これから、例えば全国民を対象とした医療保険制度をつくろうとしている国もある。途上国の中には、そもそも社会保障とはという勉強からスタートしようとしている国もあります。

 いずれにしても、みんながこの問題に取り組んでいる訳ですが、こうした問題について、お互いの知恵、更には成功した例、失敗した例を含めた経験を分かち合うことによって、それぞれの国が例えば経済の活力、国民負担率、若い世代やあるいは企業の負担など、さまざまな問題点を含めて持続可能な社会保障制度を確立していくことが各国国民の福祉の増進に貢献する、そんな思いを持っておりました。

 更に、福祉の問題というのは、本質的には、人々がお互いに支え合う仕組みに関する問題であり、これは先進国だけではなく、新興経済国にとっても、開発途上国にとっても、お互いの知恵や経験を分かち合いながらそれぞれの悩みや問題を解決していくべきものだと、そんな思いでこれをとらえてきました。

 私はこうした考え方を昨日各国の首脳に対して、世界の福祉に関するイニシアチブとしてご披露しました。幸い議長であるシラク大統領、そして来年のサミット主催国であるアメリカのクリントン大統領を始めとする各国首脳から、こうした問題意識に対しての支持を得ることが出来、この問題については、今後OECDなどの国際機関の協力も得ながら、来年のアメリカにおけるサミットに向けて、皆が考えていくテーマ、そんな位置づけをすることが出来ました。

 日本としても、自分たちの体験の中から、こうしたものを他の国々にも生かしていただけるような体験として、今後取りまとめていきたいと思っています。

 私の方から申し上げることは以上です。

 − ありがとうございました。

 質疑応答に入る前に一言お伝えしたいことがございます。

 橋本総理大臣がリヨン・サミットにおいて行った諸提案、及びそれに関連した日本政府の措置を取りまとめた資料を記者の方々に配布しております。それらをご参照願いたいと思います。

 それでは、これより質疑応答に入ります。質問のある方は挙手をお願いいたします。

○石川(共同通信) 総理、今回は長い間の国際会議を大変ご苦労様でございました。

 サミットとともに、我々が注目しておりました日米首脳会談についてご質問したいと思います。

 今回クリントンさんとの間で懸案の保険、半導体、この話し合いを七月末を目途に合意に持っていくという方針で一致したということですが、若干決定が唐突だったのかという印象が我々にあります。そこら辺に至った過程・それとはたして七月末までに決着がつくのかという見通し。

 そして、三点目が前半の三十分間は総理と大統領が差しでお話しをしたということの、若干の内容を触れていただければありがたいと思います。

○総理 私も実は二人きりの会談が持たれるというのが、全くクリントンさんにお目にかかる前、想像していませんでした。ですから、これはまさにお目にかかった直後、最初にサウジアラビアで犠牲になられたアメリカの方々に対する弔意を申し上げた後、エレベーターで動いている途中に突然出てきたクリントン大統領からの提案でした。ですから、これは事務方の諸君もびっくりしたと思います。私もびっくりしました。

 ただ、三十分余り、民間航空の旅客部門の問題がもう一つアメリカとの間で今議論としては残っています。お互いにその問題は横にどけてということで、半導体の問題と保険の問題について二人で随分突っ込んだ議論をしました。

 そして、皆さんと一緒の会合の席上で私から要約したのは、七月いっぱいに決着させるためにお互いに努力をしょうと。日本側もそれは努力をしなければならない。同じようにこれは物事をまとめるんですから、アメリカ側にも努力をしてもらわなければならない。その上で決着を図ろう。これが二人の結論でした。

 そういう要約をして、クリントン大統領もそれにご異論はなかったので、その要約の仕方は間違っていなかったと思います。

 そして、現在の時点で保険、あるいは半導体の問題について、そんなに簡単な見通しがある訳ではありません。しかし、同時に我々はこうした問題で日米関係を壊してしまう訳にはいかない。しかも、今まで一つのルールをお互いに共有しながら状態をうまくっくり上げてきた訳ですから、日本側は日本側の主張がありますし、アメリカ側にはアメリカ側の要望があります。具体的な交渉の中身に当たる話は、私はここでは控えさせていただきたいと思うけれども、保険の問題については、久保副総理に、そして半導体の問題については塚原通産大臣に、それぞれ努力をお願いする。同時に、アメリカ側の担当者にも同じような努力を求めることによって、結論を出したいということがその席の合意でした。

 むしろその後、今日も全部の会議が終わってクリントンさんに別れるときに、我々の方も一生懸命努力するから、アメリカ側も努力してくれ。それと同時に、アメリカ側の担当者がほかの問題ももし抱えていて、話し合いの時間が十分取れないということでは困るので、その辺は大統領、よろしくお願いをしますということを申し上げ、アメリカ側としても、話し合いがスムーズに行われる環境づくりについて、積極的に取り組んでいただける、そう思っております。

 そしてこの種の問題は勝った負けたではありませんから、お互いの合意点をいかにうまく見出していくか。この二人の顔を見れば大丈夫だと思うよ。

 − それでは、ノン・ジャパニーズ・プレスの方からご質問を受け付けます。

○ジョーンズ(AP通信) 日本の総理大臣は橋本さんで、外務省兼政府のスポークスマンも橋本さんということで我々外国人記者はかなり苦労したんですけれども、うちの本社の編集部はどうも分からなくて、何回も何回も説明しなくてはならなくて、大変な三日間でした。

 橋本総理大臣がさっき世界福祉、イニシアチブのことをおっしゃったんですが、今までのというか、最近の日本の首相と違って、もう少し国際的な舞台で積極的に、もっとダイナミックな役割を果たすためということでお考えになったんですか。あるいは日本のインターナショナルな活躍も、もっとダイナミックとか、積極的に、もっとリーダーシップを取りたいからという目的でお考えになったのか、お聞きしたいんですが……。

○総理 ちょうど日本が第二次世界大戦に負けたそのころ、五十一年前、私は小学校の二年生だったんですが、その当時の日本は大変たくさんの子供が生まれる。しかし、死ぬ子供の数も多い国でした。また、妊産婦の死亡率も高い国の一つでした。今、お陰様で我が国はむしろ出生率の低下に悩んでいますけれども、子供の死亡率は非常に少ない。妊産婦の死亡率も少ない国です。

 そして、私たちは五十年前に我々が体験したのと同じような苦しみ、それを少しでも減らそうという実行に既にかかっています。例えば私自身が手掛けているプロジェクトを言うならば、ネパールの一つの郡をネパール政府から指定していただき、その中に子供のためのプライマリー・ヘルス・センターをつくる。同時にそこに日本の現在、一般の小学校で行っているのと同じ学童保健のシステムを持ち込み、同時に母親たちへの衛生教育を行う。我々はそうやって妊産婦と子供の死亡率を下げてきました。これは一つの例示です。

 そして、我々はそうした自分たちの体験の中で苦労しながら見つけてきたものをほかの国に、同じ苦労をしないで、我々と同じ成果を上げるために使ってもらいたい、そういう気持ちは以前から持っていました。

 しかし、サミットのテーマにこうしたものが似合うかどうか、実は余り自信がなかったものですから、私自身の考え方として、事前にシラクさんにはお伝えをし、また、他の首脳の方々にも事務的に連絡は取りながら、むしろ私個人の考え方として、こうした提案をさせていただいた訳です。別にそれでイニシアチブを取ろうとか、我々の経験を押し付けようとか、思い上がったつもりがある訳ではありません。しかし、日本がそうした提案をしたのが始めてだとは思わないでいただきたい。

 ロンドン・サミットのとき、私は大蔵大臣でしたけれども、環境の問題について、ちょうど一九七〇年当時、日本が大気の分野でも水の分野でも、あるいは森林保護の分野でも、あらゆる部分で自然の本来持っている浄化力の限界を見誤って環境破壊を続出させた時期がありました。それ以来、我々は環境庁というそのための役所をつくり、その環境破壊と闘ってきました。まだ全部解決出来たとは言えませんが、その時代とは全く違ったものを今、我々はつくりつつあります。

 そして、ちょうどその時期から二十年経った時点で、我々の環境問題と闘った経験をロンドン・サミットの際に我々は資料として配布し、説明し、同時に我々が冒したのと同じ失敗を人間がほかのところで冒すことを我々は求めない。だから、求められれば、我々自身の失敗の記録をそのまま提共する。同時に、その失敗の解決にどれだけの努力を我々がし、どんな結果を生んだかについても公表する用意があるということを申し上げました。その後一部の国では、その我々の失敗の記録を含めて、その国の環境庁をつくるデータに使われたところもあります。 そして、通産大臣としてつい先日まで仕事をしていた間に、ASEANの皆さんにも私は同じことを申し上げてきました。

 皆さんに知っていただきたいことは、私たちは過去の失敗を日本が隠すことによって、同じ失敗をほかの国が繰り返すことを決して求めるものではない。人間は一度失敗すればそれで十分なはずなんですから、我々の失敗の記録と、その失敗から立ち上がるために払った努力を、どうぞほかの方々が使っていただきたい。そして、同じ失敗を二度と繰り返さないようにしていただきたい。そういう行動は環境の分野でも今まで既に我々は取ってきました。

 今、福祉の分野、あるいは社会保障の分野でも同じ行動に出ようとしている。これが私たちの気持ちです。

それでは、今度は日本の方からどうぞ。

○大久保(読売新聞) 総理は先ほどサミットの中で、ボスニア問題について、和平の履行・支援に日本も参加する、こういうふうな表現をなさったとおっしゃっておりました。具体的にどんな形でそれに参加していこうと考えていらっしゃるのか。これから選挙等もありまずけれども、選挙監視員とかいろいろ考えられますが、その辺りのお考えをお聞かせください。

○総理 細かく言い出すと大変長くなりますので、一つの例を挙げて、それではお答えしたいと思います。

 このボスニアの平和が本当によみがえるまでには、我々は今予想出来るだけの事態ではなくて、さまざまな問題が恐らくあるだろうと思います。たまたま今、選挙という例を引いて質問をしていただきましたので、我々はこの選挙監視に対し、資金的にも、また、人材的にも支援を行いたいと思っています。そういうつもりで検討をしていくつもりです。

 しかし、我々は今までボスニアというところに大変距離の遠い印象を持っていました。そして、あるいはボスニア・ヘルツェゴビナ全体に対して、歴史的にも地理的にも、そして十分なノウハウを持っている訳ではありません。ですから、他の国々と相談をし、あるいは国際機関と相談をしながら、今、一つの例として申し上げた選挙監視のように、我々が出来るものがあればどんどん取り込んでいくつもりです。

 そのかわり、アジアの我々がボスニアに対して関心を持つのと同じように、朝鮮半島の問題にヨーロッパの皆さんにも関心を持ってもらいたい。KEDOの問題に対しての支援も得たい。どちらも地域の問題じゃない。全地球的な問題だと、私はそう受け止めています。

 − それでは、ノン・ジャパニーズ・プレスの方。

○ワシントン(BNNニュース) 私からは国際金融機構に関してお聞きしたいんですけれども、金融機関の方とのお話の中で、来週世銀のウォルヘンソンなどとの会合をまた行われることになっているんですか。

○総理 国際機関の長、国連の事務総長、WTOの事務総長、そしてIMF、世銀総裁、それぞれ私はとても有益な

話を伺うことが出来たと思っています。

 そして、その意味において、その参加は有効でした。今回、こういう国際機関の長を招待して話を聞こうという提案をされたシラク大統領に対して、私は敬意を表するという発言もしました。

 ただ、そこから先は今度はアメリカの番ですけれども、アメリカがどういうふうに考え、議長国として全体を組み立てられるか。私はそれを拘束したくはありません。ただ、私は必ずしもサミットに参加していただく、いただかないにかかわらず、国際機関の長たちと各国の首脳たちがもっと頻繁に会える機会はあってよい、そして、率直な意見交換の時間を持つことはお互いにプラスだと、そう思います。

○石田(NHK) 議長声明の中で、朝鮮半島情勢について、いわゆる四者協議のことが盛り込まれている訳ですけれども、盛り込まれるまでに、ロシア側が難色を示したとか、いろいろ調整が難航をしたという話も聞くんですが、その経過はどうだったかということ。

 それから、議長声明の中に中国情勢について盛り込まれていないんですが、その理由はどういうことなんでしょうか。

○総理 ちょうど今月の二十二日、二十三日の両日、私はチェジュ島で金泳三大統領とこのサミットに参加する前に会談を持ちました。そして、その時点でも朝鮮半島の情勢を議論していく中で、クリントン大統領と金大統領が提起した中国、北朝鮮、韓国、アメリカという、この四者会談提案を推し進めていこうという合意をしました。ですから、今回のサミットの中においても、私は金大統領とも相談をしてきた。そして、朝鮮半島の問題を解決していく上で望ましいと考え、クリントン大統領とも意見が一致してきたこの四者会談を、出来るだけ実現させる方向に全体をまとめるお手伝いをしてきました。

 首脳同士の間で、だれが何を言った、どこの国がどういう態度を示したか。これは私は言うべき話ではないと思います。そして、結論として表明されたことが首脳たちの合意だったということは間違いがありません。

 そして、そういう意味では、ボスニアの問題、そして、中東の和平プロセスに関連し、そして朝鮮半島、非常に不安定要因を抱える場所という認識の中でこれらの地域が言及をされた訳ですが、中国に対して不安定要因があるとはだれも思っていなかったから言及はされなかった。非常に率直に申し上げれば、私はそういう見方が出来ると思います。

 ただ、それとは別に中国を国際的な枠組みの中に出来るだけ迎え入れる努力をすべきだと。例えばWTOに中国が加盟出来るように、出来るだけお互いに、中国側にもいろんな制度を直してもらいながら、我々もその中国側の努力があれば、率直に迎え入れる努力をしょうよという話は私は今までもしてきましたし、今回のサミットの中でもそうした議論をしてきたことは隠しません。

 − それでは、ノン・ジャパニーズ・プレスの方。

○(アイリッシュ・タイムズ) 英語で質問しますが、議長声明の中に、国連改革に関して詳しく付け加えていますけれども、ガリ事務総長の再任を支持されるかどうか、お聞きしたいと思います。

○総理 事務総長の問題について、我々が言及するのは余りに早過ぎるご質問だと思います。そういう質問に答えられる時期がきたら改めてお答えをしましよう。

 それから、国連改革について、我々はもっとスピードを上げてもらう。そして、もっと大きく全体が動いていけばと、そういう気持ちを持っていない訳ではありません。ここしばらくの国連改革の議論、ややもすると財政の議論ばかりが先行したように思います。しかし、国連改革というのは、決して今の国連の財政状況だけが問題ではないはずで、冷戦終結後の世界にふさわしい国連の姿を模索する努力、これはこれからも引き続いて当然のことながら我々は進めていくべきことだと思います。

 − 時間は限られておりまずけれども、もう少し質疑を続けたいと思います。質問される方は短く、答えの方も短くということで、今度は日本の方どうぞ。

○内田(テレビ朝日) G7の国々の中に、通商交渉の都度、一方的な制裁をかざして要求を貫徹しようという国がある訳ですけれども、今回の協議の中で、そういったことが取り上げられ、話題になったんでしょうか。

○総理 自国の法律を域外に適用すること。あるいは一方的措置、こうした措置は望ましくないという意見は、今回のサミットの中のさまざまな場面で、さまざまな国から問題として提起はあったと思います。ただ、それを議論しようということには皆慎重でした。ただ、そういうやり方は問題があるという指摘は何回かあったと思います。

 − それでは、ノン・ジャパニーズ・プレスの方どうぞ。

○(ロシア) ロシアからまいりました。ロシアのG7への参画についてどう思われますか、そして、G7からG8への拡大について何をお考えでしょうか。

○総理 政治の分野においてロシアが非常に大きな役割を国際的に果たしていることを否定する人はだれもおりません。そして、現に今年はエリツィン大統領が提唱され、モスクワにおいて原子力安全サミットがいわゆるP8、G7+1という形で開かれました。今回も、残念ながらエリツィン大統領はご参加になりませんでしたけれども、その代わりにチェルノムイルジン首相が代行して出席をされ、P8の会合が持たれたのはご承知のとおりです。

 ただ、経済分野についてはお互いにまだその時期は来ていないというのがみんなの意見ではないでしょうか。私はそう受け止めているんですが・・・。

 − 日本の記者の方々には申し訳ございませんけれども、せっかくリヨンに総理が来られているということで、

あと二問、外国の、ノン・ジャパニーズ・プレスの方から。

○(ビジネスウィーク) 多国関係というものが一つのテーマだったと思いますけれども、しかし、経済関係に関しては、協議は二国間だったと思うんです。こういう交渉に関して将来的には、例えばヨーロッパ、EUを含んだ三極での協議というのはどうお考えですか。

○総理 EUは、半導体に関して関税はどうなっていますか。我々と全く同じ条件を既にEUは備えておられるでしょうか。もし、今のあなたの質問が対等なということであるならば、我が国もアメリカも半導体に関しての関税はゼロですが、EUは関税がゼロになっていないはずです。片方は関税で保護される。関税を掛けていない国と対等ということがあり得るのかなという感じが私はします。ただし、半導体についての話し合いが、当然ながら今、アメリカとの間で議論が行われている。それは半導体協定というものを今後も継続をするかどうかをめぐっての議論ですから、当然その議論は続いているんですけれども、同じ情報はEUにもきちんと届けられています。そして、EU側の担当者から希望も我々は聞いています。その限りにおいてEUとの対話は既に成立しているということだけは誤解のないようにしてください。しかし、完全な三極体制というような形にすることをEUが求めるのであれば、EUの半導体も関税はゼロにすべきです。その条件があれば、恐らく塚原さん、拒否しないと思いますよ、そういう話し合いを。

○(ニューインターナショナル・オックスフォード) 平和に関する日本の活動ですけれども、九三年十月二十九日、国連総会で決めた、これまでのオリンピックに関する休戦の改定を求めました。そして、九八年二月に長野がありまずけれども、そこで、平和を促進することが外交政策の重要な課題となっていますけれども、この九八年のオリンピックまでの紛争国の調停役として活動し、戦争を続けることを主張する国からの参加を拒むという姿勢は日本におありになるんでしょうか。長野のオリンピックまでのことですけれども。

○総理 もし、そういう提案を関係国の大使に私がするとすれば、紛争を続けている人間は参加させないという言い方は私はしません。少なくとも、長野オリンピックに参加し、それぞれの青年たちが自分たちの国を代表して競技で争っている間・そのほかの紛争はやめてくれ。スポーツの世界での堂々とした競争をしてくれと、そういう呼び掛けなら私はします。

 スポーツの世界で競い合うために、むしろ紛争当事国であっても一緒に出てこい、そして同じ競技場で闘えという話なら私はしますけれども、あなたの国は戦争を続けて六週間前になっても戦争をしているから参加させないという、言い方は私はしません。私は自分が運動好きですから、自分とかかわりのないところで国が戦争していたら、自分が出場出来るだけの資格があるのに、競技会に参加させてもらえない、とてもさびしいと思いますよ。

 そして、同じ競技を闘うライバルの選手たちも、そんな理由で参加しない選手が出てくることは望まないと思う。 そんなこと言わないでみんな参加しましょうよ、その方がいいですよ。そして、スポーツの世界で、もしお互いのわだかまりが払拭出来れば一番いいことではないでしょうか。

 ただ、古代オリンピックになると私は多少異論があります。あなたは本当に古代オリンピックの時代に返す、女性の前で言う自信がありますか。私が知る限り古代のオリンピックには女性は会場の中に入れてもらえなかったんじゃないかな。だから、当然女性の競技もないと思う。しかし、我々はとてもそんな女性たちに、古代に戻るんだから、あなた方は会場に来るななんて、そんな危険なことはとても言えない。

 − どうもありがとうございました。時間がまいりましたので、これで記者会見を終了させていただきます。総理が退室されるまで、席にてお待ちください。

○総理 どうもありがとう。失礼します。