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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第25回主要国首脳会議における地域問題に関するG8声明

[場所] ケルン
[年月日] 1999年6月20日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

コソボ

 我々は、コソボにおける暴力と抑圧を終結させ、和平を確立し、すべての難民及び避難民の故郷への安全で自由な帰還を可能とするために、これまでにとられまたは現在進行中の断固とした措置を歓迎する。この点に関して、我々は、特に国連安保理決議(UNSCR)1244が6月10日に採択されたことを歓迎し、我々の外務大臣や欧州連合及びロシア連邦の特使等による平和と安全を回復するための精力的な努力を賞賛する。

 我々は、国連安保理決議1244に従った国際的な文民及び安全保障プレゼンスに対する強い支持を再確認する。我々は、国際文民プレゼンスにおける国連のリーダーシップを歓迎し、国連が複雑な任務の遂行に成功することを確保するために密接に協力することを約束する。我々はまた、NATOとロシアとの間でなされた国際安全保障プレゼンスに関する合意及び関連する軍事・技術協定を歓迎する。この点に関して、我々は、コソボにおける紛争のすべての当事者に対して、停戦を尊重するとともに、ユーゴスラビア及びセルビアの軍、警察及びパラ・ミリタリーのすべての部隊のコソボからの撤退並びにコソボ解放軍(KLA)及びその他のコソボ・アルバニア人武装集団の非軍事化に関する国連安保理決議1244及び軍事・技術協定の内容を完全に遵守することを要求する。

 我々は、すべてのコソボ住民が民主的な多民族地域としてのコソボの創生に貢献することを期待する。難民及び避難民の故郷への帰還並びにコソボにおけるセルビア人やその他のすべての少数民族を含むすべての人々の安全の確保は、国際社会の高い優先事項である。難民及び避難民の福祉を確保するためには、その帰還は安全で秩序立ち組織された形で行われなければならない。我々は相互に、そして、国連、欧州連合、欧州安全保障協力機構(OSCE)、その他の国際機関と協力しつつ、地雷除去を含む安全な帰還を促進するために努力する。

 我々は、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所の作業に十分協力していく。我々は、コソボにおける人道及びその他の短期的ニーズに対応するために7月に開催される国際的なドナー国・機関の会合や欧州連合及び世界銀行が主催する援助調整プロセスに従ってニーズの十分な評価が行われた後に追って秋に開催される会合に対する我々のコミットメントを再確認する。

 我々は、文民プレゼンスの実施の重要性を強調し、G8がコソボ危機に際して演じた重要な役割に鑑みて、外務大臣に対して、このプロセスにおいて達成された進展を定期的にレビューし、更なる指示を与えるよう呼びかける。

南東欧安定協定及びドナーの協調

 我々は、引き続き主導的な役割を担うこととなる欧州連合のイニシアティブとして、6月10日にケルンにおいて安定協定が採択されたことを歓迎する。この安定協定は、地域の国々のために永続的な平和並びに政治的及び経済的な安定の達成という、積極的な中・長期的展望における目標を設定する、南東欧のためのプロセスを発足させた。我々は、安定協定に参加する地域の国々は、継続的な民主主義上及び経済上の改革並びにそのような国々の間での個別に欧州・大西洋の枠組みの中に統合されることを推進するための二国間及び地域的な協力にコミットしていることに留意する。我々は、この安定化プロセスは、今後取り組んでいくべき政治的で経済的な主要課題のひとつであると考えている。我々は、安定協定の目的のすべてを達成するために力強い対応を行う用意があることを宣言する。この点に関し、ユーゴースラヴィア連邦共和国が安定協定のすべての原則及び目的に対して完全なコミットメントを示さなければならない。

 我々は、安定協定の目標を達成するためには、地域の国々が第一義的な責務を負うことを強調する。外からの援助は、助けとなることはあり得ても、当事国自身の努力にとって代わり得るものではない。それ故に、我々は、南東欧地域の国に対して、相互にまた国際社会の中で、地域の安定と成長のための共通戦略を策定するために協力するよう要請した。公正な負担の分担の原則を認識しつつ、我々はまた、国際的なドナー国・機関に対して、地域の国々に向けて積極的な国際的支援及び連帯についての強いシグナルを送り、また実施可能な限り早期にドナー会合を開催するために、必要な措置をとるよう要請する。

 我々は、欧州委員会及び世界銀行の主催によって成し遂げられた、あらゆるドナーに門戸を開く整合性のある国際的な地域援助戦略を策定し、復興、地域統合、経済回復及び改革のための追加的な金融支援を動員し、更に、関係国による健全なマクロ経済及び構造に係る政策を促進するための、ドナー間の調整プロセスの確立に向けての進展を歓迎する。このプロセスは、安定協定の特別調整官が重要な役割を担うハイレベル運営グループが主導することとなる。

 ハイレベル運営グループについては、欧州委員会及び世界銀行が共同議長となり、今後地域で積極的に活動することとなる、安定協定の特別調整官、国際通貨基金(IMF)、欧州投資銀行(EIB)及び欧州復興開発銀行(EBRD)の他に1名の国連代表者、主要ドナー国の大蔵大臣、更に、適当な場合には開発担当大臣は、その構成メンバーとなる。

中東和平プロセス

 我々は、中東における交渉による解決への支持を再確認する。それは既存のコミットメントの完全実施や、領土と平和の交換の原則、国連安保理決議242及び338、マドリード合意及びオスロ合意、国連安保理決議425、安全で認められた境界線に基づくべきものである。我々は、イスラエルの次期首相による最近の勇気づけられる声明を歓迎するとともに、すべての当事者に対し、決意と新たな努力と誠意をもって、包括的で公正かつ永続的な和平につながる中東和平プロセスを追求するよう要請する。

 我々は、イスラエルとパレスチナ双方に対し、ワイ・リバー合意を完全にかつ速やかに実施し、恐怖と対峙し、暴力及び暴力への扇動と闘い、また、恒久的地位に関する交渉の結果を予断するすべての活動を控えることを強く求める。我々は、両当事者に恒久的地位に関する交渉を即座に再開するよう要請する。我々は、一年間という目標期間内に恒久的地位に関する交渉を終結するという目標を当事者が設定すべきであると考える。

 我々はまた、和平合意を達成するため、イスラエルとシリア及びレバノンとの間の交渉の早期再開を要請する。その間我々は、すべての関係当事者に対して、1996年4月26日の了解の規定を厳格に尊重すること及び南レバノンの監視グループの作業に積極的に貢献するよう強く求める。

 我々は、同様に、和平プロセス多国間協議の再開の重要性を強調するとともに、作業部会や運営部会に対して、二国間交渉を支援し、地域協力及び経済統合を強化しつつ、活動を遂行することを奨励する。

 我々は、すべての当事者に対し、パレスチナ人の持続的経済発展と生活水準の向上が、地域における和平を確保し、安定を強化する上での真の要素であることを想起させる。

 我々は、パレスチナ人を含む中東のすべての人々にとっての平和、安全及び権利の達成が、パレスチナ人が自らの土地において自由な民として生きていくことをもたらす永続的で公正かつ交渉による解決にとり決定的に重要であると確信している。

ヨルダン

 我々は、アブドゥラ国王が中東和平プロセスに対するヨルダンの長年にわたる支持を再確認したことを歓迎する。我々は、この重要な時期に、ヨルダンの経済改革を支援することによって安定性を高めることにコミットしている。我々は、ヨルダンが債務負担の軽減を重視していることを認識し、国際社会に対して、適当な場合には債務救済を行うことを含め、経済援助を行うよう要請する。

ナイジェリア

 G8諸国は、ナイジェリアが文民統治及び民主主義を回復したことを心より歓迎する。G8諸国は、必要な政治及び経済の改革を新政府が実施することを助けるためには、国際社会の強力な後援が必要とされていることを認識する。G8諸国は、民主主義及び人権、良い統治、透明性及び責任ある体制並びに貧困の軽減に対する支援を継続することにより、ナイジェリアにおける好ましい変化を応援する。

カシミール

 我々は、管理ラインに違反した武装勢力の侵入によって引き起こされた、カシミールにおいて継続する軍事的対立を深く懸念している。我々は、現状を変えようとするいかなる軍事行動も無責任であると考える。したがって、我々は、これらの行動の即時終了及び管理ラインの回復を要請し、また、当事者に対して、戦闘の即時停止、将来における管理ラインの完全な尊重、ラホール宣言の精神の下でのインドとパキスタンとの間の対話の再開に努力するよう要請する。

キプロス

 キプロス問題は、あまりにも長年にわたり未解決のままできた。この問題の解決は、キプロスのすべての人々の利益となるのみならず、地域における平和と安定にプラスの効果も持つであろう。

 紛争当事者である両系は、対応が可能かつ必要な正当な懸念を有している。G8のメンバーは、関連するあらゆる問題を扱う包括的交渉のみがこの問題への対応を可能とすると確信している。

 G8のメンバーは、したがって、国連事務総長に対して、関連する国連安保理決議に従って、1999年秋の交渉に両系代表を招請するよう強く求める。G8のメンバーは、両系代表が、国連事務総長の名のもとで、そのような包括的交渉を全面的に支持するよう要請する。

 交渉への招請を受け入れるにあたり、両系及び両系代表は、以下の原則にコミットすべきである。

 ・前提条件を付さないこと

 ・すべての問題を扱うこと

 ・解決に至るまで交渉を継続するとの誠実なコミットメント

 ・関連する国連決議及び合意に対する十分な配慮

 G8のメンバーは、交渉プロセスに対して全面的かつ持続的な支持を与えることを約束するとともに、また、その結果が本年11月の欧州安全保障協力機構(OSCE)サミットにおける首脳会合に報告され得るようになることを希望する。