[文書名] 第26回主要国首脳会議におけるサミット福岡蔵相会合終了後宮澤大蔵大臣内外記者会見の模様
(大臣冒頭発言)
本日,正午から先程まで,今月21日から23日に開催される九州・沖縄サミット首脳会合の準備の一環として,サミット福岡蔵相会合が開催され,我が国からは,私と黒田財務官が出席した。ロシアのクドリン副首相兼大蔵大臣も,ロシアに関する議論に参加した。以下,会合における議論の概要を簡単に説明する。
会合において,G7蔵相から首脳へ報告書が出される4つのテーマについて議論が行われ,(1)「IT(情報技術 )革命の経済・金融面への影響」,及び(2)「国際金融システムの強化」については,報告書を公表した。また,(3)「国際金融システムの悪用・濫用に対する行動」,及び(4)「貧困削減と経済開発」については,報告書は沖縄で公表される。このほか世界経済の現状やロシアについても議論が行われた。
世界経済については,世界経済の成長の見通しは良好であることに留意し,このような見通しを実現し,力強い成長を中期的に持続させるためには,健全なマクロ経済政策及び構造政策を実施していくことが引き続き重要であるとの認識で一致した。
ロシアについては,昨年来のロシア経済の更なる改善を歓迎するとともに,ロシアがその高い経済的潜在成長力を活かして,構造改革の実施を積極的に継続し,マクロ経済安定化と成長を達成することの必要性を強調した。また,ロシア当局が,構造改革に焦点を当てた強力な経済プログラムの実施につきIMFと合意に達することが重要であることが確認された。
「IT革命の経済・金融面への影響」については,IT革命のマクロ経済的な影響とその政策にもたらす意義,及び金融取引や税制に関連する問題について議論が行われた。
「国際金融アーキテクチャーの強化」については,昨年のケルンサミットへの蔵相報告書以来,大きな進展があったが,改革プログラムを更に進展させる方策について議論が行われた。
「国際金融システムの悪用・濫用に対する行動」については,資金の高い移動性を特徴とするグローバル化した金融システムにおいて重大な懸念となっている金融犯罪等について,これまでに採られた措置を検討し,将来の行動を必要とする課題について議論が行われた。
なお,国際的な資金洗浄対策に非協力と特定された国・地域に対して,自国の金融機関に特別な注意を払うよう各国当局が協調して要請を行っていることに関するプレス・リリースが出された。
最後に,「貧困削減と経済開発」に関する議論において,開発途上国が,グローバリゼーションの恩恵を受け,持続的な貧困削減と経済発展を達成することの重要性を再確認した。また,拡充された重債務貧困国(HIPCs)イニシアティブの実施の進捗状況を検討するとともに,引き続き迅速かつ効果的な実施の促進を図ることの必要性につき確認された。
以上のように,今回のサミット福岡蔵相会合では,多岐にわたる論点について活発な意見交換が行われるとともに,4つのテーマについて首脳への報告書をまとめることができたことは意義深く,今月21日から23日にかけて開催される首脳会合での議論に大きな貢献をするものと確信している。
(質疑応答)
問)
世界経済に関する議論の中で,各国大臣から,日本経済についてどのような評価がなされ,何をすべきとされたのか。また,大臣からこれらに対してどのように答えたのか。
答)
ワーキングランチの際に,日本経済について私から説明を行った。今回は,米サマーズ長官が米国経済や世界経済について,仏のファビウス大臣が欧州経済について説明した。私の日本経済に関する説明は,既に何度も述べているとおりである。即ち,2000年第1四半期には高い成長が実現した。先日発表された短観を見ても,企業活動は良くなっているが,これが消費活動に結びついているかどうかわからない。いろんな指標を見ると経済は良くなっているが,もし,第2四半期の数字が予想に反して悪ければ,景気の刺激が必要かもしれない。私は,消費はそこそこ行くと思っているが,リストラも進行しており,雇用と消費の動向には注意すべきと考える。一方,日本でも,IT(情報技術)革命に大分火がついて,これが原動力になりそうである。いずれにせよ,日本経済についての質問は全くなかった。だから,参加している私から見ても記事にはなかなかしにくいだろうなあ。
問)
今回の九州・沖縄サミットでは,ITが大きなテーマとされているが,サミットの場でITを議題として取り上げる意義はどこにあるとお考えか。また,本日,議論をしてみて,ITについてどのような評価をされているのか。
答)
去年のケルン・サミットで議論したときには,来年のサミットでITについて議論するという話はなく,身近なことを議論していた。ところが,本年に入った頃からやっぱりITだと言い出した。米国経済の高成長の背景には,ITの発展があるという認識が広がってきたため,今後はこれだなということで議題となったのではないか。なお,蔵相から首脳へ報告書は,いくらか教科書じみたところもある。また,ITものりおくれるとデジタル・ディバイドといった話になるという点もある。どうして急にITが注目されるようになったか。昨日出された経済企画庁の「東南アジアにおけるITの影響」にみられるように,この1年間にITに関する意識が変わった。私も同じ気持ちである。
問)
金融政策は,いうまでもなく日本銀行の所管事項であるが,ゼロ金利政策が,日本経済の回復を下支えしてきたという経緯がある。大臣は,現状はゼロ金利政策が導入された当時の状況とは抜本的に変わったと考えるか。
答)
金融政策は日本銀行の所管事項であるが,日本銀行といっても日銀総裁が一人で決めるものではなく,政策委員会の9人が決めるものである。いずれにせよ,金融政策について私は発言する立場になく,また,私が発言したところで意味がないと思っている。
問)
為替について,特に在英の日本のメーカーがポンド高に苦しんでいるということがあるが,ポンドがユーロに加わる話についてブラウン蔵相と議論したのか。
答)
今回の会合は,いわゆるG7蔵相・中銀総裁会議と異なり,各国の中央銀行総裁が参加していないこともあり,為替について議論は行われなかった。御質問の点は,(同じホテルに泊まっている)ブラウン蔵相と(表敬の形で)お会いした時たまたまその話が出たが,彼は今までの自分の立場を繰り返し述べておられただけである。
問)
米国経済については,サマーズ長官からどういったプレゼンテーションが行われ,またどのような議論があったのか。例えば,長期間持続した力強い成長,インフレ懸念,低い貯蓄率,経常収支赤字,などについて言及はなかったか。
答)
米国経済は,誰が見ても好調なのは明らかであり,これについて誰も質問するつもりもなかった。ただ,石油価格についてたまたま触れられた。
問)
2点伺いたい。(1)日本経済の現状については,特に質問もなかったとのことだが,午前中の日米のバイ会談では,サマーズ長官から,日銀の独立性や,金融政策の重要性への言及があったと承知している。沖縄では,日本がとるべき財政・金融政策に関する運営姿勢が米国から示されると思うが,国際的ムードをどのように受け止めるのか。(2)ロシアも参加したとのことであるが,債務問題についてどのような要望があり,どのような議論があったのか。
答)
(1)日米のバイ会談で,サマーズから,米国経済は上手くやっており,欧州経済も上手く行きそうである,日本経済がここで上手く行くと米国が世界経済に対して担っている負担を分担してもらうことができる,というように非常に注意深い言い方をした。本日の夕刊を読んだときに,金融政策について催促があった模様との観測記事があったが,サマーズはそのようなことを一切言わず,非常に慎重であった。彼も私とは長い付き合いであり,経験を踏んでこのような表現になったのだと考える。(2)最後にロシアの代表も参加して,ロシアについて議論した。ロシア語での発言を英語に通訳したものを聞いていたところ,パリクラブという言葉が2回でてきたが言い方は慎重であり,注意深く言葉を選んでいるという印象を受けた。ロシア側にとって数十億ドルの追加負担になるといったようなことを言っていたように聞こえたが,ストレートに債務削減してほしいという表現はなかったと思う。
(以上)