データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第26回主要国首脳会議におけるG7首脳声明

[場所] 沖縄
[年月日] 2000年7月21日
[出典] http://www.g8kyushu-okinawa.go.jp/j/documents/g7state.html.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

世界経済

1.我々が前回ケルンで会合して以来,世界経済の成長見通しは,先進国及びより一般的に世界経済の基本的なファンダメンタルズが強化され,我々の経済がより均衡のとれた,従ってより持続可能な成長のパタ−ンに移行していく中で,更に改善した。アジアやその他の地域で危機の影響を受けた国を含め,新興市場国の経済は,引き続き力強さを増してきている。

2.同時に,持続的で力強く均衡のとれた成長の達成を確かなものとするためには,警戒の継続と更なる行動が必要である。我々は,我々すべての国においてこの目標の達成に向けてマクロ経済政策及び構造政策を実施することの重要性に合意し,新たな技術が創り出す投資の機会を潜在成長率引き上げのために十分に活用することに重点を置く。

3.より具体的には,

 *米国及びカナダでは,成長は引き続き力強く,失業率は低く,インフレが十分に抑制されており,マクロ経済政策は,持続可能な成長率及び低インフレを維持する方向に引き続き向けられるべきであり,米国では,国内貯蓄を増加させるべきである。

 *ユ−ロ地域では,成長がさらに強まり,雇用が増加しており,投資,雇用及び潜在生産力の拡大に向けられた健全なマクロ経済政策及び力強い構造改革が依然として重要である。

 *英国では,成長が強まり,雇用は引き続き増加し,インフレは低い中,経済政策は,成長及び雇用を維持しながら,引き続き,インフレ目標の達成を目指すべきである。

 *日本では,不確実性も依然として残っているものの,経済は景気回復への前向きな兆しを引き続き示しており,マクロ経済政策は,内需主導の成長を確かなものとするよう引き続き支援的なものとすべきである。構造改革は,潜在生産力の向上を促進するために継続されるべきである。

 *我々は,多くの新興市場国,移行経済国,及び開発途上国における回復を歓迎するが,企業部門及び金融部門の構造改革の更なる進展の重要性,並びに,健全な基本的財政ポジション及び債務構造の重要性を強調する。

4.我々は,世界の原油市場における最近の動向が世界経済の成長に及ぼす悪影響に懸念を有している。この観点から,我々は,石油産出国及び石油消費国の双方における持続的な成長及び繁栄の確保に寄与する上での石油市場の一層の安定の必要性を強調する。

国際金融システムの強化

5.1997年以来の一連の危機以降,国際社会は,国際金融の環境の大幅な変化,特に,民間資本市場の規模及び重要性の増大に照らして,国際金融システムの強化を通じて世界経済の一層の安定の促進のために努力を払ってきた。

6.我々は,これまでの進展を歓迎するとともに,我々の大蔵大臣が提示した以下の分野における更なる措置を支持する。

7.我々は,国際金融システムを更に強化するために,国際社会の他のメンバ−との協力を継続する。

国際通貨基金(IMF)の改革

8.IMFは,世界の持続可能な成長の重要な前提条件としてマクロ経済及び金融の安定を推進する上で,引き続き中心的な役割を果たすべきであるとともに,将来の課題に対処するために発展し続けるべきである。全世界的な国際機関として,IMFは,共通の関心に基づき,最貧国を含む全加盟国とのパ−トナ−シップの下で作業を行わなければならない。これに関連して,我々は,以下の措置を特に重視する。

 *危機を予防するためのIMFの監視の強化:グロ−バリゼ−ション及び大規模な民間資本移動に照らし,監視(サ−ベイランス)の性格及び範囲の大幅な質的変化が必要とされている。

 *国際的な行動規範及び基準の実施:我々は,国際的な行動規範及び基準をIMFの監視(サ−ベイランス)へ組み込むことを含め,この目的に向けた我々の努力を強化する決意である。

 *IMF融資制度の改革:資本市場のグロ−バリゼ−ションに適応するために,我々は,我々の大蔵大臣により示されたように,合理化された,インセンティブに基づくIMFの融資の枠組みの実現に向けての早期の進展に優先度を与える。

 *IMFの資金基盤の保全及びプログラム期間終了後の監視:強化された保全(セ−フガ−ド)措置の実施及びプログラム期間終了後の監視(モニタリング)のためのIMFの能力を強化することが必要不可欠である。

 *統治及び説明責任の強化:世界経済の変化を考慮に入れて,IMFの意思決定のあり方及びその運営が引き続き説明責任を果たし得るものであることが重要である。

 *危機の予防及び解決における民間部門の関与の促進:我々は,最近のIMFのプログラムへのファイナンシングに国外の民間債権者が貢献し,我々がケルンにおいて示した枠組みに基づいて我々の大蔵大臣が本年4月に合意したアプロ−チを実践的なものとすることの重要性が確認されたことを歓迎する。

国際開発金融機関(MDB)の改革

9.MDBの中心的役割は,援助の効率性を改善し,民間資金移動との競合を避けつつ,開発途上国における貧困の削減を促進することであるべきである。MDBは,基礎的な保健や教育,清潔な水及び衛生といった中核的な社会投資に充てられる資金を増加させべきである。包括的開発フレ−ムワ−ク(CDF)及び貧困削減戦略ペ−パ−(PRSP)は,援助借入国が強い主体性を有するプログラムの基礎となるべきである。

10.すべてのMDBは,借入国のパフォ−マンスに一層基づいた形で,支援を配分するべきである。国別援助戦略は,統治の問題を含む借入国の政策環境を十分に考慮に入れるべきである。MDB自身の統治及び説明責任も強化されるべきである。

11.我々は,MDBが,特にHIV/エイズを含む感染症及び寄生虫症並びに環境の悪化に対処するために緊急に必要とされている措置をはじめとする国際公共財の供給を増加する上で,指導的役割りを果たすことを期待する。

高レバレッジ機関(HLI),資本移動及びオフショア金融センタ−(OFC)

12.我々は,金融安定化フォ−ラム(FSF)によりこの3月に提言された措置を実施することの重要性を強調する。

13.HLIの活動の潜在的な影響に対する懸念に関し,我々は,提言された措置が完全に実施されるべきであること及び追加的な措置が必要であるか否かを決定するためにその再検討を行うことに合意する。我々は,FSFが,現在規制を受けていないHLIへの直接規制について,検討を行ったがこの段階では提言には至らなかったこと,しかし,今後の再検討の上,もし提言された措置の実施によっても特定された懸念が十分払拭されていないとされた場合には,直接規制が再検討されることを強調したことに留意する。

14.我々は,IMFに対し,FSFによって優先課題として特定されたオフショア金融センタ−に関する評価を早急に実施することを強く促す。

15.我々は,金融システムを強化し,適切な外国為替相場制度を選択し,よく順序立った方法で資本勘定を自由化することが,引き続き各国にとって不可欠であることに合意する。

地域協力

16.我々は,強化された監視(サ−ベイランス)を通じた地域協力が,国家レベルにおける政策の枠組みを強化することによって金融の安定性に貢献し得ることに合意する。IMFのプログラムを支援する形で国際金融機関(IFI)によって供与される資金を補完するための地域レベルでの協力的な資金取極は,危機の予防及び解決に効果的であり得る。この関連で,我々はアジアや北米における最近の進展を歓迎する。制度上異なる文脈ではあるが,欧州における経済及び金融の統合メカニズムや通貨統合もまた,世界の経済及び金融の安定に貢献している。

拡大HIPCイニシアティブの進展

17.極度の貧困状況にある世界人口比率を2015年までに半減するという国際開発目標(IDG)は意欲的なものである。それは,貧困削減及び経済発展という好循環に貢献しうる,適切な社会セクタ−の政策を伴った経済成長戦略を必要とする。重債務貧困国(HIPC)の債務救済は,そのような戦略の一部に過ぎないが,非常に重要な要素である。

18.昨年,我々はケルンにおいて,より早く,より広範で,より深い債務救済のための拡大HIPCイニシアティブを実施することに合意し,貧困削減のための基金を設立した。我々は,このイニシアティブが昨年秋に国際社会によって支持されたことを歓迎する。

19.それ以来,一層の努力が必要とされる一方で,拡大HIPCイニシアティブの実施に向けた進展が見られている。本日発表された,「貧困削減と経済発展」に関するG7の大蔵大臣による報告書の付属文書にあるように,ベニン,ボリビア,ブルキナ・ファソ,ホンジュラス,モ−リタニア,モザンビ−ク,セネガル,タンザニア,及びウガンダの9か国は既に決定時点に到達し,このイニシアティブの利益を享受している。これらの国を対象としたHIPCイニシアティブの下での債務救済総額は,名目価値で150億米ドル(現在価値相当で86億米ドル)以上に及ぶはずである。

20.我々は,重債務貧困国が市民社会を含む参加プロセスを通して,包括的で主体性に基づいた貧困削減戦略を策定するための努力を払ってきていることを歓迎する。我々は,このような努力をまだ払っていない重債務貧困国が早急に同プロセスに取り組み債務削減の利益を十分に享受することを奨励する。我々は,現在多くの重債務貧困国が貧困削減を妨げ債務救済を遅らせている軍事的衝突により影響を受けているという事実を憂慮する。我々は,これらの国に対して,衝突への関与を終了し,早急にHIPCプロセスに取り組むことを要請する。我々は,我々の閣僚に対し,HIPCイニシアティブに参加するための適切な条件を生みだすことを奨励するために,紛争当事国と早期にコンタクトをとるように要請することによって,これらの国が債務救済に備え,それを推進することを支援するための努力を強化することに合意する。我々は,経済改革の進展や債務救済の利益が貧しくて最も影響を受けやすい人々の支援に向けられることを確保する必要性を十分に考慮しつつ,ケルンで設定した目標に沿って,できるだけ多くの国が決定時点に到達することを確保するように協力する。

21.この観点から,我々は,世銀及びIMFによる共同実施委員会(JIC)設立を歓迎するとともに,重債務貧困国及び国際金融機関がこのイニシアティブの実施に向けた作業を加速するように強く求める。国際金融機関は,他の援助供与国とともに,重債務貧困国が貧困削減戦略ペ−パ−(PRSP)を用意することを助けるべきであるし,技術支援を通じて財源管理を支援するべきである。

22.我々は,ODA債権について100%の債務削減を実施するとのコミットメントを再確認し,適格な商業債権についても100%の債務削減を実施することに新たにコミットする。我々は,いくつかの非G7諸国も100%の債務救済を実施するという発表を行ったことを歓迎するとともに,他の援助供与国もそれにならうことを強く促す。

23.我々は,拡大HIPCイニシアティブの効果的な実施のために国際金融機関による必要な融資を確保する上での進展に留意し,HIPC信託基金への出資を含む種々の約束及び当初の貢献を歓迎する。我々は,約束した資金をできるだけ早く提供するとのコミットメントを再確認する。この文脈において,我々は債権国間の公正な負担の分担の重要性を認識する。

24.戦争及び危機の甚大な破壊的影響に照らして,我々は,OECDに対して,重債務貧困国及びその他の低所得開発途上国への輸出信用が非生産的な目的に使用されないことを確保するために,国内法令及び規制の再検討を含む強化された措置を再検討するように要請する。我々は,OECDができるだけ早くこの作業を完成させて,結果を公表することを奨励する。

国際金融システムの濫用に対する行動

25.国際金融システムの利益を確かなものとするため,我々は,その信頼性と健全性が,資金洗浄,有害な税の競争,及び貧弱な規制上の基準によって損なわれないよう確保する必要がある。

26.我々は,本日公表された,「国際金融システムの濫用に対する行動」に関するG7大蔵大臣報告を歓迎し,強く支持するとともに,以下の進展を特に重視している。

 *資金洗浄:我々は,29か国・地域の規則及び慣行の検討結果及び15の非協力国・地域(NCCT)の特定について公表した,資金洗浄に関する金融活動作業部会(FATF)の当初作業を歓迎する。我々は,これら15のNCCTの個人及び団体とのビジネスや取引に関連するリスクを認識し,警戒を強化することを求める要請を国内の金融機関に発出したことに満足をもって留意する。我々は,自らの制度を改善することにコミットする国・地域に対しては,助言を与えたり,そして適当な場合には技術支援を行う用意がある。我々は,必要かつ適当な場合には,自国のシステムを適切に改革するための手段を講じないNCCTに対して,それらの国・地域との金融取引に条件を課し,又は制限する可能性,及び,国際金融機関からそれらの国・地域に対する支援に条件を課し,又は制限する可能性を含めて,協調して対抗措置を講ずるために一致して行動する用意がある。

 *タックス・ヘイブン及びその他の有害な税制:我々は,有害な税制の特定及び除去の進展状況に関するOECD報告書を歓迎する。報告書には,タックス・ヘイブンの基準に合致しているいくつかの国・地域,及び,OECD諸国域内における潜在的に有害な優遇税制の2つのリストが含まれる。我々は,また,国・地域によって既に公になされた有害な税の慣行の除去についてのコミットメントを歓迎し,すべての国・地域にこのようなコミットメントを行うことを強く促す。我々は,OECDに対し,有害な税制を抑止し非加盟国との対話を拡充する努力を続けることを奨励する。我々は,また,税目的の銀行情報へのアクセスの向上に関するOECDの報告書への支持を再確認し,すべての国に対し,すべての税目的の銀行情報へのアクセス及び情報の交換を許容するとの立場に向けて速やかに作業を進めるよう要請する。

 *オフショア金融センタ−:国際金融基準に適合しないオフショア金融センタ−(OFC)に関し,我々は,評価のための優先度の高い国・地域の金融安定化フォ−ラム(FSF)による特定を歓迎する。我々は,OFCが貧弱な規制監督体制を改善するためにFSFが勧告したすべての措置を実施するとともに,有害な税の競争を除去し,資金洗浄対策の措置をとることが不可欠であると考える。この観点から,我々は,我々の大蔵大臣によって特定された8分野に高い優先度を与える。これらは,国際的な協力,情報交換,顧客の特定,過度の秘密の廃止,金融機関の効果的な調査,金融監督と資金洗浄対策への手段・人員の拡充,法制度の改善,及び,有害な税制の除去である。我々は,国・地域に対して必要な変更を行うよう奨励するための措置をとるとともに,適切な場合には技術支援を提供する。国・地域が一定の基準を満たさず,国際基準の遵守水準の向上にコミットしない場合には,我々は,これらの不履行による影響から国際金融システムを守るための措置もとる。

 *国際金融機関IFIの役割:我々は,IMF及び世界銀行を含むIFIに対し,金融セクタ−の評価並びにプログラム策定及び支援の観点から,諸国による関連国際基準の実施を手助けすることを強く促す。

27.我々は,国際金融システムの濫用に対して国内的及び国際的な具体的な行動が早急に必要であることを強調する。我々は,また,一層の協調,様々な国際的フォ−ラムで現在行われている努力への一層の弾み,及び迅速なフォロ−アップ行動を強く促す。

原子力の安全/ウクライナ

28.我々は,本年12月15日にチェルノブイリ原子力発電所を閉鎖するとのクチマ大統領の決定を歓迎する。我々は,チェルノブイリ原子力発電所の恒久的な閉鎖に伴う問題に取り組む上で,ウクライナ政府との協力を継続する。

29.我々は,石棺実施計画(SIP)への支援を継続するとのケルン・サミットにおけるコミットメントを再確認する。我々は,石棺実施計画の完全な実施を確保するために7月に開催されたプレッジング会合の結果を歓迎する。我々は,G7以外のドナ−による貢献を評価する。

30.我々は,ウクライナ政府に対し,電力部門の改革の促進,特に現金での料金徴収の向上及び民営化の促進により,エネルギー部門に対する経済的現実性のある投資を引きつけるようにすることを強く促す。我々は,この点に関し,欧州復興開発銀行からの報告を受けることを期待する。その間,我々は,了解覚書に従って,最小費用の原則に基づくエネルギー・プロジェクトの準備についてウクライナ政府を支援するとのコミットメントを確認する。