データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8外相会合総括(第27回主要国首脳会議)

[場所] ローマ
[年月日] 2001年7月18−19日
[出典] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/genoa01/gaisyou_p.html
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 我々は、国際政治上の諸課題の現状と進展について検討するため、2001年7月18日から19日まで、ローマにおいて会合した。

 我々は、現在進行する相互依存とグローバリゼーションがもたらす危険と機会を考慮に入れながら、G8と市民社会の間の対話をいかにして充実させていくかについて、幅広く非公式な意見交換を行った。この今日的な視点については、我々は今後とも互いに、また他の関係者とも、緊密に連携していく。

 我々は、グローバルな次元や地域的な次元で国際社会が直面する最も重要な政治的課題の動向を検討した。中東、マケドニア旧ユーゴースラヴィア共和国(FYROM)、アフリカ、及び朝鮮半島については、我々は7月20日から22日にジェノヴァで開催される首脳会合に向け、我々の議論をまとめた文言をG8首脳に直接提出することで合意した。

 我々は、また、以下の結論に達した。

平和と安全保障に向けたグローバルな課題

紛争予防

 1.我々は、紛争予防に対するコミットメントが、我々の国際的な行動とイニシアティブに不可欠な要素であると考える。紛争を回避するための主要な責任は、直接の当事者に帰属するが、我々は、紛争を予防するために、国際社会、一義的には国際連合による効果的な行動のための取組を継続する。我々は、宮崎において特定した五つの分野、特に、紛争と開発の項目についての進展を銘記し、引き続きこれを支持する。この項目の枠組においては、元兵士の武装解除、動員解除及び社会復帰並びに水資源の管理についての協力といった側面が我々の特別な関心に値する。我々は、また、次の二つの新しいイニシアティブに焦点を当てることを決定した。即ち、暴力的紛争の予防における女性の貢献及び民間部門の役割である。関連する項目については別添の文書(文書1、文書2)において詳述される。

軍縮、不拡散、軍備管理

 2.21世紀の課題に直面する中で戦略的安定性と国際安全保障を維持・強化していくため、我々は、大量破壊兵器とその運搬手段の拡散がもたらす脅威に対処するよう構築された多数国間条約や輸出管理アレンジメントといった既存の体制を重視している。この文脈で、我々は、国際的な軍備管理や不拡散の体制を強化する努力を歓迎するとともに、大量破壊兵器に関する基本的な条約の遵守と普遍化を促進し、2000年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議の結論の実施に貢献する決意を再確認する。我々は、ロシアと米国に、それぞれの戦略攻撃兵器の大幅な削減を継続し、戦略的安定性を強化する用意があることを歓迎する。

我々は、ありうべき執行と遵守に関わる措置を含め、生物兵器禁止条約(BTWC)の強化に向けた諸措置について合意するための努力を歓迎する。我々は、生物兵器禁止条約が、増大する生物兵器の脅威に対抗する上で効果的な手段であることを確保すべく努力することに引き続き全面的にコミットしている。我々は、ミサイル輸出管理レジーム(MTCR)の構成国による、弾道ミサイルの拡散に立ち向かうための国際行動規範の策定とその普遍化に向けた努力を歓迎する。包括的核実験禁止条約が発効するまでの間、すべての国に対し、世界的な核実験の現行モラトリアムを維持するよう求める。我々は、5年以内の妥結を目指し、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約に関する交渉を即時に開始するとのコミットメントを再確認する。我々は、既にそうしていないすべての国が、国際原子力機関(IAEA)との間で適切な保障措置協定と追加議定書を締結するよう呼びかける。

 3.我々は、防衛目的のためにはもはや必要でなくなった兵器級プルトニウムが決して核兵器に利用されないことを確保することは、引き続き極めて重要と考える。我々は、ロシア連邦の処分計画に実質的に貢献する意図を有するすべての支援国に対し、国際的な資金計画の完成と計画実施のための多数国間の枠組に関する交渉の開始に参加するよう呼びかける。我々は、また、所有する化学兵器を化学兵器禁止条約に基づき廃棄するロシア連邦の取組を支持する。

 4.爆発性戦争残存物を含む通常兵器に関する人道的な規範を高める国際社会の取組の一環として、我々は、本年開催される特定通常兵器使用禁止制限条約(CCWC)の運用検討会議を成功に導くべく努力する。我々は、また、世界各地で数多くの罪のない市民に被害を与えてきた、対人地雷の無差別な使用による惨禍や地雷の膨大な蓄積の継続を引き続き懸念している。我々は、オタワ条約や改正されたCCWC地雷議定書に基づくものを含め、地雷除去、人道的な地雷除去、被害者支援並びに地雷対策の技術開発の分野における努力を支援する決意である。この人道上の危機には、支援国が協力を引き続きコミットすることが決定的な影響を持つ。我々は、国連小型武器会議において、現実的なプログラムという目標を実現するため、積極的に取り組むことにコミットする。

テロリズム

 5.我々は、動機の如何を問わずあらゆる形態のテロリズムに対する非難を新たにし、その防止及び法執行のための戦略の策定における国際協力の強化の必要性を強調する。我々は、本年のミラノにおけるG8司法・内務閣僚級会合で表明されたコミットメントを想起し、支持する。我々は、専門家に対し、従来からのテロの脅威に加え、ハイテクを用いたものを含む新たなテロの脅威に対する協力の強化に係る作業を更に進展させるよう求める。

 6.我々は、テロリズムのための資金供与の防止に関する条約を含め、分野別のテロ対策に関する国連諸条約を可能な限り広範に適用することの重要性を強調し、包括的な国際テロ対策に関する国連条約の交渉に対する政治的支持を再確認する。我々は、また、核テロ対策に関する国際条約の作成を完了することの重要性を強調し、採択に至るよう奨励する。

国際連合

 7.昨年のミレニアム・サミット及びミレニアム総会の結果の重要性を改めて表明し、我々は、安全保障理事会の改革を含め、国連システムを改革し、強化し、その効率性を高めることに対するコミットメントを再確認する。我々は、国連に対し、特に人道支援及び開発援助の分野において、他の行動主体との間の連携、協力及び協議を強化するよう奨励する。

 8.1951年の難民の地位に関する条約50周年の機会に、G8は、その規定及び1967年の議定書に関するコミットメントを再確認し、難民高等弁務官の難民支援活動に対し敬意を表する。

地域的な危機

バルカン・南東欧

 9.バルカン情勢は、引き続き我々の細心の注意を必要とする。我々は、特にユーゴースラヴィア連邦共和国における、宮崎での会合以来実現されてきた進展を歓迎する。我々は、改革及び地域協力の強化を引き続き支持する。我々は、デイトン合意及び旧ユーゴースラヴィア国際刑事裁判所(ICTY)を含む国際的な義務の完全な遵守が見られることを期待する。これに関し、我々は、ユーゴースラヴィア連邦共和国及びこの地域の他の国々によってとられた措置を歓迎する。スロボダン・ミロシェヴィッチ及び他の起訴された戦争犯罪人は、現在、ハーグにおいて裁判を受けている。我々は、民族的な国家主義や分離主義に根ざすあらゆる形態の暴力を非難する。我々は、民主的なユーゴースラヴィアの中の民主的なモンテネグロを支持し、ベオグラードとポドゴリッツァの間の対話を奨励する。コソヴォにおいては、我々は、国連安保理決議1244の完全な実施を期待するとともに、11月のコソヴォ全域選挙が安全な環境のもとで行われ、民主的な暫定政府の設立につながることを期待する。我々は、すべての民族集団が、こうしたプロセスに完全に参加することを奨励する。

 10.我々は、地域協力の強化が、発展と繁栄のための根本的な機会を意味することを引き続き確信する。我々は、この地域の各国に対し、この分野での具体的な進展のためのコミットメントを示すよう呼びかける。この関連では、欧州連合の安定化・連合プロセスは重要な要素である。我々は、G8メンバー及び関係各国並びに地域的及び国際機関の支援とイニシアティブを歓迎する。我々は、安定協定に対する完全な支持を再確認し、10月25日及び26日のブカレストにおける第2回地域会合を成功させるために、緊密に協力する。主権及び領土的一体性の尊重は、この地域の長期的な安定及び安全の堅固な基盤である。

サイプラス

 11.我々は、沖縄における声明を想起し、関連する国連安保理決議に十分な配慮を払いつつ、分断されていないサイプラスにおいてすべての当事者の基本的利益を保護する公正で永続的な解決を達成しようとする国連事務総長の取組を支持することに改めてコミットする。我々は、すべての当事者が努力を新たにし、国連事務総長の仲介のもとで速やかに対話が再開されることを期待する。

イラク

 12.我々は、イラクに対し、大量破壊兵器の廃棄を検証する権限を有する国連及び国際原子力機関の査察官の入国を含め、関連する国連安保理決議を完全に遵守するよう呼びかける。国連との協力の再開は、制裁の停止及びその最終的な解除に向けた必要な措置であり、イラクの国際社会への復帰を可能とするものである。この目的のために、我々は、国連事務総長とイラク政府の対話を歓迎する。我々は、関連する国連安保理決議に従い、イラクが再び地域の平和と安定への脅威とならないことを確保するための国際社会の各構成員の責任を強調する。湾岸地域における安全と安定を促進するために、域内諸国すべての領土的一体性と主権が保証されなければならない。我々は、イラクにおける人道状況に対し、引き続き懸念を有していることを強調する。こうした状況は、人々の苦しみを緩和するための更に意欲的な措置を必要としており、我々はイラク政府にオイル・フォー・フード計画の完全な実施を呼びかける。国連安保理決議1352及び1360を強調しつつ、我々は、国際社会及び国連安全保障理事会に対し、イラクに対する新たなアプローチを築くよう呼びかける。

アフガニスタン

 13.国連安保理決議1267及び1333の完全な実施の必要性を想起し、我々は、増大しつつあるテロリストの脅威に対して改めて懸念を表明するとともに、タリバーンに対し、これらの決議に含まれる要求に従い、特にテロリスト訓練キャンプを閉鎖することを求める。我々は、タリバーンに対し財政的な面も含め影響力を有する関係者が、責任ある行動をとることを呼びかける。依然としてアヘンの蓄蔵と麻薬取引に関する懸念は残るものの、我々は、ケシ栽培の禁止が実施されたことを評価する。我々は、女性及び宗教的少数派の状況がさらに悪化していることを含め、アフガニスタンにおいて人権侵害が継続していることを非難する。我々は、タリバーンによって、バーミヤンの極めて貴重な彫像が破壊されたことを糾弾する。我々は、アフガン人民を悲惨な人道状況から救済するための効果的な支援や、アフガニスタン支援グループ(ASG)の枠組における援助国及び実施機関の効果的な協力についてのコミットメントを確認する。我々は、広範な支持基盤を有し、多民族からなる、十分な代表制を有する政府の樹立を目指して、アフガン当事者間の政治交渉を通じた、または、ロヤ・ジェルガのようなメカニズムを通じた、和平プロセスを推進する国連その他の努力を支持する。

南西アジア

 14.我々は、インドとパキスタンの間で行われたアグラ首脳会談を歓迎し、両国関係の進展を図るためハイレベルの対話を継続するとの両国の意図を強く支持する。我々は両国に対し、自制の政策を継続するよう促すとともに、両国関係や地域の安定に悪影響を及ぼしうるいかなる行動をも慎むよう呼びかける。

我々は、国連安保理決議1172の重要性を改めて強調し、インドとパキスタンに対し、不拡散と軍縮の体制を強化するための国際的な努力に完全に参加するよう求める。我々は、両国が核実験のモラトリアムにコミットしていることに留意する。

インドネシア

 15.我々は、インドネシアが民主的で平和的な方法により、かつ憲法に則り、現下の政治的緊張を克服することが極めて重要であることを強調しつつ、東南アジアの安定と経済開発の鍵となる要素である、民主的で、安定し、統一したインドネシアに対する支持を再確認する。我々は、インドネシア政府に対し、経済及び統治に関する改革に向けた努力を進めるよう促し、国際社会としてこれらの努力を支援する用意があることを強調する。我々は、インドネシア政府に対し、人権を完全に尊重しつつ、すべての当事者間の対話の真摯さの度合いを高めるよう求める。我々は、インドネシアの領土的一体性への支持を改めて表明する。

東チモール

 16.我々は、東チモールの独立と民主主義に向け、東チモール人と国連東チモール暫定行政機構(UNTAET)が達成した進展を歓迎する。我々は、この関連で、8月30日に予定されている制憲議会選挙の公平かつ円滑な実施の重要性を強調する。東チモールの抱える極めて大きな課題を認識し、我々は、持続的な国家の建設に向けた東チモールの人々の努力への支持を改めて表明する。

コロンビア

 17.我々は、コロンビアにおける後戻りできない和平プロセスを全面的に支持する。我々は、すべての当事者が紛争の終結に向けて交渉し、人権を尊重するよう求める。すべての非合法武装集団は、その人質を解放しなければならない。コロンビア政府は、パラミリタリー集団の活動との闘いの努力を継続し、これらの集団を解体するための具体的な行動を取るべきである。我々は、国際社会が地域各国の政府とともに、薬物の不法な製造や取引と闘うために、適当な場合にはコロンビア和平プロセス支援グループの枠組の中で、アンデス地域において貧困と闘い、持続可能な開発を促進するイニシアティヴを推進するよう要請する。

アフリカ

 18.我々は、民主主義、多元主義及び選挙の公正がより多くのアフリカ諸国において確固たるものとなってきていることを歓迎し、支持する。我々は、民主的原則と法の支配が損なわれているアフリカのその他の地域においても、開かれた政治に向けた同様の進捗が見られるよう求める。

 19.(アフリカの角)我々は、アルジェ合意及び関連する国連安保理決議に基づくエティオピア・エリトリア間の和平プロセスを、アフリカ諸国が国際社会の支持を得つつアフリカの危機を管理する積極的な事例として歓迎し、支持する。我々は、当事者に対し、すべてのコミットメントを全うすること、国連と完全に協力すること、及び永続的な和解と地域協力に向けて前進することを求める。我々は、スーダンにおける内戦の終結とソマリアにおける和平と国民融和の確立が、アフリカの角全体の安定と開発に向け、不可欠な次の一歩であると考える。

 20.(コンゴー民主主義共和国とブルンディ)我々は、ルサカ合意、アルーシャ合意及びコンゴー民主主義共和国とブルンディにおける和平のためのすべての関連する国連安保理決議の実施に向けた積極的な動きを歓迎する。我々は、すべての署名者及び関係当事者に対し、国連及び和平プロセスの全関係者と完全に協力するように求め、特に国連平和維持部隊の展開を円滑化し、国民対話を支持し、戦闘員の武装解除、動員解除、復員、社会復帰及び外国軍隊のコンゴー民主主義共和国からの完全な撤退のプロセスに着手するよう求める。我々は、国際社会に対し、引き続き人道支援活動を支えるよう求める。

 21.(マノ河地域)我々は、シエラ・レオネにおけるアブジャ合意の実施に向けた進展を歓迎する。我々は、国際社会に対し、和平プロセスの強化と同国における復興計画を支援するよう求める。我々は、すべての当事者に対し、国連と完全に協力し、関連の国連安保理決議を遵守するよう求める。

 22.(南部アフリカ)我々は、アンゴラにおける紛争の平和的解決を見出すための、国連及びアンゴラ政府による継続的な努力を支持する。我々は、ルサカ議定書に沿ったアンゴラにおける紛争の早急な解決を求める。我々は、ジンバブエをめぐる問題の持続的な解決が南部アフリカの安定に不可欠であると考える。