データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7首脳声明(第27回主要国首脳会議)

[場所] ジェノヴァ
[年月日] 2001年7月20日
[出典] http://www.kantei.go.jp/jp/koizumiphoto/2001/07/20genova.html
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.我々G7各国の元首及び首相並びに欧州連合の代表は、世界のマクロ経済の趨勢における現在の課題に取り組むため、また、成長と安定を促進し、国際金融システムの効率性を改善するための努力を増強するため、本日ジェノヴァで会合した。

世界経済

2.世界経済は、過去1年の間に、予想を上回って減速したが、健全な経済政策及びファンダメンタルズが、より力強い成長のための強固な基盤を提供する。我々は、我々の経済がその潜在力に従ってより持続的な成長パターンへの移行を確かなものとするため、必要に応じ措置をとれるように引き続き警戒し、かつ、先を見通してゆく。我々は、構造改革、自由貿易及び国際的な経済協力の強化を通じ、健全なマクロ経済環境において力強い生産性の向上を高めることにより、世界の成長に貢献する政策を追求することを約束する。

 ・米国では、成長は急激に鈍化したが、長期的な動向は依然として良好である。市場は、力強く、かつ弾力的であり、金融及び財政政策は、物価の安定を維持しつつ、景気回復を助けるため積極的にとられている。最近行われた減税は成長を高めるであろう。

 ・カナダでは、減税及び金融情勢が成長を支えているが、構造政策は、引き続き、生産性の向上を目指すべきである。英国では、景気減速は緩やかに見受けられ、持続的な成長及び中期的な雇用の基盤強化並びにインフレ目標の達成のため、政策を継続すべきである。

 ・ユーロ圏では、経済活動は弱まったが、成長見通しは引き続き良好である。減税及び一層の雇用拡大を目的とする構造改革は、持続可能かつインフレなき成長を支えるため、継続されるべきである。経済改革の着実な実施は、成長の潜在力の更なる向上に寄与するであろう。

 ・日本では、経済活動は更に弱まり、物価は引き続き下落している。この背景の下、金融政策は引き続き潤沢な流動性を供給するべきである。中期的に、より強固な経済成長の基盤を築くため、金融・企業部門の改革の力強い実施が必要である。我々は、これに寄与するであろう最近発表された改革イニシアティブを歓迎する。

3.新興市場国が世界の経済発展から受ける影響にはばらつきがみられる。一部の国では、成長率はより持続可能な水準に向けて低下したが、他の国々においては、急激に減速した。我々は、多くの国において、潜在的な危機に対する抵抗力の強化の面で得られた進展及び危機のより効果的な防止を目的として国際金融システムを強化するために昨年とられた措置を歓迎する。しかしながら、新興市場国における最近の状況は、国内の金融システム及び基本的財政ポジションの強化において一層の進展が必要であることを示している。アルゼンティン及びトルコにおいて最近とられた措置は、このような方向に向けての前進である。我々は、これら努力を賞賛し、これらの国々がIMF及び他の関連する国際金融機関との緊密な協力の下、各々の改革プログラムを引き続き実施することを奨励する。

4.高く不安定な石油価格は、世界経済、とりわけ、最も脆弱な開発途上国にとって懸念である。エネルギー供給の増加及び多様化、エネルギー効率の改善、インフラの拡大及び石油市場の安定は、重要な目標である。石油産出国と石油消費国とが緊密な連絡を維持すべきである。

5.我々は、我々が自国の経済において進めている政策に加え、世界経済を強化するため、更に3つの要素についての協力が重要であることに本日合意した。

 ・新貿易ラウンドの立ち上げ

 ・国際金融システムの安定と健全性を強化するための行動

 ・重債務貧困国(HIPC)イニシアティブの実施を含む、最貧国が取り残されないことを確保するための行動

新貿易ラウンドの立ち上げ

6.世界規模での持続的な経済成長は、自由貿易に対する新たなコミットメントを必要とする。世界的な市場の開放及び多角的貿易体制の礎としての世界貿易機関(WTO)の強化は、経済的に必要不可欠である。このため我々は、本年11月にカタルのドーハで開催される第4回WTO閣僚会議において、包括的な貿易交渉のための野心的な新ラウンドを立ち上げるべく、個人として、かつ、共同で取り組むことを本日約束する。

7.我々は、市場アクセスの改善及びより健全かつ透明な貿易ルールを通じ、新ラウンドが開発途上国の優先事項に対処することを確保するため、後発開発途上国を含む開発途上国とともに取り組むことにコミットする。我々は、ウルグアイ・ラウンド合意の実施について正当な関心が存在することを認識する。我々は、実施問題について着実な進展が見られることを歓迎し、新ラウンド立ち上げとの関連でこれを更に進展させるための方途を検討する用意がある。開発途上国の貿易体制への統合には、キャパシティ・ビルディングが不可欠であり、この分野における我々の支援努力を、国際機関との協力を含め、強化している。

8.新ラウンドは、すべての人の利益のために、多角的なルールを明瞭にし、強化し、及び拡充しつつ、均衡のとれたアジェンダを基礎とするべきである。このような努力を行うにあたっては、紛争処理メカニズムの改善が鍵となる。WTO自身の透明性を高めることもまた、世界貿易体制への信頼を強化する上で重要である。WTOは、引き続き市民社会の正当な期待に応えていくべきであり、新ラウンドが持続可能な発展を支えることを確保すべきである。

9.我々は、意味のある経済的条件の下でのWTOの加盟国を拡大することが重要であることを認識する。我々は、中国との交渉が今やほぼ完了し、また、ロシアの加盟に向けた進展がみられることを歓迎する。我々は、WTOを真に普遍的な機関とするため、他の申請国による早期加盟に向けて条件を満たすための努力を強く支持する。

国際金融システムの強化

10.世界の成長と繁栄の増大は、ひとえに、健全で安定した国際金融システムに依存している。我々は、金融危機を予防し、必然的に生じる危機の影響を制限し、そして金融システムの濫用に取り組むため、引き続き国際金融システムを強化するとの決意において一致している。

11.沖縄サミット以来、多くの重要な措置がとられてきた。これらの中には、国際通貨基金(IMF)による監視の強化並びに主要な国際的な行動規範及び基準の実施の促進を通じて危機の予防を一層有効にするための措置、危機の予防及び解決における民間セクターの関与、IMF融資制度の合理化及び改革、IMFの透明性及び説明責任の強化、が含まれる。これらの努力は維持されるべきである。

12.今後、我々は、我々の財務大臣による国際金融システムを更に強化するための行動の勧告及びこの努力についての国際的な合意の促進に向けた彼らのコミットメントを支持する。特に、国際金融機関及びG7各国は、資本市場への持続的アクセスを確保するために必要な政策を採用する国々を支援できるようにしておくべきである。また我々は、民間セクターの関与の枠組みを更に発展させるための我々の財務大臣の提言を支持する。

13.国際開発金融機関(MDB)は、貧困との闘いにおいて中心的な役割を担う。MDBは、生産性の向上を促進し、衡平かつ持続可能な経済開発を支援していくことによって、2015年の国際開発目標の達成に寄与する。このため、我々は、MDBを改革し、とりわけ保健や教育といった中核的な社会的・人的投資にMDBの活動の焦点を当てるべき、との我々の財務大臣の勧告を歓迎し、支持する。我々は、MDBに対し、運営の効率性を高めるため、内部組織を継続的に評価することを奨励する。我々は、以下の点を特に重視する。

 ・MDB間の調整の強化

 ・MDBの内部管理体制、説明責任及び透明性の強化

 ・利用可能な資源の開発効果を強化するための融資金利政策の見直し

 ・借入国における良い統治の促進

我々は、MDBに対して、感染症との闘い、貿易促進、金融システムの安定性の向上、環境の保護といった国際公共財への支援を提供するよう要請する。我々は、国際開発協会(IDA)の有意義な増資を支持し、その文脈で、教育や保健といった優先順位の高い社会的投資のための無償援助の更なる活用を探求する。

14.我々は、国際金融システムの濫用に対する多数国間の努力への支持を再確認し、この課題に取り組むための我々の財務大臣の勧告を支持する。我々は、いくつかの国・地域が自らの資金洗浄に対抗する制度の脆弱性に取り組むために行っている努力を歓迎する。我々は、4つの国・地域をリストから削除するとともに、最も非協力的な国・地域が2001年9月30日までに適切な行動をとらない場合にはそれらに対して追加的な対抗措置をとることを勧告する、との資金洗浄に関する金融活動作業部会の最近の決定を支持する。国際金融機関は、国・地域による資金洗浄に対抗する制度の改善を支援する上で重要な役割を担っており、我々は、これらの機関がこの面での努力を強化することを強く求める。我々は、オフショア金融センターの監督・規制基準の遵守状況の評価が進展することを奨励する。我々は、有害税制に関する2001年のOECDの進捗状況報告書に期待するとともに、我々の財務大臣により構想された、そのような税制に取り組むための作業を支持する。我々は、我々の財務大臣に対し、これらの分野における更なる取組を要請する。

重債務貧困国(HIPC)

15.我々がケルンで立ち上げた拡大HIPCイニシアティブは、これらの国々の強化された政策改革に基づき債務を軽減することによって、その成長を促進し、貧困を削減し、また、持続不可能な債務負担から永続的に脱却させることを目標とするものである。我々は、このイニシアティブの実施によってこれまでに達成された重要な進捗を歓迎する。沖縄において、9ヶ国が債務救済の資格を得た。現在、23ヶ国(ベナン、ボリヴィア、ブルキナ・ファソ、カメルーン、チャード、ガンビア、ギニア、ギニア・ビサオ、ガイアナ、ホンデュラス、マダガスカル、マラウイ、マリ、モーリタニア、モザンビーク、ニカラグァ、ニジェール、ルワンダ、サントメ・プリンシペ、セネガル、タンザニア、ウガンダ、及びザンビア)がその恩恵を受けており、当初740億ドル存在した債務負担残高のうち、救済される債務総額は530億ドル以上に上る。これは、これらの国々の債務を大きく削減し、特に教育や保健などの社会部門への支出のために資源を利用することを可能にすることにつながる。

16.我々は、資格を有するHIPC諸国に対し、ODA債権と適格な商業債権の100%債務削減を最低限行うことに合意した。我々は、未だそのような措置をとっていない国に対して同様の措置をとるよう強く求めるとともに、HIPCに対して時宜を得た債務救済を与えるため、すべての二国間債権国による積極的かつ完全な参加の必要性を強調する。

17.我々は、未だ決定時点に達していないHIPCに対し、世界銀行及びIMFと協力して貧困削減のための全体的な戦略を策定することを含め、必要な経済及び社会改革を早期に行うよう奨励する。経済・構造・社会改革、統治の向上及び貧困削減につながる支出を管理する能力の強化が、債務救済により最大限に裨益することを確保するために必要である。特に、我々は、軍事的衝突に関与している国に対し、武器を捨て必要な改革を実施することを要請する。我々は、これらの国が債務救済への取組に必要な措置をとるための支援を行う意思を確認する。我々は、債務救済の恩恵が貧困かつ最も脆弱な層に対して向けられることを確保するよう引き続き共に努力することを約束する。

原子力安全

18.我々は、ウクライナによる2000年12月15日のチェルノブイリ原子力発電所の恒久的閉鎖を歓迎する。その達成は、原子力安全を支持する上で不可欠であった。