データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] テロ対策に関するG8の勧告

[場所] ウィスラー
[年月日] 2002年6月
[出典] http://www.kantei.go.jp
[備考] 仮全訳
[全文]

前文

 G8はテロの防止、及びテロとの闘いを最重要視する。その努力を支えるため、G8はテロと闘う能力の強化のための指針として一連の原則を策定した。以下の勧告は、1996年にパリで採択されたテロ対策専門家グループ25の勧告の見直しの結果得られたものである。見直し作業は、米国の主導により始められ、G8テロ対策専門家グループ(ローマ・グループ)によりすすめられ、議長国カナダがとりまとめたものである。

 本勧告は、新たなテロの脅威に対処するとともに、1996年にリヨン・グループとして知られるG8犯罪グループにより作成された40の勧告を補完すべく、テロ対策専門家グループの25の勧告を改訂したものである。このリヨン・グループによる勧告もまた、国際犯罪の脅威に、より効果的に対処するために修正された。修正されたリヨン・グループの勧告は、G8司法内務大臣会合(2002年5月13−14日、於モント・トレンブラント)において、「国際犯罪に関するG8の勧告」として採択された。

 本勧告は他の地域機関や国際フォーラムにおける専門家の作業を補完するものである。これらの専門家の作業には、テロリスト及びテロリストを庇護する者による大量破壊兵器、放射性兵器及びミサイルへのアクセスを防止する「原則」を策定したG8不拡散専門家グループ(NPEG)等の他のG8専門家グループの作業が含まれる。

 以下の修正された「テロ対策に関するG8の勧告」は、G8として、我々の社会をテロの脅威から守るために存在するメカニズム、手続、及びネットワークを改善するものと考えている基準、原則、ベスト・プラクティス、行動、及び相互関係をとりまとめたものである。本勧告は、G8によるコミットメントであり、すべての国に対して指針として勧告するものである。

 各国は、各々の対テロ戦略が、常に変化する挑戦に対応するため、ダイナミックにして、十分に柔軟かつ革新的であることを確保すべきである。我々は、全ての国がG8とともに、以下の諸措置の実施に加わることを呼びかける。

1.既存のテロ対策関連諸文書の迅速な実施

 我々は以下を実施することにコミットし、全ての国に対して、その実施を呼びかける。

(1)テロの防止及び抑止に関連する以下の文書の遵守を可及的速やかに確保するための措置を講じる。

 (a)付属文書に列挙されている12の国連テロ防止関連の条約及び議定書

 (b)全ての関連安保理決議、特に安保理決議1373(2001年)

(2)欧州評議会サイバー犯罪条約は、テロリストまたは他の犯罪者によるコンピュータ・システムへの攻撃に対処し、テロまたは他の犯罪行為の電子的証拠を収集する上で有用なものである。ついては、同条約を締結する資格を有する国においては、同条約を締結し、その完全かつ迅速な履行を確保する。または、同条約中で履行が呼びかけられている諸措置に類似した法的枠組みを整備する。

2.追加的な多国間テロ対策イニシアチブ及び文書の支持

(1)包括テロ防止条約案を完成させるため国連システムを通じて作業し、これに協調して取り組む。

(2)グローバルなレベルで既に行われている、または現在策定中のテロ対策を有意的に補完するため、地域レベルを含め我々が加盟している多数国機関において適切な行動を促進する。

勧告3.化学、生物、放射性、核(CBRN)兵器

1.(a)テロリストによる生物兵器の使用への効果的な対処の確保に関して、生物兵器禁止条約(1972

年)で禁止された行為を犯罪化し、その犯罪人を起訴または適切な場合には国内法または二国間引渡条約によりこれら個人を引き渡し、そのような犯罪の発見及び抑止のためのベスト・プラクティスを協同して策定する。

 (b)選定された生物剤の不法な所有及び移転を追跡及び抑制するための効果的なメカニズムを協同し

て策定し、生物物質がテロ行為に使用されることを予防するための追加的措置を探求する。

2.国連システムを通じて核テロ防止条約案の作成を完了させるために作業し、このための我々の協調行動を強化する。

3.核物質防護条約(1980年)の強化のため現在行われている交渉を支持するとともに、その目的をさらにおし進め、また核物質の密輸問題に関する措置の強化を検討するため、追加的な措置の可能性を協同して探求する。

4.化学・生物・放射線・核及び関連施設等をテロ攻撃から守るためのベスト・プラクティスの策定を適切な国際的フォーラムで協同して行い、それらの施設に関する機微な情報がテロリストによりテロ攻撃のために使用されることを防ぐための手段を探求する。

5.国際原子力機関(IAEA)のような、化学・生物・放射線・核兵器の防止プログラムが協調して実施さ

れている他のフォーラムにおける取組みを調整し、これらに対する支持を促進する。

6.国内レベルの緊急措置のためのベスト・プラクティスに係る指針を策定し、既存の危機対応策を強化する。

勧告4.爆発物及び銃器

1.殺傷効果を有する爆発物、武器その他の危険物質の探知方法に関する研究開発を推進し、また爆発後の調査でそれらの爆発物の出所を明らかにするため、及び適切な場合には協力を促進するため、爆発物のマーキングの標準の作成について協議を行う。

2.銃器、爆発物及びその他の傷害、損害または破壊を引き起こすよう設計された装置がテロ行為に利用されることを防止するため、これらの装置の製造、取引、輸送、及び輸出を規制するため輸出管理を含む効果的な国内法及び規則を制定する。

勧告5.テロリズムに対する資金供与

1.可及的速やかに、安保理決議1373、テロ資金供与防止条約、及びテロ資金供与に関する金融活動作業部会(FATF)の特別勧告の完全な実施を確保し、FATFのグローバルな行動計画の実施に参画する。

2.本年のG8司法内務大臣会合で採択された「テロ資金供与を防止するための法的措置に関するG8会合」

の報告に記されたテロ資金供与防止のための共同行動を実施するにあたっての障害を除去するための措置を講じ、さらに恒久的にテロリストの資金源を断つため、テロリストの資産の凍結にとどまらず、その没収も行う。

3.国際犯罪に関するG8告(2002年)中の「マネーロンダリング、関連するテロ資金供与及び資産没

収」に関する勧告を履行する。

4.適切な国内措置を通じて、テロ資金の追跡を促進し、司法共助が銀行の秘密あるいは財政に係わる犯罪に関係するものであることを理由に拒否されないことを確保する。

勧告6.交通保安

1.テロの抑止及び予知のための標準及び勧告を実践するための国際民間航空機関(ICAO)における航空保安活動に対する自主的拠出を通じて、強力な財政的支援を維持する。

2.テロの抑止及び予知を目的とする標準の改訂のため、「国境を越える犯罪に関するG8の勧告」で言及されているメカニズムの適用を含め、航空保安関連条約、ICAOにおける国際標準及び勧告の迅速な見直しに協力する。

3.乗客の事前情報(Advance Passenger Information)に関する共通の国際標準の策定に向けて、可及的速やかに作業する。

4.テロ行為に関与していると考えられる具体的かつ重大な理由がある旅客に関し、適用可能な法律に従い、法執行機関及び他の関係機関間で、タイムリーに国際的に情報を共有する能力を向上する。

5.海上船舶に対するテロ攻撃、またはテロ活動を支援するための海上船舶の使用を阻止及び訴追するための政府の能力を改善するため、相互に、及び国際海事機関(IMO)と協力する。

6.テロ防止のための標準等の改訂に向け、IMOにおいて海上安全に関する条約、国際標準及び勧告の迅速な見直しに協力する。

7.危険性の高いコンテナの特定及び検査を行うための保安制度の策定及び実施のため、関連の国際機関と協力し、電子的な税関報告のための国際的な共通の標準を実施し、世界税関機構(WCO)において可能な限り早い段階におけるコンテナの事前情報について協議する。

8.地上大量輸送機関に対するテロ攻撃を防止し、調査し、対応するための政府の能力を向上させるために、交通保安その他の関係当局者間の協議を早急に強化する。

勧告7.テロ対策のための国内調整

 様々なテロ対策面に関与する政府機関相互間の国内における協力を強化する。

勧告8.国際協力

1.テロ行為のための資金を提供し、テロ行為を計画、支援、実行し、またはテロリストに安全な避難所を提供した者に対し、安全な避難所を拒否することを確保するためあらゆる可能な措置をとる。

2.国際法、特に難民の地位に関する条約に従い、テロリスト等により難民の地位が濫用されないよう確保する。

3.犯罪人引渡しに関する障害を特定し除去する。

4.特に出入国管理、情報共有面での措置の強化を通じ、テロ行為及びテロリストの国際的移動を防止するための強力な措置(必要な場合には立法措置を含む。)を講ずる。

5.テロ犯罪に関し、迅速かつ効果的な対応を確保するために司法共助及び法執行機関間の協力に特別の優先度を置く。

6.テロ活動に関連した資産の凍結、押収、没収のための効果的な措置を策定する。

7.政治的動機によるものであるとの主張がテロ容疑者の引渡し要請を拒否する理由として認められないことを確保する。また、テロ犯罪に関する司法共助要請への対応に当たり、政治犯であることを理由とする例外の適用を可能な限り排除し又は減らす。

勧告9.テロリズムと国際犯罪の連関

1.(a)テロリストの活動を支援し又は助長する国際犯罪に対処するため効果的な枠組みが整備されることを確保する。

 (b)テロリズムと国際犯罪の連関の実態について把握し、必要な場合にはそのような活動を壊滅し、遂行不可能にするための戦略を策定するため、情報の精査及び交換を行う。

2.アフガニスタンにおける及びアフガニスタンから出ていく麻薬の取引との闘いにおける薬物対策支援を調整し、アフガニスタンの周囲の安全地帯を強固なものとし、この地域における国連薬物統制計画(UNDCP)のプログラムの効率性を最大化するためのUNDCP及びそのドナー国の努力を支持する。

勧告10.非G8諸国に対する働きかけ

1.国連安保理決議1373、12の国連テロ防止関連条約、ローマ・グループの勧告、国際犯罪に関するG8勧告を実施するためのテロ対処能力の向上を目的として、G8相互間で及びG8内の他の機関や地域機関と連携しつつ、G8以外の国に対し技術支援を含め働きかけを行う。

2.適当な場合には、そのような働きかけを促進するためのベスト・プラクティスを策定し、テロ対処能力の向上及び他国への働きかけにおいて国連安全保障理事会テロ対策委員会(UNCTC)と緊密に協力する。

3.国際機関及び市民社会と協力しつつ、テロ行為又はテロを行うとの脅迫が相応の刑罰を伴う重大な犯罪であることについて、全ての個人の認識を高めるための追加的な措置を策定する。