データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 万人のための教育への新たな焦点(第28回主要国首脳会議)

[場所] カナナスキス
[年月日] 2002年6月26日
[出典] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/kananaskis02/index.html
[備考] 仮訳
[全文]

 2000年4月、国際社会はセネガルのダカールに集まり、その10年前にジョムティエンにおいて取り組まれた重要な課題である「万人のための教育(EFA)」の達成に向けた進展について評価を行った。国際社会は、以下の6つの包括的な目標を追求することでコンセンサスに達した。

−就学前児童の福祉及び教育の改善

−2015年までに全ての子どもが良質の無償初等義務教育を受け終了できるよう確保

−生活技能プログラムへの公平なアクセスを確保

−2015年までに成人識字率の50%改善を達成

−2005年までに初等中等教育における男女格差を解消

−教育の全ての側面における質の向上

 我々は、2001年7月のジェノヴァ・サミットにおいて、これらの目標を達成することを支援するとのコミットメントを再確認し、2000年ミレニアム宣言に盛り込まれている国際開発目標にも掲げられた2つの目標、すなわち初等教育の普遍化(UPE)及び女子の平等な教育へのアクセスの達成に特に重点を置く。我々は、高級実務者からなるタスクフォースに対し、開発途上国、関係国際機関及び他の関係者と協議し、これらの目標の達成に向けてG8がいかに最善の支援を行いうるかを提案するよう委託した。タスクフォースの作成した報告書を添付する。我々は、その結論を歓迎し支持する。

G8教育タスクフォース報告書(仮訳)

なぜ万人のための教育か

 教育は、生活水準の向上及び民主的な社会の基礎である。教育は、平和及び開発に対する重要な長期的投資である。我々は、識字能力、計算能力及び学習の重要性、並びEFAイニシアティブへの我々の支持を再確認する。

あまりにも多くの人々が教育を受けていない

 世界中で、1億人以上の子どもたちは学校に通っておらず、そのうち60%が女子である。子どもの4人に1人は、5年間の基礎教育を修了できない。10億人近くの成人が非識字者である。これらの人々のほとんど全ては開発途上国で生活している。HIV/エイズや激しい紛争がこの問題を複雑にしている。

我々自身が掲げた目標が危機に晒されている

 30ヶ国以上において、2015年までに初等教育を普遍化するとの目標に向けた取組が軌道に乗っていない。現在の傾向が続いた場合、2015年時点で未就学児童の75%はアフリカの子どもたちとなる。しかし、就学だけでは十分ではない。基礎的な識字能力及び計算能力のためには、少なくとも5年間の良質な学校教育が必要である。良質な初等教育の修了は成功の指標であるが、90ヶ国近くの国においては、これを達成するための取組みが軌道に乗っていない。

また35ヶ国において、2005年までの初等、中等教育レベルにおける男女平等という目標を達成するための取組みが軌道にの乗っていない。

行動すべき時が到来した

 EFAが直面している課題について検討した結果、我々は以下の結論に達した。

−開発途上国のコミットメントの必要性

−先進国に求められる対応

−評価の向上の必要性

第一歩は開発途上国のコミットメントである

 国レベルの政治的コミットメント、十分な国内資金の供給及び健全な教育戦略の策定は、EFAを達成する基礎である。

政治的コミットメントは前提条件である

 初等教育の普遍化を達成した国あるいは着実な進捗を示している国において、成功は、初等教育を最優先課題に据えた、強力な政治的リーダーシップ、良い統治、透明性、及び貧困撲滅に対する明白なコミットメントによるものであった。このコミットメントは、国から地方レベルに至るまでの透明性を有する予算及び効果的な公共支出管理システムに反映され、資金が教室レベルにまで達することを確保し、地域の参画と説明責任の基礎を提供している。

資金コミットメントは十分でなければならない

 開発途上国は、UPEを達成するために、国内で得られた資金の相当な割合を教育に充てる必要がある。世界銀行の調査によれば、5年間の初等教育の普遍化の達成に向けて軌道に乗っている国は、通常予算の約20%を教育に支出し、その半分を初等教育に充てている。

国家教育計画はアクセス、平等及び質の問題に対処しなければならない

 健全な教育計画の策定と実施の責任は、開発途上国政府になければならない。これらの計画の持続可能性は、その国のより広範な貧困撲滅戦略に計画が統合された場合に高まる。地域社会、民間教育機関及びNGOは、教育計画の策定及び実施に真剣に関与すべきである。

・国家教育計画は万人のための教育アクセスに対処すべきである。しかし、女子に対して特別な注意が必要である。

 あまりにも多くの国において、女子教育の改善は優先事項となっていない。男女間で著しい格差のあるすべての国の教育計画には、女子の教育に対処する特別な措置が含まれる必要がある。これらの措置の質が、その国の教育計画の信頼性の重要な決定要素となるべきである。国連児童基金(UNICEF)及び他の国連機関による女子の教育アクセス及び男女平等促進のための取組は支持されるべきである。

・不利な立場にある児童のための措置が国家教育計画に盛り込まれるべきである。

−エイズの影響を受けている児童:現在、エイズ孤児の数は1,300万人を超え、2010年には3,500万人に達すると予測されている。エイズ孤児をとりまく事情は特殊なため、創造的かつ時には独自の解決策が必要である。コミュニティ・グループは重要な役割を果たしうる。

−就労児童:約3億人の少年少女が就労していると推測される。一部の就労児童については、学校外教育が学習機会を与える一つの手段である。最悪な形態の児童労働をなくし、就労児童を正規の学校に通わせるため、更に多大な努力が必要である。我々は、この点に関する国際労働機関の取組を賞賛する。

−特別な配慮を要する児童:教育は全ての児童を対象とすべきである。すなわち、特別な配慮を要する児童も正規の教育システムから排除されるべきではない。現在開発途上国においては、障害を有する児童の2%未満しか正規の教育システムに参加できていない。

−紛争被災児童:戦争に引き裂かれた社会や紛争後の状況の下にある児童の特殊事情に対処するために、児童兵の社会復帰を含め、特別な取組が必要である。

−地方の児童:平等及び幅広い支持に基づく開発目標を達成するためには、コストが比較的高くなると

しても、地方における初等教育の提供に関心を払う必要がある。

・質の改善は不可欠である。

 国家教育計画は結果に焦点を当てるべきである。児童は、単に低学年に就学するだけではなく学校を修了する必要がある。より良い指導方法、改善されたカリキュラム、適正なクラスの規模は、中退や留年の高い割合を減らすために極めて重要である。多くの国においてそれが可能となるのは、教師の給与が、その国の経済に応じ、UPEの達成に向けて軌道にのっている国のレベルにまで近づけられた場合のみである。

 教師の訓練プログラムは、アクセスと質の間のトレード・オフの最小化に貢献しうる。技術も貢献しうる。つまり、情報技術の適切な活用を通じた教師の訓練拡大にはかなりの期待ができる。デジタル・オポチュニティー作業部会は、教育における技術の役割拡大を支援する上で貴重な作業を行っている。

 国家教育計画の質は、初等、中等教育と高等教育及び職業訓練のプログラムが互いに補完し強化しあうときに高められる。

・HIV/エイズが教育制度に与える影響に対処すべきである。

国家教育計画は、HIV/エイズが教師及び学校運営に与える影響を認識し、これに対処しなければならない。最も影響を受けている国の中には、教師の数の20%から60%をHIV/エイズのために追加的に採用しなければならないところもある。教師への影響を含め、HIV/エイズが教育の供給、需要及び質に与える影響に途上国が対処することを助ける技術支援は、こうした戦略に重要な貢献をすることができる。

 一国の教育制度は、この病気の危機的な広がりに対処し、最終的にはこれを押さえ込むよう人々を教育する上で、建設的な役割を果たすことができる。教師は、予防の重要性を強調する上で重要な役割を果たすことができる。こうした状況においては、教師の適切な訓練が極めて重要である。

健全な教育計画を策定し、十分な資源を供給する責任は、開発途上国政府にある。政治的コミットメントと透明な予算が不可欠である。

開発途上国は、初等教育普遍化の達成に向けて軌道に乗っている国と同水準の資源の配分を初等教育に対して行うべきである。

国家教育計画は、包括的で、アクセス、公平性及び質の問題に取り組み、全体的な教育政策に初等教育を統合すべきである。

先進国の対応

 EFAを達成するには、現場における支援の効果的な実施、健全な政策を有する国に対する資金支援の増加及び支援の予見可能性、並びに国際社会を組織する一貫したプロセスが必要である。

現場での効果的な対応

 開発協力は、国の貧困削減戦略、及び同戦略の中に位置づけられる教育などの分野のセクター・ワイド・プログラムにより、ますます推進されるようになりつつある。こうしたセクター・アプローチは、開発途上国のリーダーシップの下、より調整されたドナーの支援を必要とするが、好ましい開発成果が得られる可能性を大幅に改善する。

我々は、開発途上国の戦略を支援するために、現場での活動を調整する責任を有している。我々は、その国自身の貧困削減戦略を、我々の活動を調整するための好ましい枠組みと考える。

我々は、セクター・ワイド・アプローチが、効果的な国家教育計画の文脈において、成果を向上させる可能性を有することを認識する。

我々は、援助の有効性及び効率を高めるために、調和された実施手続きの開発を加速することを支持する。

我々は、良い統治が行われ効果的で透明な財政管理制度を有する国々の行政負担を一層軽減するために、一部のドナーが資金をプールし、又は財政支援を行っていることに留意する。

EFAに対する資源の解放

 2000年4月、G8諸国の政府はダカールにおいて、「万人のための教育に真剣に取り組んでいる国々が、資金不足により、その目標の到達ができないということがあってはならない」ことで意見の一致をみた。

 2002年3月、国際社会の指導者達は、相互の責務と説明責任に基づく先進国と開発途上国の間の新たなパートナーシップを確立したモンテレー・コンセンサスを支持した。モンテレー・コンセンサスは、先進国の更なる貢献と開発途上国の一層の責任を結びつけることにより、建設的で測定可能な開発成果への展望を提供している。

 モンテレーは、また、貧困緩和にコミットする国に対し新たな資金を提供する可能性を示唆した。G8諸国は、他のドナーとともに、健全な政策を実施する国への資金援助を大幅に増加することを発表した。これらの資金は、教育セクターに対し相当な途上国の資源を既に解放した重債務貧困国(HIPC)イニシアティブを補完する。

 2002年4月、世銀・IMF合同開発委員会は、EFAに向けた進展を加速するために世界銀行が準備した行動計画を支持した。この計画は、EFAのための資源の圧倒的大部分が、途上国自身により賄われるべきと認識している。しかしながら、行動計画は、EFAを達成するには、外部から相当額の追加的資金も必要であると結論付けている。この支援の大部分はアフリカにおいて必要とされる。

 行動計画の中核は、教育への強い政治的コミットメントを示し、効果的な公的支出管理制度を有する国々を「ファースト・トラック」に乗せるとの提案である。これは、モンテレー・コンセンサスを行動に移し、EFAを進める重要なイニシアティブである。我々は、一人の子どもも取り残されないよう対応すべきである。

我々は、基礎教育は高い経常費用を要することを認識する。

我々は、確固とした政策及び教育分野への資金的コミットメントを有している国に対する、二国間援助機関を通じた基礎教育への支援を大幅に増加する。G8の各ドナーはこのコミットメントを履行するためにとる措置を公表する。

この点に関し、我々は、世界銀行の「ファースト・トラック」提案は、「万人のための教育」にコミットし信頼できるパフォーマンスを示す国に対し資金を動員するための歓迎すべき第一歩であると考える。我々は、初等教育普遍化を達成するために作業するにあたって、世界銀行が最近公表した「ファースト・トラック」国のリストを十分に考慮する。

我々は、世界銀行と地域開発銀行に対し、教育と男女平等にコミットし、高い管理能力を既に示したか、管理能力の著しい向上を示している国に対する追加的な支援を行うよう求める。我々は、これらの機関の理事会において、こうした立場を踏まえて対応する。

我々は、未就学の人口の多い国に特に焦点を当てつつ、支援の拡大をまだ受けることができない開発途上国の能力を向上させるための現在の努力を強化する。

我々は、紛争から脱しつつある国の教育制度の再建を加速する。

より一貫性のある国際プロセス

 国際的なレベルでは、多くの機関が、EFAの支援のために活動している。世界銀行及びユネスコは、おそらく最も重要な2つの機関である。

 世界銀行は、現在、2002年4月の合同開発委員会において国際社会から得られた強い支持を受けて、EFA行動計画を積極的に進めている。

 ユネスコは、EFAの政治的モメンタムを維持することを目的として、閣僚並びにNGO、機関及び開発途上国の代表からなるハイレベル・グループを毎年召集するなど、引き続き、ダカール会議で要請された調整の役割を果たしている。

我々は、EFAプロセスを進めるにあたり、世界銀行及びユネスコが一層緊密に協力することを支持する。さらに具体的には、我々は以下を提案する。

・「万人のための教育」に関するユネスコ・ハイレベル・グループは引き続き毎年会合を行い、「万人のための教育」に対し広範な政治的方向性を与え、そのモメンタムを維持する。

・次回ハイレベル・グループ会合の直後に、支援国会合を開催し、ドナーが関心を払うべき問題点を明らかにする。

・「万人のための教育」に向けた地球規模の進展に関するモニタリング・レポートはますます質を高めているが、上記両会合は、それぞれの作業において、このレポートのデータおよび分析を利用する(以下参照)

評価及びモニタリングを改善する必要がある

 利用可能な最良の情報及び分析に基づいた、質の高い独立した年次モニタリング・レポートは、EFAプロセスにとって不可欠である。EFAの進展を測り、最善の慣行を明らかにし、結果への説明責任を確保するために用いられている現行の評価手段の強化が必要である。

 ユネスコ統計研究所(UIS)及び世界銀行を含む主要機関は、教育に関する統計の質、タイミング及び管理を向上させるため、並びに年次モニタリング・レポートを改善するために、協力して作業している。モニタリング・レポートには、世界銀行、ユネスコ統計研究所、開発途上国及びその他の情報源から提供されるデータを利用していく。

 開発途上国においては、生徒の出席率及び成績に関するデータの収集、処理、分析能力にばらつきがあり、しばしば不十分なため、多大な努力が必要である。国内における統計の収集及びキャパシティー・ビルディングのための長期的イニシアティブに対する政治的支持を強化することが不可欠である。

我々は、ユネスコ統計研究所及び世界銀行に対して、各国の政府、世界銀行及びその他の情報源から入手可能な最良のデータに基づき、質の高い年次モニタリング・レポートを作成する努力を継続するよう求める。

モニタリング・レポートは、ハイレベル・グループ及び支援国会合において国際レベルの行動を調整する際の基礎となるべきである。

我々は、教育統計に関する活動に従事する国際機関に対し、途上国への負担を最小限にし、教育データの質及び整合性を改善するために、機関間の調整を進めることを奨励する。

信頼できる評価及び分析のシステムは、「万人のための教育」の真の進展にとって極めて重要である。ドナーは、開発途上国が必要とする制度的な能力を構築することを支援すべきである。