データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 議長総括(第29回主要国首脳会議)

[場所] エビアン
[年月日] 2003年6月3日
[出典] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/evian_paris03/gsoukatu_z.html
[備考] 仮訳
[全文]

 我々は、我々の共同の努力を通じて、成長を促進し、持続可能な開発を高め、安全確保を向上させるという課題に対処できると信じて、エビアンにおいて年次サミットのために会合した。我々の、新興市場国及び開発途上国(アルジェリア、ブラジル、中国、エジプト、インド、マレーシア、メキシコ、ナイジェリア、サウジアラビア、セネガル、南アフリカ)の指導者及びスイス連邦大統領、並びに国際連合、世界銀行、国際通貨基金(IMF)及び世界貿易機関の長との議論は、成長及び国際協力に関する意見交換の良い機会を提供した。我々の将来の作業を支える新たな提案が示された。以下が我々の議論の要約である。

1.世界的な成長の強化

・マクロ経済、構造改革、貿易及び責任ある市場経済

 我々の経済は多くの課題に直面している。しかしながら、主なダウンサイド・リスクは後退し、回復のための条件は整っている。我々は、我々の経済の成長の潜在能力に自信を持っている。我々は、貿易に関する行動計画に反映されているとおり、ドーハ開発アジェンダに示された目標及び全体のタイムテーブルを達成するため、並びに国内的かつ対外的な持続性を確実なものとしつつ成長を支える健全なマクロ経済政策を実施するため、多数国間協力に対する誓約を再確認する。我々の共通の責任は、我々の経済の成長を高め、より力強い世界経済に貢献することにある。

 この貢献は構造改革及び柔軟性により強く依存するものであるので、我々は以下の約束を再確認する。

− 労働、財、資本の各市場の構造改革を実施すること。

− 我々は高齢化社会という共通の課題に直面しており、年金・保健改革を実施すること。

− 教育及び生涯学習を通じて、並びに企業家精神が栄えるような環境を作り出し、競争を助長し、知識と技術革新に対する公的・民間投資を促進することによって、生産性を向上させること。

− コーポレート・ガバナンスを改善し、市場の規律を高め、透明性を拡大することによって、投資家の信頼を強化すること。

− 透明性を改善し腐敗とより効果的に戦うための、採取産業に関する具体的なイニシアティブを含む具体的な行動を伴う、成長の促進と責任ある市場経済の増進に関する我々の宣言の原則。

・国際金融危機の予防と解決

 我々は、新興成長市場における民間投資の持続条件を改善するために、国際金融危機の予防と解決の国際的な枠組みを強化する上で昨年達成された進展を歓迎する。IMFは、そのサーベイランスをより包括的で、独立した、説明責任を果たし、かつ透明なものとすることによって、サーベイランスを改善し続けるべきである。IMFはまた、国の債務のリストラに一般的に関連のある問題について、作業を続けるべきである。我々は、公的な資金の供与において、改善された規律を行使する。

 我々は、集団行動条項に関し、いくつかの国により既に実施された具体的な進展に基づき、その早期かつ幅広い採択の促進を約束している。我々は、行動規範の発展に関して、債券発行者、民間部門及び我々の事務当局によりとられているイニシアティブを歓迎する。我々は、その進展を期待する。

 我々は、非HIPC諸国の債務問題に対応するために新たに作られたパリクラブのアプローチについての財務大臣による合意を歓迎する。我々は、債務のリストラが最後の手段であることを確保しつつ、このエビアン・アプローチが債務の持続可能性の問題に、より決定的に取り組むことを期待する。

 我々は、国際金融危機の予防及び解決のための国際的な枠組みを強化する現在進行中の努力の結果に期待する。

2.持続可能な開発の増進

 我々は、以下の分野における、国際的に意見の一致を見た、ミレニアム開発目標及びヨハネスブルグ(持続可能な開発に関する世界首脳会議)の開発目標の実施に焦点をあわせた。

・アフリカ

 アルジェリア、ナイジェリア、セネガル及び南アフリカの大統領、NEPAD(アフリカ開発のための新パートナーシップ)運営委員会の代表国の指導者との我々の会合は、アフリカの開発に貢献したいとの我々の共通の意欲を示すものである。我々は、我々のアフリカ個人代表により準備された報告書を是認した。我々は、NEPADとG8アフリカ行動計画について、ほかのアフリカ指導者との間で対話を拡大することに合意した。我々は、このパートナーシップに関心のある国及び関係する国際機関が加わるよう、高級代表を指名することを求める。我々は、遅くとも2005年に、報告書をもとに我々の行動計画の進捗状況を見直す。

・飢餓

 多くの人々が、特にアフリカにおいて、直面している脅威を軽減するために、我々は、緊急食糧援助のニーズに対応することを約束し、飢餓を防止するための制度及び長期的な食糧安全保障を改善するための方途について意見の一致を見た。

・水

 我々は、京都における世界水フォーラムに引き続き、きれいな水と衛生施設を利用できない人々の数を2015年までに半減するという、ミレニアム目標及びヨハネスブルグの目標に応えることに役立てるため、行動計画を採択した。

・保健

 我々は以下の手段に合意した。

− 特に、この7月にパリで開催される援助国・機関及び支援者の会議への積極的な参加を通じ、世界エイズ・結核・マラリア対策基金並びにその他の二国間及び多数国間の努力を強化する。

− 貧困国において、負担可能な価格での薬品及び治療など保健医療の利用可能性を改善する。

− 主に開発途上国に影響を与える疾病に関する研究を奨励する。

− 2005年までにポリオを根絶するために必要な更なる資金を動員する。

− SARS(重症急性呼吸器症候群)のような新しい流行病に対する国際協力を増進する。

・開発のための資金

 我々は、地球規模の貧困の問題に取り組むとの我々の約束、並びに、ミレニアム開発目標及びモンテレイ・コンセンサスに対する我々の支持を再確認した。我々は、これらの野心的な目標を達成するためには、資金の拡大を含め、先進国、開発途上国双方から相当な努力が必要とされるであろうということに留意した。我々は、資金の拡大及び資金調達手段についての財務大臣の議論に関する報告を歓迎した。我々は、財務大臣に対して、新たな国際金融ファシリティについての提案を含め、資金調達手段に関する問題についての報告を9月に行うよう求める。

・債務

 我々は、ケルン・サミットで発足した重債務貧困国(HIPC)イニシアティブに対する我々の約束を再確認した。我々が、最大10億ドルの資金不足に対する我々の負担分を拠出することを約束したカナナスキス以来、HIPCイニシアティブの実施については進展が続いている。世界で最も貧しい26カ国は、名目額で600億ドル以上に達する債務救済の恩恵を受けている。しかしながら、実施上の課題及びイニシアティブにおける各国の進展の遅さに鑑み、我々は以下の優先分野を明確にした。

− 適格国がHIPCのプロセスの完了のために必要な手段をとることを奨励し支援するために、財務大臣は、IMF及び世界銀行に対して、次回のその年次会合までに、各国の特定の障害及びその障害に取り組む必要のある手段を特定するよう要請した。

− すべての公的及び商業的債権者がこのイニシアティブに参加することに同意しているわけではない。我々は、IMF及び世界銀行に対して、すべての債権者の完全な参加を確保する努力を強化するよう促した。訴訟に関する問題を扱うためにさらなるオプションが探求されるべきである。

− 我々は、2002年10月にパリにおいて得られた8億5000万ドルのプレッジによる、HIPC信託基金において想定される資金ギャップをうめるためのカナナスキスでの我々の約束を実現する方向での進展を歓迎した。我々は、信託基金の資金ニーズの監視を続ける。

− 我々は、HIPC諸国の債務の継続的な持続可能性を確実にするとの目的を再確認し、これらの国は完了時点に達していたとしても外的な衝撃に対しては脆弱であることに留意した。この文脈で、我々は、財務大臣に対して、9月までに良い統治を促すメカニズム及び最新のコストの見積もりに基づいた完了時点到達国が利用できる債務救済の追加額の計算方法を見直すよう要請した。低所得国に対して一次産品価格の変動が与える影響について取り組むために、市場に基礎をおいたメカニズム及びそのほかの効果的な方法が研究されるべきである。

・電子政府

 我々は、開発途上国における効率性と透明性を促進する電子政府モデルの取組を歓迎し、受益国の数を拡大するよう取り組む。

・人間の安全保障

 我々は、国際連合事務総長に対して提出された、人間の安全保障委員会の報告書に留意した。

・持続可能な開発のための科学技術

 我々は、いかにすれば最も良く持続可能な開発のために科学技術を使うことができるかについて、3つの分野に焦点を当てた行動計画を採択した。

− 地球観測

− よりクリーンで、効率的なエネルギー並びに大気汚染及び気候変動との戦い

− 農業及び生物多様性

 我々のうち京都議定書を締結したものは、同議定書を発効させる決意を再確認する。

・森林の違法伐採

 持続可能な森林経営の観点から、我々は、違法伐採の問題に取り組むための国際的な努力を強化するとの決意を確認した。

・海洋環境とタンカーの安全

 我々は、海洋資源の過度の開発による脅威を軽減し及び海洋の安全を促進するための行動計画を承認した。

・原子力安全

カナナスキスにおける我々の声明に従い、民生用原子力技術の安全で信頼のおける利用を促進するために、我々はG8原子力安全セキュリティ・グループを立ち上げ、その所掌と我々がそれぞれ共有する基本原則を採択した。

3.安全確保の向上

 テロリズム対策について、世界的に賞賛すべき進展が達成されている。しかしながら、我々は、テロリスト・ネットワークの脅威が残っていること、いくつかの国における大量破壊兵器の拡散の課題、並びに未解決の紛争が世界に与える平和と安全に対する危険について、懸念をもって留意する。

・不拡散

 我々は大量破壊兵器の拡散についての宣言を採択し、放射線テロリズムの防止及び放射線源の安全確保についての行動計画を是認した。

・テロリズム

 我々は、世界中でテロリスト集団と戦うために、テロへの対処能力向上に関する行動計画を採択し、国連テロ対策委員会(CTC)を支援すべく、テロ対策行動グループ(CTAG)を創設した。テロと戦う最も良い方法の一つは、テロを支援する資金の流れを食い止めることである。我々は、財務大臣に対し、進展を評価し、次の手段を特定するよう指示する。強化された協力を構築するため、我々は、閣僚に対し、9月のドバイにおける次回会合において、その金融機関が公式であれ非公式であれ、そのような資金供与の経路としての役割を果たし得る国も含めてそのほかの国のカウンターパートとの対話を開始するよう求める。

・交通保安と携帯式地対空防衛システム(MANPADS)の管理

 公衆交通に対するテロ行動の危険性をさらに削減するため、我々は、カナナスキスで意見の一致を見た手段の実施について見直し、航空及び海上交通の安全についての新しい取組を行うことを決定した。我々は、民間航空に対するMANPADSの使用を防止するための行動について意見の一致を見た。

・グローバル・パートナーシップ

 我々は、テロリストまたはそれを匿う者が、大量破壊兵器を入手することを防止するとのカナナスキスでの約束を再確認した。このために、我々は、昨年発足した大量破壊兵器及び物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップの実施状況を見直した。我々は、これまで得られた進展を歓迎した。我々は、以下に向けての我々の努力を持続し拡大することを決意している。

− 10年間で200億ドルを上限に資金調達するとのカナナスキスでの約束を果たすこと。

− 具体的かつ価値のある事業を開発し開始すること。

− 「指針」を完全に実施すること。

− 新たな国に対してこのイニシアティブを開放すること。 このために、我々はグローバル・パートナーシップに関する行動計画を是認した。

・小型武器

 我々は、2003年7月にニューヨーク国際連合本部で開催される、来たる小型武器の非合法取引に関する国際連合小型武器中間会合を歓迎した。

4. 地域問題

・イラク

 我々は、国際連合安全保障理事会決議第1483号の全会一致の採択を歓迎し、今や平和をうちたてイラクを復興させる時が来たとの確信を共有するものである。我々が共有する目標は、近隣国と平和状態にあり進歩への道を確実に歩む、完全に主権を有し、安定しかつ民主的なイラクである。我々は、イラク復興についての国際会議のための準備会合に関して国際連合によりなされた発表を歓迎した。

・イスラエル及びパレスチナ

 我々は、パレスチナ及びイスラエルによる、四者によるロードマップの承認を歓迎し、その実施を共同で支援するとの我々の決意を強調した。我々は、シリア及びレバノンも含めた包括的な平和的解決に至ることが望ましいことについて議論を行った。我々は、我々の関係閣僚に対し、中東和平プロセスの枠組みの中で、民間投資へのてこ入れを含めて、パレスチナ経済の再活性化及び復興のための計画を支援するために必要な手段について、可能な限り早く検討を行うよう任務を与えた。

・北朝鮮

 我々は不拡散に関する我々の宣言において北朝鮮の核問題を取り上げた。我々は北朝鮮の核問題及び拉致など未解決の人道的問題を含むその他の問題に対する包括的な解決を平和的な手段によって追求する様々な関係者の努力を支持する。我々は、また、韓国により追求されている平和繁栄政策を支持する。

・アフガニスタン

 我々は、カルザイ大統領の移行政権への支持を確認した。我々は、ボン・プロセスがその精神と実質の双方において完全に実施される必要があることを再確認した。我々は、治安状況について依然として懸念を持つことを表明した。アフガニスタンからの麻薬密輸と戦うために、我々は、アフガン国家麻薬戦略の完全なる実施、及び、麻薬ルートに関する会議において5月22日に国際連合により提案された「パリ合意」を支持する。

・イラン

 我々は、不拡散に関する宣言の中で、イランの核計画の進んだ状況が拡散に及ぼす影響について取り上げた。

・アルジェリア

 我々は、先般壊滅的な地震に見舞われたアルジェリアの人々に対して、深い同情の意を表した。我々は、緊急人道支援を行い、また、この状況の資金面での影響に対処するために、アルジェリアの復興の手助けとなる最良の方途につき1ヶ月以内に報告することを関係閣僚に指示する。

・ジンバブエ

 我々は、ジンバブエ当局による国民に対する一層の暴力に関する報告について懸念している。我々は、平和的なデモを行う権利をジンバブエ政府が尊重することを要請した。NEPADパートナーシップの基本的な原則に基づき、我々は、この危機の平和的解決及びジンバブエ国民にとっての繁栄した民主主義的な将来を促進することに、他のアフリカの国々が貢献することを歓迎する。

◇◇◇

 我々は、2004年に次回のサミットを主催するとの米国大統領の申し出を歓迎した。