データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] テロと闘うための国際的な政治的意思及び能力の向上:G8行動計画 (第29回主要国首脳会議)

[場所] エビアン
[年月日] 2003年6月3日
[出典] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/evian_paris03/terro_z.html
[備考] 仮訳
[全文]

1.概観:能力向上の死活的必要性

2001年9月11日の米国におけるテロ攻撃以来、国際社会は団結して国際テロリズムと闘ってきた。しかし、インドネシア、ケニア、モロッコ、パキスタン、フィリピン、ロシア、サウジアラビア、チュニジア、イエメンなどこの一年の一連のテロ事件に見られるように、テロの脅威は依然として深刻である。

テロの防止及び根絶のために、9月11日以降、G8及びその他の国々は、自国のテロ対策措置の強化に成功してきた。また、アフガニスタンにおける連合軍の作戦も、アル・カーイダ関係者の逮捕やそのほとんどの訓練キャンプの破壊により、一定の成果を達成した。しかし、アル・カーイダの残党は世界中に散らばり、依然として、地球規模のネットワークを維持している。ネットワークを破壊し、国際社会の安全を確保するため、いかなる場所においても、テロリストに安住の地を与えることを絶対に拒否することが重要である。この目的のため、G8がより強固な国際的意思を構築し、テロ対策の協力の分野で各国に対する働きかけの活動に取り組み、同時に、テロと闘うために不十分な能力しかない国々に対して能力向上のための支援を提供することが重要である。

G8各国はこれまでそれぞれの優先度に従って、各国がテロ対策の措置を強化することを奨励し、能力向上のための支援を実施してきた。各国が支援を最も必要とする分野に対してG8の支援が選択的かつ効果的に行われるとともに、G8による支援の重複を可能な限り避けるためにも、今や、G8は、テロ対策のための働きかけの活動及び能力向上のための共通の計画をもつことが必要である。

2.能力向上のためのG8戦略

テロに成功裡に取り組む能力を向上させるためには、テロ対策活動についての3つの主要な分野に焦点を置く必要がある。第一に、テロリストに対し、テロ活動を行うための実行手段を与えないことである(例えば、テロ資金供与を防止することや、偽造文書及び兵器に対する拒否)。第二に、テロリストに安住の地を与えることを拒否し、テロリストが訴追され若しくは引き渡されることを確保することである(例えば、テロ防止関連条約や議定書の締結を加速化することや、テロリストの入国を拒否すること、及び法執行機関を強化すること)。第三に 、テロに対する脆弱性の克服である(例えば、国内の保安措置、危機管理及び被害対処能力の強化)。世界の平和と安全のため、開発途上国を含む全ての国が、このような能力を強化することが必要不可欠である。このような活動は、良い統治、法の支配、人権及び司法改革を強化する取り組みや、テロの出現に寄与する要因の分析を補完するものとみられるべきである。

能力向上を支援するための措置として、我々が研修員を受け入れ、専門家を派遣し、あるいは被援助国から要請された機材を提供することが考えられる。この観点から、潜在的な能力向上支援の幅広い分野は以下の通りであり、G8各国が、そのノウハウを最大限活用し、それぞれの能力に応じて貢献することが重要である。各分野において、法、手続、規制を実施するための研修と支援を確保するための努力が追求されるだろう。国際テロ対策委員会(CTC)において概略を示された能力向上の支援の分野は以下を含む。

・テロ対策の法制−テロ活動に関連する条約、議定書及び決議を国内的に実施するための法制の整備に関する支援。

・金融法制と実施−テロ資金供与を犯罪化し、資産を押収及び凍結するような法制、規制、実施規範の起草及び執行に関する支援。

・税関法制と実施−国境管理の確立に関する法制の起草及び執行に関する支援。

・入国管理法制と実施−渡航文書及び亡命/難民の地位の付与のための標準を含む入国管理に関する法制の起草と執行に関する支援。

・引き渡し法制と実施−引き渡しに関する二国間及び多数国間の協力を実施する法制の起草に関する支援。

・警察と法執行−テロ対策のための法執行手続の策定、及び国家警察力がテロに対処するともにテロ対策に関与する違法な麻薬の密輸及び組織犯罪に対処するための支援の提供。

・輸出管理と不法武器取引−法制の起草とテロリストによる兵器の入手を防止する手続の策定に関する支援。

・国内保安措置−適切な危機管理及び被害対処の手法、航空と輸送の保安措置、重要インフラの防護措置の策定と実施に関する支援。

3.G8行動計画:テロと闘うための国際的な政治的意思及び能力の向上

3.1 G8は以下を通じて国連安全保障理事会テロ対策委員会(CTC)を支援する。

・CTCに十分な人員配置が行われることを確保すること。

・国連安保理決議1373の下の義務を履行するために必要な支援を調整するために、国、地域、分野に優先順位をつけること。

・各国が国連安保理決議1373の義務を履行すべく、G8として支援し奨励する特定の方法の概略を示すこと。

・関連する国際的な最善の慣行、規範、及び標準を特定することについて、CTCとともに作業すること。

・財務大臣がテロ資金対策のための措置を調整する手段を支援すること。また、財務大臣が、金融活動作業部会(FATF)及び国際金融機関(IFIs)とともに、テロ資金供与、能力向上、及びこれらの機関が行う評価及び支援の取組におけるその他のテロ対策の目的に対処すべく作業する手段を支援すること。

3.2 この目的のため、G8はテロ対策行動グループ(CTAG)を創設する。

・G8は、政治的意思の向上、及び必要な場合に能力向上支援の調整を行うことに焦点をおくため、テロ対策行動グループを創設する。各国、主として援助国は、このグループへの参加を招請される。CTCの代表はCTAGの会合に招待される。関連する国連機関、IFIs、及びその他の地域的又は専門機関の代表は、関連する会合に招待される(第1回会合は7月15日までに開催される)。

・CTAGメンバーは資金、専門技術或いは研修施設を提供する。CTAGメンバーは専門性を有する分野及び国家に活動の焦点を絞る。

3.3 CTAGは、以下の作業によって、需要の分析と優先付けを行い、テロ対処能力向上のための支援を拡大する。

・能力向上のための支援に対する要請を再検討し、要件を分析し、需要を分析すること(10月15日までに開催される第2回CTAG会合までに)。

・CTAGメンバーが実施した需要評価ミッションについてできる限り情報を交換すること。

・受入国政府や能力向上のための支援に責任をもつ現地当局者の参加を得て、優先的な被援助国におけるCTAGメンバーによるミッション間の調整会合を開催すること。

・テロ対処能力向上のための支援とその調整の増加を追求すること(2004年サミットまでに)。

・半年ごとに、その時点での及び計画された能力向上のための支援に関する報告書を提出し、これをCTCと共有すること。

・最善の慣行と得られた教訓を共有するため、テロ対処能力の向上のための取組の成功した実施例を特定すること(10月15日までに開催される第2回CTAG会合までに)。

・いくつかの国におけるメンバー間の共同のイニシアティブを促進すること。

3.4 CTAGは以下の作業によって、地域的な支援を拡大する。

・地域的な又は援助国の提供による訓練センターを通じた実施を含む地域的な支援計画を奨励すること(2004年のサミットまでに)。

・テロ対策のカリキュラムや研修における最善の慣行に関し入手可能な情報を共有すること(7月15日以前に開催される第1回CTAG会合までに)。また様々な地域的な訓練センターが取り組むことが可能な、焦点となる重要分野を策定すること(10月15日までに開催される第2回CTAG会合までに)。

・まだ満たされていない地域的な支援の需要に取り組むべく努めること(2004年のサミットまでに)。

3.5 G8は、以下の作業によって、第三国、地域的及び専門機関に対する働きかけの努力を増す。

・テロ防止関連諸条約・議定書未締結国に対し、締結を促進し、必要な措置の国内的実施を加速するためのG8のデマルシュを継続して実施すること。

・条約締結の有益性を共有し、履行のための技術的な知識を伝達するための専門家会合やセミナーを通じ、二国間であるいは共同で働きかけを行うこと。

・2003年3月6日のCTCと地域的機関との間の会合の基礎の上に、その長所を強調し取組の重複を避けるような、地域的及び専門的機関の特別な役割と責任を特定すること。

・地域的及び専門的機関に対し、参加国による安保理決議1373実施促進の働きかけにより積極的になるよう要請すること。

・地域的及び専門的機関に対し、決議1373の実施に向けた最善の慣行、規範、標準を策定するよう促すこと。

・世界税関機関、国際民間航空機関、国際海事機関のような国際金融機関や専門的機関に対し、テロ対処能力の向上のための支援の資金供与及び提供に関する相互の関心分野を議論すべくG8の働きかけを実施すること。

4.フォローアップ

G8議長国は2004年サミットに向けて報告書を作成する。