[文書名] 大量破壊兵器・物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップ:G8行動計画 及びG8高級事務レベル・グループ年次報告 (第29回主要国首脳会議)
我々が昨年のカナナスキス・サミットにおいて発表した、大量破壊兵器及び物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップは、テロリストやそれを匿う者が核、化学、放射性及び生物兵器、ミサイル、並びに関連物資、機材及び技術を取得または開発することを防止するとの目的の実現に向けて、過去一年間に重要な前進をした。
我々の確固たる約束により、重要な前進があった。
●10年間に200億ドルを上限に資金調達するとのカナナスキスでのG8諸国の約束に向け、パートナー諸国により、既に相当額が約束された。
●ロシア政府は、「指針」の実施、特に、税、関税、課徴金及びその他の負担からの支援の完全な免除の実施を確保するとの歓迎すべき決定を行った。その他の「指針」についても集中的な取組がなされてきた。
●最近のロシア連邦における多国間核環境プログラム(MNEPR)協定の締結は、グローバル・パートナーシップ・イニシアティブを具体的行動にうつす上での実質的な前進となった。
●全てのパートナー諸国は、実施すべき協力事業の決定に積極的に関与し、カナナスキスで我々が確認した優先順位に従い、いくつかの有意義な事業が既に開始されたか、または拡張された。
●非G8諸国の参加と貢献を奨励し推進するためのアウトリーチ活動が行われ、その結果、フィンランド、ノルウェー、ポーランド、スウェーデン及びスイスが資金供与国としてグローバル・パートナーシップに参加することに関心を表明した。
我々は、このイニシアティブを引き続き実施し、次回のサミットまでに実質的な前進を達成するための積極的な計画を約束する。我々の目標は、
●不拡散の「原則」の全世界による採択を追及する。
●10年間に200億ドルを上限に資金調達するとのカナナスキスの約束を、新たな資金供与国からの拠出あるいはパートナー諸国からの追加的約束により、達成する。
●実施枠組みを設定し、事業活動計画を策定し、既に実施中の事業を引き続き着実に前進させるという準備作業の上に、事業活動を実質的に拡大する。我々は向こう一年間、我々の優先順位に従って、優先順位を精査し、事業の空白や重複を避け、事業の国際的な安全保障上の目的との一貫性を評価するために、事業の開始と実施の進捗を引き続き精査し事業の調整を引き続き監督する。
●パートナー諸国の均な一待遇の必要性を念頭におき、我々の共同のアプローチを踏まえつつ、全ての実施上の未解決の問題を解決し、全ての「指針」の実際の実施を精査する。
●カナナスキス文書を採択する意志のある、関心を有する非G8資金供与国に、グローバル・パートナーシップへの参加を拡大する。ロシアにおける事業に依然として焦点をあてつつ、我々は議長に、ウクライナが既に行ったように、カナナスキス文書の採択に用意のある旧ソ連諸国を含む、新たなまたは現在の被援助国との予備的協議に入る権限を与える。
●他の機関、議会の代表及び公衆に対しグローバル・パートナーシップの重要性を周知する。
------------------------------------------------------------------------
大量破壊兵器・物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップ:G8高級事務レベル・グループ
年次報告
我々の首脳はカナナスキス・サミットにおいて、テロリストまたはテロリストを匿う者による大量破壊兵器または物質の取得を防止するための、新たな大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップを発表することを決定した。G8首脳の声明は、このイニシアティブの下で不拡散、軍縮、テロ対策及び原子力安全の問題に対処するための協力事業の分野を定めた。主たる優先事項の内、化学兵器の廃棄、退役原子力潜水艦の解体、核分裂性物質の処分、及び兵器の研究に従事していた科学者の雇用を特定した。エビアン・サミットにおいてグローバル・パートナーシップの進展を検討することが合意された。イニシアティブの進展を検討し事業を調整するために設立されたグローバル・パートナーシップ高級事務レベル・グループは、まずカナダの議長の下で、次いで2003年にはフランスの議長の下で、このイニシアティブの実施のための積極的な作業計画を実施した。グローバル・パートナーシップ活動の第一年目に、高級事務レベル・グループは、グローバル・パートナーシップ・イニシアティブを具体的事業に移すための実質的な前進を報告することが出来る。同時に、今後多くの作業がなされねばならず、高級事務レベル・グループは次のサミットの前に達成されるべき意欲的な行動計画の概略を纏めた。
過去一年間の高級事務レベル・グループの活動は、「指針」の実施と必要に応じて具体的行動と合意への転換、具体的事業の開始と進展、次の10年間で200億ドルを上限に資金調達を行うとのカナナスキスの約束に沿った資金面での貢献、パートナーシップへの参加国拡大のための非G8諸国へのアウトリーチ活動の四つの目的に焦点を当ててきた。それぞれに関し、その目標はカナナスキスの約束が実行に移されることを確保することであった。そのため、懸案となっている実施上の問題の解決、実施取決めの交渉の成功、配分された資金に基づく具体的事業の進展と開始、10年間で200億ドルを上限に資金調達を行うための各国の資金面での約束、及び第三国に対するイニシアティブへの参加とパートナーシップ事業への貢献の奨励について、決意を持って、取組が行われた。
1.—カナナスキス指針の実施
カナナスキス宣言は、事業に関する具体的な合意の交渉の基礎となる一連の「指針」を設定した。「指針」の実施が高級事務レベル・グループの主たる責務となり、高級事務レベル・グループの各会合において取り上げられた。議論の中で、高級事務レベル・グループは事業の開始を妨げている困難と障害に留意し、グローバル・パートナーシップの対象分野に入る事業に必要な二国間及び多国間合意の交渉に関して懸案となっている問題の踏み込んだ検討を行った。
免税の問題につきハイレベルの政治的決定に基づいてこれまでに見られた重要な前進を歓迎する。いくつかの二国間や多国間の合意はそのような規定を有している。しかし、これらの合意は未だ実際には試されていない。税、関税、課徴金及びその他の負担からの完全な免除は事業の成功のために不可欠であり、この分野で達成された前進は前向きであり、追求していく必要がある。
パートナー諸国にとり免責保証もまた重要な問題である。「協力に関連する賠償請求からの免責保証を資金供与国及びその人員及び契約者に対し与える」と述べる「指針」の有効な実施は高級事務レベル・グループにより頻繁に議論されてきた。それぞれの国の要件により免責保証は異なることを認識しつつ、全てのパートナー諸国は適切な免責保証が事業の実施のために不可欠であることに合意する。パートナー諸国は全ての二国間及び多国間の枠組みに適切な免責規定が盛り込まれることの必要性を強化し、この点に関する前進を歓迎した。パートナー諸国は、この点に関し資金供与国は統一的に扱われるべきであることに合意した。
「現場への十分なアクセス」に関する指針について高級事務レベル・グループが検討を行ってきた。年次リスト手続きを通じて事前通知の期限を45日から30日に短縮することにより現場へのアクセスを単純化する新たな提案は、一部のパートナー諸国は不十分と判断しているものの、過去の実行の改善と考えられている。これは来年一年間で評価されるべきである。
モニタリング、監査及び資金の使途透明性や、環境に安全な方法での事業の実施、及び事業の中間目標の実施等のその他の指針は実際の問題としては提起されていない。これら指針のいくつかは二国間取決めの中で十分に具体化されているものもある。しかしながら、高級事務レベル・グループは、これらの問題が事業の実施の課程で生ずる際に適切に対処する考えである。
高級事務レベル・グループはその検討の中で、「物資、機材、技術、サービス及び専門的知見は平和目的にのみ提供される」こと及び「資金供与国政府代表者に対し然るべき特権及び免除を与える」ことの確保に関する「指針」の重要性にも留意してきた。
一年を経て、高級事務レベル・グループは「指針」の実施に関する一定の前進を報告することが出来、この点でのロシアの努力を歓迎する。高級事務レベル・グループは、新たな事業への取組のための「指針」を実際に実施することの重要性に鑑み、この分野における努力を持続し拡張することが必要であると認識する。
2.−協力事業の進捗状況及び新たな協力のための具体的事業についてのパートナー諸国の報告
多くの具体的協力案件が具体的局面に進みつつある。例えば、化学兵器分野では、ゴルヌイの施設が完成し操業を開始し、既に400トンのイペリットを廃棄した。合意締結後、カンバルカの化学兵器廃棄施設の建設が今後数ヶ月で開始され得る。シューチェにおける神経性ガス用の化学兵器廃棄施設の建設が他の関連インフラ事業と共に開始された。これらは化学兵器の廃棄の分野の重要な成果である。イタリアとロシアが最近シューチェ化学廃棄プラントに関する追加議定書に署名したことも報告されるべきである。退役原子力潜水艦の解体は、サイダ湾及び極東ロシア地域のズヴェズダ造船所での新事業の実施並びに他の退役原子力潜水艦の解体事業の資金調達のための具体的で目に見える成果を得て新たな段階に達した。ロシアの兵器級プルトニウム生産炉停止及びロシアの核分裂性物質及び核弾頭の厳重な管理のための取組の加速に関し合意が達成され、一方で、ロシアのプルトニウム処分計画への国際的支援に関する交渉において、約束の増額及び効果的な事業管理・監督のための概念に関する相当程度の合意を含む、重要な前進を特記することが出来る。我々はこれらの交渉が妥結することを期待する。生物研究施設の安全及び保安は改善されつつある。兵器の研究に従事していた科学者の雇用に関しては、多数国間の国際科学技術センター(ISTC)の枠組みにおける取組の継続に加え、かつての非通常兵器生産施設について、市販用品の開発製造施設への転換を支援するための新たな二国間の契約が開始された。
高級事務レベル・グループは、新たな事業に関する、二国間の接触及び多国間の協議の発展を緊密に注視してきた。新たな事業を見いだし開始するための更なる取組がなされるべきである。パートナー諸国は、現場訪問や具体的技術的問題に関するセミナーを含む、専門家の会合及び意見交換の積極的計画を有してきた。ウラジオストクで開催された原子力潜水艦解体における環境の問題に関する専門家セミナー、スヴェルドヴォニスクでロシアが開催した潜水艦専門家会合、それに続き議長が主催した同じ問題に関する非公式専門家会合はその例である。化学分野の専門家も化学兵器禁止機関(OPCW)執行委員会会期の前後に、各国の事業資金調達計画及び主な必要事項について議論するために会合した。EU、米国、カナダの議長の下ブラッセルで欧州委員会が主催した軍縮不拡散協力イニシアティブ(NDCI)会議もまた、情報交換、他の諸国へのアウトリーチ及び事業の調整を促し、グローバル・パートナーシップの目的を進めた。
全てのパートナー諸国は、協力分野の認定と前進させるべき具体的事業の選定のためにロシアと集中的な二国間協議を行ってきた。ロシア側は具体的事業のリストを作成し個々のパートナー諸国に提出した。これらのリストに回答を行ったパートナー諸国は同リストについて掘り下げて検討し、他の諸国は依然事業の検討段階である。パートナー諸国は皆、グローバル・パートナーシップの分野全体に留意しつつ、カナナスキスでG8首脳が特定した優先分野(化学兵器の廃棄、退役原子力潜水艦の解体、核分裂性物質の処分、及び兵器の研究に従事していた科学者の雇用)に取り組んできた。パートナー諸国はまたロシアが特別に重視する二つの優先事項(化学兵器の廃棄及び退役潜水艦の解体)をも考慮に入れてきた。
これら全ての努力及び積極的取組にもかかわらず、高級事務レベル・グループは事業の実際の実施を期待通り迅速にかつ効果的に進めるためには、取組を持続し拡大する必要があることに留意する。
3.資金貢献
G8首脳達はカナナスキスにおいて、パートナーシップの事業を支援するために10年間に200億ドルを上限に資金調達を行うことを約束した。過去一年間で、この集団的約束は、米国は100億ドル、ドイツは15億ユーロ、英国は7億5000万ドル、フランスは7億5000万ユーロ、日本は2億ドルイタリアは10億ユーロ、カナダは10億カナダ・ドルを上限とする確固たる国別約束となった。EUは10億ユーロを、ロシアは20億ドルを約束した。パートナー諸国が2003年度の各国予算において本年の事業のために適切な資金を割り当てたことに留意されるべきである。
4.−アウトリーチの戦略と方法
カナナスキス文書を採択する用意のある他の諸国に対する、このイニシアティブへの参加と貢献に関するパートナー諸国との協議を開始することへのG8首脳の呼びかけと、次のサミットでこの問題を検討するとのG8首脳の約束を受けて、精力的なアウトリーチ活動が展開されてきた。これらの活動はカナダの議長により促進され、新しいフランスの議長の下でもその報告の取組が継続した。関心を表明した諸国と接触し、グローバル・パートナーシップの内容、目的及び作業について情報が提供された。関心国との会合はオタワで行われた。追加的な二国間協議に続き、カナダ、フランス及び米国の共同議長による情報会合が、潜在的資金供与国のグローバル・パートナーシップへの参加を奨励し促すために4月8日にパリで開催された。ロシアは潜在的資金供与国に対し、化学兵器の廃棄及び退役潜水艦の解体のあり得べき協力事業についてブリーフを行った。潜在的資金供与国には、パートナーシップの包括的性格が照会され、カナナスキス文書の受諾後に関心と約束の意志を公式に発表する機会が提供された。議長は、G8はエビアン・サミットにおいて新たな資金供与国に適切な認定を与える用意があることを示唆した。潜在的な新資金供与国に対し、また、将来の構造が決定されるまで、G8高級事務レベル・グループの会合に引き続いて拡大パートナーシップ・グループの会合を開催する可能性についても伝えた。関心諸国との同様の情報会合が、米国において4月25日にワシントンにおいて開催された。
当初のグローバル・パートナーシップの焦点はG8首脳が述べたようにロシアでの事業にあったが、パートナーシップは、特に旧ソヴィエト連邦諸国を含め、カナナスキス文書を採択する用意のある他の資金受入国にも拡張されることができる。G8首脳はそのような諸国と交渉に入る意志があることを述べた。この点に関し、ウクライナから公式の申請があった。高級事務レベル・グループでの議論を経て、パートナーシップは依然として初期段階にありロシアの事業に焦点を当てていることを想起しつつ、原則として前向きの回答がなされた。議長は、カナナスキス文書を遵守する意志のある関心資金受入国と、これら諸国の将来のパートナーシップへの参加に備えるための予備的協議を開始する用意があることを表明した。一部のパートナー諸国は既に、ロシア以外の旧ソヴィエト連邦諸国における関連事業を追求している。
不拡散の「原則」の普遍的採択の重要性を奨励しつつ、高級事務レベル・グループはグローバル・パートナーシップの重要性を積極的に強調し、その目的と活動を第三国及び国際連合、欧州連合、核拡散防止条約(NPT)準備委員会その他に対して宣伝してきた。この点に関し、高級事務レベル・グループは、2003年11月にグローバル・パートナーシップに関する議会間会議を開催するとの欧州連合の計画を歓迎する。G8パートナー諸国及び議長並びに将来のEU議長国は、この会議を、10年間にわたるイニシアティブへの資金供給にその支持が不可欠な議員に対しグローバル・パートナーシップについての情報を提供する重要な一歩と見なし、2003年11月21日にストラスブールで開催されるこの会議を完全に支持する。
高級事務レベル・グループは、カナナスキス以降のこの一年の活動を見直し、それら全ての分野で更なる取組が必要であることを認識しつつ、「指針」の実施、新たな事業の前進、資金貢献及びアウトリーチ活動における前進に留意する。カナナスキス文書の全ては、実質的な成果を生むために世界的に進行中のプロセスの一部として、高級事務レベル・グループにより引き続き検討され検証される。