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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大量破壊兵器の不拡散放射線源の安全確保について:G8声明(第29回主要国首脳会議)

[場所] エビアン
[年月日] 2003年6月3日
[出典] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/evian_paris03/hosyasen_z.html
[備考] 仮訳
[全文]

 カナナスキスにおいて、我々、8カ国主要先進民主主義国の元首および首相ならびに欧州連合の代表は、6つの原則を是認し、テロリストおよびテロリストをかくまう人々が、大量破壊兵器および物質の入手可能性を得ることを阻止するために、グローバル・パートナーシップを発足させた。今日、エビアンにおいて、これらの原則に対する我々の誓約を今一度具体的に示すために、我々は、放射性物質の安全を向上することに合意した。放射性物質は毎日の生活で見出せるものであり、医学、農業、研究および産業において利益のある応用ができるものである。十分に守られていない放射線源は、現実の脅威をなしており、これらは放射線発散装置あるいは「汚い爆弾」を作り出すためにテロリストに操作されうるものである。我々は、テロリストによる取得に対する放射性物質の脆弱性を減少させるため、高い基準を採用することを約束するものである。我々は、すべての国に対して、その国内での危険性の高い放射線源の定期的な管理を強化するために手段をとることを促す。この文脈で、我々は、この目的のために適切な法的枠組みを発展させることを目指してG8諸国および欧州連合がとったイニシアティブを歓迎する。

 我々は、2003年の放射線源のセキュリティに関する会議の結論を歓迎する。我々は、放射線テロリズムとの戦いにおける国際原子力機関(IAEA)の重要な役割を認識し、危険性の高い放射線源の長期的な安全と管理を確かなものとする国際的な水準を確立する努力を是認する。我々は、放射線源がテロリストに利用されないように確実にするとともに、IAEAの活動を強化し補強するために以下の活動を始めることを決定した。G8は、以下を行う。

1. テロリストおよびテロリストをかくまう人々が、危険性の高い放射線源の入手可能性を得ることを阻止する上で最大の関連性を持つ、IAEAの放射線源の安全とセキュリティについての行動規範の項目を特定する。

2. これらの項目が国内レベルでどのように適用されるのかについて勧告を開発することを検討する。これらの項目は、必要に応じて以下を含みうる。

2.1.放射線源を追跡調査するための国内登録

2.2.身元不明の放射線源を回収するためのプログラム

2.3.危険性の高い放射線源の輸出を効果的な管理を行う国に対してのみ限定する国内法制

2.4.輸入国による通告の要請

2.5.放射性物質の盗難あるいは悪用を罰するための国内措置

2.6.国内の物理的防御措置および入手管理

2.7.消費され封印された危険性の高い物質の安全な処理を確実にするための国内法制

3. 2004年の次回会合までにこれらの勧告について合意し実施することに向けて作業する。

4. すべての国に対して、放射線源の管理の強化と、行動規範の改訂が完成し承認された場合の行動規範の遵守を求める。

5. 危険性の高い放射線源の場所の特定、回収、安全確保のための国際協力を強化する。

6. 行動規範の実施およびその適用に対する勧告を促進するために、IAEA核テロ防止基金に対する必要に応じた追加的な資金の供与することの検討を含め、放射線源についてのIAEAの安全向上計画を支援し、進める。

7. さらに議論を行い、放射線源の問題についての認識を高め、また2003年の放射線源のセキュリティについての国際会議の結果を実施する上での進捗状況を評価するために、IAEAと連携して、2005年に国際会議をフランスにおいて開催する。 

8. この問題についての作業を継続し、この声明の技術的付属文書において示されているとおり、2004年のG8サミットにおいて行動計画の実施を見直す。

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大量破壊兵器の不拡散放射線源の安全確保について

G8行動計画

1.背景

 放射線源に関連する危険はここ数年間増大しつつある注目の対象となっており、これは特にIAEAにおいては、安全および放射線事故の可能性に関連している。しかしながら、2001年9月11日の事件は、悪意がある、あるいはテロリストの目的のために高度の放射線源が使用されることによりさらされる危険を明らかにしている。すなわち、多くの人が知ることなしに、放射線あるいは、放射線発散装置により放射線源にさらされるのである。*(注1)*

 いずれの場合においても、これは多くの人々に大きな心理的影響を与えるものであり、実際の放射線あるいは化学的な効果をはるかに越えるものである。実際の効果それ自体は限られたものである。結果的に、国際社会はこれら放射線源の安全の問題にいやおうなしに関与しなければならない。

*(注1)* 放射線発散装置は、放射性物質を周囲に(たとえば人口稠密な都会地域に)散布するために、通常の爆薬と放射性物質との組み合わせよりなる。これは、人々の健康に対する結果的な危険とともに周囲環境の限定的な汚染をもたらし、当面の間汚染地域を使えなくしてしまう。

2.G8アプローチ

 G8は、放射線テロリズム活動の防止措置を強化する重要な必要性を認識し、この問題の検討に強い政治的な弾みをつけることを望む。エビアン・サミットは、G8に対して、この問題の最高レベルでの国際的な認識を表明し、この分野におけるIAEA行動計画への支持を再確認し、各国が生産・保有・使用・輸出あるいは輸入する放射線源の安全およびセキュリティを向上するために各国が力を結集するよう呼びかけ、そして、放射線源の安全および各国間の協力メカニズムの強化のための中・長期的アプローチを発展させる機会を与えるものである。

 放射線源の利用は多くの平和的な応用において(医学、農業、環境、産業等)重要な利益を生み出している。これらの応用における放射線源の管理と監視の多くの国の脆弱性を認識し、G8は放射線源の安全とセキュリティを強化するために以下のアプローチに合意した。

2.1.IAEAの作業の支援

 放射線源の安全とセキュリティに関する行動規範は、IAEAの行動計画の重要な側面をなしている。G8は、放射線源の国内管理システムの改善の観点から、行動規範の改訂が完成し承認された場合には、可能な限り多くの国に対して、行動規範に含まれる原則を遵守するよう促す。G8は、IAEA行動計画の実施のために、IAEAに対して政治的な支持を与える。G8は、集合的かつ個別的に行動規範を促進することに乗り出し、もし行動規範の改訂が完成し承認された場合には、この分野におけるIAEAの支援を要請するよう各国に働きかけることとする(文書1、IAEAの作業の支援、を参照)。

2.2.最も脆弱な国に対する支援

 G8各国は、その国内における高レベルの放射線源に責任を持ち安全に管理するための措置をとる上で最も脆弱な国を支援するために、もはや定期的な管理を行っていない放射線源の探索および安全確保を含めて、個別的、あるいはとりわけIAEAとの間で、パートナーシップの形で力を結集している。G8は、高度の放射線源のほかの生産国あるいは輸出国に対して、同様のことを行うよう呼びかける。G8は、この分野において達成された進展を見直すために情報を交換し協議する。

2.3.放射線源管理のためのメカニズム

 G8は、放射線源の管理およびこの分野における国際協力の強化のための方法について、より長期的な見直しを実施することにとりかかる。特に以下の方法が検討されている。

2.3.1.IAEA行動規範の関連部分に関係して、「放射線源の安全および安全確保管理の原則」を支持するために、放射線源の生産、保有、使用、輸出あるいは輸入を行う国によりなされる政治的誓約(文書2、放射線源の生産、輸出および保有を行う国による政治的誓約、を参照)。

2.3.2.テロリズム防止の上で最大の関連性を持つ、完成された行動規範のうちの要素の特定、ならびにそれらの世界的な実施の奨励。これらは、放射線源の国内登録、放射線源の盗難あるいは悪用を罰するための国内措置、ならびに国内での物理的保護・入手可能性制限措置を含みうる(文書3、放射線源の安全についての各国への勧告、を参照)。

2.4.放射線源に関する国際会議

 G8は、本年3月11日から13日までウィーンで開催された放射線源のセキュリティに関する国際会議の成功を歓迎する。この会議は、放射線源の国内レベルでの管理およびセキュリティの改善の必要性を結論として強調し、この分野における国際的イニシアティブを呼びかけている。

 G8は、とられた行動を見直し将来の見通しを明確にするために、2005年前半にフランスにおいて、この問題についての第4回国際会議を開催し、放射線源の安全およびセキュリティの双方の側面を含めるとのフランスの提案を支持する(文書4、放射線源の安全およびセキュリティに関する国際会議、を参照)。この会議は、選択された方向性におけるすべての国内・国際関係者を勇気づけ、すでに進行中の活動(例、IAEAプログラム、二国間・多国間協力)を支持することにも役立つであろう。

文書1 IAEAの作業の支援

 G8は、放射線源の安全およびセキュリティのためにIAEAによりとられている行動への支持を再確認し、この問題におけるIAEAとの協力の用意を宣言する。

 より具体的には以下のとおりである。

1.G8は、IAEAの核テロ防止基金に対し資金面で貢献しており、核および放射線テロリズムのためのプログラムの枠組みの中で、物質的な貢献、とりわけ専門家の派遣、訓練プログラム、放射線源管理のための要請ベースでの国内システムの評価、管理されていない放射線源の発見および安全確保のためのキャンペーンへの参加、ならびに放射線源の違法な移動の発見のための機材供与の技術協力プロジェクトへの参加(放射性物質の違法な取引に対する戦いの一部として)などを通じてもIAEAと協力している。

2.G8各国は、放射線源の安全およびセキュリティに関する行動規範の改訂が完了し承認された場合には、これを個別的および集団的に促進し、各国に対してその適用のためにIAEAを通じて作業するよう促す。

3.G8は、放射線事故あるいは悪意ある行動に対して、巻き込まれる放射線源の安全を確保し、そして必要な場合にはこれらの放射線源の放射を受けた人々の手当をするために、IAEAからの支援の要請を検討する。G8は、必要に応じて、防止的な活動に対する支援を供与する(例、放射線源の探査および安全確保)。

4.G8は、放射線源を含む特定の緊急事態に関する情報や、要請されれば緊急事態に対処する上でIAEAを助けることになるであろう情報を、IAEAに対して供与することを検討する。G8は、IAEA非加盟国からの同様の要請をも検討する。

文書2 放射線源の生産・輸出・保有を行う国による政治的な誓約

1.放射線源は、農業、環境、産業、医学、研究等幅広い応用分野で使用されている。世界には、あらゆる種類およびサイズの放射線源が数百万存在すると見積もられている。

 これらの放射線源の大部分は、仮に習慣的な注意をもって取り扱われていたとしても深刻な脅威とはなっていない。これはとりわけ煙感知器や計測装置の放射線源にあてはまる。しかしながら、いくつかの放射線源は、その高い放射性の性質ゆえに厳しい安全と安全確保手段が必要である。その主たる目的は、悪意ある行動(盗難、破壊活動、放射線発散装置への転換)を防止し、放射線事故を避けるところにある。

 IAEAは、おおよそ100カ国において、放射線源を適切に管理するために必要な法的・規則的制度を欠いていると考えている。

2.G8の首脳は、国際社会に対して以下の通り呼びかける。

2.1.その国内における放射線源について説明責任を果たすこと。

2.2.高レベルの放射線源の安全を確保するために手段をとること(必要に応じIAEAの支援の下で)。

2.3.行方不明と信じられている放射線源(身元不明の放射線源)を見いだし、場所を特定し、安全を確保すること。

 以上の国内的に行われる短期的・中期的アプローチは最も脆弱な国に対する国際協力を伴うべきである。放射線源の登録、規制、管理のための法的枠組みをIAEAと緊密に協力して開発するために、G8各国および欧州連合によりとられている作業は、この分野における幅広い国際努力に対して価値のある貢献となるものである。

3.国際協力は、IAEAの下で強化されている。これは特に以下のような形をとっている。

3.1.身元不明の放射線源について、地域的に集められた情報、あるいはその本来の生産国あるいは輸出国からの情報に基づき、その場所を探し当て特定するキャンペーン。

3.2.これらの放射線源の現場での安全を確保し、極端な場合ではそれらを特別な施設に避難させること。

3.3.国境地点および戦略的地点において、放射性物質の違法な移動を探知するための適切な機材を配備すること。

4.これらの支援任務は、長期間にわたり行われる可能性が高いのであるが、国際的な資金供与(G8グローバル・パートナーシップ,IAEA核テロ防止基金、欧州のあるいは国内的な資金供与など)によって実施されうる。

5.放射線源を生産し流通させる国は、これらの放射線源についての安全およびセキュリティについて特別の責任を有する。G8がまずは、そしてその後生産および輸出を行うほかの国も同様であるが、放射線源の生産国および輸出国がしなければならない誓約の形態および性格について検討する。

 この誓約は、IAEAに対する個別的な宣言の形をとりうるものであり、そしてその中で「放射線源の安全および安全確保管理の原則」を支持するとの決意を肯定するものである。

文書3 放射線源の安全についての各国に対する勧告

1.IAEA行動規範は、放射線源の安全性およびセキュリティに役に立つ項目を含むものである。その中で、2003年3月の、ウィーンにおける国際会議は、放射線源のセキュリティを強化し、テロリストによる放射線源の入手可能性をより困難にする上で役に立つ点を明確にしている。

 G8は、各国が、その国内において管理・監視システムを実施する上でこれらの項目を検討することを提案する。

2.G8は、作業部会に対して、IAEAと緊密に協議の上、テロリストが放射線源の入手可能性を得るのを防止することに最大の関連性のあるIAEA行動規範の項目を特定し、これらの項目の実施について国内的に検討を行うための勧告を開発するよう、指示する。これらの勧告は、2003年の放射線源のセキュリティに関する国際会議の結論を考慮に入れて、とりわけ以下に取り組むことを検討しうる。

2.1.そのライフサイクルの間、放射線源を追跡する国内的登録の確立

2.2.国内において、身元不明あるいはよく管理されていない放射線源の回収および安全確保のための国内的メカニズムの概略の構築

2.3.放射線源の輸出管理に関する一連のガイドライン、その条件、輸出監視のためのメカニズム(通報等)の確立

2.4.放射線源を使った悪意ある行動と戦うための必要に応じた国内法的措置の開発

2.5.放射線源の入手可能性を保護し制限するために、各国がとりうる手段の特定

2.6.その終末期において、放射線源のリサイクルを条件付ける、あるいは奨励するために、各国がとりうるべき手段の明確化

2.7.国境などの戦略的地点において放射線源の通過を探知することを目的としたシステムの導入

文書4 放射線源の安全とセキュリティに関する国際会議

1.2003年3月ウィーンにおいて、ロシアと米国の共同議長により開催された放射線源の安全とセキュリティに関する国際会議は、放射線源の安全とセキュリティの分野における国際協力を強化し加速化するプロセスを、特にセキュリティの観点から、動かすものである。しかしながら、これは、1998年のディジョン(フランス)および2001年のブエノスアイレス(アルゼンチン)において開催された、安全とセキュリティに関するこれまでの国際会議から続くものでもある。

2.向こう2年間、2003年にこの問題に与えられた政治的な刺激(3月のウィーン会議および6月のエビアン・サミットを通じて)を確実なものとすることが望ましい。放射線源の安全確保のために以下の機関によりとられる行動についての経過報告が作られるべきである。 2.1.適切な国際機関、例えばIAEA、世界税関機構(WCO)、インターポール、欧州委員会など

2.2.二国間、多国間同様、国内レベルでの各国、安全またはセキュリティに関する機関、輸出管理機関、税関、放射線源についての専門知識(管理、探知、捜査、位置の探査、安全確保など)を有する公的機関・民間企業

3.エビアン・サミットの後、発足したイニシアティブに実体を与えるため、関係主要国の間で協議が行われなければならない。特に、放射線源をより安全なものとするための提案が精緻なものとなされる必要がある。これらはとりわけ、IAEA行動規範に含まれた手段および2003年3月の会議の結論を基礎としてなされた勧告、ならびに放射線源を生産あるいは輸出する国家によりなされるであろう政治的な誓約の定義を含むものである。国際的な資金によって(主にG8グローバル・パートナーシップおよびIAEA核テロ防止基金によって)、不十分に管理されている放射線源の安全を確保するための、また身元不明の放射線源を探索し位置を特定し安全を確保するためのキャンペーンを発足させる必要性についても検討されるであろう。各国の専門家グループが、2003年後半および2004年にこれらの問題についてIAEAにおいて議論するために会合するであろう。

4.フランスは、2005年の前半に、第4回会合を開催するであろう。そこでは、2003年に開始されたプロセスについての進捗報告を行うであろう。この会議は、以下のガイドラインに従って作業する。

4.1.放射線源についてのIAEAの国際的努力(行動計画、行動規範、放射性物質の違法な取引を探索するための支援、身元不明の放射線源の位置を特定するためのキャンペーン等)、ならびに各国の国内的なイニシアティブを確固たるものとし、同様に二国間・多国間の協力事業を支援する。

4.2.進行中の主なプロジェクトの評価を行う。

4.3.不十分に管理されている放射線源(安全およびセキュリティの側面を扱う)の安全を確保するキャンペーン、ならびに身元不明の放射線源を探索し位置を特定し安全を確保するキャンペーンに対して、暫定的な評価を準備する。

4.4.この会議は、この問題に関連する前述の関係者すべての出席を得るであろう。