データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 不拡散に関するG8行動計画

[場所] シーアイランド、ジョージア州
[年月日] 2004年6月9日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 エビアンにおいて、我々は、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散が、国際テロと並んで、国際の平和と安全に対する顕著な脅威であることを認識した。この課題に対しては、長期的な戦略と多角的な取り組みが必要である。

 拡散を防止し、封じ込め、巻き返しを図る決意をし、本日、シーアイランドにおいて我々は、グローバルな不拡散体制を強化する行動計画を発表する。我々はこの計画を実現するため、他の関係諸国と共に取り組んでいく。

 全ての国家は、軍備管理・軍縮・不拡散の約束を履行しなければならず、我々はそのことを再確認する。そして、我々は、関連する多国間条約のもとにおけるこれらの約束に関する普遍的な加入と遵守を強く支持する。我々は、諸国が多国間条約体制の下での義務の効果的な履行、特にこれらの条約の下での義務の国内実施、法執行能力の構築、及び効果的な輸出管理の確立を行うことを支援し奨励する。我々は、未だ参加していない全ての国家に対し、弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範に参加するよう求める。

 我々は、全ての国家に対し、効果的な国内的輸出管理の確立、拡散を犯罪とする効果的な法律の採択と施行、非国家主体による大量破壊兵器の取得を防止する協調的行動の実施、並びに、大量破壊兵器、運搬手段及び関連物資の不正取引の終焉を要請する国連安全保障理事会決議1540を強く支持する。我々は全ての国家に対し、同決議の迅速かつ完全な実施を求めるとともに、我々は、そうするために支援を行う用意があり、以て、テロと拡散の結合、及びこれら兵器及び関連物資の闇市場と闘うことを支援する。

1.核不拡散{前6文字下線有り}

 兵器目的で使用されうる機微な核物質、機材及び技術の不正取引及び無差別的拡散は、我々全てにとっての脅威である。いくつかの国は、核兵器不拡散条約(NPT)の下での約束に反し、兵器計画のためのウラン濃縮及びプルトニウム再処理能力を追求している。我々はNPT及びカナナスキスとエビアンで行なった宣言への約束を再確認するとともに、核物質及び技術の不法な転用の防止に取り組む。我々は、世界が平和的な核技術の恩恵を安全に享受できるようにする一方で、核兵器拡散及びテロリストによる核物資及び技術の取得の危険性を減少させるために以下の新たな行動を発表する。

・兵器拡散の危険性を増大させることなく世界が平和的な原子力の恩恵を安全に享受できるようにするべく、拡散の可能性を有する機微な核資機材が、これらを兵器目的に使おうとする国家や、テロリストの手中に落ちることを許す国家に輸出されないように、新たな措置を確立すべく積極的に取り組むことに我々は合意した。これら資機材の輸出は、グローバルな不拡散の規範に従った基準に則ってのみ、かつ、これらの規範を厳格に約束している国家に対してのみ行われるべきである。我々は、原子力供給国グループ(NSG)のガイドラインを適切に改訂し、将来このような措置に対し出来るだけ広い支持が得られるように取り組む。我々は、次回のG8サミットまでに適切な措置を導入することを目指す。このプロセスを支援するために、それまでの1年間、追加的な国への濃縮・再処理の機材・技術の移転を伴う新たなイニシアティブを開始しないことが思慮深いことであるという点に合意する。我々は、全ての国家に対して、この思慮深い戦略を採用することを求める。また、我々は、不拡散の約束・基準の維持に反しない形で、全ての国に対し、核燃料及び関連役務を含む核物質・機材・技術への信頼できるアクセスを、市場の条件で保証する新しい措置を講じる。

・我々は、国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置協定及び追加議定書の普遍的な遵守を追求し、全ての国家に対し、これらの合意の迅速な批准と実施を求める。我々はこの目標に向けて、積極的にアウトリーチ活動に従事しており、必要な支援を提供する用意がある。

・追加議定書は、原子力供給取極分野における重要な新基準となるべきである。我々は、しかるべくNSGガイドラインの強化に取り組む。我々は、2005年末までにこれを達成することを目指す。

・我々は、核不拡散や保障措置上の義務に違反している国との核燃料サイクルの協力を停止することを支持するが、そのような決定の責任及び権限が各国政府又は安全保障理事会に存することを認識する。

・IAEAの一貫性と有効性を高め、各国によるNPT上の義務及び保障措置協定の遵守を確保する能力を強化するため、我々はIAEA理事会の新たな特別委員会を創設すべく協働する。この委員会は、保障措置及び検証の強化に向けた包括的計画を準備する責任をもつ。我々は、この委員会が、NPT及びIAEAの約束を遵守している加盟国によって構成されるべきであると考える。

・同様に、我々は、核不拡散及び保障措置上の義務の非技術的な違反により調査されている国家は、IAEA理事会や同特別委員会の自らの事例に関する意思決定に参加しないことを選択するべきであると考える。

2.拡散に対する安全保障構想{前14文字下線有り}

 我々は、グローバルな問題に対するグローバルな対応である、拡散に対する安全保障構想(PSI)及び阻止原則宣言への強い誓約と支持を再確認する。我々は、大量破壊兵器及びその運搬手段並びに関連物資の不正取引を阻止するため、効果的なPSI協力体制を構築する努力を継続する。我々はまた、拡散を促進する者がこのような不正取引に関わることを防止し、またPSIを支える国内法及び国際法の拡充と強化に取り組む。我々は、現在では全てのG8諸国が参加している、PSIに対する世界的な支持の高まりを歓迎する。62か国が参加したPSIの一周年を記念したクラコフ会合は、世界的な支持の高まりを証明している。

 我々は、国内法的権限・立法に従い、また、国際法に則り、拡散ネットワークを打ち破り、適切な場合には不正な資金の流れの防止や不法な工場、実験室及びブローカーの閉鎖を含む執行の取り組みを調整するために更に協力していく。我々の中のいくつかの国は、すでに、不正な取引に関与した企業に港湾及び空港へのアクセスを禁じ、関与した個人には査証禁止の賦課を行う体制を整備しつつある。

 我々は全ての国家に対し、秘密の調達行動に対処する国内措置及び国際的措置を強化・拡大することを奨励する。直接に、及び関連する国際的枠組を通じて、我々は国際規範を満たすための国内的能力の向上に支援を必要とする国と積極的に協力する。

3.大量破壊兵器及び物質に対するグローバル・パートナーシップ{前30文字下線有り}

 2年前のカナナスキスにおけるG8首脳による立ち上げ以来、グローバル・パートナーシップは、国際的なセキュリティと保安を高める上で世界的に重要な力となった。エビアンにてパートナーシップに新たに加わった6資金供与国を含むグローバル・パートナーシップのメンバー諸国は、過去1年間にロシアにおいて新たな協力事業を開始し、既に実施中の事業の進展を加速させた。多くのことが達成された一方で、重大な課題が残っている。我々は、グローバル・パートナーシップの基盤となる我々のカナナスキス声明、原則及び指針に対する誓約を新たにする。

・我々は、2012年までにグローバル・パートナーシップのために上限200億ドルの資金を調達することに再びコミットする。

・追加的な資金供与国を含むべくパートナーシップを拡大することは、必要な資金を調達し、取り組みが真に地球規模のものであることを確保する上で本質的に重要である。本日、我々は、オーストラリア、ベルギー、チェコ共和国、デンマーク、アイルランド、大韓民国及びニュージーランドによるパートナーシップへの参加決定を歓迎する。

・我々は、その他の旧ソビエト連邦諸国によるパートナーシップへの参加を議論するため、これら諸国との協力を継続する。我々は、パートナーシップ参加国はその国益及び資源に従って事業に参加することを再確認する。

・我々は、世界的な拡散の課題に取り組むことを再確認する。我々は、例えば、過去に大量破壊兵器計画に従事したイラクやリビアの科学者の再訓練を追求する。また、我々は、世界中の研究炉での高濃縮ウラン燃料使用の一定の時間をかけての除去、高濃縮ウランの新燃料と使用済み燃料の保管と除去、放射線源の管理と保管、輸出管理と国境警備の強化、及びバイオ・セキュリティ強化のための事業を支持する。我々は、これらの分野における取り組みを調整するために、グローバル・パートナーシップを活用していく。

4.核不拡散の課題{前9文字下線有り}

・北朝鮮による、前例のないNPT脱退宣言、国際的な義務に違反したプルトニウム再処理及びウラン濃縮計画の両方を通じたものを含む継続的な核兵器の追求、及びそのミサイル拡散の確たる経歴は、我々全てにとって深刻な懸念である。我々は六者プロセスを強く支持し、また、北朝鮮に対し、包括的で平和的な解決を図っていくための本質的な行動である、全ての核兵器関連計画の完全、検証可能かつ不可逆的な形での廃棄を強く求める。

・我々は、イランの先進的核計画の拡散問題を解決するという決意において引き続き一致している。イランは、NPT上の義務及び保障措置協定を完全に遵守しなければならない。このため、我々は、IAEA理事会の3つのイラン決議への我々の支持を再確認する。我々は、エビアン以来、イランが追加議定書に署名したこと、IAEAとの協力及び濃縮・再処理関連活動の停止を約束したことに留意する。我々は、IAEA事務局長によって報告された進展のあった分野を認識するが、イランによる濃縮関連活動の停止がいまだ包括的でないことを深く懸念している。IAEA事務局長報告に詳述されているとおり、イランの協力が遅延し、不足しており、開示が不十分であることは我々にとって遺憾である。従って、我々は、イランが、自らの核計画に関連する全ての未解決の問題の解決につながるよう、追加議定書の批准と完全履行を含め、自らの約束とIAEA理事会の全ての要求事項を迅速かつ完全に履行することを求める。

・我々は、大量破壊兵器及び比較的長射程のミサイルを除去し、NPT、追加議定書、生物兵器禁止条約(BWC)及び化学兵器禁止条約(CWC)を完全に遵守し、ミサイル技術管理レジームの対象となるミサイルを保有しないことを約束するというリビアの戦略的決定を歓迎する。我々は、リビアが核機材及び物質の撤去に協力し、化学兵器の除去のための措置をとったことに留意する。我々は、リビアに対しIAEA及び化学兵器禁止機関と引き続き完全に協力するよう要請する。

5.生物テロに対する防衛{前12文字下線有り}

 生物テロは、全ての国家の安全保障に対して特異で深刻な脅威を与え、公衆衛生を危険にさらし経済活動を混乱させうる。我々は、人間、動物及び作物に対する生物テロ攻撃を探知するバイオ監視能力の拡大及び適当な場合にはその新規開始、我々の予防及び対応能力の向上、世界的な食糧供給に対する保護の増進、そして生物兵器の使用の疑い又は疑わしい疾病の発生への対応、調査、及び影響の緩和についての具体的な国内及び国際的な措置にコミットする。この文脈において、我々は、BWCの第5回運用検討会議において、我々の誓約の具体的な実現を求める。BWCは、テロリストに対するものを含む生物兵器の拡散に対するきわめて重要な基礎である。その禁止事項は、罰則の立法も含め、完全に履行されるべきである。我々は、全ての非締約国に対し、BWCに迅速に加入することを強く求める。

6.化学兵器の拡散{前9文字下線有り}

 我々はその不拡散の側面も含めて、CWCの完全履行を支持する。我々は、全ての非締約国がCWCに迅速に加入することを強く求め、その目的のために協力する。また、我々はCWC締約国が条約の完全な履行のために国内の立法的・行政的措置を講じることを求める。我々は、必要な場合にはCWCにおいて規定されているチャレンジ査察も含め、全ての事実調査、検証及び履行措置の利用を支持する。

7.放射線源のセキュリティに関するエビアン・イニシアティブの実施{前32文字下線有り}

 エビアンで我々は、テロリストによる使用を防ぐため、放射線源の管理の改善に合意し、この目標に向けて実質的な進展を果たした。我々は、IAEAが2003年9月に放射線源の安全とセキュリティに関する行動規範の改訂を承認したことに満足している。我々は全ての国家に対し、この規範を実施し、この規範を世界的な基準と認識することを求める。

 我々は、供給先を管理できる国の許可された最終需要者に限定するべきである危険性の高い放射線源の輸出入管理に関する指針に合意した。各国は、如何なる放射線源も不正使用に転用されないことを保証すべきである。我々は、効果的な管理が2005年末までに開始され、調和のとれた一貫した形で適用されることを確保するために、IAEAによってこの指針が迅速に承認されることを目指す。我々は、全ての国が新しい基準を満たすことが可能となることを確保するためのIAEAの支援計画を支持する。

8.原子力の安全とセキュリティ{前15文字下線有り}

 1986年のチェルノブイリにおける恐ろしい事故以来、我々は現場での安全とセキュリティを改善すべくウクライナとともに取り組んできた。我々は、チェルノブイリ原子炉の残骸の上に安全なシェルターを建設するため、すでに多額の資金貢献を行った。我々は、他の21か国が、この取組みに対して参加し貢献したことに感謝する。本日、我々はこの事業を完了させるために必要な残りの資金を調達するための国際的な取組みを支持する。我々は、ウクライナに対し、特にウクライナ及び隣接地域における放射性安全に寄与する形で、2008年までにシェルターの建築を完了させるために、我々を支持し、我々と緊密に協働することを求める。

 効果的かつ効率的な原子力規制制度は、我々の安全とセキュリティのために不可欠である。我々は、国内の規制機関が十分な権限、独立性、能力を持つことの重要性を確認する。