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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8行動計画:企業家能力の貧困削減への適用

[場所] シーアイランド、ジョージア州
[年月日] 2004年6月9日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 国連民間セクター及び開発に関する委員会は、「貧困削減には強い民間セクターが必要である。強い民間セクターは、成長、雇用及び貧困層のための機会の源である。」と強調した。モンテレー合意も、持続可能な開発には、経済成長、雇用創出及び貧困削減のための極めて重要な原動力としての民間セクターの役割を含む、あらゆる資源の活用が必要であるということを明らかにした。民間セクターによる貧困層の発展への支援は、開発援助の取り組みに体系的に組み入れられるべきである。途上国は、企業家が成功裡にビジネスを展開でき、家族が手頃な対価で正式な金融市場にアクセスできる環境を整えることが必要である。

 G8諸国は、貧困削減を支援し、もってミレニアム宣言という国際的な開発目標の達成を支援すべく、効果的な民間セクターに牽引された発展を促進する途上国の政策及びプログラムを奨励及び支援するために、以下の一連の行動をとることについて意見の一致をみた。G8諸国は、成長を促進するために資本及び専門知識を動員し、途上国の人々による生産的な使用のために資源を解放する上で、二国間及び多数国間援助が役立つことを確保すべく作業する。これらの革新的なプログラムは、途上国自身の努力を支援することを意図している。このアプローチは、貧困削減に依然として決定的に重要である政府開発援助を補完するものである。

 こうした開発への民間セクターのアプローチの最善の慣行を強調し普及させるために、G8は関係国際機関とともに、2004年秋に、民間セクターの代表、途上国及び先進国政府も招いて会議を主催する。

家族及び零細ビジネスを支援する送金の促進{前20文字下線有り}

 国境を越える送金フローは、大部分は一度に数百ドル程度であるが、急速に増加しており、現在では年間1,000億ドル近くに上る。このお金は、移民の労働の成果であり、労働者の母国の開発資金に一層大きな役割を果たしている。そのため、送金は、民間セクターの開発努力において、主要な役割を果たすことができ、家族が、例えば、教育、住宅、零細ビジネスの立ち上げと拡大のために、必要な資本を受け取ることを可能にする。しかし、取引コストは高いものになりうる−大きな都会の市場への資金フローは10%から15%にまで上ることがある。送金フローが正式のチャンネルに流れるよう引きつけることにより、途上国における金融制度を強化し、送金が不正な目的に流用されるリスクを削減することができる。G8諸国は、世界銀行、国際通貨基金(IMF)及び他の機関とともに、送金フローのデータを改善し、送出国と受入国双方における送金フローのデータ収集のための基準の策定に取り組む。G8諸国は、送金コストを削減する国際的な取り組みを主導する。送金フローの受領者の金融上の選択肢を拡大することにより、送金フローの開発に与える影響が助成されるであろう。

 以上を実現するため、我々は、送金について途上国とともに、パイロット・パートナーシップとプログラム等を通じ、行動をとる。別添の付属文書に上げられたG8プログラム及び我々が検討する他のプログラムは、以下の通りである。

 1.適切な場合には、金融機関の利用についての啓蒙活動へのアクセスを供与することや、民間セクターとの協力により金融機関のサービスの種類と範囲を拡大すること等を通じて、正式な金融制度を通じた金融取引を送出国と受入国の人々にとってより容易なものにする。

 2.競争促進、革新的な支払い手段の利用、及び送出国と受入国における正式な金融制度へのアクセスの推進を通じて、送金サービスのコストを削減する。送出国と受入国の間の送金コストが、最大50%か又はそれ以上削減された例もいくつかある。G8諸国は、他の国においても同様の高コスト削減が可能と考える。

 3.送金サービスの向上及び途上国における送金受領が開発に与える影響を強化するために作業をしている国際機関の間での、一貫性と整合性を促進する。

4.零細金融機関及び信用組合を含む、送金サービスの供与者と地方金融機関の間の協力を、地方金融市場を強化し、受領者の金融サービスへのアクセスを改善する方向で、奨励する。

 5.送金を受領する家族に対して送金フローの生産的な投資に係るより多くの選択肢と誘因を与える、市場指向の地方開発基金及び信用組合を、適当な場合には創設するように奨励する。

 6.特定のインフラ及び規制上の障壁に取り組む、政府、市民社会及び民間セクターとの対話を支援する。例えば、政府は、強い監督基準に合致した形で、民間セクターに対して支払い制度への無差別のアクセスを確保し、全体的な金融インフラの近代化に協力して取り組むべきである。

企業家及び投資家のためのビジネス環境改善{前20文字下線有り}

 ビジネスは、各国が、透明な法制度を提供し、起業及び経営の障壁を低くし、適切なインフラを提供する場合にのみ栄えることができる。G8諸国は、国連及びその民間セクター及び開発に関する委員会、世界銀行、米州開発銀行(IDB)、国際金融公社(IFC)、経済開発協力機構(OECD)、及び他の機関が行ってきた、途上国における企業及び投資環境を改善するための見事な作業を支持し、補完するよう努力する。特に、我々は、国際的なビジネス規制のコスト及び便益の量的指標を特定しようとする世界銀行の作業を支援する。

 G8諸国は、国際開発金融機関(MDBs)、国連開発計画(UNDP)、その他の国連機関及び国際機関と、以下のことを協力する。

 7.ビジネス環境の主要な障壁に取り組むための、整合性のとれた、国別の国際開発金融機関の行動計画を支援する。行動計画は、測定可能な成果を達成するために、タイムテーブルを定めるべきである。

 8.国際開発金融機関が、これらの行動計画を国別の戦略及び予算に組み入れ、投資環境評価及び作業計画の実施の進捗状況を年に一度報告することを奨励する。

 9.国際開発金融機関が、今後3年間の中小企業(SMEs)のための融資及び技術援助プログラムを明確な成果重視の目的とともに強化し、これらの計画を9月までに策定するように奨励する。例えば、欧州復興開発銀行(EBRD)は、技術援助と資本を組み合わせた零細事業プログラムを導入し成功を収め、過去10年間に50万件の融資を行った。

 G8諸国は、途上国と協力して、以下のためにパイロット事業を策定し、行動を支援する。

 10.国際開発金融機関及びOECD等の国際機関と協力し、ビジネス及び投資環境改善のための包括的なプログラムと改革の立ち上げを確約した国を支援する。

 11.途上国における起業に要するコスト低減と時間短縮を支援する。

 12.国連民間セクター及び開発に関する委員会で強調された、非公式なビジネスの公式なセクターへの発展を助ける取り組みを支援する。

 13.民間投資誘致の拡大のために各国が構造的な政策改革実施を確約する、バルカンにおけるOECD南東欧投資協約と同様の投資協約の促進を支援する。

 14.より貧しい国々が直面する特有の課題に応じた効率的で透明なビジネス環境を整備するために、マクロ経済、法改革及び規制改革を促進する上で、世界銀行及びアフリカ開発銀行等の国際機関の作業を支援する。

 15.企業家会議やより小規模のセクター別の会議を通じて、商業的に成り立つプロジェクトを促進し、投資家、輸出業者とサービス供与者を引き合わせるため、ビジネス間の結びつきの強化を支援する。

 16.国内外のビジネスに益々害を与えている著作権侵害及び偽造対策に途上国とともに取り組むことにより、知識集約型の投資を引きつけ技術革新を促進する途上国の能力向上を支援する。

 17.OECD/世界銀行コーポレート・ガバナンス・フォーラムとの協力、並びに金融規制機関を整備又は改善するための技術援助等を通じ、良い企業統治を促進する。

 18.投資環境の改善及び政府資源の責任ある利用のため、財政政策及び政府調達の透明性を向上させる措置をとることを推進する。

 19.投資協定の交渉と実施等を含め、途上国における投資機会を推進し、促進する。

 20.責任ある借手の融資及び他の金融サービスへのアクセスを改善するため、信用調査所を創設する。

地方金融市場の発達支援を通じた、住宅ときれいな水の供給{前27文字下線有り}

 G8諸国は、地方金融市場の強化が途上国における活力ある民間セクターの推進に極めて重要であることを認識する。本年、G8は、人々の住宅ときれいな水への需要に応えるためのパイロット事業の実施を通じて、金融市場開発の2つの側面に集中する。具体的には、我々は、

 21.国際開発金融機関(MDBs)及び他の機関と協力して、財産権、所有権移転、クレジット・リスク管理、法制度、資金源、抵当権者の運用能力を含む、抵当市場の基本的な要素の整備を促進する。

 22.住宅の建設及び改築のためのものも含め、送金フローの受領者が、国内金融市場において送金収入を効率よく活用するための機会を与えるよう努力する。

 23.G8エビアン水行動計画の関連コミットメントを基礎にして、水及び衛生施設を供給するための準ソブリン債市場の整備を支援する。これには、市場に受け入れられるために必要な、債券の開発や法制度整備のための技術援助が含まれる。我々は、この分野における世界銀行の現行の作業を歓迎する。

 24.既存のプログラムの活用及び拡大により、水施設のための優良で実行可能な準ソブリン債発行を支援する。

 25.地方の水事業への支払いのため、住宅所有者組合に支えられたプール金の整備を推進する。

企業家の零細金融へのアクセスの拡大{前17文字下線有り}

 企業家は、いかに零細であっても、資本へのアクセスを必要とする。零細金融プログラムは、長年にわたって、少額の資本を企業家に提供してきた−特に、女性に恩恵を与えてきた。持続可能な零細金融は、世界の最も貧しい国において、健全な金融市場制度を造成する鍵となりうる。零細金融へのアクセスは、しばしば、中小企業立ち上げにおける第一歩であり、途上国企業の成熟を支援するために必要な継続的なクレジットへのアクセスの始まりであるべきである。国連によって指定された2005年の「国際零細金融年」を見越して、G8諸国は、世界銀行を基盤とした貧困層支援検討グループ(CGAP)と協力して、グローバルな市場に基礎をおく零細金融イニシアティブを立ち上げる。現在の零細金融プログラムの状態及び効率性を評価するため、G8諸国は、途上国のための零細金融の最善の慣行を推進すべく、CGAPと協力する。我々は、CGAP及びその構成員によってまとめられた「零細金融の主要原則」を支持し、これらの主要な考えを零細金融の供与国及び実務者とともに実施する方法について、CGAPと協力して取り組む。G8諸国は、選ばれた国々において零細金融の実施機関の数、規模、有効性を拡大するために、パイロット事業をも立ち上げる。これらのパイロット事業は、

 26.持続可能な零細金融の拡大及び主流化のため、零細金融機関の最善の慣行に焦点を当てる。

 27.零細金融融資のための主要な原則を特定するため、CGAPの取り組みを基礎に、零細金融実施機関の行動規範を策定する。

 28.成長する零細金融実施機関が、国内外の資本市場にアクセスを得られるように障壁を削減する。

 29.持続可能な零細金融投資ファンドの設立と拡大を、必要な場合には奨励する。

 30.零細金融を持続可能かつ広範に利用可能なものにするために、途上国の零細金融に係る法制度整備を支援する。

 31.銀行融資のための障壁を削減し、革新的な銀行と零細金融実施機関(MFI)との結びつきを推進し、ビジネスのフォーマル化の阻害要因を除去することによって、成長する零細企業の資本への継続的なアクセスを可能にする。

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送金に関する付属文書:G8行動計画:企業家能力の貧困削減への適用

カナダ:カナダは、アジア及びカリブ海の数多くのパートナー国とともに、より費用効果的な送金取り決めの余地を検討している。これらのパートナーシップは、金融機関がそのサービスへのアクセスを拡大し、一層革新的な商品を追求することを奨励する。カナダは、金融機関の利用についての啓蒙活動の増加及び送金データの質的向上に焦点を当てることも意図している。

フランス:モロッコ、マリ、セネガル及びコモロ諸島からの移民が母国に投資するための個人的な戦略を支援するために、フランスは2つの目的を持つ共同開発政策を実施している。それは、送金コストの削減と、銀行のパートナーが貸し付けを現地の生産的な投資に配分することの促進である。事業は、フランスに居住する移民の協会と協力して、出身地である村落及び地域に共同で資金援助される。最後に、資金援助及び訓練の形態の援助が、復興事業を実行するために帰国を希望するマリ人及びセネガル人に与えられる。

ドイツ:ドイツからの送金額の記録は昨年33億ユーロに達した。主な受入国は10億ユーロが送金されたトルコである。ドイツは、既にトルコとともに成功裡に取り組み、送金コストを大きく削減した。長年にわたり、この協力は、移民及びその家族へのサービスを向上させ、監視基準を維持しつつ、正式なセクターにおける効率的な移転の機会を提供した。

イタリア:過去数年間にわたり、イタリアからの送金フローは大きく増加した(2003年は60億ユーロ)。イタリアは、移民の送金が正式な金融チャンネルに流れるように引きつけ、革新的な支払い技術の開発を促進し、統計上の問題に取り組み、母国の経済成長及び開発の手段として送金を利用することを奨励する行動計画を策定した。特に北アフリカ(とりわけモロッコ)、バルカン、サブ・サハラ・アフリカ諸国における、「零細金融送金」のパイロット事業等、いくつかのイニシアティブが既に開始されているか、または検討中である。

日本:日本からの送金額は、2002年に3350億円に達した。革新的な商品が銀行へのアクセスを向上させ、送金料の大幅な削減が実現した。日本はマレーシア及びフィリピン等の主な受入国と協力して、受入国の農村地域における金融機関へのアクセスの拡大のための具体的な計画の作成、日本へ移動する移民労働者の教育プログラムの促進、及び送金を促進するその他の手段の検討のため、送金フローの共同調査を実施する。

ロシア:ロシア連邦からの送金は、モルドヴァ、グルジア、アゼルバイジャン、アルメニア、キルギス共和国及びタジキスタンを含む、多くのCIS諸国の発展に重要な役割を果たす。ロシアは、送金フローの枠組みを改善し、地方の費用効果的な送金サービスの事業の多様化の奨励、移民に対する金融機関の利用についての啓蒙活動の増加及び送金データの質的向上のために、これらの国々の1か国又はいくつかの国とのパートナーシップの可能性を検討する。

英国:英国は、英国から大きな送金フローを受領している2か国との間でまず送金パートナーシップを策定しているところである。これらのパートナーシップは、南部アフリカにおけるフィンマーク信託とのパートナーシップ等の英国に支援された現行のプログラムを基礎として、金融セクターの強化、送金フローの障壁削減、手頃な対価でかつ効率的な送金サービスへのアクセスの改善のために築かれる。

米国:米国と世界第3位の送金受入国であるフィリピン(昨年の送金受入額は80億ドルであり、約半分はアメリカからの送金である)は、競争を促し効率的な転送メカニズムを採用することで送金コストを削減し、送金サービスや貯蓄及び投資手段へのアクセスを拡大し、テロ資金供与対策及び資金洗浄対策のための基準の遵守を確保するために、ともに取り組むことに合意した。

欧州委員会:欧州連合(EU)からの労働者の送金フローは、EUに隣接する国々を含め、第3国にとり重要な資金供与の源である。欧州委員会は、サービスの選択肢の拡大、送金取引をより安全にし、市場における透明性と競争を高めることを企図した、EUの支払いサービスの新しい法的枠組みを準備しているところである。EUプログラムは、送金移送コストを削減するイニシアティブを支援し、生産的な投資及び開発イニシアティブへの送金の利用を促進することにより、移民及び難民の分野において第三国の支援も行う。