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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] グレンイーグルズ行動計画:気候変動,クリーン・エネルギー,持続可能な開発(第31回グレンイーグルズ主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] グレンイーグルズ
[年月日] 2005年7月8日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.我々は、以下の主要な分野において、前向きな行動をとる。

●エネルギー利用方法の転換

●将来に向けたクリーン電力の推進

●研究開発の促進

●クリーン・エネルギーへの移行のための資金調達

●気候変動の影響への対処

●違法伐採への取組

エネルギー利用方法の転換

2.エネルギー効率の向上は、温室効果ガスの排出削減、汚染防止、貧困削減、エネルギーの安定供給の強化、競争力、健康と雇用の促進に加え、経済成長と環境に有益である。

3.エビアンにおいて、我々は、エネルギー効率は、G8が行動すべき主要な分野であることに合意した。2004年のシーアイランド・サミットでの合意を受けて、3R(発生抑制、再使用、再生利用)イニシアティブが東京でこの4月に開始された。これは、資源及び原料のより効率的な利用の促進に向けた重要な一歩であり、環境への影響を減少させつつ経済的競争力を強化するものである。

4.我々はまた、国連持続可能な開発のための教育の10年などの国際的な取組等を通じ、消費者の行動と選択が与える環境への影響について、消費者の意識を高める重要性を認識する。

建築物

5.建築物のエネルギー効率向上のため、我々は、

(a)先進国及び開発途上国における既存の建築基準及び規則の見直し、効率性を評価するためのエネルギー指標の策定、政策上の最善の事例の特定を、国際エネルギー機関(IEA)に要請する。

(b)開発途上国への働きかけにおいて、再生可能エネルギー・エネルギー効率パートナーシップ(REEEP)などの既存のパートナーシップの作業を奨励する。そして、

(c)各国において、公共建築物の調達及び管理のための国内ガイドライン又は基準を策定する。

電化製品

6.電化製品の省エネルギー推進のための、ラベル付け、基準設定及び製品テストに関する国際的な政策協調を奨励するため、我々は、

(a)IEAの1ワットイニシアティブの適用を推進する。

(b)電化製品のエネルギー効率についてIEAが現在持つ能力を基に、既存の国際的な基準及び規則を見直すための調査の実施を、IEAに要請する。

(c)電化製品のエネルギー消費についての消費者の意識を高めるために、明確で整合的なラベル付けの使用を拡大する。

(d)優先的な部門における製品の効率及び環境性能の改善を図るため、国内において及び他国と協力して取り組む。

(e)既存の国際機関によって提供された事例を基に、他国と基準を調和させる可能性を探求する。

陸上輸送

7.我々は、以下により、よりクリーンで効率的かつ排出の少ない車両の開発及びその導入の促進を奨励する。

(a)市場の発展を加速させるために、適当な場合には公共調達の活用を含め、そのような車両の国内販売を促進するための野心的な政策を採用する。

(b)車両の効率性のための既存の基準及び規則の見直し、並びに最善の慣行の特定を、IEAに要請する。

(c)よりクリーンなガソリン・ディーゼル技術、バイオ燃料、合成燃料、ハイブリッド技術、電池性能、水素燃料電池車両を含む分野において、技術研究、開発、及び関連する場合には、その導入にかかる協力を奨励する。

(d)これらの問題に関する我々の議論を、英国において11月に開催される、よりクリーンで効率的な車両についての国際会議において継続する。

(e)エネルギー消費、効率性、排気ガスのデータについての明確で整合的なラベル付け等を通じて、車両の選択が環境に与える影響についての消費者の意識を高め、また、運転方法や輸送方式の選択の結果に関するより明確な情報の提供を奨励する。

航空

8.我々は、

(a)航空輸送における安全性の向上、燃料効率の改善、排出の削減を継続的に行うための(航空管制及び地上オペレーションを含む)運用上の前進の潜在的可能性を探求し、加速するために、共同作業計画を実施する。

(b)来るべき第4回評価報告書の一部として、航空が気候に与える影響に関する最新の証拠に関する最新の評価を提供するため、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と協力する。

(c)技術上及び運用上の対応についての情報提供のため、飛行機雲及び巻き雲効果など特定の問題に関する理解向上を目的とした、気候に関する科学的研究を支援する。

(d)排出を大幅に削減する潜在的可能性を有する長期的な技術開発に関する既存の各国の研究プログラム間の調整を奨励する。

産業

9.我々は、

(a)エネルギー集約的な部門における新規または既存のプロジェクトへの主要な投資の一部として、自発的な省エネルギー評価の利用を拡大するために、国際開発金融機関(MDBs)と協力する。

(b)先進国及び関心を有する開発途上国の間で、効率性パフォーマンスの評価作業を進展させ、産業部門によるエネルギー効率化措置の更なる分析が付加価値を生むことのできる分野を特定するよう、IEAに要請する。

(c)我々の経済における主要な産業部門の温室効果ガス濃度を削減するため、産業界と共に、部門別及び国境を越えたものを含むパートナーシップを構築する。

(d)利用可能な技術に関する情報の普及におけるUNFCCCの技術移転クリアリング・ハウス「TT:Clear」の作業を引き続き支援し、エネルギー効率化技術の導入を奨励するための最善の慣行及び国内政策についての情報共有において更に協力する。

将来に向けたクリーン電力の推進

10.安定した手ごろな価格でのエネルギー供給は、G8諸国のみならず世界の力強い経済成長に不可欠である。エネルギーへのアクセスも貧困削減には非常に重要であり、開発途上国においては、20億人が近代的なエネルギー・サービスへのアクセスを欠いている。

11.我々が直面する課題の規模に対応するため、再生可能エネルギー利用の増加を含め、エネルギー供給構成を多様化させる必要がある。世界のエネルギー構成において、化石燃料は重要な要素であり続けるが、それに伴う大気汚染及び温室効果ガス排出に対処する方法を見出す必要がある。我々は、抽出からエネルギーの発生及び伝送に至る連鎖の過程全体においてエネルギー効率を向上させるため、また、低排出の代替エネルギー源についてその巨大な手つかずの潜在的可能性を最大化するために、利用可能なすべての機会を利用することが必要である。

12.我々は、原子力を継続して利用するG8諸国が、より安全で、信頼性があり、より転換及び拡散しにくい先進技術を開発する努力に留意する。

よりクリーンな化石燃料

13.我々は、以下により、石炭及び他の化石燃料からの発電をよりクリーンで効率的なものにするための努力を支援する。

(a)主要な石炭使用国における、石炭火力発電所のエネルギー効率についての情報を見直し、評価し、そして広く普及するためのIEAの作業、及び、最善の慣行をアクセスしやすいものにするための選択肢を提言するIEAの作業を支援する。

(b)どの発電所が最も費用対効果が高くまた最も効率的で低排出かを評価するために、IEAのクリーン石炭センターの作業を基にして、最近建設された施設について世界的な調査を実施し、この情報を広く普及させるよう、IEAに要請する。

(c)クリーンな石炭を含む先進的な化石燃料技術の潜在的可能性を実証するためのプロジェクトについて、産業界及び国内外の研究プログラム、パートナーシップとの間で協力を継続する。

14.我々は、以下により、炭素固定貯留技術の開発及び商業化を加速するための作業に取り組む。

(a)炭素隔離リーダーシップ・フォーラム(CSLF)の目的及び活動を支持し、同フォーラムがより広い市民社会と協力すること、また、炭素固定貯留技術への一般のアクセスにおける障壁に対処することを奨励する。

(b)CSLFと協力し、原油強制回収及び天然ガス生産における二酸化炭素の除去を含む化石燃料部門における炭素固定貯留のための短期的な機会に関するワークショップを開催するようIEAに要請する。

(c)IEAが、CSLFと協力し、「炭素固定が容易な」設備に関する定義、費用、範囲を研究し、経済的誘因を検討するよう要請する。

(d)地質学的な二酸化炭素の貯留のための研究上の選択肢について、主要な開発途上国と共に取り組む。

(e)産業界及び国内外の研究プログラム、パートナーシップと協力し、開発途上国も含め、炭素固定貯留技術の潜在的可能性を探求する。

15.我々は、以下により、強力な温室効果ガスである、メタンの捕捉を奨励する。

(a)メタン・市場化パートナーシップ及び世界銀行の随伴ガスのフレア削減パートナーシップ(GGFR)を支援し、より広い参加を奨励する。そして、

(b)世界銀行のGGFRパートナーシップの2006年以降の延長を支援するために、二国間で取り組む。

再生可能エネルギー

16.我々は、以下により、再生可能エネルギーの開発及び商業化を引き続き促進する。

(a)中国政府主催の2005年末の国際会議で開始される、ボンでの再生可能エネルギー2004会議国際行動計画を推進するとともに、再生可能エネルギー政策ネットワーク(REN21)の目標を支持する。

(b)再生可能エネルギー・エネルギー効率パートナーシップ(REEEP)及び地中海再生エネルギー・パートナーシップ(MEDREP)を含む、ヨハネスブルグ実施計画を前進させるためのパートナーシップの形を含む関係者の作業を歓迎する。

(c)能力構築支援の提供、政策枠組みの策定、研究開発の実施、バイオエネルギーを含む再生可能エネルギーの潜在的可能性の評価のために、開発途上国と協力する。

(d)ローマ・バイオエネルギー国際ワークショップ後、特にバイオマスの利用が普及している開発途上国において、より広範な、費用対効果の高いバイオマス及びバイオ燃料の導入を支援するため、グローバル・バイオエネルギー・パートナーシップを開始する。

(e)再生可能エネルギーについてのIEA実施協定の創設及び更なる発展を歓迎する。

配電網

17.我々は、以下のために、IEAと協力する。

(a)再生可能エネルギー源のネットワークへの統合及び配電の効率性の最大化という課題に向けて研究を牽引し、報告書を作成すること、

(b)先進国及び開発途上国における研究開発を促進するために、「優れた研究センター」を特定し、結びつけること、

(c)2006‐2007年の間に、技術、規制、及び商業上の障壁を克服するための手段を評価し促進することを目的としたワークショップを推進すること。

研究開発のためのネットワークの促進

18.我々は、エネルギー技術の研究開発における、コミットメントの強化と国際協力及び調整の必要性を認識する。我々は、エビアン科学技術行動計画で特定されたすべての分野におけるエネルギー技術の研究、開発及び普及を引き続き前進させる。

19.我々は、エネルギー媒体として水素を使用する技術及び実践に関する研究開発への支持を表明する。我々は、この分野における研究努力を調整するため、IEAと水素経済のための国際的パートナーシップ(IPHE)の作業への継続的な支援を奨励する。

20.我々は、2005年5月にオックスフォードで開催されたエネルギー研究・革新ワークショップに留意し、

(a)以下のためにIEAと協力する。

●協力を推進し、エネルギー研究の成果を共有するための実施協定を通じて、既に進行中の作業を基に取組を進展させる。

●国際的なビジネス界及び開発途上国との結び付きを強化する。

●既存の共同取組の効果の交流を促進するため、それらの目録を作成する。

(b)既存の研究ネットワークへの注目を高め、適当な場合には、より広範な参加を奨励する。そして、

(c)先進国と開発途上国との間の共同作業のための現在の取り決めを改善する方策を探求し、既存のネットワークへの開発途上国の参加を促進する。

クリーン・エネルギーへの移行のための資金調達

21.前向きな投資環境及び効果的な市場モデルは、新しい技術の採用及び経済成長のためのエネルギーへのアクセスの拡大にとって非常に重要である。我々は、よりクリーンな技術及びエネルギー源への市場主導型のアプローチを支援するためには幅広い手段があり、各国が自国の事情に適した手段を選択することを認識する。

22.我々は、

(a)エネルギー効率化を推進し、投資を加速化させる市場主導型のアプローチ、低排出の将来への転換を助けるよりクリーンな技術の導入を支援する。

(b)適切な場合に、温室効果ガス及び/又は汚染物質の排出を削減するために、短期及び長期的な投資価値に信用を供与する目的で、以下のような市場に基づく政策枠組みを採用する。

●運転資金への再投資の支援。

●直接投資への障壁の除去。

●クリーンな開発のための民間投資の促進。

●基準または価格上及び規制上のシグナルの使用。

(c)我々は、各国の置かれた状況に応じて、様々な政策アプローチの役割、適切さ、シナジーの潜在的可能性、タイミングについて、以下を含めた対話を促進する。

●目標を含めた、長期的な部門別、国別又は国際的な政策枠組みの策定。

●技術の開発と普及に役立つ財政上及びその他のインセンティブ、並びに温室効果ガス又は汚染物質の排出削減に関する取引証書、削減クレジットの取引を含む、市場に基づく手法。

●プロジェクトに基づく自発的な相殺メカニズム。

23.京都議定書を批准した国は、

(a)市場メカニズム(共同実施、国際排出量取引及びクリーン開発メカニズムを含む)の実施を強化、発展させるために取り組む。

(b)排出量取引を支援するためのクリーン開発メカニズム理事会及び関係機関に対し、2005年末までに十分な資金が供与されていることを確保するため、最大限努力する。

24.地球環境ファシリティーの、再生可能エネルギーを含むよりクリーンで効率的なエネルギー・システムについての、開発途上国との協力推進における貴重な役割を認識し、第3回の増資における未解決の改革のコミットメントの成功裡の終結とともに、今年の増資が成功裡に行われることを期待する。

25.我々は、世界銀行及びその他の国際開発金融機関(MDB)が、エネルギー問題について借り手との対話を強化すること、また、年次会合において、以下の目的のために、具体的な提案を行うように要請した。

(a)既存の資源及び資金調達手段を最大限利用すること、また、よりクリーンで効率的なエネルギー生産及び使用を可能にする技術の採用を加速するためのエネルギー投資の枠組みを策定すること。

(b)既存及び新規の貸し出しポートフォリオの範囲内で、国際開発金融機関の貧困削減という中核的な役割に沿った形で、再生可能エネルギー及びエネルギー効率化技術への投資量を増大するための機会を探求すること。

(c)大きなエネルギー需要を有し関心を持つ借り入れ国と協力し、これらの国の優先順位と合致する、より温室効果ガスの集約度の低い成長の選択肢を特定し、これらの選択肢の国別援助戦略への統合を確保すること。

(d)エネルギー効率化及び低炭素のエネルギー源を促進する、費用対効果の高いプロジェクトを策定し資金供与するため、地域的な商業能力を構築すること。

26.我々は、世界中でより持続可能なエネルギー政策を促進するため、各国の優先事項に合致した形で、各国の二国間開発計画を通じて、作業を継続する。

27.我々は、よりクリーンで効率的なエネルギー・プロジェクトの経済的、資金的実行可能性を向上させるため、輸出信用機関と協力する。

28.我々は、必要な能力構築、環境醸成、情報の普及を支援するために、UNFCCC技術移転専門家会合を含む、他のフォーラムにおける作業に基づき取組を進展させる。

29.我々は、また、商業的に魅力的なリスクと見返りのバランスを民間投資家に提供するために、多くの関係者によるパートナーシップを通じて、主要な開発途上国で必要な政策、規制及び資金枠組みを開発する。

気候変動の影響への対処

30.我々は、気候変動に関する政府間パネルの重要性を再確認し、その第4回評価報告書を2007年までに完成するために、現在行われている研究の広範囲にわたる分析を歓迎する。

31.すべての国は、政府が気候、環境、公衆衛生、経済的及び社会的要因を開発・国土保全戦略に統合するために、更なる情報アクセス及び科学的能力の開発を必要とする。我々は、アフリカにおけるデータの欠如が最も甚大であり、差し迫った注意に値することに留意する。

32.我々は、地球環境ファシリティー(GEF)の適応優先事項等を通じて、開発途上国の適応及び緩和能力の向上の支援における、UNFCCCの作業に留意する。

33.我々は、気候上の影響に対する強靭さを構築するために、どのように開発及びエネルギー戦略を強化できるかについて、2005年9月のミレニアム宣言に関する首脳会合を含む、更なる議論に期待する。

モニタリング及びデータ解釈

34.G8諸国は、エビアンにおいて、世界的な地球観測について国際協力を強化するためのコミットメントを行った。我々は、この分野における指導力を引き続き発揮し、今年2月にブリュッセルで開催された第3回地球観測サミットにおける、全地球観測システム(GEOSS)の開発のための10年実施計画の採択を歓迎する。我々は、以下を行う。

(a)G8諸国のGEOSSの国内実施を前進させる。

(b)開発途上国及び地域が、データ格差を補うための観測システムの設置、観測データを分析し解釈するための国内及び地域的な能力の開発、地域のニーズに関連した決定支援システム及び手段の開発等の全球気候観測システム(GCOS)からの利益を含め、GEOSSの利益を十分に受けることができるような、支援の取組を支持する。

(c)特に、アフリカに十分に稼動した地域的な気候センターを作るために、GCOSを通じた、アフリカの既存の気候関連機関の強化に取り組む。

リスク管理

35.我々は、

(a)被援助国政府及び地域社会と協議しつつ、世界銀行に対し、気候によるリスクがいかにその業績に影響を与え、またそのようなリスクを管理するためどのような最善の方法があるかをを{前1文字ママ}判断するために、気候の影響を受けやすい部門への投資を審査するための「最善の慣行」ガイドラインを策定し実施することを呼びかける。

(b)他の多国間及び二国間開発機関に対し、世界銀行ガイドラインの採用、または同様の手引きの策定、実施を呼びかける。

違法伐採への取組

36.我々は、違法伐採が、アフリカ及びその他すべての地域における最貧国の多くの人々の生計に与える影響、また、環境劣化、生物多様性の損失と森林破壊、そして世界的な持続可能な成長に対する影響を認識する。我々は、特にコンゴ盆地、アマゾン地域を含む、世界的な炭素吸収源の重要性を認識する。

37.我々は、違法伐採に取り組むことが、森林の持続可能な管理に向けた重要な一歩であることに合意する。この問題に効果的に対処するためには、木材生産国及び消費国双方の行動が必要である。

38.我々は、G8環境・開発大臣会合の違法伐採についての結論を承認する。この分野における我々の目的を更に推進するため、我々は同会合において支持された結論を、各国が最も効果的に貢献できる分野において行動することにより、推進する。