データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 不拡散に関するグレンイーグルズ声明(第31回グレンイーグルズ主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] グレンイーグルズ
[年月日] 2005年7月8日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.エビアン及びシーアイランドにおいて認識したように、我々は大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散が、国際テロと並んで、引き続き、国際の平和と安全に対する顕著な脅威であることを認識する。テロリストによる大量破壊兵器の使用の脅威は倍加した努力を求めている。

2.すべての国は、国際的な軍備管理、軍縮及び不拡散の規範を支持することによって大量破壊兵器の拡散の課題に対処する役割を有する。すべての国は自身の義務を完全に満たし、効果的な実施を確保しなければならない。我々はこの点に関する我々のコミットメントを再確認する。そして、我々は、国内的取組及び実効的な多国間主義の双方を通じて拡散の課題に断固として対処する決意を強調する。

3.シーアイランドにおいて、我々は不拡散に関する行動計画に合意した。我々は、過去1年間、国際的なパートナーと共に、そのすべての側面について集中的に取り組んできた。

不拡散体制の普遍化及び強化

4.多国間で合意された規範は我々の不拡散の努力に不可欠な基盤を提供する。我々はこれらの規範への普遍的な加入及びこれらの規範の遵守を強く支持する。我々は、改善された検証及び執行も通じて、これらを強化する。我々は核兵器不拡散条約、IAEA包括的保障措置協定及び追加議定書、化学兵器禁止条約、生物・毒素兵器禁止条約、1925年ジュネーブ議定書、弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範に加入していないすべての国に遅滞なく加入することを求める。その目的のために我々は諸国を援助する用意が引き続きある。

5.我々は、ロシア連邦のイニシアティブにより始められた、核のテロリズム行為の防止に関する国際条約に関する国際社会の合意を歓迎する。我々はその早期発効を期待する。

国際連合

6.我々は拡散の課題に対処するための国連安全保障理事会の役割を認識する。我々は多数の国連加盟国が、輸出管理を含む不拡散に関する国内規定についての報告書を提出することによって安保理決議1540に対応した事実及びそれらの国際協力への貢献を歓迎する。我々は報告書を提出していない国に対して遅滞なく報告書を提出することを要求する。違反への刑事上及び民事上の適切な罰則も含む国内の法的及び規制的な措置を制定及び執行し、不拡散への国際的な協力にコミットすることによって、すべての国が自身の義務を完全に果たすことが不可欠である。我々は国内手続きを発展させることを追求する国のすべての要望を考慮する用意がある。関連国際機関の支援を促しつつ、我々は1540委員会が迅速かつ効果的に作業を行うことを要求する。我々は、また、1540委員会の作業が不拡散に永続的な貢献を行うことをいかにすれば最も良く確保できるかを安保理が検討することを要求する。

7.我々は、国連事務総長の報告書である「より大きな自由に向けて」において国連事務総長が不拡散に示した関心を歓迎する。我々は9月の国連首脳会合に積極的に関与していく用意がある。我々は、不拡散及び軍縮の我々の目的を推進するための軍縮会議の役割を認識し、軍縮会議が実質的作業を再開することを求める。

8.10月の外交会議において、海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(SUA条約)が締約国によって強化されることを期待する。

拡散に対する安全保障構想(PSI)

9.我々は、グローバルな問題に対するグローバルな対応である、拡散に対する安全保障構想(PSI)及び阻止原則宣言へのコミットメントを再確認する。我々は、PSIに対する国際的な支持の高まりを歓迎する。我々は、すべての国に対し、大量破壊兵器及びその運搬手段並びに関連物資の不正取引に対抗するために、協力を深化させることにコミットするよう求める。

10.我々はまた、適切な法的根拠に基づいて、関連の金融取引・資産を特定・追跡・凍結するための協調的な手続を発展させることによって、拡散ネットワーク及び不正な資金の流れに対抗する取組の強化を求める。

核不拡散

核兵器不拡散条約(NPT)

11.我々はNPTが引き続き核不拡散の礎であることを強調する。我々はNPTの3本の柱すべてに対する我々の完全なコミットメントを再確認する。我々は2005年NPT運用検討会議においてコンセンサスが得られなかったことを遺憾とするが、すべての締約国がNPTの有効性を再確認した事実を歓迎する。我々は核不拡散体制に対する脅威及び課題がNPTに基づいて対処されるよう断固として臨む所存である。我々は、NPTを支持及び強化する努力を倍加することを誓約する。

国際原子力機関(IAEA)

12.保障措置はNPTの効果的な履行のために不可欠な手段である。我々はIAEAへの完全な支持を再確認する。我々は、包括的保障措置協定及び追加議定書の履行が、NPTの保障措置義務の遵守を検証する普遍的に受け入れられた規範となるべく努力している。追加議定書は、原子力供給取極の分野における不可欠な新基準にならなければならない。我々は、この考えに基づき、NSGガイドラインを強化するために引き続き協働していく考えである。同時に、我々は、最近の不拡散の課題に鑑み、NPTの義務及び保障措置協定の遵守を確保するためのIAEAの能力を再検討する保障措置及び検証に関する委員会の設立を歓迎する。

濃縮・再処理技術

13.シーアイランド以降、我々は、世界が平和的な原子力の恩恵を安全に享受できるようにする一方、拡散の虞のある機微な原子力品目が、これらを兵器目的に使用するかもしれない国や、テロリストの手中に落ちることを許すかもしれない国に輸出されないよう予防するための更なる措置を策定するために取り組んできた。我々は、シーアイランドにおいて、これら品目の輸出は、グローバルな不拡散の規範に従った基準に則ってのみ、かつ、これらの規範に厳格にコミットしている国に対してのみ行われるべきであることに合意した。この1年間、我々は、こうした基準の策定において進展を示してきた。我々は、本件についてコンセンサスに達することを目指して積極的に作業するとの原子力供給国グループ(NSG)の最近の総会における決定を歓迎する。このプロセスを支援するために、我々は、今後の1年間、シーアイランドで合意したように、追加的な国への濃縮・再処理の機材・技術の移転を伴う新たなイニシアティブを開始しないことが思慮深いことであるという点に引き続き合意する。我々は、すべての国に対して、この思慮深い戦略を採用することを引き続き求める。我々は、また、NSGにおいて、核不拡散や保障措置上の義務に違反している国への原子力移転を制限する重要な措置が採択されたことを歓迎する。

14.我々は、機微技術の供給に関する強化された条件は、核燃料サイクルを放棄し、また、すべての核不拡散義務を満たしている国が、核燃料及び関連サービスに係る市場への保証されたアクセスを享受することを確保するための新しい措置を伴うべきであると信じている。我々は、あり得る核燃料サイクルへのマルチラテラル・アプローチについて最近報告を行った、IAEA事務局長によって設立された専門家グループの努力を歓迎する。我々は、拡散の危険性を最小限にしつつ、真のアクセスを提供する将来の方途について関心を有するすべてのパートナーと協働していく。

拡散の課題

15.リビアによる大量破壊兵器の重要な放棄の例は、世界的な不拡散の主流の一部となることを望む国に、国際社会は積極的に対応することを示している。この精神で、我々は現在の拡散の課題に対処するために断固として取り組んでいる。

16.我々は、特に北朝鮮が核兵器を製造したとの最近の声明を受け、また、北朝鮮のミサイル計画及びミサイル拡散の経歴を踏まえ、北朝鮮の核兵器計画による脅威に対して深い懸念を表明する。北朝鮮は、NPT上及びIAEA保障措置協定上のコミットメントに違反してきている。北朝鮮がNPTの完全な遵守に迅速に復帰し、すべての核兵器関連計画を完全、検証可能かつ不可逆的な形で廃棄することの必要性を改めて表明する。また、北朝鮮が他の地域におけるミサイル拡散に寄与せず、また、ミサイル発射に関する自らのモラトリアムを無期限に継続することも不可欠である。我々は、包括的な解決を実現するための重要な機会である、六者会合への我々の完全な支持を再確認する。北朝鮮が、六者会合に直ちに無条件で復帰し、この目的に向け建設的に参加することが不可欠である。

17.我々は、イランの先進的核計画の拡散上の意味合いが解明されるべきという決意において引き続き団結している。国際的な信頼を築くためには、イランが、自らの核計画が専ら平和的目的であるという客観的保証を国際社会に対して提供することが不可欠である。我々は、政治や経済面での協力に加え、そのような客観的保証を提供する長期的取り決めについてイランとの間で合意に達するための、フランス、ドイツ及び英国並びに欧州連合上級代表によるイニシアティブを歓迎する。長期的取り決めに関する交渉が継続している間、我々はイランに対してすべてのウラン濃縮関連・再処理活動の停止を維持することを要求する。我々は、イランがIAEAによる情報とアクセスの要求に完全に協力し、IAEA理事会のすべての要求事項を完全に遵守し、また、自らの核計画に関するすべての未解決問題を解決する必要性を改めて表明する。我々はまた、イランに対して追加議定書を遅滞なく批准すること、また、批准までの間、その規定に完全に従って行動することを要求する。

生物学的脅威に対する防衛

18.我々は、生物学的脅威に対する防衛を強化するとの強いコミットメントを再確認する。この1年間、我々は食料供給の安全確保の向上に焦点をあてた努力を行ってきている。我々は生物学的脅威に対処する努力を継続し、他の関連する国際的グループにおける作業を支援する。

19.本年は生物・毒素兵器禁止条約の発効30周年記念にあたる。新たな生物学的脅威は、条約の完全な遵守が今日においても条約が成立した当初と同様に意義を有していることを示している。現行の作業計画については、本年は科学者の行動規範の内容、普及及び採択を議論することとなっているが、我々は締約国に対しこの作業に十分参加するよう奨励する。さらに、我々は2006年の運用検討会議が実質的かつ前向きなものとなるよう期待する。

20.また、2005年は戦時における窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス及び細菌学的手段の戦争における使用を禁止した1925年ジュネーブ議定書の署名開放80周年にあたる。我々は、このように化学兵器及び生物兵器の戦時における使用を多国間で拒絶することが、継続して極めて重要な妥当性を有していること強調する。

化学兵器禁止条約

21.我々は、その不拡散の側面も含め、化学兵器禁止条約の完全な実施を支持し続ける。化学兵器禁止条約によって規定されている期限内に化学兵器を廃棄し、また、化学兵器生産施設を廃棄又は転換するという義務を認識しつつ、我々は、本年11月に予定されている締約国会議までにすべての締約国に対し国内実施措置を整えておくよう要請している行動計画に、締約国が2003年に合意したことを想起する。我々は、いまだそうした措置を整えていない締約国がすべての必要な措置を取り、期限を守ることを要求する。我々は、適切な支援を提供する用意がある。我々は、CWCに規定されているように、協議及び協力、事実調査、検証並びに遵守措置(必要な場合におけるチャレンジ査察を含む)を活用することを支持する。

大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ

22.我々は大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ及びカナナスキス声明、原則及び指針に対する我々のコミットメントを再確認する。我々は、G8及び他の13か国が現在貢献している協力事業の実施のために、我々が遂げた相当な進捗の基礎の上に更に作業を行っていく。我々は、まずロシアにおいて、グローバル・パートナーシップの優先事項のために2012年までの10年間に上限200億ドルを調達することを改めて誓約する。この文脈において、我々はこれらの優先事項に従って新規の事業に着手する。我々はウクライナの参加を歓迎するとともに、パートナーシップ参加への関心について多くの旧ソ連諸国との協議を継続する。カナナスキス文書を支持するドナー及び受益パートナーに対して我々は、パートナーシップの更なる拡大について原則として開かれた立場を採っていることを再確認する。

原子力の安全とセキュリティ

23.我々は、安全とセキュリティ・規制制度の強化及び両者間の調整を含む、原子力及び放射線源の安全とセキュリティ分野におけるIAEAとの継続的な協力関係を歓迎する。我々は、地球的規模脅威削減イニシアティブの確立を支持するとともに、これまでの進展を歓迎する。我々は、本年3月にロンドンでIAEAの主催により開催された核セキュリティに関する国際会議の結果を歓迎する。我々は、使用済燃料管理の安全及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約にすべて署名加入しており、他の諸国に対し同条約への加入を要求する。

24.1986年の恐ろしい事故以来、我々はチェルノブイリの現場での安全とセキュリティを改善すべくウクライナとともに取り組んできた。本年、我々は、EU及びその他16か国とともに、原子炉の残骸の上に新たな安全なシェルターを建設するため、資金的貢献の誓約額を約10億ドルにまで増額した。我々は、本プロジェクトに対するウクライナの政治的・資金的なコミットメントを歓迎するとともに、ウクライナに対し、2009年までに本プロジェクトが安全に完了することを確保するよう要求する。

放射線源の安全とセキュリティ

25.エビアンで我々は、テロリストによる使用を防ぐため、放射線源の管理を改善することを決意した。我々は、70か国以上がIAEAの放射線源の安全とセキュリティに関する行動規範の実施にコミットした事実を歓迎し、他のすべての国に対し行動規範を採用するよう要求する。我々は、IAEAが放射線源管理のための国際的な輸出入ガイダンスを承認したことを歓迎する。我々は、2005年末までの効果的な管理の適用が、調和のとれた一貫した形で行われるよう作業する。我々は、本年6月にフランスのボルドーで行われたIAEA主催の放射線源の安全とセキュリティに関する国際会議の結果を称讃する。我々は、世界的な放射線源のセキュリティの改善のための協力を強化する。