[文書名] 小泉総理内外記者会見(要旨)(第31回グレンイーグルズ主要国首脳会議‐G8サミット)
(小泉総理冒頭発言)
まず、昨日ロンドンで起こったテロ事件について、この被害を受けられた方々、またご家族の方々に対し、心からお見舞い申し上げる。今回のテロについて、G8首脳そして新興経済諸国が加わった会議においても、強い憤りの念を持って、如何にテロに屈することなく、これからもお互いテロと戦っていくか、防止していくかについて、共通の認識を持って対応していかなければならない、と強いメッセージを発した。ブレア首相はテロの知らせを聞いて途中急遽ロンドンに戻られたが、このテロによって今回のサミットを中止してはいけない、サミットの会議は続行すべきだ、ということでロンドンに行かれて、不在中はブレア首相の代役としてジェイ外務次官、そしてストロー外務大臣が立派に議長役を務められた。
今回のサミットにおいて、主要な議題はアフリカ問題と気候変動問題であった。日本は、G8サミット参加国の中でアフリカとは最も地理的に遠い国である。また、過去の歴史を見ても政治的にも経済的にも文化的にも一番関与の薄い地域である。しかしながら今まで、アフリカ問題の解決なくして世界の安定と発展はない、という基本方針の下に、日本としてもできるだけの支援をしていこう、ということで、日本でできることは何かと、他の国々と違った民生の安定、貧困の削減、感染症等の保健、教育、農業、いわゆるアフリカ諸国が自らの力で立ち上がっていけるような、またアフリカの国々が最も必要としている支援は何か、ということを中心に協力してきた。40年前には、アジア諸国の一人当たり国民所得の方がアフリカよりも低かった。しかしながら、日本はアジアの一員としてアジア諸国に対し協力を続けてきた。今、アフリカよりもアジアの国民一人当たりの所得は上昇している。こういうことから、4月にアジア・アフリカ会議がインドネシアで開催された。いわゆるバンドン会議50周年、その会議に私も出席し、アジアが自らの力で立ち上がってきて経済発展を順調に遂げている、このアジアの経験をアフリカ支援に活かそうということで、日本はアジア諸国と共にアフリカに対して自らの国が立ち上がれるようなアフリカ自立支援の協力もしていきたい、と今回のサミットで表明した。今まで、日本はODA等の見直しを進めてきた。90年代においては世界でも日本のODAは第一位であったが、見直ししてきた結果、日本のODAはだんだん増えるというよりも減るような状況であったが、G8諸国がこれからやはりアフリカは大事だということで、アフリカの支援を増やしていかねばならないということなので、日本もこれから減額するのでなく増額の方向に転じる方針を表明した。具体的には、ODA全体としては、今後5年間で100億ドルを積み増そう、3年間でアフリカに対する支援を倍増させよう、ということをこのサミットでも表明した。これからも、日本はG8諸国とは勿論、アジア諸国とも協力しながらアフリカが自らの力で立ち上がれるように、アフリカが最も必要としている分野に支援、協力していきたいと思っている。
また、気候変動であるが、私は、四年前に総理大臣に就任してから、環境保護と経済発展を両立させなければならない、と主張してきた。日本は、40年前には経済成長に熱心に取り組んできたが、この高度成長、10%程度の成長を毎年10年間遂げる中で、確かに豊かになった。しかし、その側面においては、環境保護を重視すると、コストがかかる、製品も高くなる、という考えから、世界に売れるような製品を作ってきた。しかしながら、同時に、大気の汚染、工場から出る廃液から河川が汚染される、海水が汚染される等の公害問題が発生し、公害問題を解決するために莫大なコストがかかった。経済発展・経済成長を追求するあまり、環境保護を軽視してきた、この失敗を先進国も発展途上国にも繰り返してはもらいたくない。だからこそ、現在日本では環境保護と経済発展を両立させる、そしてその鍵を握るのは科学技術だと思う。そういう中で、過去日本は、大量生産、大量消費、大量廃棄、これは当然だと思っていたが、そういう時代ではない。できるだけ、廃棄物は削減していこうというReduce、そして、使えるものはまた資源として再利用しようというReuse、さらに、循環型の社会、ごみゼロの社会、ゼロ・エミッションの社会、いわゆるRecycle、この3R、即ちReduce, Reuse, Recycle。この方針を立てて、地球に優しい、環境を重視した製品を作っていかなければならないという方針に重点的に日本は取り組んでいる。この方針について、過日、ケニアのノーベル賞受賞者マータイ女史が日本での、モノを大切に使うという「もったいない」という言葉にいたく印象をもたれたようで、今言った3Rを全部包含している意味が「もったいない」という言葉ではないかとマータイ女史は言われた。なるほどなあと、英語にでも、外国語?フランス語・ドイツ語・その他の諸国語?の訳はなかなか難しいと思ったのだが、「もったいない」という言葉で十分通ずるではないか、と。「津波」という言葉ももとよりこれは日本語である。そういう意味において、私は、3Rを全部表している言葉が、日本語の「もったいない」という言葉であるので、環境保護を大事にするという、モノを大切にするという言葉の紹介をした。いずれにしても、最近石油が1バレル60ドル前後に跳ね上がっている。このまま多くの国が豊かになろうということで、石油資源を使っていくと、いろいろな環境汚染を引き起こす。日本としては、石油の90%以上を外国に依存しているが、自然にやさしいエネルギーを使っていかなければならない。自動車においても燃料電池、電気自動車、あるいは風力発電、原子力発電、その他ダイオード等、科学技術の力によって環境保護と経済発展を両立させる、その取り組みを各国とも協力してやっていこうということを訴えた。そのほか我が国としては、北朝鮮の問題、あるいは、国連の改革の問題、いろいろと取り上げた。今回、テロが起こって緊張した状況の中で、サミット会議が行われたが、ブレア首相をはじめ、英国政府、英国民、とくにスコットランドの皆様方に温かいおもてなしに対して厚くこころから御礼申し上げたいと思う。ありがとうございました。
(質疑応答)
(質問) 今回のサミットでは国連改革も話題になったが、G8間の足並みの乱れというのは結局埋まらなかった。大詰めを迎える国連改革に総理としてどう取り組んでいくのか。残り1年3ヶ月となった総裁任期の中で、どういう外交課題に優先的に取り組んで成果をあげていきたいか。
(小泉総理) 国連改革については、G8首脳諸国の立場もそれぞれ違う。その違いは各国共々よくわかっている。しかしながら、戦後60年経って当時の国連と現在の国連は違っており、各国との関係も敵対国から友好国になっている、さらに国連参加国も3倍以上になっていることからも、未だかつてない国連改革の機運が盛り上がった年だと思う。そういう面から日本としては、所謂G4、日本、インド、ドイツ、ブラジル、この4カ国と協力しながら国連改革に現在取り組んでいるが、この4カ国の首脳とも今後結束して取り組んでいこうという会談をした。G8全体の会議においては、私からも重要性を指摘したが、各国意見が違うためそれ程対立を煽らないような配慮もあったと思う。それ程重要性を認識している安保理改革のみならず、人権あるいは開発という問題についても改革の必要性については共通の認識を持つことができたのではないかと思う。ただ、どのような改革を行っていくかについては纏まらないのが率直、偽らざる状況である。しかし、日本としてはG4各国と協力しながら、できるだけ多くの国々の理解と協力を今後も得ることができるように努力をしていきたいと思う。
また、私のこれからの外交方針については、就任当初から変わっていない。日本は、米国と同盟関係にあり、日米同盟と国際協調、これが日本の外交の基本方針である。そういう中で日本が国際社会の一員として責任を果たしていかねばならないが、北朝鮮の問題においても、あるいはイラクの問題においても、またアフガンの問題についても各国と協調して日本の役割を果たしていきたい。また、隣国の中国、韓国との友好関係も重視していく。さらに、ロシアとの間には領土問題を解決して平和条約を結ぶ、という長年の悲願がある。これについても、会議の合間にプーチン露大統領と会談し、今年の11月にプーチン大統領が日本を訪問されるということが決まった。これに向けて、今までの日露の行動計画に沿った様々な分野での交流を拡大していく、さらには領土問題については、色々知恵を出してお互いどのような解決の方法があるか外交当局で綿密な話し合いをしていこう、また具体的な解決の問題について、どういう方法が良いか真剣に話し合おう、という会談を行った。それぞれ内政、外交と課題は山積しているが、国連改革のみならず各国と友好・協力関係を増進していくことが日本の発展にとって不可欠だと思っている。
(質問) 日本がアフリカに対する支援を高めようとしているのはなぜか。また、なぜ日本はアフリカとの貿易を促進しないのか。援助だけでは保健、教育、あるいは貧困の問題は解決しない。アフリカが必要としているのは援助というよりは貿易である。
次に、日本はG8という場でより発言権を強めようと努力しているが、なぜ敢えて努力しているのか。
(小泉総理) 日本が何故アフリカを支援するのかという質問については、先ほど申し上げたとおり、アフリカの問題はアフリカだけの問題ではない。紛争についても貧困についても病気についても、こういうものを防止しアフリカ諸国が経済成長を遂げてもらう。自らの力で立ち上がれる力を持ってもらう。そういう国々に対し、日本としても距離的には遠く離れているが、できるだけ支援していくというのは必要であると思う。貿易の問題についても、今まで出来るだけ日本の資本にアクセスできるよう無税の枠も拡大している。私はG8の中で日本の発言権を強めることよりも、日本として、国際社会の責任ある一員として何ができるのか、何をしなければならないのか、ということで発言している。影響力を強めようなどというよりも、国際社会の一員として、日本も貧困の時代から多くの国々からの支援を受け、日本国民もその支援に応えられるよう努力して今日まで経済発展を遂げてきた。そういう立場からすれば、苦しんでいる国々、困難にあえいでいる方々に対し、日本として出来るだけの支援をしていくことは必要だと思う。
(質問) 先ほど外交課題であげた一つである北朝鮮の拉致問題について伺う。サミットの議長総括に3年連続で、北朝鮮の拉致問題の解決の必要性が盛り込められることになったが、総理を始め、日本政府の働き掛けがあったものと理解している。現状を考えると、拉致問題は膠着状態になっていると考えられる。膠着状態を打開するために、総理として何か方策を持っているか。また、日本政府として具体的にどのような取り組みを進めていく考えであるか。
(小泉総理) この北朝鮮の問題について、日本政府の方針は一貫している。私は、過去2回北朝鮮を訪問して、金正日氏と会談したが、その際に発出した日朝平壌宣言は、拉致問題、核問題、ミサイル問題、これを総合的に包括的に解決して、日朝間の正常化を図ろうという政治文書である。この方針に基づいて、今まで拉致された家族が日本に帰国したが、まだ、拉致されたままに北朝鮮に残っている家族もいるわけである。そういう問題を解決するため、六者協議という場ができている。アメリカ、韓国、中国、ロシア、日本、北朝鮮、この六者の会議が行われてから1年間途絶えている。私は、この六者協議の場を活用して、北朝鮮が国際社会の責任ある一員になることが、北朝鮮にとってももっとも利益になる。また、朝鮮半島全体、アジア、世界の中でも、北朝鮮が核を廃棄するということが望ましい。この北朝鮮の核廃棄については、ブッシュ大統領も、平和的解決、外交的解決を強く望んでいる。そういうことから、この六者協議が早く開催されることを望んでいる。会議の中で、私は、各国の首脳の発言振りから、北朝鮮は近いうちに六者協議の場に戻ってくるだろうというような印象を受けた。なぜかということについては、この場では申し上げないが、そのような感じを持っている。早く北朝鮮がこの六者協議の場で、諸問題を解決するように誠意ある対応を取るよう強く期待している。その中で、懸案の事項を解決していきたいと思っている。
(質問) 環太平洋地域において二つの偉大な民主主義国がある。日本と豪州である。ニュージーランドがサミットに呼ばれたことはあっても、豪州は呼ばれたことはない。2008年のサミットは日本で開かれるが、日本は豪を招待するか。新しいメンバーではなくとも、ゲストとして豪を2008年の日本のサミットで招待するか。また、G8の民主主義国の中で、日本はもっとも啓蒙された国だと思う。即ち、日本のお札の中には紫式部や樋口一葉といった女性の作家が載っているというのは啓蒙されている証左だと思う。
カナダなどの他のG8の国も女性の首相を得ることになるかもしれない。インドネシア、スリランカ、フィリピンといったアジアの国々も女性の首相を得ているが、日本ではどのくらい早く女性の首相がでてくるであろうか。また、国連機関の長を務めた緒方貞子さんに次ぐような方がいつ出てくるであろうか。
(小泉総理) よく日本のことをご存知ですね。紫式部、樋口一葉までご存知で。日本に関心を持っていただいてありがたい。豪とニュージーランド、日本にとっても大変親しく、友好関係を維持している国である。私は、この豪とニュージーランドについては、東アジア・サミットが今年の暮れに行われるが、アセアン諸国と中国・韓国・日本だけではなくて、豪もニュージーランドも参加したほうがいいということで、今回参加する予定になっている。そこで、サミットの話になったが、豪も招いたらどうかということであるが、来年のサミットは2006年、ロシアで開催される。その後、2008年のことを言われたと思うが、そのときは私は総理大臣を辞めているのである。いま、どこでやろうとか、どういう国を呼ぼうとか言うのは、私の権限外。次の首相の権限を侵害してはいけないと思っている。次の首相にゆだねようと思っている。もとより、豪もニュージーランドも、安定した民主主義国家である。世界において、立派な役割を果たしている国である。そういう点については私もまったく異論がない。ただ、サミットにどういう国が参加するかということについては、次の首相に私は委ねたいと思っている。
また、いつ日本に女性の首相が誕生するかということであるが、外務大臣は誕生したことがあるが、首相はいつになるか。これも私は今予想することはできない。いつか、いずれは日本も女性の首相が誕生してもおかしくないと思っている。