データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 世界経済における成長と責任(サミット首脳宣言)(第33回ハイリゲンダム主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] ハイリゲンダム
[年月日] 2007年6月7日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

世界経済の成長と安定のためのG8アジェンダ

1.我々は、引き続き堅調な世界経済の成長の文脈で生じる世界的不均衡の円滑な調整を促進する政策アジェンダに合意した。我々は、今日までの進捗を検討し、今後の更なる課題につき議論した。我々のアジェンダは、国際通貨基金(IMF)及びその他の国際フォーラムの議論に基づいている。開かれた市場と競争は、以下に述べる、投資の自由とダイナミックなイノベーションを促進する我々の努力と同様、重要な要素である。

2.世界経済は順調であり、その動向は、特に我々が共同の戦略の実施を進めたために、過去よりも不均衡の調整につながっている。しかしながら、各国の需要をより均衡させるには、更なる努力が必要であろう。世界的不均衡は、長い期間を経て積み上がった。同様に、その解消も、各国間の需要の拡大の中期的なバランス調整を伴う、漸進的なプロセスになろう。

3.経済環境は、世界的不均衡の調整を促進する方向に発展してきた。成長は現在、地域間でより均衡のとれたものになっている。米国では成長がより持続的なペースで緩やかになる一方、ヨーロッパでは内需が力強くなり、日本では堅調な投資に内需が支えられている。我々は、以下の通り、共同の政策戦略の実施を進めてきた。

●米国は、連邦予算の赤字を迅速かつ大幅に削減し、国民貯蓄を支えてきた。

●カナダは、堅調な雇用の伸びに支えられ、内需が力強い。現在、政府予算は相当程度の黒字である。

●ヨーロッパでは、内需は力強くなり、最近の成長状況は、堅実なマクロ経済政策と労働市場の改善を含む構造改革の結果を反映している。

●日本では、積極的な構造改革の努力が続けられ、景気回復が継続してより裾野が広がっている。財政再建は進んでおり、経済に対する信頼の強化と持続的で堅実な成長の確保に不可欠なものとなっている。

●ロシアは、力強い国内消費、投資のテイクオフ及び規律あるマクロ経済・財政マネジメントに基づいた堅調な経済成長を7年間享受している。

4.G8諸国以外では、多くのアジアの新興国が、より柔軟な為替制度と金融セクターの強化に向けた第一歩を踏み出しており、これは不均衡の調整を支える動きである。産油国は、石油生産能力への投資を増加し、多くの国は追加的な輸出収入を、経済と雇用の多様化の促進のため、慎重に活用している。それら諸国において輸入の伸びは相当程度加速している。

5.世界的不均衡は、最近では安定化の兆しを見せており、赤字は比較的容易にファイナンスされてきている。秩序ある調整は、世界経済の利益に適っているが、時間がかかるであろう。我々は、秩序ある調整を促進する国内政策の実施にコミットしている。そうした国内政策は、何よりも我々それぞれの利益に適っている。

●米国は、2012年までに連邦予算の赤字の解消を目指している。義務的歳出とヘルスケア改革、個人貯蓄を促進する税制上のインセンティブを通じた、長期的な財政の持続性を強化する政策が提案されている。また、代替燃料の利用拡大やエネルギー効率を向上させる提案も行われてきた。米国は、成長志向の経済政策を引き続き実施していく。

●欧州は、成長と雇用を促進するリスボン戦略に従って、構造改革努力を継続する。

●日本は、4月に発表した生産性の伸びを向上するための総合的な方策(成長力加速プログラム)の実施を通じ、潜在成長力を強化するための努力を継続する。2010年代半ばに向け債務残高の対GDP比率を安定的に引き下げるため、まずは2011年度には国と地方を合わせたプライマリー・バランスを黒字化するという、政府の目標の達成に向け、財政再建を着実に実施する。

●ロシアは、自立的で投資及びイノベーション主導の成長への移行を促進する様々な構造改革とともに、健全なマクロ経済政策の枠組みと堅実な財政政策を継続することにコミットしている。

●カナダは、政府債務の削減に引き続きコミットし、一世代の間に、政府純債務を解消するという目標を打ち出した。カナダはまた、個人及び法人に対する減税の継続、規制による負担の削減、そして知識の創出の促進やインフラへの投資にコミットしている。

6.我々は、新興市場国による不均衡削減に向けた貢献を奨励する。成長を内需へと調整する改革の継続は、内需の持続性を高めるばかりでなく、世界経済の堅調な成長を維持しつつ不均衡を削減する鍵となる。多額かつ増加する経常収支黒字を有する新興経済国の実効為替レートが、必要な調整が進むように変動することが重要である。産油国は、生産能力への投資と経済の多様化を引き続き加速すべきである。

金融市場のシステミックな安定性と透明性/ヘッジ・ファンド

7.我々は、ヘッジ・ファンドを含む近年の国際金融市場の動向について議論した。ヘッジ・ファンドは、クレジット・デリバティブ等の先端的な金融技術・商品の隆盛とともに、金融システムの効率性に大きく貢献してきている。しかしながら、それらの活動に伴う潜在的なシステミック・リスク及びオペレーショナル・リスクの評価は、より複雑で困難になってきている。ヘッジ・ファンド産業の急速な成長と取引商品の一層の複雑化を踏まえ、我々は、警戒する必要を再確認する。

8.この観点から、我々は、金融安定化フォーラム(FSF)による高レバレッジ機関に関する2000年報告の改訂を歓迎し、その提言を支持する。世界のヘッジ・ファンド業界は、改善された実務慣行を期待する官民の動きに応じ、特にリスク管理、価格評価、投資家及びカウンターパーティー(銀行など取引の相手方)への情報開示の分野において、ヘッジ・ファンド運用担当者のための既存の適正な実務慣行の基準を見直し、強化すべきである。カウンターパーティーや投資家は、正確で時宜に適ったポートフォリオ評価やリスクに関する情報を入手するなど、市場規律の実効性を高めるよう行動すべきである。監督機関は、主要な金融機関が、継続してヘッジ・ファンドに係るリスク管理の実務慣行を強化するよう仕向けるべきである。カウンターパーティーの監督にあたって、関連当局は、動向をモニターし、当局間で協力すべきである。我々は、金融安定化フォーラムが、それらの提言の履行の進捗に関して、本年10月以降、G8諸国の財務大臣に対し報告することを歓迎する。

投資の自由、投資環境及び社会的責任

9.我々は、国境を越える直接投資の増加が、世界経済を形成している主要な要因と認識する。適切な枠組みの条件が機能すれば、こうした流入は経済成長及び社会、環境発展に対して大きく積極的に貢献する。我々は国境を越える投資からの利益を最大化するため、以下の4分野の活動に留意する。

●投資の自由に対するG8のコミットメントの強化

●先進国及び新興経済国における開放的な投資環境の促進

●開発途上国にとっての外国直接投資からの一層大きな利益の享受及び持続的な外国直接投資の実現

●企業及び他の形態の社会的責任の促進と強化

投資の自由

10.我々は開放的で透明性の高い投資枠組みを強化し、投資を制限する傾向と闘うために協力する。障壁を設け、保護主義に与すれば、繁栄を失うことになろう。我々は、従って、持続可能性に関する懸念を尊重しつつ、世界経済にとって自由で開放的な市場が中心的な役割を果たすことを認め、世界的な資本移動を促進するため、開放的な市場を維持する必要性を認める。我々は、投資の自由が経済成長、繁栄、及び雇用にとり極めて重要な柱であることを再確認する。我々は、すべての先進国、主要新興経済国、及びその他の国々に対し、各国の投資政策、不必要に制限的または恣意的な政策から生じる潜在的費用、及び開放的な投資制度の経済的利益につき、真剣に評価するよう呼びかける。

11.このような背景の下、我々は外国投資に対する国家的規制を最小化することに引き続きコミットする。こうした規制は、主に国家安全保障に関連する極めて限定的な事例にのみ適用されるべきである。そのような事例において従うべき一般原則は、無差別、透明性、及び予測可能性である。いかなる場合においても、規制措置は必要な範囲、程度及び期間を超えるべきではない。投資に関して適用可能な条約は、引き続き影響を受けない。我々は、OECDに対して、特にベスト・プラクティスを特定し、一般原則をさらに発展させることで、これらの問題につき作業を継続することを奨励する。我々は、民間及び国有企業による市場主導型の国境を越える投資に関する透明性の原則につき、一層の共通理解を促進するよう、OECD及びその他のフォーラムと協力する。

世界の投資環境

12.新興経済国は、外国直接投資の出資国としての行動を増やす一方で、対内直接投資から大きく裨益している。我々は、あらゆる投資家に対する公平な競争条件に向けて作業する機会とその必要性を認識する。新興経済国に投資するG8諸国の企業は、G8諸国へ投資する新興経済国企業と同様に開放的な投資環境を期待する。投資の開放性は、すべての関係者にとって有益である。

13.我々は、市場に主導された技術移転がグローバル化の重要な触媒であることを強調する。政府は、知的財産権の尊重を確保するとともに、技術の流れを商業ベースで可能にするのに必要な規制政策の法的枠組みと適切な制度を設立し、維持する役割を担う。

14.開放的かつ透明性のある調達市場は、国境を越える投資の重要な前提条件である。我々は、すべてのパートナー、特に主要新興経済国に対し、国内及び海外の入札者にとっての公平な競争条件を構築するよう要請する。その方途として、WTOの政府調達協定(GPA)への加入の検討等が考えられよう。

15.我々は、新興経済国に対し、「OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言」を採用するよう呼びかける。我々は、主要新興経済国に対し、ハイリゲンダム・プロセスの一環として、先進国と新興経済国における投資環境に関する体系的なハイレベル対話に参加するよう呼びかける。投資面での残された障壁を撤廃することを目指す、開放的かつ効率的な投資環境を促進するため、現状評価、ベスト・プラクティスの検討やピア・レビュー制度の実施は良い出発点となろう。我々は、OECDに対して、そのような対話の場を提供するよう要請する。

開発途上国における投資

16.先進国や新興経済国と異なり、多くの低開発国は外国直接投資からしばしば不十分な利益しか得られていない。我々は、開発途上国のパートナーと責任を共有しつつ、良質な外国直接投資の流入が増加することを期待する。そうした投資流入は、地方インフラが国内外の投資家の活動を促進し、また、国内の労働力の技能と外国直接投資の増加により生じる管理能力の技術移転の効果を向上させることに資する。更に、そうした投資流入は、国内企業の外資企業に対する資本財供給能力を支え、または国際的な価値連鎖を強化する。持続可能性に関する経済的、社会的及び環境的側面は、後発開発途上国を含むすべての開発途上国外国直接投資の利益を最大化するために不可欠である。

17.我々は、国際金融公社(IFC)や多数国間投資保証機関(MIGA)を含む地域・国際開発金融機関が、借入国における貧弱なビジネス環境の問題に取り組むことを支持するとともに、国別戦略及び予算における投資障壁に対処するための各種努力を統合することを強く求める。

18.我々は、新興経済国における、より深い、流動性の高い地域債権市場の発展を促進する、G8財務大臣会合のイニシアティブを支持する。これは、危機に対する各国の脆弱性の削減及び新興経済諸国全体としての金融安定の強化に重要な貢献となり得る。

19.我々は、OECDの「投資のための政策枠組み」及びUNCTADの「投資政策レビュー」を新興経済国と開発途上国における健全な投資環境についての共通理解を明確にしていく上での貴重なメカニズムとして支持する。OECDの「投資のための政策枠組み」は、特にアフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)の枠組みに含まれる諸国にとって、国内での実行や開発戦略に結実し得る。我々は、OECD、UNCTAD、そして世界銀行等のその他の機関に対し、この目的のために必要な支援の提供を検討するよう呼びかける。

20.我々は、UNCTAD及びOECDに対し、先進国、新興経済国及び開発途上国とともに、外国投資の増加及び持続可能な開発に資する制度的環境の創出のためのベスト・プラクティス発展に取り組むよう呼びかける。そのような包括的なプロセスは、2008年4月20日から25日までアクラ(ガーナ)にて予定されている第12回国連貿易開発会議(UNCTADXII)と密接に関連づけられるべきである。

投資と責任‐グローバル化の社会的側面

21.グローバル化と技術的進歩は多くの地域及び経済分野において急速な構造変化をもたらしてきた。我々は、構造変化が進歩の必然的な結果であり、機会とともに混乱ももたらすことを認識する。開放的な市場は政治的支持、社会的一体性、男女平等及び高齢労働者、若者、移民、障害者等の従来十分に利害が代表されていなかった人々の統合に支えられている。グローバル化プロセスの社会的側面に取り組むために、我々は以下の4つの行動分野を特定する。

22.社会基準の更なる発展と促進{前13文字下線有り}:我々は、社会発展で補完されるグローバル化が先進国及び開発途上国双方に持続的な利益をもたらすことを確信している。我々は、この目的に向かって積極的な貢献を行う責任を認識する。従って、我々は、いずれも同等に重要な以下の4つの柱、(1)労働基準、特にILOコア労働基準の効果的な実施、(2)より生産性の高い雇用の創出、(3)包括的な社会保護制度の一層の発展、及び(4)異なる利害関係者の間の社会対話支援、を持つ国際労働機関(ILO)のディーセント・ワーク・アジェンダを支持する。

23.労働基準は保護主義のために利用されるべきでないことを強調する一方で、我々は、WTO加盟国及び関心を有する国際機関に対して、ILOと緊密に連携しつつ、ILOの「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」及びそのフォローアップに反映されている、国際的に認知された中核的な労働基準の遵守を促進するよう呼びかける。我々はまた、ディーセント・ワーク(適切な労働)、特にILO中核的な労働基準の視点を、二国間貿易協定及び多国間の場において尊重することにコミットする。

24.企業の社会的責任の原則の強化{前14文字下線有り}:この関連で、我々は、国際的に合意された企業の社会的責任及び労働基準(OECDの「多国籍企業行動指針」、ILOの「三者宣言」(多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言)等)、高い環境基準、より良い統治、OECD行動指針を、各国連絡窓口を通じて積極的に促進することに自らコミットする。我々は、民間企業及び経済団体に対し、OECDの「多国籍企業行動指針」の原則を遵守するよう求める。我々は、新興経済国及び開発途上国がこれら行動指針に含まれる価値や基準に賛同するよう奨励し、主要新興経済国に対し、OCEDの場を活用した、企業の社会的責任に関するハイレベル対話に参加するよう呼びかける。

25.我々は、特に国連グローバル・コンパクトが重要な企業の社会的責任(CSR)に関するイニシアティブであることを強調する。我々は、G8諸国、新興国及び開発途上国の企業に対し、積極的にグローバル・コンパクトに参加し、このイニシアティブの世界規模での普及を支援するよう呼びかける。

26.CSRの自主的な取り組みを強化するため、我々は、民間企業がCSR実施の透明性を向上させること、及び多くの異なる官民関係者が発表しているこの分野の数多くの基準や原則を明確にすることを奨励する。我々は、上場企業に対し、年次報告においてCSR基準及び原則の遵守状況につき評価するよう呼びかける。我々は、OECDに対し、グローバル・コンパクトとILOと協力しつつ、様々な基準や原則をより鮮明かつ明確にするため、最も適切なCSR基準を編集するよう求める。

27.コーポレート・ガバナンスの強化{前15文字下線有り}:コーポレート・ガバナンスは経済効率、経済成長の向上及び投資家の信頼強化における主要な要素である。よいコーポレート・ガバナンスは役員会や経営者に対して、企業と株主の利益に適う目的を追求する適切な動機を与えるとともに、効果的な監視、監督を促進する。コーポレート・ガバナンスの挑戦はどの国にも存在するが、特に新興経済国において深刻である。我々は、OECDのコーポレート・ガバナンス原則の最も幅広い遵守を奨励し、OECD/世界銀行「地域におけるコーポレート・ガバナンス円卓会議」による作業の継続を支持する。

28.社会的保護制度への投資{前11文字下線有り}:社会的保護は一国の経済の将来への投資であり、貧困と闘う費用効果の高い方法である。それには、教育及び健康の改善を目指した、生活における主要なリスクからの適切な保護、すべての人に対する適切な保護適用が含まれる。社会的保護は個人の雇用適正の向上に貢献し、また、労働可能な人々が確実に職を見つけ、労働市場で求められる技能を身につけることを可能とする。

29.社会保護制度は、いくつかの普遍的な要素を含むが、平等な機会と参加を促進するため、正義、公平、社会的平等などの価値に基づくべきである。我々は、各国の経済成長の異なる状況を前提に、各国毎の保護適用の提供能力を考慮し、またすべてにあてはまる共通なモデルはないことを認識しつつ、社会保障制度には一層の発展及び保護適用の拡張が必要であると信じる。我々は、関係国際機関がこの問題に関して密接に協力するよう促しつつ、この問題を引き続き開発政策のアジェンダとすることに合意する。我々は、経済成長と積極的な労働市場政策とともに、社会保障は持続可能な社会経済開発のための手段であると認識する。

イノベーションの推進‐イノベーションの保護

30.科学、研究及びイノベーションは、今日かつてないほどに経済成長と繁栄の基礎を形成している。従って、イノベーションを促進する政治的、経済的戦略は先進国、新興経済国及び開発途上国にとって、等しく将来の発展の主要な要素である。我々は、イノベーションを促進し保護するために国際的な経済及び政治環境を前進させるように着手する。

持続可能な成長のためのイノベーション

31.進歩的なイノベーション政策は、研究コミュニティーの育成、アイデアや研究過程における成果を革新的な製品やサービスに変えていくことに向けられる。研究の促進は、教育及び高等教育政策に関連する一方で、経済政策は、研究を革新的製品に変えることを促進するとともに、イノベーションに好ましいビジネス環境を育成する上で、重要な役割を果たし得る。いずれの取組も政府の関与により恩恵を得る。国際的な協力と交流は国家政策の形成に実質的な弾みを与え得る。科学技術分野の研究活動における先進国と開発途上国の協力も強化されるべきである。

32.科学技術における指導力を発揮すべく努力するため、我々は、将来の地球規模の課題に最も効果的に対応できるよう、科学研究を集中させ、技術能力を向上させることに焦点を当てる長期的志向の研究イニシアティブに対する責任も認識する。我々は、科学研究分野で多くの新興経済国が重要性を増していることを認識し、これら諸国に対し、OECDにおける既存の協力の取組を強化し、特に関連する国連機関によって推進中の作業の結果に基づくことにより、このプロセスに積極的に参加するよう呼びかける。

33.この関連で、我々は、OECDが主題別の国際協力のための提言に関する作業に取り組むことを支持する。グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)の作業に基づき、我々はGSFがこのプロセスにおいて調整役としてもたらす価値を認識する。また、我々は、共通の関心分野に関する協力的な研究努力、共同のイニシアティブ及び計画により、強化され得る優先事項を特定するために、G8及び新興経済国との間で、各国の研究努力について情報を共有することを支持する。協力可能な分野としては、水や土地の持続可能な使用、エネルギー効率分野における研究及び官民セクターにおける環境関連のイノベーションの促進があろう。我々は、これらの分野における研究に関し、より効果的な協調及び協力を目指す。

イノベーションの基幹としての知的財産権の保護

34.十分に機能する知的財産権制度は、イノベーションの促進を通じた世界経済の持続可能な発展にとって不可欠な要素である。我々は、世界規模での特許権の取得と保護を改善するため、国際的な特許制度の合理化と調和の重要性を認識する。

35.経済成長と発展に対するイノベーションの恩恵は、世界的な知的財産権の侵害によってますます脅かされている。従って、我々は、海賊行為及び模倣行為と闘うコミットメントを強く再確認する。海賊版や模倣品の取引は、世界中の、特により貧しい国々の消費者の健康、安心及び安全を脅かす。この観点から、我々は、世界保健機関(WHO)の国際的な偽造医薬品対策タスクフォース(IMPACT)を実施するイニシアティブに関する作業を歓迎する。従って、この闘いにおける我々の共通の努力は、あらゆる発展段階にあるすべての国の利益にかなう。

36.我々は、この重要な分野において、G8及び他の国々、特に主要新興経済国と知見を有する国際機関、世界知的所有権機関(WIPO)、世界貿易機関(WTO)、世界税関機構(WCO)、国際刑事警察機構、世界保健機関(WHO)、OECD、APEC、及び欧州評議会との協力を強化することにコミットする。我々はこれら諸機関に対し、この分野における取組を強化するよう呼びかける。

37.我々は、世界のサプライ・チェーン、すなわち、生産者、卸売業者、小売業者、販売者から、海賊版や模倣品をなくし、国内及び海外での知的財産権を保護するために企業が取っている行動を明確にした「知的財産保護の促進及び模倣品・海賊版の防止のためのG8産業界・ビジネス界の戦略」に関するG8諸国の経済界による共同宣言を歓迎する。産業界・ビジネス界はイノベーションの保護において、極めて重要な役割を担っており、我々は、それぞれの民間部門が、海賊版や模倣品の需要と供給の両面に関する効果的な解決に関与するよう求める。我々は、また、海賊版や模倣品の悪影響について消費者の問題意識を高めることを目的として、G8諸国の経済界の助力を得て実施されている教育キャンペーンを歓迎する。

38.G8諸国間の協力を深化、向上させ、実際の執行面での成果を生む具体的な措置を実施することの緊急性に照らし、我々は以下を行うことを決定する。

(a)我々は、G8諸国の税関及び法執行機関の協力と協調を強化するために策定された税関及び水際取り締まり協力のためのガイドラインを支持する。このような見地から、我々は、適切な場合には、世界の関係法執行機関間の協力の改善につながるよう、世界税関機構(WCO)と密接に提携しつつ、効果的な情報交換制度の発展を特に歓迎する。

(b)我々は、関心を持つ開発途上国に対する知的財産権保護に関する新たな技術協力ガイドラインを支持すると共に、知的財産権の執行を強化し、海賊版や模倣品の取引防止に必要な能力を構築するため、それらの国々に対する既存のG8諸国の協力をより強化し、より良い連携を行うためのメカニズムを支持する。特定の開発途上国と協力しつつ、我々は、知的財産権の執行を強化し海賊版や模倣品の取引を防止するために必要な能力を構築するため、技術協力のパイロット・プランを立ち上げることに合意する。これらのパイロット・プランの進展は、2008年のG8においてレビューされる。

(c)我々は、知的財産権に関する深刻かつ組織的な犯罪に対処するためのG8諸国の協力の改善を目的とした勧告及びこれら犯罪の捜査と起訴に関する体系的な国際協力を促進するための更なる作業を支持する。

(d)模倣行為・海賊行為の国家経済、権利所有者及び公衆の健康と安全に対する経済的影響を推計したOECD報告に含まれる情報を評価しつつ、我々は、OECDに対し、その報告において、具体的な行動のための分野をさらに特定し、目標を定めるべく、加盟国とともに作業するよう奨励する。

(e)我々は、知的財産権の執行に関連する国際的な法的枠組みを強化する可能性に関して、各国の専門家による研究を継続する必要性を認識する。

(f)我々は、国際的な知的財産権の保護及び執行の取組を改善する最良の方法を検討するため、またより良いピア・レビューを含む活動のための勧告を提出するため、模倣行為・海賊行為に焦点を当てた知的財産権タスクフォースの設立を検討する。本件はハイリゲンダム・プロセスにおいても検討される。

イノベーションと知的財産保護に関する新しい対話

39.科学とビジネスの間の活発な相互作用、知的財産権の強力な保護と執行及び市場原理に基づいた企業家精神と科学に基づいた研究の結合は、世界の経済成長と発展を促進する一層決定的な要因になってきている。我々は、主要新興経済国に対し、イノベーションと知的財産権保護に関する新たな国際的な対話を開始するため、ハイリゲンダム・プロセスの一環として、OECDの場を活用したフォローアップ・プロセスに参加するよう呼びかける。こうした対話は、成功裏の知識経済の成長と中小企業のニーズも考慮に入れた、イノベーションに好ましいビジネス環境の促進にとって重要なトピックに関する積極的な交流の場を提供する。それらは、(a)技術進歩とイノベーションに基づいた未来志向の経済発展のための中心的枠組みの条件としての知的財産権の保護と活用の経済的価値と重要性、(b)最近の技術市場での進展を考慮に入れた、イノベーションと国レベルでの知識の普及のための効果的な市場インセンティブ、及び(c)国際的な技術移転の主要な推進力としてのライセンスの活用と特許権として登録された研究結果のビジネスへの活用を促進するための効率的なイノベーション・バリュー・チェーンの決定的な重要性を含む。さらに、この対話は、先進国と主要新興経済国がそれぞれの領域において、知的財産権の十分に効果的な実施と保護を達成するための措置を確かにすることができよう。知見を有する国際機関、特にWTOと世界知的所有権機関(WIPO)のマンデート、機能、役割を十分に尊重しつつ、この対話の参加者は知的財産権保護の強化を目的としたイニシアティブについても議論することができ、それらは適切な国際フォーラムにおいて取り組まれる。2009年のG8サミットで、それまでの進展を評価する。

気候変動とエネルギー効率及びエネルギー安全保障‐世界経済にとっての挑戦と機会

40.今日の人類は、危険な気候変動を避けることとエネルギーの安全かつ安定的な供給を確保するという相関する重要な挑戦に直面している。グレンイーグルズ・サミット以降、気候変動は長期的な挑戦であり、我々の自然環境と世界経済に深刻なダメージを与える潜在性があると、科学はより明確に証明してきた。我々は、地球規模での温室効果ガスの排出を削減し、エネルギー安全保障を強化するため、断固たるかつ協調的な行動が緊急に必要であると強く合意する。気候変動への取組はすべての国の共通の責任であり、経済的な歪曲を回避する一方で、開発途上国、新興経済国及び先進国の成長を支える形で取り組むことが可能であり、そうしなければならない。

41.我々は、特に、技術革新、技術開発及び貧困削減に向けて、気候変動に取り組む効果的な行動がもたらす重要な機会を認識する。排出量取引、税制上の措置、及び規制措置を含む市場に基づくメカニズム、技術協力並びに共有された長期的展望等の幅広い政策手段を伴う強い経済は、投資決定の指針となり、技術の商業化を生み出し、エネルギー安全保障を強化し、持続可能な開発を促進し、温室効果ガスの地球規模での排出を減速、安定させ、そして大幅に削減する鍵となる。

42.我々は、気候変動との闘いにおいて強い指導力を発揮することに引き続きコミットする。我々は、気候変動に取り組む地球規模の解決策について、一方で成長と経済発展を支えながら、我々の間及び国際社会とともに働く決意を確認する。我々は、エネルギー安全保障と効果的な気候保護を最適に組み合わせるアプローチの実施にコミットする。このため、我々は、特に今年末のインドネシアでの国連気候変動会議の準備において、気候変動と闘う国際的な体制の一層の発展にコミットする。気候変動への取組は、長期的な問題であり、世界規模の参加と、異なる事情を考慮に入れた様々なアプローチを要するものである。

43.エネルギーは世界中の成長と発展の基礎的な原動力であり、エネルギーの使用は、世界の人口と経済とともに着実に拡大されてきた。世界の経済成長を維持するため、クリーンで入手可能かつ安全なエネルギー源へのアクセスを確保する我々の能力は、環境保護という我々の願望を補完する。エネルギー安全保障の挑戦に立ち向かうには、市場の透明性、エネルギー効率の向上、エネルギー供給の多様化、及び新たな変換可能な技術の開発及び展開を含むいくつかの分野において、前例のない国際協力を必要とする。

44.エネルギーは、特に近年、G8の主要な行動分野となってきた。我々は、エビアン・サミット、シーアイランド・サミットで、幅広い意味での資源効率(特に3Rイニシアティブ)に焦点を当てた後、引き続いて、グレンイーグルズでのG8行動計画がクリーン・エネルギーを集中的に扱ったことを想起する。サンクトペテルブルク・サミットで、我々は、エネルギー安全保障に関する革新的な決定を採択し、特に、エネルギー部門の投資環境を改善しつつ、世界のエネルギー市場の透明性、予測可能性及び安定性を高め、エネルギー効率を強化し、エネルギー・ミックスを多様化し、重要なエネルギー・インフラストラクチャーの安全を確保し、エネルギー貧困を削減し、気候変動に取り組むという一連の合意された協力分野に自らコミットした。これらの成果のモメンタムを維持するために、高まりつつある相互依存、供給の安全保障及び需要の問題に関する関係者の見通しについての対話の強化、市場に基づいた長期及びスポット契約を含む異なる契約形態の多様化の促進、上流及び下流資産への国際的投資の促進、エネルギー憲章の原則及び国際エネルギー協力を向上する参加国の努力を支持するコミットメントを含む、世界のエネルギー安全保障原則のコミットメントを我々は強く再確認する。

45.この革新的な成果のモメンタムを維持するため、我々は、以下の措置を講ずる。

●中国、ブラジル、インド、メキシコ、南アフリカ及びその他の主要新興経済国に対し、世界のエネルギー安全保障原則を採用するよう呼びかける。

●国際エネルギー機関(IEA)の助力を得て、G8諸国のこれらの原則の実施、遵守への努力を評価する報告を2008年のG8サミットに送付すべく準備する。

●突然かつ深刻な、自然あるいは人為的な石油供給途絶の影響を減少させるため、政府の管理する戦略的石油備蓄の重要性に留意し、IEAに対し、主要な新興石油消費国が戦略的石油備蓄の放出を確立、維持、調整することについてのベスト・プラクティスを採用するよう一層支援することを奨励する。

46.我々は、地球規模の気候変動およびエネルギー安全保障に関する挑戦に応え、効果的な貢献を行うため、今年の議論においてエネルギーの効率化に焦点を当てた。世界のエネルギー効率の向上は、温室効果ガス排出を削減し、エネルギー安全保障を強化する、最も早く、持続可能な、かつ費用のかからない方法である。

47.我々は、2005年に英国で、2006年にメキシコで開催された気候変動、クリーン・エネルギー及び持続可能な開発に関するグレンイーグルズ対話の会合におけるこれまでの進展を歓迎する。また、我々は、ドイツ及び日本がそれぞれG8議長の期間中に、この対話の会合を主催する意図を歓迎する。我々は、日本が議長国となる来年のG8サミットにおいて対話の報告を受けることを期待する。

気候変動

48.我々は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最近の報告に留意するとともに懸念を有する。最新の報告は、地球の気温は上昇しており、それは主に人間の活動によって引き起こされており、さらに、地球平均気温の増加がある場合、生態系の構造と機能における主要な変化があると見込まれ、例えば、水や食糧供給といった生物多様性及び生態系にとっては主に負の影響を伴うであろうと結論付けている。

気候変動との闘い

49.我々は従って、気候変動の取組において、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において温室効果ガスの濃度を安定化させるため、強固かつ早期の行動をとることにコミットしている。最近発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告にある科学的知識に鑑みると、地球規模での温室効果ガスの排出の上昇がピークを迎え、これに続いて、地球規模での排出が大幅に削減されなければならない。本日我々が合意したすべての主要排出国を巻き込むプロセスにおいて、排出削減の地球規模での目標を定めるにあたり、我々は2050年までに地球規模での排出を少なくとも半減させることを含む、EU、カナダ及び日本による決定を真剣に検討する。我々は、これらの目標の達成にコミットし、主要新興経済国に対して、この試みに参加するよう求める。

50.気候変動は地球規模の問題であり、その対応は国際的でなければならない。我々は、先進国及び開発途上国の双方に存在する幅広い活動を歓迎する。我々は、長期的なビジョンを共有し、次の10年にかけて行動を加速する枠組みの必要性に合意する。相互に競合するより調整し合う補完的な国、地域及び地球規模の政策的枠組みは、こうした措置の効果を強化するであろう。このような枠組みは、統合されたアプローチの中で、気候変動のみならず、エネルギー安全保障、経済成長、及び持続可能な開発目標についても取り組むものでなければならない。それらの枠組みは、将来の必要な投資に関する決定に重要な方向付けを提供するであろう。

51.我々は、更なる行動が、共通に有しているが差異のある責任、それぞれの能力という国連気候変動枠組条約上の原則に基づくべきと強調する。我々は、G8首脳として、行動する責任を再確認する。我々は、すべての国々が、各国固有の事情に応じて効果的な気候に関するコミットメントを行うことができるよう、引き続き先進国が、地球規模での排出を削減する気候変動に関する将来的な努力において果たすべき指導的役割を認識する。しかしながら、我々は、先進国の努力のみでは十分ではなく、他の国々による貢献のための新たなアプローチが必要であると認識する。このような背景の下、我々は、特に新興経済国に対して、経済発展に要する炭素集約度を削減することによって、排出の増加に対応するよう呼びかける。新興経済国の行動は、持続可能な開発政策や措置、強化、改善されたクリーン開発メカニズム、多くの公害を生み出している部門に計画を設定し、通常の措置しか取られない場合のシナリオと比較して温室ガスの排出を削減させるといった、いくつかの形態をとり得るであろう。

52.我々は、国連の気候プロセスが、気候変動に関する将来の地球規模での行動を交渉するための適切なフォーラムであると認識する。我々は、このフォーラムで前進することにコミットし、また、すべての主要排出国を含むべき包括的な2013年以降(ポスト京都議定書)の合意に達するため、すべての締約国に対し、2007年12月にインドネシアで開催される国連気候変動会議に積極的かつ建設的に参加するよう呼びかける。

53.気候変動の緊急な挑戦に取り組むためには、多くのエネルギーを使用し、大部分の温室効果ガスを排出する主要経済国が、2008年末までに、新しい地球規模の枠組みに対する詳細な貢献について合意し、それが、2009年までに気候変動枠組み条約の下において地球規模の合意に資することが必須である。

従って我々は、主要排出国が、気候変動の挑戦に対する最良の取組のあり方について関与する必要性を繰り返し述べる。我々は、それらの国々と長期的な戦略について共に作業することを受け入れる。このため、我々の代表は、ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカの代表と、2007年5月4日にベルリンで会合した。我々は、気候変動との闘いに成功するのに必要な要素を検討するため、これらの、そしてその他の主要なエネルギー消費及び温室効果ガス排出国のハイレベルの代表との会合を継続する。我々は、今年後半にそのような会合を主催するという米国の申し出を歓迎する。この主要な排出国によるプロセスは、各国の状況に応じた、特に、国内、地域及び国際的政策、目標と計画、国連気候変動枠組条約の下での野心的な作業計画、及び気候に優しい技術の開発と展開を含むべきである。

この対話は、国連の気候プロセスを支援し、国連気候変動枠組条約会議で報告を行う。

技術

54.技術は、エネルギー安全保障を強化するとともに、気候変動を抑える鍵である。我々は、すべてのエネルギー生産および使用分野において、持続可能な、炭素集約度のより低い、クリーンなエネルギーの、気候に優しい技術の利用を、緊急に開発、展開、促進しなければならない。我々は、新たな炭素集中度のより低い、クリーンなエネルギーの、気候に優しい技術の商業化の加速を支える市場条件を開発し、創出しなければならない。さらに、世界中の持続可能な投資決定を確保するために、新興経済国及び開発途上国において、クリーンなエネルギーの、気候に優しい技術の広範な採用を協力して加速するための拡大されたアプローチが必要である。従って、我々は、次の措置を講ずる。

●技術の地球規模での開発、商業化、展開、及びアクセスの奨励

●主要新興経済国及び開発途上国の国際的な技術パートナーシップと協力への参加の促進

●国内的、地域的及び国際的な研究・技術革新活動の増加

●気候変動に取り組む上で、高度な技術の役割を強化する技術ロードマップの開発と戦略的計画の実施

市場メカニズム

55.民間部門の投資は、技術の展開と普及の主要な手段であり、そうあり続けるだろう。気候に優しい技術を開発、展開、育成するには、力強い経済と幅広い政策手段が必要である。国内及び国家間の排出量取引、税制上のインセンティブ、パフォーマンスに基づいた規制、料金あるいは税金、及び消費者ラベル等の市場メカニズムは、価格シグナルを提供することが可能であるとともに、民間部門に対する経済的インセンティブを届ける潜在力がある。クリーン・エネルギーの利用を促進し、排出量取引制度を開始し、我々の多くが行っているように、それらを結びつけることは、補完的で相互に補強し合うアプローチである。

従って、我々は、以下の目的のため、異なる政策手段の効果についての経験を共有する。

●国際ビジネス界に対して、予測可能な長期的展望を一層提供する。

●特に既存のプログラムを発展、強化することにより、そうした制度の適切な測定指標を考慮しつつ、市場メカニズムを強化、拡大する。

森林減少の抑制による排出の削減

56.我々は、特に開発途上国での森林減少による排出の削減に向けて支援することを決意する。森林減少の抑制、そして長期的な停止は、持続可能な森林経営を促進するとともに、生活の安全を向上させ、温室効果ガスの排出緩和及び生物多様性の保全に向けて重要で費用対効果の高い貢献となる。この目的のために、我々は、以下の措置を講ずる。

●現在の国連における気候変動に関する議論を支援し、かつ予断することなしに、開発途上国での森林減少による排出を削減するため、パフォーマンスに基づく手段を創出し、試用し、能力向上を図るためのパイロット・プロジェクトの設立を奨励する。従って我々は、世界銀行に対し、G8、開発途上国、民間部門、NGO及びその他のパートナーと密接に協力しつつ、そのような森林炭素パートナーシップを出来る限り早期に発展させ、実施するよう奨励する。

●違法伐採と闘う既存のプロセスを継続して支援する。違法伐採は、持続可能な森林経営の実現をさらに進め、世界中の森林を保護することに対する最も困難な障害の1つである。

●コンゴ盆地森林パートナーシップやアジア森林パートナーシップのような様々な地域的イニシアティブに述べられているように、開発途上国が持続可能な森林経営を実施し、自らのコミットメントである森林損失の停止を達成することに対して、引き続き支援するよう関与する。また、国際熱帯木材機関(ITTO)のプロジェクト及び熱帯雨林を保護するブラジルのパイロット・プログラムを通じて、国際協力の良い結果と慣行が達成されてきた。

57.サンクトペテルブルク・サミットにおいて、我々は、持続可能な森林経営における国際協力の強化に合意した。我々は、あらゆる種類の森林の持続可能な経営に関する法的拘束力を有さない文書についての国連森林フォーラムでの最近の合意を歓迎する。我々は、この手段の効果が2015年の国連森林フォーラムでレビューされることに留意する。これらのイニシアティブの上に、我々は、あらゆるレベルでベスト・プラクティスを共有し、協力を強化することを決意し、国際社会に強く求める。持続可能な森林経営についての追加的な行動を検討することは、コミットメントの強化を望む関係者にとって、可能な次のステップとなり得る。

気候変動への適応

58.我々は、上記の野心的な緩和策を実施した場合においてすら、特に気候変動に最も脆弱な開発途上国及び地域では、更なる気候上の影響を避けられないと認識する。我々は、持続可能な開発という我々の共通の目的を完全に支援する方法での、気候の可変性と気候変動に対する回復力を強化することにコミットする。我々は、気候変動への影響、脆弱性、適応に関するナイロビ作業計画の採択を歓迎する。我々はまた、開発途上国が適応を政策や計画の中で主流化することを支援するにあたり、国連の適応についての基金の重要性に留意する。我々は、特に気候変動の悪影響に最も脆弱な国々において、気候変動に適応し、気候の可変性への回復力を強化する開発途上国を支援し、協力を継続し、強化する意志を強調する。我々はまた、気候変動への適応策を国家開発計画に統合する際の費用と便益について開発途上国と共に作業する意志を強調する。我々は、開発途上国が衛星監視システムから利益を得ることへの支援を含め、気候研究とリスク評価を支援するコミットメントを再確認する。

59.我々はまた、モントリオール議定書の下で、エネルギー効率と気候変動の目標を支援する方法で、HCFCの段階的廃止を加速することでオゾン層の回復を確保するよう努力する。オゾン回復の加速という共通の目標に向けて協力する際に、我々は、クリーン開発メカニズムがオゾン破壊物質の排出に影響を与えることを認識する。我々は、全地球観測システム(GEOSS)の開発において、指導力を発揮する。

60.我々は、2008年のG8サミットにおいて、上記の分野における進展につき報告する。

生物多様性

61.我々は、必須な生態系サービスの提供及び世界経済への自然資源の長期的な供給の必要不可欠な基礎として、生物多様性の保全と持続可能な利用の決定的な重要性を強調する。我々は、2007年3月にG8環境大臣会合にて提示された、「ポツダム・イニシアティブ‐生物多様性2010」を認識し、2010年までに生物多様性の損失速度比率を顕著に減少させるという、我々が合意した目標に達するため、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する努力を強化する。

エネルギー効率

62.世界的な省エネルギーの潜在性は非常に大きい。国際エネルギー機関(IEA)によれば、エネルギー効率政策が成功裡に実施されると、供給の安全が著しく増加する一方で、回避された温室効果ガスの80%に貢献し得る。

63.我々は、国際協力の強化が大きな機会を提供することを認識する。このような背景の下、我々は、それぞれの国際的なフォーラムや機関の枠組みの中、そして国家間のレベルの双方において、協力の努力を一層強化、拡充することにコミットする。

このために我々は、

●エビアンで始まったエネルギー効率に関する対話を一層継続し、具体化する。

●国際エネルギー機関(IEA)の密接な関与を支援、維持しつつ、グレンイーグルズ及びサンクトペテルブルクでの行動計画の実施を進める。

●IEAによるエネルギー効率に関する具体的な勧告を進め、国家エネルギー効率計画の準備にあたり、これらの勧告を活用することを検討する。

●世界銀行及びその他の国際金融機関(IFIs)に対し、エネルギー効率及びクリーン・エネルギーに関する資金枠組みの改善と更なる拡大を奨励する。

●EUのエネルギー効率に関する国際合意についての提言に留意するとともに、「気候変動、クリーン・エネルギー及び持続可能な開発に関するグレンイーグルズ対話」及びIEAに対し、ベスト・プラクティスの交換、方法の共有、及び一層の協力を通じ、そして、エネルギー需要の大きい他の国の参加を呼びかけることにより、国際的にエネルギー効率を促進する最も効果的な手段を探求するよう求める。

●国際研究の促進、エネルギー効率技術及びその他の温室効果ガス緩和オプションのための投資及び開発協力を奨励する。

●以下に記述されるエネルギー効率に関する政策と措置についての進展報告を2008年のG8サミットにおいて行う。

64.我々は、エネルギーの高い需要に鑑みて、先進国及び新興経済国が、エネルギーの最も効率的な利用を奨励する措置を取ることに根本的な共通の関心を持っていることに留意する。

65.このような背景の下、我々は、効率的なエネルギー制度のモデルにコミットするとともに、主要新興経済国を含む高いエネルギー需要のあるその他の国々に対し、この努力に参加するよう呼びかける。我々の目標であるエネルギー集約度のより低い経済を構築することは、経済成長及び競争力をも推進するであろう。このため、我々は、特に、経済インセンティブや健全な財政政策、エネルギー効率の最低限の基準、健全かつ野心的なエネルギー・パフォーマンス・ラベリング、国家的意識を強化する消費者及び産業に向けた情報キャンペーン、産業と合意したセクター別の自主的コミットメント、研究開発投資、及び公的調達のガイドラインを含む、適切な政策的アプローチと措置を促進する。我々は、国家的なエネルギー効率計画を開発し、実施するとともに、エネルギー効率、特に効率基準に関する国際協力を推進する。我々は、IEAに対して、適切な助言により各国の取組を引き続き支援し、効果的な国際協力の提案を行うことを求める。

66.我々は、さらに、優先セクターにおけるエネルギー消費の削減に向けて、主要新興経済国とともに協力する。この目的のため、我々は、IEA及びその加盟国、そしてそれぞれの国における産業に対し、より効率的なエネルギー政策に関して、主要新興経済国との対話を増やすとともに、ガイダンス制度を発展させるよう呼びかける。

持続可能な建築物

67.建築物を効率的にする機会は大きい。2007年4月にベルリンで行われたエネルギー効率に関するEU/G8会議に基づき、我々は以下の措置を講ずる。

●G8による「持続可能な建築物ネットワーク」を設立し、主要新興経済国の参加に対しても門戸を開く。このネットワークは、新築及び既存の建築物の異なる状況及び低炭素・ゼロ炭素の建築物の開発と展開を十分考慮しつつ、特に冷暖房における再生可能エネルギーの利用と建築物におけるエネルギー効率の実施について評価、助言する実際的な手法を発展させるものである。

●IEAに対して、このネットワーク創設にあたり中心的役割を果たすよう呼びかける。

●建築分野において、エネルギー効率を向上し、この分野における再生可能エネルギー利用の相当な拡大を達成するべく作業する。このために、我々は、国が決定した持続可能な建築物に関する目標の役割及びそれらの目標が中長期的なエネルギー効率にとって有する重要性を検討する。 我々は、市場メカニズム、推進措置と枠組み立法を活用することにより、また、低・ゼロエネルギー建築物に向けての官民連携イニシアティブを通じ、エネルギー効率の高い技術と再生可能エネルギーの利用を積極的に支援する。このための手段には、再生可能エネルギーも考慮に入れた、新築建築物、近代化あるいは家庭用設備に対する個別のエネルギー基準やエネルギー・パフォーマンス認証(「ビルディング・パスポート」)といった消費者情報が含まれる。

運輸

68.今日、世界中に6億台の自動車が存在し、2020年までにこの数は2倍になると予測されている。これを踏まえ、我々は以下の措置を講ずる。・運輸分野におけるエネルギー効率を高めるため作業する。このため、我々は、我々の政府に対し、特に、革新的なエンジン・コンセプト、代替燃料、都市計画措置、公共輸送、輸送方法の最善の連結可能性を含む、運輸分野における二酸化炭素排出及びエネルギー需要を明確に削減でき、代替燃料とエネルギー運搬装置(バイオ燃料、水素、LPG/CNG、電気、ハイブリッド等)の全燃料消費に占める割合を増加する数多くの措置と様々な手段を育成するよう求める。

●例えば、合成及びセルロースのバイオ燃料、特に燃料電池との組み合わせにおいて、二酸化炭素を排出しない水素、といった燃料の多様化は、第二世代のバイオ燃料の技術が商業的に利用可能となれば、輸送の二酸化炭素排出削減において決定的となろう。

●最適な相互運用性と排出特性に到達するため、様々な供給原料からの国際的なバイオ燃料の品質基準の開発に関する調整を強化する。

●特に開発途上国において、異なる土地使用形態の競合を防止し、バイオマス栽培の持続可能性を促進するため、バイオ燃料開発の負の副作用の可能性を回避する。我々は、国際バイオ・エネルギー・パートナーシップ(GBEP)に対し、バイオ燃料のベスト・プラクティスにつき作業を継続し、バイオエネルギーの成功裡かつ持続可能な開発を推進するよう呼びかける。

●必要な措置の実施を監視し、2年毎の「環境に優しい自動車会議」にて進捗を議論する。その結果はG8首脳へ報告される。

●白物家電製品に既に導入されているような形で、新車に対してエネルギー効率ラベルを導入する。

発電

69.今後25年にわたり、化石燃料は世界において最も有力なエネルギー源であり続ける。従って、発電をより効率的、気候に優しくかつ持続可能にすることは極めて重要である。

70.発電所の設計における現在のイノベーションは、省エネルギーの大きな潜在性を持っている。従って、我々は、以下の措置を講じる。

●エネルギー効率の高い発電・送電施設への投資を刺激し、適切な国家の政策枠組みにより、既存設備の更新を促進する。このため我々は、それぞれの国において、平均発電効率を向上するよう目指す。

●一層高いエネルギー効率レベルに達するために、近代的な発電所技術を一層進歩させるための、国内的及び国際的な研究開発努力を継続し、拡大する。

●発電におけるコージェネレーション(熱電併給、CHP)の割合を大きく増加させる手段と措置を採用する。

71.世界的なエネルギー需要の重心は、継続的に新興経済国に移っている。我々は以下の措置を講ずる。

●クリーンな技術に対する協力的な研究、自発的な技術提携、及び民間投資を積極的に支援することを含む、新興経済国とのエネルギー協力を優先事項として強化する。

●新規及び既存の発電所と燃料精製に焦点をおき、全体的な化石燃料処理過程に沿って、ベスト・プラクティスの採用と普及を促進するために、産業、科学、その他の先進国政府、そして特に主要新興経済国政府と密接なパートナーシップの下に作業する。我々は、発電所の改修と近代化における能力構築及び技術移転の必要性を特に強調する。この目標に達するため、我々は、IEAに対して、我々の共同の努力を主導する上で中心的な役割を果たすよう呼びかける。

72.長期的な温室効果ガスの減少を達成することの一層緊急な必要性を認識し、我々は、以下のことにより、炭素回収貯留の開発と展開を加速すべく作業する。

●異なる炭素回収技術における効率の損失を最小化し、二酸化炭素貯留の地質工学的な条件を明確化するために、国内的及び国際的な研究開発努力に優先順位をつけ、国際的な研究、技術協力を奨励する。

●エネルギー需要の最も大きい先進国及び新興経済国双方において、クリーン・コール技術の研究、開発及び展開を奨励する。

●安定した投資環境を創出するために必要な法的枠組みの提供及び貯留の安全の確保について、炭素回収貯留分野における国内及び国際的な地球科学及び政治面での努力を支持し、それにより、産業及び国内的及び国際的な研究計画と協力して作業する。

●グレンイーグルズ及びサンクトペテルブルク行動計画の下での、IEA及び炭素隔離リーダーシップ・フォーラム(CSLF)によるイニシアティブを支持する我々のコミットメントを強化する。

●商業発電における持続可能な化石燃料技術の増加しつつある大規模な実証の建設と運用を奨励するメカニズムの計画を我々の政府に対して奨励する。

●産業界に対し、新規の化石燃料発電所を開発する際に、利用可能な回収の概念の採用を検討するよう奨励する。

73.我々は、グローバル・ガス・フレアリング削減パートナーシップ(GGFR)による努力への支持を再確認し、天然ガスのフレアリングを最低水準まで削減し、全ての産油国及び民間の利害関係者に対しても同様な削減を奨励することにコミットする。

産業

74.次の25年にわたり、産業部門での世界のエネルギー消費は大きく増加すると予測される。エネルギー効率を改善する大きな可能性がある。従って、我々は以下の措置を講ずる。

●良い慣行をまとめ、セクター別のエネルギー効率指標を開発する。IEAが実施中の作業を活用し、エネルギー集中産業におけるエネルギー効率の改善について、主要新興経済国と主要産業と一層密接に協力する。

●鉄、鉄鋼及びセメント等の分野において、技術の飛躍的進歩のための一層のイノベーションの研究開発を促進するとともに、費用効果の高い技術の導入を奨励する。

エネルギーの多様化

75.エネルギー源、市場、輸送路、輸送方法及びエネルギーの種類の多様化は、エネルギー安全保障及び低炭素エネルギーへの道を進むにあたり必要不可欠である。エネルギー供給源を増やし、多様化することは、一つの源からの供給途絶リスクの緩和に役立つ。代替エネルギー源の利用増加は、次第に在来型の化石燃料市場に対するプレッシャーを軽減し、エネルギー利用の環境への有害な影響を削減する。

76.エネルギー多様化の重要性を強調し、G8各国がそれぞれのエネルギー多様化の目標を達成するため、異なる方法を選択することを認識しつつ、我々は以下の措置を講ずる。

●クリーン・コール、再生可能エネルギー(風力、太陽熱、地熱、バイオエネルギー、水力)を含む、あらゆるクリーン燃料の地球規模での利用への我々の強いコミットメントを支持するために必要とされる政策枠組みの開発と実施を継続する。我々は、再生可能エネルギーを配電網に統合すべく努力する。

●原子力エネルギーの平和的利用に関するこれまでのサミットにおける我々の公約を再確認する。安全でセキュリティの確保された原子力エネルギーの利用及び/又は開発に関する計画を検討している国又はそのような計画を有している国は、原子力エネルギーの開発は、有害な大気汚染を削減し、気候変動の挑戦に取り組むのと同時に、世界のエネルギー安全保障に資すると信じる。

●WTOドーハ・ラウンド交渉を通じて、環境関連の物品及びサービスについての関税及び非関税障壁の削減又は適切な場合には撤廃に向けて取り組みを進める我々のコミットメントを再確認する。これは、我々の共通するエネルギー安全保障と気候上の目標に向けた取り組みにも資する。

●21世紀のための再生可能エネルギー政策ネットワーク(REN21)、再生可能エネルギーとエネルギー効率のパートナーシップ(REEEP)、国際バイオ・エネルギー・パートナーシップ(GBEP)、及び地中海再生可能エネルギー・パートナーシップ(MEDREP)等のイニシアティブ及びパートナーシップへの関係者の支援、及び再生可能エネルギーの促進のための世界規模での協調された行動を歓迎する。

●国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)、域内濃縮センターについてのロシア提案、核燃料供給保障に関する六ヵ国提案、国際原子力機関(IAEA)核燃料供給登録システムについての日本のイニシアティブ、IAEAの排他的管理の下における濃縮センターについてのドイツのイニシアティブ、信頼できる燃料供給プログラムのための核燃料サイクルに対するその他の多国間アプローチについて現在継続中の議論、革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国際プロジェクト(INPRO)の作業並びに第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)の下での先進的な核エネルギー研究を含む、原子力エネルギーの平和的利用の一層の発展に沿った国家的及び国際的なイニシアティブに留意する。

77.我々は、原子力利用において安全、セキュリティ及び不拡散が最も重要であることにコミットする。我々は、原子力安全、放射線防護、廃棄物管理、核セキュリティ及び原子力に関する損害賠償責任が我々それぞれの国において継続的に改善されることへの共通の利益を繰り返し述べ、他の全ての国々に対して、同様のことを呼びかける。IAEAの基準と勧告は、国の原子力規制システムと同様、原子力安全及びセキュリティの継続的な向上に対する良い基盤を形成する。我々は、効果的な国の規制インフラの必要性、特に国の規制機関が十分な権限、独立性、能力を有することの重要性を強調する。 我々は、核物質、放射性廃棄物及び原子力施設の信頼できる安全及びセキュリティに関する制度と同様、核不拡散を保証する強固な体制に引き続きコミットする。我々は、平和的かつ拡散抵抗性を有する原子力エネルギーの利用を達成する基盤と同様、高い水準の原子力安全及びセキュリティのための前提である、現在効力を有している国際条約の完全な実施を確保する。IAEAの作業を支援すべきすべての国の責任及びこれらの分野における諸条約を実施するための全ての措置を支援する責任を有することが、強調される。

78.上記の挑戦を考慮し、G8の原子力安全セキュリティ・グループ(NSSG)は、その作業の中で、原子力安全及び核セキュリティの問題について引き続き検討する。

79.1986年のチェルノブイリの事故を認識しつつ、我々はこれまでのG7/G8サミットの宣言及び覚書の下、及びチェルノブイリ・シェルター基金(CSF)及び原子力安全基金(NSA)でのプログラムを通じ、ウクライナとともに破損した原子炉の現場を安全な状態に転換する共同の努力を行うことに対するコミットメントを再確認する。

天然資源に対する責任:透明性及び持続可能な成長

80.採取分野によって生産される天然資源は、先進国、新興経済国及び開発途上国において、持続可能な成長のための重要な要因である。それらは、世界の多くの最貧国にとって、持続可能な成長と貧困削減のために特に価値ある財産である。資源の富が、貧困削減、紛争予防、及び資源の生産と供給の持続可能性向上のために、責任を持って利用されることは、我々に共通した世界的な関心事項である。我々は、この分野の重要かつ継続的な進歩は、透明性と良い統治を基礎としてのみ達成可能であると固く合意する。こうした背景の下、我々は、採取分野及びそれに続く貿易と資金の流れの双方に関する透明性の向上を支持する。この支持にあたり、我々は、天然資源を消費する重要な新興経済国及び資源国とともに密接に協力する。

81.自由、透明かつ開放的な市場は、世界的な成長、安定及び持続可能な開発にとって必須である。従って、我々は、以下の措置を講ずる。

●自由貿易の原則と多角的貿易体制の一層の強化に対する強いコミットメントを再確認する。

●WTOのルール遵守と世界的な適用可能性を、一次及び二次鉱物原料の貿易についても、促進すべく作業する。

●我々の貿易相手国に対して、WTOルール違反となるような貿易制限や競争の歪曲を控えるとともに、市場経済の原則を遵守するよう呼びかける。

82.鉱物資源には、貧困削減と持続可能な開発に資する大きな潜在力がある。にもかかわらず、ある場合には、資源の採取及び処理には、収入の悪用、環境破壊、武力紛争、国の脆弱性が伴う。我々は、鉱物資源の持続可能な成長への貢献を一層強化する必要性につき固く合意し、資源国における持続可能な開発と良い統治を促進する一方で、資源の潜在力をさらに発展させる資源国の努力を引き続き支持する。この目的のために、我々は、健全な商慣行及び社会、環境基準に整合的な形で、鉱物資源の良い統治のための能力を構築する。この能力構築は、開発途上国に対する、鉱物採掘、処理及び貿易のための資金、技術及び能力開発支援を供与することを通じて、投資、貿易の障壁を削減することにより行われる。また、我々は、健全なライフサイクル分析に基づき、持続可能な成長のために、希少金属を含む天然資源の節約、再生利用、代替利用を奨励する。

83.採取分野における透明性の向上は、説明責任、良い統治及び持続可能な経済成長を世界中で達成するために、決定的に重要である。我々は、先進国、新興経済国及び開発途上国の政府、経済界、市民社会及び科学者の参加を得て、採取分野の透明性に関する世界会議を2007年に開催するというG8議長国の提案を歓迎する。

84.開発途上国における国際的な鉱業分野に適用される統合された原則及びガイドラインの形成は、同分野が発展に貢献することを確保すると同時に、投資家に対して、明確でより予測可能な期待を提供するであろう。すべての利害関係者が、鉱業分野における一連の認められた原則及びガイドラインに関する合意形成過程に参加することは重要である。主要な利害関係者の間において、そのような合意を慫慂するために、我々は、以下の措置を講ずる。

●企業の社会的責任の重要な国際的基準として、OECD多国籍企業行動指針への支持を再確認する。

●鉱業分野の以下の基準、手法及びベスト・プラクティスに対する幅広い理解と支持を促進する。OECDの脆弱なガバナンス地域における多国籍企業のためのリスク管理手法、安全と人権に関する自主的原則、及び国際金融公社(IFC)パフォーマンス・スタンダード。

●鉱業分野の企業が、国連グローバル・コンパクトに積極的に参加するよう奨励する。

●鉱業分野の企業が、特に、世界報告イニシアティブ(GRI)の枠組みを活用し定期報告を行うよう奨励し、この制度を鉱業分野特有のニーズと中小企業に対して適用することを歓迎する。

●人権とビジネス担当の国連事務総長特別代表の任務を支持する。

85.認証制度は、鉱物原料の採取及び処理における透明性及び良い統治を向上させ、環境への影響を減少させ、最低限の社会基準の遵守を支援し、不法な資源採取に断固として対抗するために、適切な場合には、ふさわしい制度となり得る。従って、我々は、「キンバリー・プロセス」、「グリーンな鉛」、「鉱業と金属の持続可能な開発に関する政府間フォーラム」、「国際金属・鉱業評議会」、「国際シアン化物管理規則」等の既存のイニシアティブへの支持を再確認する。また、鉱物資源の採取及び処理に関係する人々に対し、企業の社会的責任のためのそれぞれの原則の適用を奨励する。

86.職人的な小規模鉱業分野は、開発途上国の多くの人々にとって重要な生計を提供するとともに、世界的な鉱物生産に寄与する。我々は、それらの活動がしばしば略式で行われ、採取分野に適用される最低限の社会、環境基準を満たしていないことを懸念する。職人的な小規模鉱物生産に関連する持続可能な生計の整備並びに積極的な開発の影響をよりよく支援するために、我々は、以下の措置を講ずる。

●採鉱企業及び資金提供者からの地域開発資金を透明性をもって利用する制度を発展させるために、援助の有効性の原則と合致する形で、鉱業分野における公的、市民社会及び民間関係者の間の協力的なパートナーシップを奨励する。

●世界銀行及びそのイニシアティブと協力して、選択された天然資源の認証制度の実現可能性に関する試験的研究を行うことを支持する。このイニシアティブをとる中で、我々は職人的な小規模鉱業分野に焦点をあて、自主的なコミットメントに基づき、鉱物資源に富む開発途上国政府や産業界と密接な連携の下、作業を行う。試験的研究は、既存の原則やガイドラインに基づいて、鉱物資源の採取と貿易過程を検証することにより、国際的に認められた最低基準を遵守するよう努める。我々は、主要な新興経済国に対し、この問題について我々と協力するよう呼びかける。

●世界銀行に設置された「小規模採掘と地域社会(CASM)イニシアティブ」、及び多くの利害関係者からなる「ダイヤモンド開発イニシアティブ(DDI)」に対する支援を奨励する。後者については、アフリカにおけるダイヤモンドの職人的採掘に関連した開発上の影響を強化する「キンバリー・プロセス」から派生したものである。

●職人的な採掘に関連した汚染を制限する技術を開発する取組を支援する。例えば、金の抽出において、より安全な蒸留法の利用を奨励する教育や訓練を行うこと。

87.我々は、汚職及び収入、支出双方における公的資金の不適当な管理と闘う決意を強調する。資源に起因する支払いフローに関して、透明性を促進する我々の継続した取組の一部として、引き続き良い統治と「採取産業透明性イニシアティブ」(EITI)等の反腐敗イニシアティブを支持するとともに、我々は、

●適切な場合、資金的、技術的及び政治的な手段を通じて、EITIを強化するための継続的な支援についてコミットする。同様に、すべての利害関係者に対し、EITIの実施を支持するよう呼びかける。

●EITI実施国及びEITI参加企業に対し、イニシアティブを実施するとともに、企業の情報開示のコミットメントを遵守するよう呼びかける。同様に我々は、適切な場合、より多くの国がEITIに参加するよう奨励する。

●国内の実施措置を監視するために独立した認証プロセスが開始されたことを歓迎する。我々は、迅速な適用及び認証方法の更なる進展を奨励する。

●多数の大手銀行が「UNEP金融イニシアティブ」と「赤道原則」に既に署名したことを歓迎する。我々は、更なる主要銀行に対し、プロジェクト・ファイナンスのために「赤道原則」を採用し、国際金融公社(IFC)基準、特に、採取分野における透明な支払いと契約に関する基準を実施して、後に続くよう呼びかける。最後に、

●2007年の透明性に関する世界会議の枠組みにおいて、主要新興経済国との対話を開始し、政府とそれらの国々に本拠地を置く国有企業がEITI参加するよう働きかける。

腐敗との戦い

88.国内、国際の双方のレベルにおいて腐敗との戦いを推進することは、G8の最も重要な任務の一つであり続ける。我々は、腐敗との戦いにおいて模範を示す上でのG8の主導的な役割を認識しており、自らのコミットメントと責任に見合った協調的行動をとっている。我々は、腐敗と戦うために創設された、特に国連や経済協力開発機構(OECD)の既存の国際協定の下における自らの義務を完全に履行することにコミットしている。この中には、国内公務員及び外国公務員への贈賄事案に対する効果的捜査及び訴追に対するパートナーのコミットメントが含まれる。

89.我々は、効果的に世界の腐敗と戦うための共通の努力を強化する。これには、以下が含まれる。

●すべての国による国連腐敗防止条約(UNCAC)の批准を支持すること。

●特に、効果的なレビュー・メカニズムの開発、財産の回復に関する国際的措置の強化、また技術援助の供与の奨励に関連するUNCACの効果的な実施を推進する上で緊密に調整を行うこと。

●UNCACの履行を調整するため、国連薬物犯罪事務所(UNODC)、国際刑事警察機構(Interpol)、OECD、また他の国際機関の作業を支援すること。

●開発途上国が不法に取得された財産を回復することを支援すべく、開発途上国による技術的専門能力へのアクセスと開発が可能となるよう確保すること。

●OECD外国公務員贈賄防止条約の下での継続的、厳格かつ常設的なピア・レビュー・メカニズムの実施を通じた効果的な監視、及び未加盟の新興経済国への継続的関与を通じた同条約の戦略的な促進に対する共通のコミットメントを再確認すること。

●統治を強化し、腐敗を削減すべく、各国への支援を増加させるための世銀のガバナンス・汚職防止に向けた戦略の実施を含め、腐敗と戦うための国際金融機関の努力を支援すること。

●腐敗行為で有罪とされた個人に対し、国内法及び高い優先度での不法に取得された財産の返還を通じて安全な逃避先を与えず、及びそのような個人が我々の金融システムの中で犯罪行為の収益にアクセスするのを妨げる追加的措置を開発すること。

●すべての金融センターに対し、透明性、情報交換、及び資金洗浄との戦いに関する最高の国際基準を実施するよう強く求めること。

●主要部門における一層の説明責任及び支払いの透明性を推進すること等を通じ、腐敗との戦い及び防止における民間部門の努力を支援すること。

●資金を効果的に使用する意志と能力を示す国々を支援すること。

●アフリカ連合腐敗防止対策条約の発効を歓迎し、すべてのAU加盟国に対し同条約の批准と実施を奨励すること。

90.我々は、腐敗との戦いに関する具体的な側面に関し、具体的な戦略とベスト・プラクティスを開発し続ける。これは、例えば、不法に取得された財産の回復に関するG8の地域ワークショップの実施を含む。我々はまた、開発途上国に対し、強化された能力構築支援を供与する。

91.我々は、新興国からの投資の役割の増加を認識しており、今後も本件を議題とする。新興国は、国際的な腐敗対策基準を満たすよう奨励され、国際的な腐敗対策に関する文書を遵守するよう求められる。

92.2006年7月17日のサンクトペテルブルク声明に基づき、我々は、市民社会と協力して、腐敗を防止し、人々の関心を高めることに焦点をあてる。我々は、腐敗は、公的部門の腐敗に対する脆弱性を削減する手段により最も効果的に戦われるべきであることに同意する。我々は、特に政府及び行政において、とりわけ透明な公的調達を通じて、適切な予防措置を推進するため積極的に作業を行い、また、この分野でベスト・プラクティスを作り上げる際に他の国々に対し支援を与える。

93.我々は、安定し、透明で、腐敗の存在しないビジネス環境を提供することと、大いに必要とされる海外直接投資を誘致する能力との間に存在する極めて重要な関係を理解する。潜在的な投資家は、投資先の決定を行う上で様々な問題を考慮するが、腐敗の存在しない環境はそれらの決定要因の中でも重要なものである。

主要新興経済諸国との「ハイリゲンダム・プロセス」‐G8各国とブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカとの間におけるハイレベル対話

94.ハイリゲンダム・サミットにおいて、我々は、ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカの首脳と、世界経済で生じている主要な課題について議論した。G8各国及び主要新興経済諸国のいずれも、それらの課題に対して個別に対処することは出来ない。それぞれの責任を背景に、共通の解決策を作り上げなければならない。G8各国及び主要新興経済諸国の双方とも、世界経済における課題に対して、新しいパートナーシップを明確にしていく機会を得ている。

95.我々の議論を踏まえ、2年の間に実体的な成果に到達するため、包括的なフォローアップ・プロセスにおいて、主要新興経済諸国と実質的な論点につき議論をするための新たな具体的な協力形態を立ち上げることを決定した。

96.我々は、この新しいパートナーシップに基づき、体系的な方法で、論点主導の対話の新たな形態を開始する。我々は、以下の4つの事項に取り組むことに合意した。

‐イノベーションの促進と保護

‐企業の社会的責任の原則の強化を含む開放的な投資環境を通じた投資の自由の強化

‐特にアフリカを念頭においた開発のための共通責任の明確化

‐気候変動、クリーン・エネルギー及び持続可能な開発に関するグレンイーグルズ対話及び世界のエネルギー安全保障に関するサンクトペテルブルク行動計画と一致した、二酸化炭素の排出削減に資する技術協力とエネルギー効率の向上に関する知識の共有

97.我々は、OECDに対し、エネルギー効率の分野における関連機関たるIEAと共に、この新たな対話プロセスの基盤を提供するよう要請する。対話プロセスは2007年の後半に開始される。日本で開催される2008年のG8サミットにおいて、進捗の中間報告が提出され、2009年のイタリアでのG8サミットにおいて、対話プロセスの成果についての最終報告が提出される予定である。

{(1)(2)(3)(4)は原文ではマル1、マル2、マル3、マル4}