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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] テロ対策に関するG8首脳声明‐グローバル化時代の安全保障(第33回ハイリゲンダム主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] ハイリゲンダム
[年月日] 2007年6月8日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 我々G8首脳は、すべてのテロ行為を断固として非難する上で一致団結し、国際の平和と安全、生命及び人権享受にとって最も深刻な脅威の一つを成すそのような行為は正当化され得ないことを再確認する。我々は、自由、民主主義、人権、及び経済成長・機会を推進する一方で、テロリズム対策における我々の共通のコミットメントに依然として強い決意を有する。我々の哀悼の意はテロ行為がどこで発生したか、また誰に実行されたかに拘わらず、すべての犠牲者に対し向けられる。

 グローバル化が我々の経済にもたらす利益と課題の双方に留意し、また世界経済の高まりつつある相互依存と相互連関を認識し、我々は、テロリズムや暴力的な過激主義によりもたらされる我々の生活様式に対する脅威に対抗するため、我々の協力と調整を強化する決意を有する。我々は共同して、これらの脅威から我々の国家を守るため、入手可能なあらゆる国家的、国際的手段を活用する。我々は、我々の市民や価値に対してテロ行為を計画、実行し、又は実行しようと試みる者たち、またそのような行為を助長し、煽動するような者たちに関する情報交換と司法協力を強化することに特段の注意を払う。

 したがって、今日、ハイリゲンダムにおいて、我々は、テロリストが悪用する状況に対抗し、世界で最も危険な武器がテロリストの手に渡ることを防ぎ、重要な交通及びエネルギー関連のインフラを保護し、テロリズムへの資金供与や不法な調達ネットワークと闘い、またテロリストや犯罪者が近代的な通信・情報技術を悪用する手法を注視し続けるために、でき得る限りの全てのことを行うことを約束する。

1.テロリズムとの世界的な闘いにおける国連の中心的な役割

 我々は、テロリズムとの国際的な闘いにおける国連の中心的な役割に対する我々の支援を再確認する。我々は、国連は、テロリズムを非難する普遍的な合意を達成し、テロリストの脅威に関する主要な側面に包括的な形で効果的に対処するための能力と能力の及ぶ範囲を有する唯一の組織であると認識する。我々は、したがって、2006年9月に国連グローバル・テロ対策戦略が総会により満場一致で採択されたことを心から歓迎する。この文脈で、我々は、国際的なテロリズムとの闘いに関係するすべての国連安全保障理事会決議がすべての国連加盟国により完全に履行されることの必要性について同戦略が適切に強調していることにつき、満足の意をもって留意する。こうして、一方で、安保理により採択された決議と安保理により構築された制度上の構造と、他方で、総会の同戦略は、相互に強化し合っている。

 我々は、特に世界的なレベルでのテロリズムとの闘いにおける法的協力を促進することを目的とする国連包括テロ防止条約案の早期締結に対する、我々の強いコミットメントと我々の緊急の要請を強調する。我々は、国連のテロ対策努力を支持し、強化し続ける決意を有する。サンクトペテルブルクで合意された通り、我々は、これに関連する我々の努力について報告書を作成する。

2.近代的通信・情報技術のテロリストによる犯罪上の濫用への対処

 我々は、近代的通信・情報技術がテロリスト行為の計画と実行、テロリズムの過激化と勧誘、またテロリスト訓練のために悪用されることに、重大な懸念をもって留意する。技術のマルチメディア能力と大幅な普及は、テロリスト・グループ間の調整と意思疎通、テロリストの宣伝の普及、及びテロ行為のために特定の個人を過激化及び要員化する活動を助長している。我々は、基本的な表現の自由を周到に尊重する一方で、この近代的通信・情報技術の悪用に厳格に取り組む決意を有する。そこで、我々は、以下のことにコミットする。

●新しい技術及び発展中の技術がどのようにテロリストにより悪用され得るかにつき、我々の理解を更に発展させること。

●テロリストによる近代的通信・情報技術の使用を探知し、中断し、よって、テロリストの計画を暴き、テロリストのネットワークを断ち切るための手段を特定すること。

●これに関連する我々の経験を共有すること。

3.重要なエネルギー・インフラの保護

 エネルギー・インフラが国境を越える性質のものであることを考慮すれば、いかなる国も危険な途絶から遮断され得ない。我々は、重要なエネルギー・インフラをテロリストの攻撃から保護するための我々の努力を継続することを決意する。サンクトペテルブルク・サミットにおいて、我々は、世界的なエネルギー・ネットワークの安全を確保することにコミットし、その脆弱性をよく理解し、計画的な攻撃による途絶を防ぐための我々の努力を強化する方法を開発することを約束した。我々は、重要なエネルギー・インフラを保護するための挑戦に対処するため、国内の専門家に対し、提言を作成するよう指示した。今日、我々は、これに関連して我々が取るイニシアティブを以下の通り発表する。

●重要なエネルギー・インフラの脆弱性と潜在的危険性を評価すること。

●効果的な安全策のベスト・プラクティスを共有すること。

●重要なエネルギー・インフラに対する潜在的な脅威を評価すること。

4.交通保安の向上

 我々は、交通保安の継続的な向上の重要性を強調する。航空機、列車、また他の交通手段に対して見られた複数の攻撃未遂は、世界的な商業、観光、その他の種類の国際的な交流に不可欠な交通ネットワークに向けた攻撃を行わんとするテロリスト・グループの継続した決意を再度目立たせた。

 シー・アイランド・サミットで、我々は、安全かつ容易な海外渡航イニシアティブ(SAFTI)を採択した。今日、我々は、その28すべてのプロジェクトが成功裏に終了したことを発表する。我々は、この作業が国際的な旅行をより安全なものにしたと確信している。その成果は、国際民間航空機関(ICAO)、国際海事機関(IMO)、そして世界税関機構(WCO)を含む関連国際機関に共有されている。 我々は、国際的な交通ネットワークの保安のため、我々の努力を継続することを決意する。最近のテロリスト活動を教訓として、我々の専門家は、新たな脅威への対処に取り組んできた。そのうちの一つが、液状爆発物の使用への対策である。我々は、更に、乗客スクリーニングのプログラム・技術、港湾施設の保安審査、安全管理システム、及び交通保安通関手続きプログラムを改善することを目指す。陸上交通の分野において、我々は、G8及びG8以外の国々から構成される陸上交通セキュリティ国際ワーキンググループの創設を歓迎する。

5.テロの過激化と勧誘への対処

 統合、公正、良い統治及び参加を強化するための我々の世界的な努力は、非常に少数の過激派が分裂と争いの種をまき、暴力を助長することを一層困難にする環境に寄与する。我々は、すべての人々、特に我々の若者が、よりよい生活を手に入れる、或いは約束されると自覚できるような、安定し、繁栄し、公正な未来を築き続けることにコミットする。過激派思想が根付くことを防ぐ環境を支援することは、このコミットメントの重要な一部である。我々は、共通の価値及び平和・安全・繁栄のビジョンを推進し、もって、自らの狭量な目的のために既存の差異を濫用することを追求する者たちを孤立化させることにより、障壁の除去と、誤解への対応に努め続ける。我々はまた、政治的及び思想的目的を推進するために憎悪を刺激し、暴力に訴える者たちを弱めるため、多様性と穏健さの尊重を促進するべく努力を継続する。

 我々は、例えば刑務所において、テロリストの過激化と勧誘が行われるようなプロセスについて我々の知識を向上させるため、我々の間で、また他の国々とそのようなプロセスに関する情報の共有を深めるため、またこれらの分野における国家間のパートナーシップを強化するために専門家の間で継続して行われている努力を歓迎する。

6.テロリズム及び暴力的過激主義の資金源となる現金の密輸出入への対処

 グローバル化は、テロリスト及びその他の犯罪者が世界金融システムの一体性を損なうことをより容易にした。我々は、資金洗浄に関する金融活動作業部会(FATF)の努力を賞賛し、FATFの資金洗浄に関する40の勧告及びテロ資金に関する9つの特別勧告を国際的に実施し、推進するという我々のコミットメントを再確認する。テロリストや他の犯罪者による我々の公式の金融システムへのアクセスを防止するために行われている努力の成功を賞賛しつつ、我々は、この分野において継続中のテロリストによる悪用に対処するために、これらの基準が、効果的に現金や金融システムの他の非公式的な部分に適用されることを求める。我々は、特に、追跡不能かつ不法な現金の国境を越えた移転を削減するため、FATF特別勧告IXの完全な実施が緊急に必要であることを強調する。我々は、テロリスト及びその他の犯罪者による国境を超えた非公式な資金移転手段の濫用と闘うための我々の努力をさらに強化することに合意する。したがって、我々の専門家は、以下を含み、かつ以下に限定されない追加的措置を熟考する。

●効果的な情報交換を最大化し、法執行に関わる捜査を強化するため、主要な積み替え及び密輸ルートを特定すること。

●パートナーに対し訓練や能力構築を提供すること等により、正当な資金の自由な移転を保護する一方で、現金に関わる申告・開示基準の執行を促進すること。

●あり得べき脆弱性のため、我々の国内の国境・税関業務を評価し、対応を行うこと。

7.核テロリズムの防止

 テロリストの手中にある大量破壊兵器は、国際の平和と安全にとって顕著な脅威である。テロリストによる核兵器入手を防止することは、我々の生活を維持する上で不可欠である。我々は、この努力において共に作業することにコミットする。我々は、したがって、すべての国に対し、核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約、核物質の防護に関する条約及び2005年の同改正条約を可能な限り早期に批准するよう強く求める。これに関連し、我々はまた、国連安保理決議1373及び1540が引き続き重要であることを強調し、すべての国に対し、それらの条項の完全な遵守を確保することを求める。核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブのパートナー国として、我々は、イニシアティブの継続した発展及び参加を拡大するための努力を支持する。

8.テロ対策における民間部門への関与

 我々は、グローバル化した世界における我々のテロ対策努力において、民間部門のパートナーと緊密に協力することの重要性を認識する。2006年11月、我々は、モスクワで、テロ対策に関する官民協力国際フォーラムを開催した。我々は、テロ対策に関する官民パートナーシップ戦略を採択した。我々は、この文脈で開始された実りある作業を我々の個々の民間部門と共に継続することを決意する。

9.アフガニスタン及びパキスタン国境地域におけるテロ対策

 我々は、ポツダムでのG8外相会合において、G8、アフガニスタン及びパキスタンの外相によって発出された共同声明を支持し、同声明に盛り込まれている措置をG8各国の支援を得つつ実施することをアフガニスタン及びパキスタンに対して奨励する。

 加えて、我々は、パキスタンとアフガニスタンの国境地域において貧困を削減し、民間部門を完全に関与させることが有益であると信じている。パキスタンとアフガニスタンの国境地域を世界経済に結びつけること、また強い民間部門の成長と経済発展を推進することは、テロリズムとの闘い、合法な雇用機会の創出、民主主義、平和、繁栄、安定及び良い統治の育成にとって不可欠である。したがって、開発とテロ対策分野の必要な一貫性をもたらすような包括的な経済戦略が構想されるべきである。そのような包括的な戦略は、強力なテロ対策とともに、ビジネスの促進、インフラの改善、職業訓練、公的サービスの向上及び貿易の促進を含み得る。そして、この戦略は、各国政府によって、その地域の人々をテロリストの宣伝と勧誘から隔絶するために、現地当局や人々の参加、G8メンバー、多国間機関、民間部門の組織からの支援を得つつ、発展させられるべきである。

10.人権とテロ

 我々は、すべての人のための人権及び法による支配を推進し保護することは、あらゆるテロ対策努力にとり不可欠であることを再確認し、また、効果的なテロ対策措置と人権の保護は、衝突する目的ではなく、相互に補完、強化し合うものであると認識する。我々は、すべての国に対し、テロ対策のために取られるいかなる措置も、国際法、特に人権法、難民法、国際人道法の義務に一致するものとなることを確保するよう求める。