データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8労働大臣会合議長総括

[場所] 新潟
[年月日] 2008年5月13日
[出典] 厚生労働省
[備考] 仮訳
[全文]

1.2008年5月11日から13日に、G8各国労働・雇用大臣及びEU雇用・社会問題・機会均等担当委員は、ILO事務局長及びOECD事務総長とともに新潟にて会合を開き、「溌溂とした持続可能な社会の実現に向けたベストバランスを求めて」をテーマとして議論を行った。当会合にはインドネシア労働・移住大臣とタイ労働大臣がゲストとして招待され、今年両国がそれぞれ議長を務めるASEAN労働大臣会合とASEM労働・雇用大臣会合の場で、各加盟国との間で当会合の成果を共有するよう促された。なお、5月11日には本会合に先立ち、各国大臣とソーシャルパートナーの代表者との協議が行われた。

2.議長国日本の提案に基づき、2007年のドレスデン会合の成果を踏まえ、他の関係大臣会合との関わりについても考慮しながら、我々G8労働・雇用大臣は、次の3つのテーマについて議論を行った。我々は、その結論が、社会の溌溂さ、持続可能性及び地球的規模でのバランスに重点を置いた、グローバル化の社会的側面を強化するものであると確信する。

‐長寿化と調和したバランスよい人生の実現(個人レベル)

‐労働弱者・地域間格差に対する政策的寄与(社会レベル)

‐持続可能なグローバル社会への課題とG8の貢献(グローバル社会レベル)

3.議論の中で、G8各国が以下の重要な課題を共有していることに合意した。

グローバル化の社会的側面への対応

‐昨今のグローバル化が進む時代において、G8各国の平均所得や生活の水準は高水準を維持しているが、国民所得(NI)に占める賃金の割合が低下している国もあり、対応する必要がある。したがって、このような成果が得られることを可能にしてきた環境を今後とも維持すると同時に、所得格差や、グローバル化の恩恵を十分に享受できず、支援を必要としている地域の状況に対しても取り組まねばならない。

経済の現状と雇用への影響

‐堅調なマクロ経済の成長及び健全に機能した金融市場は、労働市場の見通しによい影響を与える。現在の経済成長の鈍化と金融の不安定性は、雇用へマイナスの影響を与えうることが懸念される。各国政府は、持続的な経済成長、労働市場及び雇用政策の強化、社会的統合を推進する条件を改めて確保するための支援を連携して行う責任がある。

持続的な経済成長と雇用促進に向けた労働・雇用大臣の役割

‐労働・雇用大臣として、我々はグローバル化した経済のニーズに即応できる熟練し溌溂とした労働力を育成するとともに、増加させることについて、明確な責任を有している。また、我々は労働者の雇用機会を促進し、個々人のニーズや状況に即応できる、安定性と柔軟性を併せもった包括的な労働市場の実現を推進することの重要性も認識している。

上記課題への取り組み

‐我々は、長寿化を考慮しつつ、個々人が仕事と生活のバランスをとるための柔軟性と選択性をもつ社会を推進することによって、こうした諸問題に対処すべきである。

4.ソーシャルパートナー、各国政府及び労働関係機関は、重要な役割を担っている。加えて、企業の社会的責任(CSR)も貢献の余地がある。

長寿化と調和したバランスよい人生の実現

5.平均寿命が伸び、国によっては80歳を超えていることは、労働市場及び労働者の人生に大きな影響をもつ。人々が充実した人生を送り、人間としての潜在能力を最大限に発揮できるようにするためには、雇用・労働市場政策は以下を推進していくべきである:

‐より良い仕事と生活のバランス

‐安全で健康な勤労者生活と退職後の生活の安定

‐生涯学習とキャリア形成

 こうした施策の策定にあたっては、個々人、使用者及び社会全体のニーズを汲み取り、国ごとの退職の仕組み及び慣行の違いを反映させるべきである。

6.我々は、各般の雇用・労働市場の政策及び取り組みが生涯にわたる仕事と私的活動の良いバランスの達成に必要であることに合意した。これには以下の施策が含まれる。:

より良い仕事と生活のバランス

‐ドレスデンで合意された、柔軟性と適度な労働市場の安定性を結びつけた包括的なアプローチを通じ、人生の各段階にある労働者に適合した雇用形態や働き方について、それぞれの国において適切な多様化を推進する

‐職の移動可能性や生涯にわたる転職の促進を支援する

‐ファミリー・フレンドリー政策を奨励するとともに、パートタイム労働、柔軟な労働時間、テレワークその他の選択可能な働き方など、職業人生の様々な段階にある男女労働者がともにより良い仕事と生活のバランスを実現することに寄与する、自発的で柔軟な働き方の機会を推進する。

安全で健康な勤労者生活と退職後の生活の安定

‐労働安全衛生関係法令のコンプライアンスを改善させるとともに、職業に起因するストレスその他の労働安全衛生問題に係る認識及び知識を向上させる。これは、退職後の生活を健康に過ごすためにも有益である。

生涯学習とキャリア形成

‐ライフサイクル・アプローチの観点から、キャリアコンサルティングの機会、キャリア形成、技能の向上、生涯学習などを通じて、生涯を通じた有効なエンプロイアビリティと変化への適応能力を促進する。

 なお、これらの施策を推進する際には、様々な障壁、特に性に起因する障壁を取り除くとともに、全ての労働者に均等な機会を提供することにとりわけ注意を払うべきである。

労働弱者・地域間格差に対する政策的寄与

7.我々は、労働市場・雇用政策を通じ、弱い立場にある労働者や停滞地域の経済発展を支援することに合意する。また、こうした政策は、個々人が労働市場に十分に参加できることを保障しなければならないものであり、ひいては、溌溂とした持続可能な社会の実現につながるものである。

8.グローバル化と技術革新は、より豊かになり、より大きく成長し、より多くの雇用を生む潜在的な機会を世界経済にもたらすとともに、人々の生活を一層向上させるものである。一方で、グローバル化と技術革新は労働市場における格差や適応困難を伴い得るものである。これらは、多くの労働者の混乱や不安定性の増大、一部の地域における経済の低成長や景気後退という結果をもたらした。

9.地域資源の有効活用や地方のニーズや状況に対応した政策を促進することにより、地域の発展と雇用の創出を推進することが重要である。これらの取り組みの上では、中央政府のみならず、地方政府や関係行政機関、ソーシャルパートナーやその他の利害関係者、研究機関、ベンチャー・キャピタル、職業能力開発機関や非営利団体などの積極的な参加を得ることも重要である。

10.政府は、ソーシャルパートナーやその他の利害関係者と協働しつつ、地域の経済成長、高い雇用水準の達成及び幅広く分かち合える繁栄の創出に貢献するよう、環境や条件の整備に取り掛かるべきである。弱い立場にある者が就業をするに当たっての障害を乗り越えられるように支援する特別な取り組みが必要である。

11.我々は、積極的労働市場政策、適切に設計された失業給付制度、公共職業紹介機関並びに効果的な生涯学習が労働市場への参加を促し、就職を阻害している要因を取り除き、就労化を推進することに寄与する、ということをここで強調したい。これはドレスデン会合(2007年)やOECD新雇用戦略においても支持されていることに留意する。

12.上記で考察したことを視野に入れた上で、我々は以下の各点を確認した:

‐政府は、職業紹介、失業給付と積極的労働市場施策を十分に統合することを通じて、労働市場の需給調整機能を強化するとともに、これらの機能を果たす組織を全国ネットワークとして維持することが重要である。

‐我々は、地方政府・関係行政機関、ソーシャルパートナーやその他の利害関係者とともに地方主導の雇用創出計画を支援していくことに合意する。併せて、我々は、公共の職業紹介機関や職業訓練機関が就業希望者に適切な支援を提供しなければならないこと、また、地域の需給調整機能を強化することに貢献しなければならないことを合意する。

‐我々は、労働市場のニーズを満たす有効な技能開発や訓練プログラムなどを含めて、あらゆる人々に能力開発の機会を確実に提供する重要性を再確認した。この中には、(i)能力開発システムへの弱者の組込み、(ii)職業能力評価システムの向上、(iii)個々人のキャリア形成を支援するキャリアコンサルティング機能や職業教育の更なる高度化を推進する施策が含まれる。

持続可能なグローバル社会への課題とG8の貢献

13.我々は、グローバル社会の一員であることを認識しながら、溌溂とした持続可能な社会を実現するために、環境問題に起因する雇用上、社会上の課題への取り組みに貢献する意思を表明する。これは単に自国を富ませるのみならず、より調和のとれたグローバル社会を促進するものでもある。このような視点から、G8各国は、とりわけ適切な国際フォーラムを通じてこれらの課題について発展途上国や新興経済圏と経験の共有や対話の促進をすべきである。

14.我々は、持続可能な社会は経済的発展、社会的発展、環境保護という3本の独立した相互補強的な柱に立脚しているものであることを強調する。我々は、グローバルな課題に関する一層の分析と取り組みの必要性を認識する。我々はこれに貢献する用意がある。

15.我々は、以下の政策やプログラムが環境問題、とりわけ気候変動に関係する雇用・社会的課題への取り組みの助けになるということに同意する:

‐環境変化や政策対応が労働市場に与えうる影響を評価すること、

‐影響を受けた産業から押し出された労働者の新しい仕事への移行を助けること、

‐環境にやさしい技術革新や産業変化に対応する技能向上を奨励すること、

‐職場における天然資源利用や節減の新しいパターンに適応した環境にやさしい働き方を促進すること。今回の議長国は、今次会合を環境にやさしい方法で開催するために努力することにより、よい事例を示した。

 これらの政策とプログラムにはソーシャルパートナーやその他のステークホルダーとの協力が役に立つ。

 我々は、ILOによるこれらの課題への整合的で三者構成の取り組みであるグリーン・ジョブ・イニシアティブによる、興味深く可能性を秘めた取り組みに留意する。

16.我々は、全ての人のためのディーセント・ワークとグローバル化の社会的側面を促進する意図を確認する。我々は、貧困と闘い経済・社会発展を促進する上での社会的保護の重要性を再確認する。この文脈において、我々は、社会的保護を拡大・強化するドレスデンとハイリゲンダムにおける合意を確認し、発展途上国や新興経済圏において基礎的な社会保障制度を促進するILOの取り組みに留意する。

17.政府、使用者、労働者は成長、雇用、生産性及び環境問題の相互のバランスをとるために協力する必要がある。職場レベルの社会対話、社会協力はこの目的に向けた重要な寄与となる。この活動を促進することが、我々の「新潟宣言」である。

北海道洞爺湖サミットへの貢献と今後の取り組み

18.我々は、以下の事項の推進によって溌溂とした持続可能な社会を実現することの重要性を、G8首脳が認識するよう要請する:

‐長寿化と調和したバランスよい人生の実現

‐労働弱者、地域間格差への対応

‐新潟宣言の促進

19.我々は、次回のG8労働大臣会合を2009年に主催し、フォローアップの可能性を検討するとのイタリア政府の申し出を歓迎する。